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絞りや露出決定の基礎

露出に関わる基礎を紹介

 写真の撮影では、絞りとシャッター速度によって、被写体に適した明るさを調整します。このような調整を露出と呼びます。被写体ごとに、絞りとシャッター速度の適した組合せがあり、それが適正露出です。

 絞りとシャッター速度による適正露出は、何種類もの組合せがあります。シャッター速度を1段速くして、絞りを1段開けば、同じ明るさで撮影できるからです。実際の撮影では、何種類かの可能な組合せの中から、表現意図に一番最適な組合せを選ぶわけです。

 その選択の際に考えるのが、最適な絞りの値やシャッター速度の値です。これらをどんな値に設定するかで、写真の仕上りが変わってきます。つまり、絞りとシャッター速度は、単に露出を調整する役目だけでなく、表現上の仕上りを決める役目も担っています。だからこそ、絞りとシャッター速度の決め方を、とくに表現に関わる部分での決め方を、知る必要があるわけです。

絞りの値は、被写界深度とぼけ具合で決める

 レンズの絞りは、F値という値で表現します。値が小さいほど明るく、同じF値であれば、別なレンズでも同じ明るさです。絞りを一番開けた状態が「開放」で、それから少しずつ絞っていき、一番絞った状態が「最小絞り」です。この最小絞りのときに、F値の値は最大になります。一番絞っているのだから、最大絞りと表現すべきかも知れませんね。おそらく、絞りによる光の通過面積が最小だから、最小絞りなのでしょう。ともあれ、既に定着してますから、この表現に慣れましょう。

 レンズの絞りは、フィルムやCCDに到達する光の量を調整するのが、第1の役目です。しかし、それ以外にも、被写界深度(ピントの合う範囲:より正確にはピントが合っているように見える範囲)を変えるという、大事な役目があります。

 どのレンズでも、絞りを絞るほど被写界深度が広がります。広角レンズなら、ある程度絞ると、すべてにピントがあった状態に見えます。望遠レンズでは、絞ることによって、ぼけていた背景が段々とハッキリ見えてきます。

 被写界深度によって絞りの値を決める際には、ピントが合って見える範囲を考えます。前景や背景など、どの部分まで合ってほしいのか、距離の範囲として捉えます。その全部でピントが合うように、絞りを決めるわけです。

 ピントの合う範囲は、ピント合わせの位置に関係するので、ピントの合わせの対象も重要です。通常は、合わせたい範囲の中で、前から1/3の距離にピントを設定します。たとえば、3~6mの距離にピントを合わせたいなら、前から1/3となる4mの距離にピントを設定するわけです。このようにする理由ですが、ピントの合う範囲は、ピントの設定距離から見て、後ろ側が広いからです。もし被写界深度の目盛りが付いたレンズを使っているなら(このようなレンズは減っていますが)、それを参考にすると良いでしょう。

 被写界深度の大きさは、ぼけ具合の違いとしても捉えることができます。被写界深度が狭いほど、被写界深度の位置から離れるほど、大きくぼけるからです。ぼけを優先して考えた場合、絞りの役割は、ぼけ具合を調節することです。絞りを開けるほどぼけるので、ぼかしたい程度まで絞りのF値を小さくします。ぼけ具合は、レンズの焦点距離によって異なるため、焦点距離ごとに覚えなければなりません。通常は望遠でしか使わないので、望遠だけ覚えればよいでしょう。

 デジカメ用のレンズは、フィルムに相当するCCDのサイズが小さいため、レンズの焦点距離が短くなり、同じ絞り値でも、被写界深度がより広くなります。少し絞るだけで、全体にピントが合った写真に仕上がります。これで困るのが望遠です。絞りを開放にしても、あまりぼけないからです。背景をぼかして主役を強調する表現方法が使えません。困っている人が多いと思います。近い将来に期待しましょう。

絞りによって、画質も変化する

 絞りの値によって、被写界深度だけでなく、撮影した画質も変わります。絞りによる画質の変化は、主に以下ような点です。

・細かな部分の写り具合(解像度やコントラスト)
・周辺光量の低下(中央から離れるほど暗くなる)
・周辺部での点光源のぼけ形状(円形でなく楕円形にぼける)

