6月16日

※無断転載を一切禁じます


サッカー

J1リーグ1st第11節
柏レイソル×ジュビロ磐田
キックオフ:15時04分/観衆:17,788人/天候:曇一時晴れ、弱風
/気温:22.0度/湿度:68%/ピッチ:良芝、乾燥
(柏の葉公園総合競技場)

磐田
o 前半 0 前半 1 1
後半 0 後半 0
  中山雅史:5分

■出場メンバー
  磐田
南 雄太 GK ヴァン ズワム
渡辺 毅 DF 鈴木秀人
洪 明甫 大岩 剛
薩川了洋 山西尊裕
渡辺光輝 MF 西 紀寛
明神智和 福西崇史
萩村滋則 服部年宏
入江 徹 ジヴコヴィッチ
大野敏隆 藤田俊哉
加藤 望 FW 清水範久
北嶋秀朗 中山雅史
  平山智規:45分
(入江 徹)   
酒井直樹 :45分
(大野敏隆)   
砂川 誠:70分
(加藤 望)    
交替 70分:川口信男
   (西 紀寛 )
79分:金沢 浄
 (ジヴコヴィッチ)
 勝ち点を29に伸ばせば優勝トロフィーに手をかけたことになる磐田。コンフェデレーションズ杯で試合と大会の流れそのものを日本に引き寄せるなどFWとして大活躍した中山雅史、MF藤田俊哉、DF服部年宏の3人がどこまでフィジカルを維持し、疲労を回復しているか、それと同時に、柏の速い中盤、カウンターに対してどう封じるかに勝敗を分ける焦点が絞られた。

 前半5分、磐田は最初のコーナーキックを得る。この右コーナーをジブコビッチが蹴る際、中山はニアに向かってボールを迎えるような動きから、まだしつこいマークに集中していなかった柏DFを振り切ってヘディング。これが決まってアウェーでの貴重な1点を奪った。これで試合を優位に展開するとともに、1点を奪うために攻め続ける柏をかわし、攻め疲れを待つように追い詰めていった。

 前半を1−0で折り返し迎えた後半、まず動いたのは柏ベンチ。前半は機能しなかった左サイドの入江徹を平山智規に、中盤の大野敏隆を酒井直樹に替えて勝負に出てくる。だが、磐田は大岩剛をはじめとしてDFラインが、セットプレーでも渡辺毅、洪明甫といった選手をもきっちりとマーク。割られても、フリーでのシュートを打たせない堅守を見せた。後半残り20分には柏が砂川誠を投入したが、磐田は今季からコンバートされた山西尊裕ら落ち着いたゴール前の守備と主将の服部年宏が、残り10分を切ってからは徹底したサイドでのボールキープを見せるプロフェッショナルな意識を見せつけて、柏に1−0と勝利を収めた。名波浩、高原直泰が不在、またアジアクラブ選手権(準優勝)から続く超ハード日程を克服して、優勝の行方がはっきりと見えてきた1戦となった。

 中山は前半の1本のシュートをゴールとする勝負強さを発揮し、代表での働きから続く高い集中力をベテランの味とともに披露した。Jリーグ通算得点記録でも、これで三浦知良(神戸、この日は欠場)と再び114点で並び(112点で一度並んだ)、今季の得点も4に伸ばした。名波、高原が不在だったものの、来週のナビスコ杯、Jリーグ戦ではともに復帰する見込みで優勝に一気に加速する可能性もあり、清水が勝ち点2にとどまったため、これで最短Vの計算も立てられる状況となった。

磐田/鈴木監督「今日は本当に厳しい試合になると思っていた。前半のあれほど早い時間に点が取れたことは大きなプラスポイントとして作用したし、選手も最後まで自信を持ってやるべきことをやってくれたと思う。これで優勝? いや、まだまだそんなことは口にするべきではない。残り試合1戦1戦に集中したいと思っている。来週には故障者も合流のメドが立ちそうなので、ここまで苦しい台所事情だったぶん、気持ちが緩まないようにしたい」

