スイスの作曲家ヘルマン・ズッター

 スイスの新興レーベル、MGBはあのミグロが作ったレーベル であります。主にスイスの作曲家による作品を紹介することで知られるようになったレーベルで、ほとんど知られることのなかった多くのスイスの作曲家、ヴェレシュモレシェックといった代表的なスイスの作曲家たちの多くの作品を、このレーベルで聞くことができます。
 それらの中に、スイス伝統の合唱音楽を受け継ぐ十九世紀末から今世紀はじめにかけて活躍したヘルマン・ズッターの美しい作品"Le Laudi"があります。
 「アッシジの聖フランチェスコの太陽の賛美歌」と訳せばいいのでしょうか?というタイトルを持つ合唱と四人の独唱、そしてオルガンとフル編成のオーケストラという大規模な作品でありますが、ドラマチックでありながら、敬虔な祈りに満ちた実に美しい作品で、ぜひ多くの方にお薦めしたい作品なのでここにとりあげることにしました。(瑞西MGB/CD6105)

 ズッターは一八七〇年四月二十八日にアールガウ州のカイザースチューブル(Kaiserstubl)に生まれました。音楽家一家だったそうで、お父さんはオルガニストであったようです。ピアノとヴァイオリンを学び、十三才の時に最初の作品を発表。十五才の時に両親につれられてみてもらったチューリッヒの大聖堂のオルガニストをしていたグスタフ・ウェーバーの助言にしたがって、バーゼルの音楽院に入学。
 そこで、ハンス・フューバーやアルフレッド・グラウスについて学んだ後、十八才の時にライプツィッヒの音楽院、更にシュトゥットガルトの音楽院に行って学んでいます。
 二十二才の時にチューリッヒに戻り、そこでオルガニストをしながらチューリッヒ、シャフハウゼン、ヴィンタートゥーア、バーゼルなどのオーケストラ、合唱団の指揮などをしながら作品を発表していっています。ちなみにバーゼル交響楽団の初代常任指揮者を努めています。
 その中には、唯一となったニ短調の交響曲をはじめ三曲の弦楽四重奏曲、弦楽六重奏曲、もちろん数多くの合唱作品に歌曲、オルガン、ピアノなどのための作品、それに代表作といわれているこの合唱、独唱、オルガンと管弦楽のための"Le Laudi"やヴァイオリン協奏曲といった作品を発表していったのであります。

 ズッターの音楽はストラビンスキーらの当時のアバンギャルドからは随分遠い作風を持っています。それは教会の音楽を吸収して育んで来たということと無縁ではないと思われます。おそらく彼よりも少し前の世代になるのかも知れませんが、フランスのフォーレなどの音楽に近い敬虔な祈りと飾り気のなさ、率直な作風が感じられます。
 もちろん大規模な作品である"Le Laudi"にしても、ダイナミック・レンジは広いのですが、聞いた印象は静謐な穏やかさが、曲全体を支配しているように思えます。
 旋法を多用したメロディー作りがその印象を助長しています。他の作品でどうなのか、私は知りませんが、この曲があの香しいシルス・マリアで書かれたということを知ると、その音楽の本質的な部分での穏やかさ、敬虔な祈り、は当然のように思われます。
 このことは作曲者自身がこの作品について述べた手紙の中でも、この美しい風景に多分に影響されながら作品を書いたと言っていることからも、おそらく間違いないでしょう。
 演奏はアンドラーシュ・リゲティ指揮ブダペスト交響楽団、ブダペスト放送合唱団と児童合唱団他の演奏は、この未知の作品の紹介者として、不足のない丁寧な演奏で聞かせてくれます。
 フォーレやヴォーン=ウィリアムズの初期合唱つき作品が好きな方には、お薦めですよ!!