6月10日

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サッカー
FIFAコンフェデレーションズカップ2001
決勝
日本×フランス
(横浜国際総合競技場)

日本 フランス
o 前半 0 前半 1 1
後半 0 後半 0
  ヴィエラ:29分

交代出場
<日本>

45分:三浦淳宏(稲本潤一)
60分:久保竜彦(小野伸二)
74分:中山雅史(西澤明訓)
<フランス>

58分:ロベール(マルレ)
65分:カリエール(ジョルカエフ)
 FIFA(国際サッカー連盟)が主催するAマッチとしては初の決勝進出を果たした日本は、昨年6月、今年3月、そして今回とわずか1年で3度も対戦することとなったフランスに挑んだ。

 中盤に稲本潤一(G大阪)、伊東輝悦(清水)、戸田和幸(清水)を置き、フランスの中央突破を警戒するとともに、4月のスペイン戦で堅実な守備を見せた波戸康広(横浜)を右サイドに。ここまで攻守での要となる役割を担ってきた中田英寿(ASローマ)がローマに帰国し、注目された司令塔のポジションには誰もおかずボランチ3人でこなし、左サイドには小野伸二(浦和)を今大会通して起用する戦術となった。また3月、サンドニで0−5と敗れた際のメンバーを5人入れるなど、監督が「リベンジしたい」と試合前から話していたように、立ち上がりから高い集中力を持って臨むゲームとなった。

 3月の対戦ではPKでいきなり失点してしまい、そのまま立て直すことができなかったが、今回の試合では、日本は慎重に試合を運ぶ。開始直後には波戸が、右サイドをスピードに乗って突破。このプレーが勢いを呼び込む。2分には、フランス最初のシュートを川口能活(横浜)が落ち着いてファーストタッチを終え、3月の試合とは違った形でゲームをスタートさせた。

 5分にはヴィルトール(アーセナル)、アネルカ(パリ・サンジェルマン)に連続してシュートを浴びるものの、今大会波に乗る川口はこれをセーブし、10分、左サイドの小野からゴール前に走りこんできた森島に合わせる。圧倒的にボールを支配されるであろう試合に、きわめて有効なカウンターの形を作った。

 これで5試合すべてに左サイドという慣れないポジションを任せられた小野は、試合前から「いいゲームをしたい。自分には、少しもフランスを恐れるといったいうイメージがありませんので、思い切りやってみたい」と話していた通り、フランスワールドカップ優勝メンバーでもあるカランブー(ミドルスブラ)に対してドリブル、パスと一対一を挑んでいった。小野のこうした積極性が、自身のミドルシュートも含めて日本の前半のシュートすべてを呼び込んだ。

 前半29分には、ルブーフ(チェルシー)が右サイドからゴール前に走っていたヴィエラ(アーセナル)に、追いかける格好となる難しいボールを送る。これをヴィエラは向きを換えてヘディングするという、フランスの身体能力と技術その両方の高さを示すようなパス、シュートで、飛び出してきた川口の頭を超えてゴールに。先制点を前半中盤で奪われ、ゲームプランの変更を余儀なくされる形となった。

 30分を過ぎると、安全にボールをキープしようとするフランスに、小野のミドルシュート、右の波戸から西澤明訓(エスパニョール)のヘディングと、チャンスを作る。終了間際には、またも小野の切り込みから折り返したボールに伊東が合わせてシュートに持ち込むなど、小野のプレーがすべて攻撃の起点となる。

 後半、日本は1点を取りに行くオプションに出るため、稲本を下げてゲームメーカーに小野、代わりに左には、昨年の6月、フランスとモロッコで対戦した際にもアシストをしている三浦を投入する。しかし、20分には、この形がフィットしないとみたトルシエ監督は、今大会初出場の久保竜彦(広島)をFWに入れ、小野と交代させる。その後には、中山雅史(磐田)と、豊富な運動量と前線で踏んばって仕事を果たした西澤を交代。最後のカードを使って1点奪取にかけた。しかし、先制点以後、落ち着いた無理のない試合運びで優勝を狙うフランスの壁を破ることはできず、1−0のまま敗れて準優勝となった。

 日本はこの1年に、世界王者フランスと3戦(フランスのホーム、日本のホーム、そして中立のモロッコ)し、2002年の準備年としては、最高の相手との経験を財産として蓄えた。なお、コンフェデレーションズ杯では、大会通算6得点1失点の記録を残した。
 2002年ワールドカップ前としては、これが最後の公式国際大会となる。

●試合後のコメント:

ゲーム開始早々、相手スパイクで右ひじを10センチほど切り、試合後も血を流れたままの西澤明訓「前線で孤立してしまったのが残念だった。なんとかしたかったんだけど、どうしてもモリシ(森島)たちが後ろ(守備)に引っ張られてしまうぶん、苦しくなった。後半2トップにして少しはよくなったかな、とは思う。この大会を終えて、世界の強豪と短い期間で戦え、充実した経験ができたと思うし、個人としてもチームとしても足りない部分、足りている部分とかいろいろと見つけられた。ただ、最後の最後に、もっとも力の差を痛感した」(※西澤は11日に一度大阪に戻り、12日にスペインへ出発。現地で来シーズンについて話し合うことになっている、とした)

3月の試合では自らPKを奪われリズムを崩した松田直樹(横浜)「フランスはすべてにタイミングよく、すごくうまく合間をとってサイドを崩してくる。日本を攻めるとき、相手はサイド攻撃を多用するが、フランスはレベルが違い、ほかの崩し方もうまい。前回0−5でズルズルとラインを下げたことに比べると、今日は前のほうも最後までプレッシャーをかけてくれたぶん、最後まで下がらずにできたのではないか」

決定的なチャンスを2本、惜しくも外した森島寛晃(C大阪)「3月(の試合)は自分は出ていないけれど、どうしようもなく勝てない相手ではない、という自信は持てました。シュートまで行けるところをあえて大事に行ってしまったり……、そういうチャンスをしっかり決めてアピールをしたかったと思うのに。今大会、収穫は多かった。選手の間はとてもうまく結束していたと思います」

前半には積極的にシュートを打つなど、3月とは違った展開を試みた伊東輝悦「フランス相手でもこうして落ち着いて入ればチャンスはなんとか作れるんじゃないかと手応えはあった。ただ、ボールをいくら回しても肝心のペナルティエリアに入ることができない。個人的にも、前を向くことができないことが反省点。前半のシュートのように折り返してああいうチャンスを狙って行きたかった。フランスは寄せがうまい。中盤は常に狙われている感じがしていた」

スペイン遠征では体調不良で直前にリタイアしたが、今大会は安定したプレーを見せた戸田和幸「持てる力はすべて出したと思うし、気迫でも負けてはいなかった。代表でこうしていきなり大きな大会を迎えたけれど、それでも、自分が取り組んできた方法は間違いではなかったと確認できた。ただ、今日は負けて終わったことが悔しい。足りないものが何なのかをチームに帰ってしっかり反省する」

守備、ロングパスの起点と、今大会で持ち味を発揮した中田浩二「細かなミスとか、かなりあります。でも、スペイン、フランスで経験した敗戦はきっちりといい方へ変えられたとは思う。フランスは本当にうまくて強い。失点した場面ですが、(ヴィエラは)あれだけ走ってあのシュートですから凄い」

モロッコで見せた突破のような攻撃的な動きを期待され、後半に交代出場した三浦淳宏(東京V)「(ベンチが)『とにかく前に行け、前に行け』と、そればっかりで……。右が上がっていても『行け』と言うし、おまけに『下がれ』まで言うんで、途中でひっかかる(ボールを取られる)し、仕事がごちゃごちゃでしたね。相手のことを考えれば(上がったり下がったりも)仕方ないですが、もう少し落ち着いてプレーをしたかったですね」

4月のスペイン戦で代表デビュー、この1か月で定着した波戸康広「スペインと比べるとフランスのほうが非常にうまかった。強さというのを実感した。スペイン戦のほうが個人的にはうまくプレーをしたと思うが、もう少しビルドアップをしていくことが重要だと思った。収穫は、スピードには自信を持てる点です。今日もアネルカはめちゃくちゃに早かったですが、それでも置いていかれる、という場面はなかった。自信は持てた」

今大会、予選、決勝とスーパーサブとして抜群の存在感を見せたベテラン・中山雅史「走るといっても、前半の最初から(先発出場)だと、向こうも元気ですからね。ああいう(後半の)局面でもできることはありますし。ハーフタイムに西澤から『フランスは来るところはガツガツ来るから』と教えてもらっていた。フランスは後半になってかなりほころびが見えていた。そのほころびから、破り切れなかったところに反省がある」

この日は被シュート20本、大会通算でわずか1本のゴールを許しただけで終わった川口能活「あの失点の場面は、判断は間違っていなかったけれど出方が間違っていました。マツ(松田)との連携がうまくなかったですね。ただ、ヴィエラがあんなに長い距離を走って打ってくるとは……。大会通じて、あの1点だけ。でもそれだけで準優勝になる。その1点の重みを再確認した大会だった。収穫は、自分のペースで試合運びができる手応えを得たこと。組み立ててくるシュートは守るのもほとんど完璧に近かったが、飛び込みにはどうしても崩れることもある。チーム全体としては、今日、1点のあと歯止めが利いたこと。これは大きい」