 「細かな部分の写り具合」とは、狭い意味での画質に関する変化です。細かな部分をどれだけ再現しているかという解像度、被写体の明暗差をどれだけ再現しているかというコントラストの2点が、主な要素です。この2つは、絞りの値によって変化します。

 たいていのレンズでは、開放絞りが一番悪い状態です。それから、1段絞るごとに、画質が向上します。最初の1段で大きく向上し、次の1段でさらに向上し、その後はレンズの最高状態に少しずつ近付きます。さらに絞ると、再び悪くなり始め、最小絞りに達します。このような傾向があるため、画質を“凄く”優先するなら、開放絞りと最小絞りでの撮影はお勧めできません。実際には、最近のレンズ設計技術は向上しているので、新しいレンズなら気にする必要はほとんどないでしょう。

 以上は、銀塩カメラでの話です。デジカメの場合は、事情が少し違います。フィルムに相当するCCDが小さいので、レンズの焦点距離も短く、大きさも小さく、同時に被写界深度は大きくなります。すると、あまり絞らなくても被写界深度が広くなって、ある程度で絞り意味が消えるわけです。それどころか、絞りの部品も小さいため、絞りすぎると早目に画質が低下します。こんな特徴があるため、良心的なメーカーが作ると、絞りの範囲が少ないのです。そうでないメーカーでは、絞りの範囲を無理して広げています。すると、最小絞りの画質が大きく低下したデジカメになります。CCDのサイズが小さいのに、絞りの範囲が広いデジカメなら、最小絞りとその1つ上の絞りは、使わないほうが無難です。実際に撮影して、画質の違いを確認するとよいでしょう。

周辺光量の低下と点光源のぼけ形状も、絞りで変化する

 「周辺光量の低下」は、同じ明るさの平面を撮影したとき、中央から離れるほど、光量が低下して暗く写る現象です。広角レンズで出やすく、広角の度合いが大きいほど、光量の低下量も大きくなります。

 これも、絞りを絞ることで改善します。一般的には、開放で低下が一番大きく、1段絞るとかなり改善し、さらに1段絞るとほぼ完全に消えます。それ以上絞っても、逆に悪くなることはありません。実際の撮影では、超広角レンズと明るい広角レンズで注意すればよいでしょう。気になる場合にだけ、1段絞って解消します。

 「点光源のぼけ形状」は、ぼけた点光源を写したとき、ぼけの形状が円形にならない現象です。中央では円形になりますが、中央から離れるほど、楕円形になります。楕円形というより、夜の空に見える月が何割か欠けたときの形に近いです。

 これも、絞りを絞ることで改善します。たいていは、開放から2段絞ると、中央と周囲のぼけ形状が同じになります。ただし、今度は絞りの形が現れるので、円形絞りでない場合は、その形にぼけます。

 以上のような絞りと画質(周辺光量の低下と点光源のぼけ形状も含む)の関係を理解し、表現意図の邪魔になる場合には、回避できるように絞りを選びます。あまり気にならないなら、気にする必要はありません。気になるようになったとき、気にすればよいのですから。画質の向上よりも、表現の向上を重視すべきです(こう判断する前提として、最近のレンズは高性能なことが挙げられます)。

シャッター速度の値は、被写体の動きと手ぶれで決める

 シャッター速度は、写真の明るさを調整する以外に、被写体の動きを止めたりぶれさせる役目も持っています。また同時に、手ぶれが発生しない点も考慮します。まとめると、次のとおりです。

・手ぶれが発生しないように
・被写体の動きを止める
・被写体をぶれさせる

 ぶれを表現に利用する写真を除くと、手ぶれが発生しなくて、被写体の動きを止められるようなシャッター速度を利用します。油断しても大丈夫な値としては、1/125秒がお勧めです。

 手ぶれを発生しないシャッター速度は、レンズの焦点距離によって異なります。1/125秒という値は、35mm版換算の焦点距離が85mm以下での目安です。100mm以上の望遠になると、焦点距離の値に比例して、シャッター速度も速くしなければなりません。私が昔教えてもらったのは、じっくり構えて撮影するとして(ぶれないように安定させて撮影するとして)、焦点距離の逆数以上のシャッター速度を選ぶとのことでした。200mmを使うなら、逆数は1/200秒なので、それより高速な1/250秒に設定するという具合です。

