スタジアム読者の皆様へ


シドニーへ

彼女たちの42.195km

2001年1月11日発売
文芸春秋刊 366ページ
定価:本体1,619円+税
ISBN:4-16-356990-1

高橋尚子、山口衛里、市橋有里、小幡佳代子、弘山晴美、有森裕子……
1年余りをかけた徹底取材。国内外40カ所、約4万kmを並走して初めて書きえた同時進行ドキュメント。

 ●文藝春秋HPの
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 2000年を締めくくったシドニー五輪でもっとも注目を浴びた競技のひとつ、女子マラソンについて「Number」で連載を続け、シドニーから帰国後に取材をし、膨大なインタビューテープを再度おこし、さらにスタジアムに書いたその時々のレポートをまとめた「シドニーへ 彼女たちの42.195km」が1月10日、文芸春秋から発売されます。2000年の様々なアンケートでも女子マラソン、とりわけ高橋選手の金メダル「スポーツ感動のシーン」のトップに立つほど注目を浴びました。しかしこの本は、シドニーだけではなくて、そこに至るまでの1年間を追ったドキュメントです。マラソンという競技の持つ魅力と残酷さ、高橋、山口、市橋、小幡、弘山、有森ら世界的なランナーでもある彼女たちの競技者としての崇高さ、女性としての魅力、同世代を生きる力強さ、こうしたものに少しでも近いところで原稿を書こうとした結果、国内外で40ケ所、海外を含めると4万キロもの行程で取材をすることになってしまったようです。
 本の最後に、リタイアしないよう私を引っ張ってくれた編集者の高木君と、後ろから押し続けてくれたカメラマンの山本君と出張した日程が書き込まれています。見開きに入らないのでかなり控え目にしたようですが、もう一度やれといわれればギブアップしそうな日程です。
 それでも、彼女たちが自分たちの脚だけでシドニーまで積み重ねた練習での1万キロ、あるいはそれ以上を走りきったことを思うとまるでお遊びのようなものかもしれません。
 歴史的な結末と、もしかするとそれ以上に重い1年となった女子マラソン2000年を、時間がありましたらどうぞ読んでみてください。

 前書きから少し引用します。

 思い出すのは不思議なことに、彼女たちが颯爽と走る姿よりも立ち止まった時の姿のほうである。
 連載の中間点少し手前となった2000年3月、選考会の大阪国際女子マラソンで2時間22分56秒をマークしながら代表に漏れた弘山晴美(資生堂)の夫でコーチの勉氏から、こんな便りが届いた。
「ここボルダー(米国)に入ってから、様々な意味で疲れが一気に出て来たようです。晴美が昨日、もう走れない、走りたくないと口にしました。夫婦とはいえ、軽々しくまた走ろうと言うことは彼女のがんばりを一番良く知っているからこそできません。黙って見守ることしかできないことがとても辛い。彼女が心の底から走りたい、と口にするまで待とうと思います」
 連載は当初、一体誰が代表になるのか、誰がもっとも速く走れるのか、そして、3人の代表が決定してからは誰が金メダルを獲得できるのかといった興味に答えることを目的とした。しかし、このボルダーからの便りを読んだとき、これが彼らの職業であることは当然としても、「走る」とは一体どういう行為なのかを深く考えなくてはならなかった。なぜ42.195kmを、もっと言えば、練習ではこの何百倍もの距離を走ろうとするのか、誰もが抱くであろうこの素朴な疑問について考えるスタート地点ともなった。

スポーツライター 増島みどり