大会を通じて左サイドをやり抜いた小野伸二「相手のサイドにはあまりプレスがかかっていなかったので、積極的にやろうと試合開始してすぐに思った。予想していたよりも楽でしたね。ヴィエラをかわして打ったシュートのようなのを、びっちり決めたかったですね。オーストラリアの試合はあまりいい出来ではなかったので、今日はそのぶんも、と思った。(森島へのいいパスについて)あ、あれはミスキック(報道陣も笑う)。自分でもあんまりいいとこに入ったんでびっくりした。シュートが入っていれば、狙ったパスでした、と言えたんですが。慣れないポジションでしたが、いろいろと考えながらやれることができたと思うし、本当に、久しぶりに楽しめる国際大会でした」

リザラズ「自分としては、2週間遠征してタフなシーズンを終えたことに満足したい。日本は対戦するたびに強くなっていることは間違いない。海外へ行く選手が必要だという判断については、今日だけではまだわからない。いずれにしても、私たちにとって簡単な試合ではなかった」

カランブー「3月の対戦と比べれば、まるで違うゲームだった。私たちが5−0で日本に勝った試合とは、内容、細かな技術面、すべてで大きな違いがあったと思う。日本の選手はとても知性的なプレーをしていたし、(左サイドの小野については)なかなか積極的にプレーをしていた」

岡野俊一郎日本サッカー協会会長「日本は着実に進歩している感じがする。チーム全体に感謝したい。ただ、いくつか改良しなくてはならないところもある。チームじゃなくて組織、組織運営ですよ。交通手段や選手へのホスピタリティー。最終的な情報を集めて活かしたい」

川淵三郎日本サッカー協会副会長「FIFAの関係者もよかったと言ってくれた。大敗の可能性もある相手だし、1−0はよかったと思う。選手もホッとしたというところだろう。ただ、細かいところのミス、開きは、選手もこれから勉強していくと思う。まあ、言い出したらキリがないので今日はこの辺でやめておきます」

フランス/ルメール監督「勝つことはそんなに簡単なことではなかった。今日は点差よりも1−0で勝って終わるということが一番大事だった。日本は非常に成長している。あっという間に急速に伸びてきたことは間違いない。今日の1−0といっても、5−0より楽だったという試合ではまったくない。フィリップ・トルシエのチームはこれからも進歩する。いい方向に進んでいると思う」

トルシエ監督「今日は名誉なことだ。相手はW杯のチャンピオン。このトーナメントではいい仕事ができたと思う。我々が対戦したのは世界のトップチームばかりだった。ブラジル、カメルーン、フランス、オーストラリア。相手はハイレベルだ。我々は大きな自信をつけた。成熟度が増して判断がよくなった。積極的にもなった。将来に向けていい兆候だ。W杯に向けていい取り組みができた」


「フランスが柱の傷に」

 右ひじのあたりからは血を流したままで西澤はミックスゾーンに歩いてきた。試合開始1分で、相手にスパイクされて倒され、さらに腕を思い切り踏みつけられたという。痛がる西澤の姿は、昨年の6月、モロッコでの一戦では森島が試合開始直後にデサイーにペナルティエリアに入った瞬間、思い切り平手打ちをされ脳震盪を起こしたシーンと重なる。フランスは、格下のチームと対戦するとき、何がもっともてっとり早い戦術かを熟知している。つまり「ガツンと一発」という古典的な方法である。

 西澤が中山にハーフタイムで「(フランスは)来るとこは来る」とアドバイスした言葉に、この1年、フランスとの3試合すべてで先発した西澤の経験、手ごたえ、逆に課題、といったものが凝縮されていたのではないか。

 結果的には0-1はフランスでの0-5よりはマシに見える。しかし3試合を戦った西澤は、そんな「よくやったんじゃないか」というあいまいなムードを毅然と否定する。
「結果だけ見れば、まあ0-1はよしといえるかもしれない。けれども、内容はまったく違っていたし、やってる選手は一番わかったんじゃないかと思う。表面上はともかく、根本的な力の差は全然違うと痛感した」

 日本選手の多くが、手ごたえを口にしていた中、もっとも「ガツガツ来る」地点、つまり手ごたえをまったく感じさせてもらえない場所で仕事をやり抜き、またスペインでのプレーを経験する西澤が「根本的に違う」と言い切ったことは、日本の実力をコンフェデレーションズカップの準優勝だけでは決してはかれないことを、実に理論的に説明しているのではないか。3月の0-5の際には、名波が「5-0は表面の話で、実際のサッカーは点差以上の差」と言っていたことを思い出す。