 以上の話は、標準レンズや広角レンズでは適用しません。これらのレンズでは、通常なら1/125秒またはそれ以上の速い値で撮影します。ただし、1/125秒の値が使えない状況では、1/60秒や1/30秒を用います。それすら難しい最悪の状況では、1/15秒も用いることがあります(調子がかなり悪くてもぶれないのが1/15秒だから。また、これ以上遅いと被写体が動いてぶれるため)。こうした遅い速度でも手ぶれを起こさないためには、カメラの安定した持ち方を覚えなければなりません。練習することにより、ほとんどの人は1/30秒なら大丈夫でしょう。1/15秒の方は、どれぐらいの人が大丈夫かは分かりません。構え方を紹介したサイトや本を見ながら、練習してみてください。ちなみに、1/15秒でも手ぶれを起こさないためには、体に力を入れすぎないこと、息を止めること、シャッターを押す指をゆっくり動かすことなども必要です。

 広角レンズでも望遠レンズでも、手ぶれが発生しないシャッター速度は、代表的な焦点距離ごとに、自分で試して調べておくのがベストです。その上で、最低の速度ではなく、余裕を持たせる意味で1段上の速度を用いれば、安心して撮影できるでしょう。最低の速度を用いなければならない状況もあり得、そのときだけは通常よりも慎重に構えて撮影します。

 手ぶれではなく、被写体をぶれさせないシャッター速度は、被写体の動きによって異なります。制止した被写体であれば何秒でもよく、手ぶれが発生しないシャッター速度を選びます。動いている場合は、動きの速度で決めます。いろいろな被写体があるので、基準を作るのは難しいでしょう。それでも基準を用意するなら、「まあまあ速いなと思ったら1/250秒や1/500秒、かなり速いなと思ったら1/1000秒かそれより高速で」となります。あくまでも、私の経験則から導き出した基準です。これをもとにして、自分なりの基準を作ってください。

 被写体をぶれさせる際の撮影方法は、大きく分けて2つあります。流し撮りのように、カメラを動かしながら撮影する場合と、三脚などでカメラを固定して(自信があれば手持ちで固定して)撮影する場合です。どちらの撮影でも、被写体の動きの写り方を考えて、シャッター速度を決めます。ただし、カメラを動かしながらの撮影では、手ぶれの影響で動きの美しさが低下しないように、遅いシャッター速度は使いません(手ぶれを表現に用いる場合は除いて)。それに対してカメラを固定した撮影では、被写体の動きだけを考慮してシャッター速度が決められます。

絞りとシャッター速度のどちらを優先すべきか

 絞りもシャッター速度も、露出を決める役目があります。そのため、自由な組合せを選べません。何個かの組合せの中から選ぶことになります。すると当然ながら、片方を決めたときに、もう片方が希望どおりでないことも起こります。

 では、どのように決めたらよいのでしょうか。私の考えですが、基本的には、次のように考えます。まず最初に、絞りとシャッター速度のうち、表現意図に大きく関係する側を選び、最適な値を決めます。すると、もう片方の値も自動的に決まります。これが仮決定です。続けて、この仮決定で問題ないかどうかを調べます。手ぶれを起こすシャッター速度かどうか、必要な範囲にピントが合うかどうか、ぼけてほしい被写体がぼけるかなどです。もし該当するなら、該当しないように仮決定を修正します。以上を整理すると、次のようになります。

・表現意図に大きく関係する側を選び、値を仮決定
  ・例:シャッター速度:動きを止めたいので高速に
  ・例:絞り:前後をぼけさせたいので開放で
    ↓
・選ばなかった側の値が自動的に仮決定
    ↓
・以下の注意点に該当するか調べる(意味がある点だけ)
  ・シャッター速度:手ぶれを起こすか
  ・絞り:必要な範囲にピントが合うか
  ・絞り:ぼけてほしい箇所がぼけるか
    ↓
・該当する場合は、該当しないように仮決定を修正して本決定
・該当しない場合は、仮決定が本決定に