柏/西野監督「立ち上がりの10分から15分まで、ウチらしい戦いではなかった。出足が悪く足が止まっているところにプレスをかけられて慌ててしまった。そこが試合のポイントすべてだったと思う。ほかの時間帯は、ウチの形はできていたのではないか。消極的すぎたし、(故障上がりの)大野も平山も万全ではなかった。(優勝は絶望だが、と聞かれ)2ndステージに向けて残り4試合を全力で戦い、つなげていきたい」

これでカズと2度目の並走となる通算114点目を決めた中山雅史「(カズと並んだことは)特別に意識するものではないし、自分の記録をひとつずつ積み上げていくだけ。今日は早い時間で得点を取ることができてよかった。あのチャンス1本でしたね。ここまでチーム状態は決してよくはよかったけれど、いろいろな形で選手を組み合わせ、システムを試し、それでもうまく機能していかないと“チーム”は強くはなりませんから。コンフェデ杯の疲れがあるかと聞かれば、それはないとは言えません。ただ、そんなことを今話していても仕方ないわけです。(先発での起用は)やはり気分がいいですね。代表ではいろいろと(自分のコンディショニングに)気を使った面がありましたから。ボチボチ。来週もありますので」


「これぞ……」

お知らせ

増島みどり著
シドニーへ
彼女たちの
42.195km

発売中
詳細はこちら

 藤田俊哉は、日本代表に急きょ呼ばれる緊急招集を受けたが、FWで2得点を挙げた鈴木隆行(鹿島)のような劇的な出番も、また中山のような印象を与える出番も、最後まで与えられなかった。コンフェデ杯を戦った日本代表のうち、GKの楢崎正剛(名古屋)と藤田の2人だけには「出番」がなかった。
 彼らはそれに文句を言うわけもなく、見ている者が同情することはない。ただし、どんなときでも万全のアップと調整だけを繰り返した2週間の藤田の仕事ぶりが注目に値する水面下の働きであったことを、この日のゲームが明らかにしたのではないだろうか。
 この日、磐田が放った10本のシュートのうち7本までが、直接にしても間接にしても藤田の、相手を読み切った冷静な動きと、誰に対しても的確なパスから生まれたものだった。
 試合前には、あれほどのキャリアをもってしても90分のゲームから遠ざかっていることを謙虚に考え、ミスをしないこと、無理をして流れを逃がさないことを注意していたのだという。
「コンフェデはそういう意味では楽なものではなかったね。もちろん、こうして試合に出ているほうがいいわけで……。でも合宿の途中でこう考えることにしたんだ。これも試練だから、って。ジュビロじゃ経験できないしね。それと、自分が将来監督になったときに、そういう選手起用もすることがあるかもしれないし、そのとき、その選手の思いを心の底からわかってやるのとそうでないのとでは違うと思う。そうやって考えて、一度もモチベーションを落とすことはなかったんだ」
 やはり過密日程が続いた一昨年、国立競技場で鹿島と激闘を繰り広げようやく勝利したとき、藤田は「最後は足が止まった。判断もできなくなるほど疲れ切った自分が情けない」とゲーム後、悔しそうに唇をかんでいた。以後、体脂肪の管理までしっかりとする、いわば正真正銘の「アスリート」は、今回、一度も試合に出ない2週間を経験し、その側面にさらに磨きをかけた。
 プロとは何か、それを一言も説明することなく、藤田はピッチで表現した。
 実に軽やかに、そして堂々と。