 ワントップで臨んだこの日、西澤が孤立してしまう場面が連続した。中盤からのボールだしがどうしても守備にかかる分遅くなるためで、このあたりは、やはり3月の試合と変わったことはなかった。後半、小野を中心に置いたが、それでもボールが入らず小野の攻撃力を生かすのはむしろ左サイド、という皮肉な結果も生んでしまった。今大会初の失点は、初めて先攻されたということでもある。初めての試合展開、つまり「1点を取りに行く」という攻撃のオプションについては、「中途半端なまま終わった」と、徹底したものは見せることができなかったことを前の選手は口々に反省をしていた。

 フランスは終始安全運転を続け、1点を奪ってからはさらにポイントを定めた場所以外でリスクは負わなかった。ヴィエラのシュートについてはもちろん本人の身体能力も含めてあまりにあっさり奪われてしまった感がある。「あれはやばいです(凄すぎて)」と西澤は苦笑していた。

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 この試合、1年で3試合フランス戦を経験したのは西澤のほか、伊東、稲本、森岡、松田である。伊東は、「サンドニのリベンジどうのこうのよりも、フランスとやるといってもなんだか面白い慣れがチームにある。1年で3試合ともなると、落ち着いているし、みな普通に入れることができた」

 フランス相手に「慣れ」とは贅沢な話だが、今大会、決勝でフランスと対戦したことは、監督が言う「経験を積む」という段階においてはピークとなるものだった。この1年、幸運にもフランスと対戦するたびに、いわば「柱の傷」のように自分たちの身長を日本代表ははかって来た。この場合、フランスの傷と、日本の傷の高さはかなりの開きがあるわけであるが。それでも柱の傷をはかるためのものさしにも、自分たちの絶対的な「ものさし」を使い、まったく浮ついたことも、悔しいとむやみに叫ぶこともない代表選手たちの試合後の姿勢に成熟度が見える。

 西澤はこんな表現を使う。
「簡単に差が埋まるわけはないと思う。だけど、前回より今回、前々回よりも前回、と少しずつ伸びていることも確かだと思う。本当に少しずつだけど差を埋めていかないとならないし、むしろ今回は選手たちでも、でき過ぎという評価で浮かれても喜んでもいない。だから、どうか(報道で)あまり持ち上げないでください。本当にどうかよろしくお願いします」

 こういう言葉が実感からこみ上げているのことに、コンフェデレーションズカップの本当の「準優勝トロフィー」がある。西澤の、そして選手の姿勢に敬意を表して、持ち上げないことにする。


「本当に楽しかった」

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 戦術的に徹底不足の交代ではあったが、小野は試合後、「本当に楽しかった」と繰り返していた。去年12月の韓国戦以来、代表のピッチに立った今大会、本来ならば左サイドでのプレーには不安、不満もあったはずだ。しかし、小野はこうした条件を跳ねのけて「まずは楽しむことが第一」と、明るく、前向きで、しかもたくましいサッカー観をも披露したのではないか。

 前半ヴィエラをかわして打ったミドルシュートは、98年のフランスW杯ジャマイカ戦で放ったミドルシュートと同じように、可能性や明るさが秘められたものだったように思う。思えば、代表でも、ユースでは主将として、その後は五輪でも怪我をして満足に働けず、浦和も2部落ちから昇格、細かな故障、と小野がサッカーに求めているはずの「楽しみ」よりも「苦悩」が上回る状況に置かれていたともいえる。

 交代については「自分にボールが入るようにするにはどうすればいいか、を探っているうちに交代させられてしまった。ちょっと残念でしたが」と話していたが、それでも、この試合で攻撃の起点となったのはすべて小野である。小野のよさというのは、サッカーを愛する姿が、ボールタッチから、ドリブルから、シュートからすべてににじむところで、ある意味の「楽観」をサッカーで表現する選手はほかにはあまりいない。

 練習前には、いつも面白い光景があった。小野が、自分で考え出した新しいリフティングを毎日、毎日ほかの選手に披露する。ほかの選手もトライはするが、まったくできずに、小野は「下手だなあ」とか、「全然だめ」とか大笑いをしていた。ほかの選手に言わせると、小野のリフティングそのものがあまりに上手く、あまりにユニークで「異次元」ということになるそうだが。

 今大会を振り返るとき、小野の笑顔は非常に強い印象を持って10日間を物語っている。「小野的楽観サッカー」とでもいうか、これが復活してきたことは、本人の夢である海外移籍をかなえる現実的な手段として、また日本代表がどう2002年を戦うかを決める上でも、大きな収穫である。すでに移籍は水面下でほぼ決まったとも言われており、今月の動きは注目される。



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