 該当するか調べる注意点ですが、全部の事柄を必ず満たさなければならないとは限りません。表現意図によっては意味のない事柄もあるからです。表現意図や被写体の特徴と照らし合わせ、考慮する意味がある点だけ調べます。

 注意点のどれかに該当する状況というのは、2つ以上の要望があり、同時に満たせないことを意味します。仮決定の修正は、妥協点を見付けることに等しいのです。妥協が大きいほど、表現意図の達成が難しくなります。もし妥協点が見付からない場合は、手ぶれに関してのみ、手持ちでなく三脚を用いる方法で対処できます。

 仮決定の修正ですが、デジカメの場合には1つだけ方法があります。感度の設定を変更して、選べる組合せをシフトする方法です。感度を上げるとノイズが増えるので、いつも使える方法ではありませんが、選択枝の1つとして覚えておいて損はないでしょう。銀塩一眼レフでも、ボディーを2台以上持っていれば、感度の異なるフィルムを入れて、使い分けることが可能です。

自動露出の結果がダメなとき、露出補正が必要に

 現在のほとんどのカメラには、自動露出が付いています。多くのシーンで適切な露出を出してくて便利ですが、完全ではありません。一部のシーンが苦手で、期待した露出を出せないこともあります。

 苦手なシーンで必要なのが、露出補正です。自動露出の結果がずれている分を、撮影者が手動で補正します。プラス側とマイナス側に2段ずつの範囲で補正できるタイプが一般的でしょう。逆光ボタンも、特定用途に限った露出補正です。

 どれぐらい補正するかは、被写体により異なります。これに関しては、数多くの補正経験を積んで、様々な状況を覚えるしかありません。同じシーンを何種類かの補正で撮影し、仕上りを後から調べてみてください。最近のデジカメは、詳しい撮影データが残るので、露出補正の値も後で確認できますから。

 最近の自動露出には、パターン測光という高度な方式が使われています。被写体の映像を何十個かに分割し、明るさの組合せによって最適な露出を求める方式です。自動露出の精度を高めるためには効果的ですが、露出補正を行う側からすると、困った方式といえます。自動露出が間違う度合いが予測できず、露出補正がやりづらいのです。結果として、パターン測光は、露出補正をやらない人(つまり素人)向けの機能だと、私は思っています。露出補正を使いこなしたい人は、中央重点測光に切り替えましょう。この方式なら、自動露出の間違う度合いが予測でき、露出補正が当たるようになりますから。

 自動露出が目指しているのは、教科書的な露出です。表現意図によっては、意識的にハイキー(全体的に明るい写真)やローキー(全体的に暗い写真)を選びます。露出補正は、こうした表現を用いる場合にも利用します。

 私の場合は、露出補正の代わりに、スポット測光による露出ロック機能を使っています。愛機のDiMAGE 7iには、露出補正の結果が反映して、しかもヒストグラムまで表示できる電子ビューファインダーが付いています。これがあるので、スポット測光の測る箇所を上手に選ぶと、露出補正と同じことが可能なのです。

自動露出の各方式は、撮影タイプに応じて使い分ける

 自動露出には、絞り優先、シャッター速度優先、プログラムの3つの方式があります。機能の多いカメラなら、3つとも搭載しているでしょう。プログラムには、夜景モードのように、特定の目的に特化した形が可能です。目的ごとに何種類かを搭載するカメラもあります。

 3つの方式は、撮影タイプごとに適した方式があります。撮影タイプは様々ですが、代表的なタイプだけ選び、適した方式を示すと次のとおりです。

・とっさに撮影する(スナップなど)
  ・常にできるだけ絞りたい → シャッター速度優先
  ・パンフォーカスの固定ピントで → 絞り優先
  ・状況ごとにバランスよく → プログラム
・動く被写体を止めて写したい → シャッター速度優先
・動かない被写体が多い → 絞り優先
・じっくりと考えながら撮影 → 絞り優先

 以上を参考にしながら、3つの方式を使い分けてください。3つとも試すと、それぞれの特徴が理解でき、状況に応じた使い分けができるようになるでしょう。また、自分が常用する方式も見付かるはずです。

 私の場合は、じっくりと考えながら撮影するので、ほとんどが絞り優先を使っています。ほとんどといっても、全部に限りなく近いほとんどです。

(作成:2003年6月2日)
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