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サッカー J1リーグ1st第11節
前半5分、磐田は最初のコーナーキックを得る。この右コーナーをジブコビッチが蹴る際、中山はニアに向かってボールを迎えるような動きから、まだしつこいマークに集中していなかった柏DFを振り切ってヘディング。これが決まってアウェーでの貴重な1点を奪った。これで試合を優位に展開するとともに、1点を奪うために攻め続ける柏をかわし、攻め疲れを待つように追い詰めていった。 前半を1−0で折り返し迎えた後半、まず動いたのは柏ベンチ。前半は機能しなかった左サイドの入江徹を平山智規に、中盤の大野敏隆を酒井直樹に替えて勝負に出てくる。だが、磐田は大岩剛をはじめとしてDFラインが、セットプレーでも渡辺毅、洪明甫といった選手をもきっちりとマーク。割られても、フリーでのシュートを打たせない堅守を見せた。後半残り20分には柏が砂川誠を投入したが、磐田は今季からコンバートされた山西尊裕ら落ち着いたゴール前の守備と主将の服部年宏が、残り10分を切ってからは徹底したサイドでのボールキープを見せるプロフェッショナルな意識を見せつけて、柏に1−0と勝利を収めた。名波浩、高原直泰が不在、またアジアクラブ選手権(準優勝)から続く超ハード日程を克服して、優勝の行方がはっきりと見えてきた1戦となった。
磐田/鈴木監督「今日は本当に厳しい試合になると思っていた。前半のあれほど早い時間に点が取れたことは大きなプラスポイントとして作用したし、選手も最後まで自信を持ってやるべきことをやってくれたと思う。これで優勝? いや、まだまだそんなことは口にするべきではない。残り試合1戦1戦に集中したいと思っている。来週には故障者も合流のメドが立ちそうなので、ここまで苦しい台所事情だったぶん、気持ちが緩まないようにしたい」 柏/西野監督「立ち上がりの10分から15分まで、ウチらしい戦いではなかった。出足が悪く足が止まっているところにプレスをかけられて慌ててしまった。そこが試合のポイントすべてだったと思う。ほかの時間帯は、ウチの形はできていたのではないか。消極的すぎたし、(故障上がりの)大野も平山も万全ではなかった。(優勝は絶望だが、と聞かれ)2ndステージに向けて残り4試合を全力で戦い、つなげていきたい」 これでカズと2度目の並走となる通算114点目を決めた中山雅史「(カズと並んだことは)特別に意識するものではないし、自分の記録をひとつずつ積み上げていくだけ。今日は早い時間で得点を取ることができてよかった。あのチャンス1本でしたね。ここまでチーム状態は決してよくはよかったけれど、いろいろな形で選手を組み合わせ、システムを試し、それでもうまく機能していかないと“チーム”は強くはなりませんから。コンフェデ杯の疲れがあるかと聞かれば、それはないとは言えません。ただ、そんなことを今話していても仕方ないわけです。(先発での起用は)やはり気分がいいですね。代表ではいろいろと(自分のコンディショニングに)気を使った面がありましたから。ボチボチ。来週もありますので」
「これぞ……」
増島みどり著
「“ウチらしくない”と“ウチらしさ”と」
「立ち上がりの攻撃にウチらしさ、がまったくなかった。消極的だったし、もっと前へという気持ちを体に出していかなくては、ウチのようなチームはダメだとわかっている。選手もみな、わかっていたはずなんだが」 象徴的なシーンがあった。 前半20分過ぎ、洪がDFラインから放った超ロングパスが右サイドに送られた。このボールを渡辺光輝は、もちろん全速力で追いかけてはいたが、ある地点でかなり長いボールであったことを判断して追うのをやめ、スピードを落としてしまった。と同時に北嶋秀朗、周囲のサポートに入るべき中盤全員が、一瞬にして速度を緩めた。渡辺は試合の全般にわたってチームプレーに忠実に働いており、これが怠慢だというのではない。チームの立ち上がり、あるいはそのまずさを挽回するための中盤戦、最初の「チームプレー」として、DFからのボールを前線でつなごうとするチームの気持ちを象徴していたのだということだ。 反対に、「ウチらしさ」を出したのは磐田ではなかったか。 中山の得点後の前半17分、DF服部から厳しいボールが、同じように前線の中山に出された。中山は、コンフェデレーションズ杯のカナダ戦で見せた「アシスト」のように、どう見ても不可能なボールにタッチライン一杯で追いついて、これを逆サイドに走っていた大岩めがけてサイドチェンジパス。ゴールにはならなかったが、タッチライン、ゴールライン、その両方の「際」で踏ん張り、さらにその動きに対してラッシュして行った磐田の「チームプレー」に、勝利と優勝への執念が象徴されていた。 試合を終えた服部は、「今日は厳しい試合だったぶん、楽しかった。コンフェデの長い中断があって、こういうときはチーム全体の意識づけや集中も確かに難しい。だけど今日の試合をしながら、“ウチらしい、ウチは強い”と思った」。 優勝について、“ウチらしさ”を指揮した主将は「次、勝ったら」と、笑って言った。
「代表であり続けるために」 (文・松山 仁)
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