日本列島・全国郷土玩具の旅

----山口県篇(2)----

----YAMAGUCHI----


見島の鬼揚子(ようず)■
 萩市の日本海沖の見島、ここには古くから「見島の鬼揚子」と呼ばれる奇怪な形相の凧があります。
「揚子(ようず)」とは凧のことで、ごらんのように鬼の顔のクローズアップです。下には「ヘコ」と呼ぶ紅白の縞模様の尾がついています。
 この鬼揚子は、平安時代からともいわれていて、長男が生まれた家では子供の成長を祈って、正月に親戚や知人が集まり、この凧を作って揚げる風習があります。
 島の伝統であり、凧は島の人が自分たちで作ります。

柳井の金魚堤灯
 瀬戸内海の周防大島で、上領さんが「柳井の金魚堤灯」を作っています。
 山陰本線の大畠駅では、夏になると駅にもたくさんの金魚堤灯が吊り下げられて、この地域の季節の風物詩となっています。
 この堤灯は細竹3本で骨が組まれ、着色は白で残す部分を蝋で色止めして、赤で金魚の模様を描き、目と口を墨で書き入れてでき上がります。
  作者の上領さんは、台湾からの引き揚げ者で、病床についた時に幼い頃に遊んだこの堤灯を思い出し、昔の製作者を訪ねて学び、昭和30年頃より作り始めました。

制作者:上領芳宏:大島郡大島町小松530...TEL:08207-4-3015




岩国の石人形
 岩国の石人形は、郷土玩具の中でも珍玩具といえるものです。
 石人形とは、全長が1〜1.5センチ位で、小石が数個かたまってできた人形です。これは人の手により作られたものではなく、「トビゲラ」と呼ぶ昆虫が水中で小石を集めて作った巣で「虫が作った」造形物です。その形が細長く人形に似ているところから、石人形と呼ばれています。
 この石人形の中から七福神に見立てたものを集め、川石の上に並べ「七福神石人形」と名づけて岩国土産として売っているのです。制作は、岩国市、錦帯橋を渡った吉香公園前の、「錦堂工芸舎」の横田さんです。
 錦帯橋のかかる錦川は、昔からこの石人形がたくさん採集されたところで、子供たちがこれを集めて遊んだといいます。
  ◇「トビゲラ(石蚕)」:毛翅目の昆虫の総称。
    幼虫(イサゴムシ、ごみかつぎ)はきれいな水を好むので
    水質調査の指標とされています。
    石人形を作るのはニンギョウトビゲラで、他にシマトビゲラ、
    ムラサキトビゲラなど多種がいます。
制作者:横田馬鹿石「錦堂工芸舎」:岩国市横山 2-4-7...TEL:0827-43-2665

山口張り子(廃絶)■
 今は廃絶した玩具ですが、張り子の中に鈴が入った珍しいものでした。

中国地方のわら馬
 山口県とは離れますが、第3部の中国地方を終るにあたって、この地方に伝わる「わら馬」を紹介しておきます。
 中国地方の各地、特に山口、広島、岡山県下に多く見られた小正月の風習で、藁を束ねてつくった全長10〜30センチ位の「わら馬」が作られていました。
 小正月の前夜(1月14日)、このわら馬を持って子供や若者たちが、村の家の入り口や縁側にこのわら馬を置き、物陰にかくれて、コツコツと叩いたり、「ごりごり」とか「とへとへ」と声をかけます。
家の人は「お馬さんが来た」と喜び、わら馬を神棚に供え、その代わりに餅や祝儀を置いておきます。子供や若者は、見つからないようにすばやくそれを持っていかないと、待ちかまえている家人に水をかけられたりします。
 これは東北地方では「かばかば」「かせどり」と呼んでいるものと同様の小正月の訪問者です。年が改まる夜、神が人間に祝福を与えるために来臨するという民俗的な信仰にもとずいた行事です。
 このような習俗はだんだんとすたれつつありますが、「わら馬」だけは民芸品として作っている所や、地方によっては古老が作ってくれる所もあるようです。

 ことこと馬:岡山県上房郡有漢町付近
 ごりごり馬:岡山県小田郡矢掛町付近
 とらへい馬:広島県庄原市周辺
 とへとへ馬:山口県豊浦郡豊浦付近
 とへの馬:山口県岩国市周辺




---山口篇・終り---

 
 
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(1999.3.7掲載)