「“ウチらしくない”と“ウチらしさ”と」

お知らせ

増島みどり著
ゴールキーパー論
発売中
詳細はこちら

 試合後の西野監督は、敗戦そのものよりも開始からの立ち上がりで高い集中力を見せて得点を奪ってきた柏のスタイルが出なかった点のほうを、より悔やんでいた。
「立ち上がりの攻撃にウチらしさ、がまったくなかった。消極的だったし、もっと前へという気持ちを体に出していかなくては、ウチのようなチームはダメだとわかっている。選手もみな、わかっていたはずなんだが」
 象徴的なシーンがあった。
 前半20分過ぎ、洪がDFラインから放った超ロングパスが右サイドに送られた。このボールを渡辺光輝は、もちろん全速力で追いかけてはいたが、ある地点でかなり長いボールであったことを判断して追うのをやめ、スピードを落としてしまった。と同時に北嶋秀朗、周囲のサポートに入るべき中盤全員が、一瞬にして速度を緩めた。渡辺は試合の全般にわたってチームプレーに忠実に働いており、これが怠慢だというのではない。チームの立ち上がり、あるいはそのまずさを挽回するための中盤戦、最初の「チームプレー」として、DFからのボールを前線でつなごうとするチームの気持ちを象徴していたのだということだ。
 反対に、「ウチらしさ」を出したのは磐田ではなかったか。
 中山の得点後の前半17分、DF服部から厳しいボールが、同じように前線の中山に出された。中山は、コンフェデレーションズ杯のカナダ戦で見せた「アシスト」のように、どう見ても不可能なボールにタッチライン一杯で追いついて、これを逆サイドに走っていた大岩めがけてサイドチェンジパス。ゴールにはならなかったが、タッチライン、ゴールライン、その両方の「際」で踏ん張り、さらにその動きに対してラッシュして行った磐田の「チームプレー」に、勝利と優勝への執念が象徴されていた。
 試合を終えた服部は、「今日は厳しい試合だったぶん、楽しかった。コンフェデの長い中断があって、こういうときはチーム全体の意識づけや集中も確かに難しい。だけど今日の試合をしながら、“ウチらしい、ウチは強い”と思った」。
 優勝について、“ウチらしさ”を指揮した主将は「次、勝ったら」と、笑って言った。


「代表であり続けるために」

(文・松山 仁)

試合データ
  磐田
3 シュート 10
9 GK 9
3 CK 12
24 直接FK 24
7 間接FK 0
0 PK 0
 コンフェデレーションズカップでは準決勝、決勝と出場機会がなく、予選ラウンドでも途中出場、あるいは先発と起用方法も安定せず、クラブに戻った明神は迎えたチームメイトにぽつりと「色々と難しくてストレスがたまってしまった」ともらしたという。
 Jリーグが再開したこの試合で自分自身と波に乗り切れないチームの鬱憤を晴らすべく、精力的な動きをみせたいところだったが、0−1という結果以上に自らの動きに対して、「スコアを見れば惜敗だけど、内容は惨敗だったと思います」と、厳しく自己採点をした。
 後半から平山智規、酒井直樹、砂川誠とスピードのある選手が入って、サイドを何度も崩す場面もあったが「それでも中盤では全部潰されていたし、結局サイド以外は何もできなかった」と、最後まで一度も奪えなかった主導権争いでの完敗を悔やんだ。首位を独走するジュビロ磐田を叩いて、チームの勢いを取り戻したかったが、今日のゲームで負けが一つ先行(5勝6敗)してしまい、優勝は限りなく遠のいた。
「今はチームとして自信をつけていくしかない。もう優勝は厳しいけれど、目的意識を高く持って、何とかプラスの流れに変えていきたい」
 バスに乗り込む際、それでも力強く言った。
「コンフェデレーションズ準優勝代表」といっても、役割、置かれた立場はまったくさまざまである。初めての体験もあれば、経験したこともある。代表に入った、のではなくて、代表であり続けるためには、明神にとって再開以降が本当の意味での「試練」となるのではないか。
 安定感とバランス感覚には抜群のセンスがある。しかし、停滞したチームの流れを変えるレイソル唯一の「日本代表」として、あえてバランスを崩してでもリスクを恐れず、飛び込んでいく勇気が今後の課題になる。



読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い


BEFORE LATEST NEXT