2月18日

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陸上

第36回千葉国際クロスカントリー大会
男子8キロ、女子6キロほか

兼世界クロスカントリー選手権代表派遣選考会
(千葉・昭和の森)

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増島みどり著
ゴールキーパー論
2月20日発売
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 女子長距離の第一人者、弘山晴美(資生堂)が4月22日のロンドンマラソンに向けて本格的に始動、女子6キロの部に出場して19分42秒と、トップとわずか16秒差の6位につけた。弘山はシドニー五輪1万メートルに出場後、市民レースを中心に実業団駅伝などを走ったが、単独での本格的な復帰走にクロスカントリーを選んで、あと2か月となったマラソンへ練習をスタートさせた。現在は貧血気味というマイナス要因を抱えながらも、トップと僅差にあわせてくるあたりは、さすがにトラック3種目の日本記録とマラソンで2時間22分56秒の歴代3位記録を持つトップランナーで、格を見せた。
 同じ部門の優勝はルーマニアのオルテアヌで19分26秒、日本女性のトップは藤永佳子(筑波大)が19分28秒と最後まで粘って2位となった。


「歳を考える」

 最後まで出場か欠場か悩んでいたという苦手のクロスカントリーを走り終えて、弘山はほっとした表情をのぞかせた。今年に入ってから練習でも不調が続いて検査を受けたところ貧血が判明。合宿中だったこともあり、遠征先でレバーやひじきといった鉄分を多く含む食品を調理してもらうなどしながら何とか回復してきたばかりだけに、不安もことさらだったようだ。
 約4年ぶりとなったクロカンだが、スタートから先頭グループを終始視野に入れて走り、ゴールでもトップとはわずかに16秒差の6位。練習状態から考えて思った以上の結果に、勉コーチも「まずまずじゃなくて、上出来です。これで心身ともにピリッとしてくれると思います」と、手ごたえを強調した。

 レース後、弘山が笑いながら打ち明けた。
「実は、またも引退宣言をしたんです。もう走れない、と。でも、今日でやっと吹っ切れた感じがします」
 一昨年からマラソンへの移行、代表に挑戦して選考会で好記録をマークしながら落選したこと、また昨年のシドニー五輪で1万メートルに出場するまで、とここ2年ほどの蓄積疲労は並大抵のものではない。
 休みは重要だが、一方では休めば、虚脱感や倦怠感にも襲われてしまう。貧血に見舞われた要因には、おそらくそんなメンタルでの影響もあるのではないか。

 同時にこのところ、土佐礼子、渋井陽子と(ともに三井海上)若手の生きのいいランナーたちが次々に活躍している。焦らないわけがない。しかも自分よりもひと回りも年齢が違う若い選手たちの可能性をまぶしく感じるのも当然だ。
「自分の歳を考えてしまって……。でも自分と人を比べるのではなくて、できるだけ自分の欠点をなくして理想に近ずければいいんではないかと思うようになった」
 32歳のベテランにとってこれが何度目の「引退宣言」かは別としても、超一流といわれているランナーたちが、いかに難しいバランス感覚の中で、とてつもない壁に挑んでいるのか、弘山の発言はそれを象徴している。強さゆえにデリケートで、デリケートだからこそ強い。

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 この日、高橋尚子(積水化学)も、精神的な安定と肉体のバランスが取れない日々を乗り越えて、青梅マラソンで日本最高を更新(30キロ、1時間41分57秒)して優勝を果たした。五輪から5か月が経過してようやく自分の走りを取り戻したことのほうが、記録以上に重要だったに違いない。一度は断念した春のマラソンへの可能性も、これで俄然出てきたはずだ。
 2人で4つの日本最高を保持する日本女子トップランナーが同じ日に、同じように一歩目を次のレースに踏み出したことは興味深い偶然だった。

 弘山はクロカンをきっかけに「覚悟を決めて」(勉氏)距離走を徹底して脚を作り、その上にスピードを乗せていく。25日には淡路島でハーフ、奄美大島合宿を今月下旬から行い、3月11日には京都ハーフに出場して、雪の具合を見てボルダーに行く予定だという。4月8日の10マイル走(ワシントン)でロンドンの勝算が立ちそうである。ロンドンは、ロルーペ(ケニア)、シモン(ルーマニア)ら強豪が揃う。これまでロンドンといってもぼやけていた目標も定まった。
 優勝に向け、練習への覚悟を決める。並みの覚悟ではない。そうして挑む60日に及ぶマラソン練習が、この日始まった。

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