2月15日

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2002年W杯チケット、インターネット販売申し込み延期についての会見
(東京・有楽町)

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 受け付け申し込み開始の15日直前になって、昨年10月に続いてまたも「ドタキャン」となったインターネットでの販売申し込みについて、日本組織委員会が会見を行い、現在把握している情報の中で事情説明をした。会見を行った遠藤事務総長は「この件でFIFAには、日韓組織委員会側には責任がないと明言されている。あくまでもサーバーのクラッシュというハード面でのトラブル」と、原因と責任は、今回のチケッティングシステムを扱っているホスティングサービスの問題である点を強調。この日の記者会見には、情報通信部のコンサルタントでもある佐佐将行氏が同席し、専門的な質問に答えるなど、組織委員会としてできるだけ詳細を明らかにするような姿勢は見せた。
 1月から、ソフトウエアを援助するなど現地に専門家を派遣してきた一方で、ハードに関しては、担当する社への直接コンタクトができなかったために、相手の言い分を「信じるしかなかった」と、組織委員会としても苦しい事情にあった点を明らかにした。すでに、このシステム開発を行なっていたISMMiからは謝罪があったことも明らかにした。
 また今後の復旧について遠藤総長は「2、3日中には復旧できると報告を受けており、あす(16日)には日本組織委員会が、あさってにはISL(FIFAワールドカップに関するチケットの元締めとなる)が最終確認するとの報告を受けている。保証はないが、近々に販売もスタートできるはずで、組織委員会のHPでも随時告知してみなさんに情報を開示したい」と説明したが、そもそもFIFAを通じて収集された情報そのものが少なく、また不明な点も多いために、事態の把握と今後の復旧では混乱が起きることは避けられない様子である。

解説
 今回のインターネット販売延期の理由は、ハードウエア面の不整備、準備不足と見通しの極めて甘いプランニングにあった。 
 日本組織委員会が収集した情報によれば、インターネット販売は、ISLの子会社である「ISMMi」が行なってきた。この会社から、ソフトでの委託を受けていたのがハンブルグに本社がある「カーベル・ニュー・メディア=Kabel New Media」で、ここに対しては日本も1月と2月に2度、日本語のシステム構築に向けての援助を行なうなどしており、稼動は問題ないというレベルまで完了していた。問題は、インターネット史上、最高のアクセスとなることが間違いない「いわば、ギネスに挑戦、という(緊迫した)状況」とされるハード、ホスティングシステムにある。こちらのハード面での委託を受けていたのは、アメリカトップファイブに入る大手の「PSInet」だった。
 常識的に、まず2箇所での対応可能なサーバー拠点を設ける必要があり、今回はロスをメインに、アムステルダムをバックアップにして作業を進めてきた。しかしロスの不備が是正できないと途中で判断したために、アムステルダムのサブに「体力」をつけて乗り切ろうとしたが、これが悲劇の始まりでこれもクラッシュ。最後に、元締めのISMMiが選択しなくてはならない最終のリスク回避システムになるはずだったバックアップとしていた会社(今後の復旧はこの会社が=名前など未発表)の対応も、15日にまで間に合わなかった。
 ライターの立場としてもし簡単にたとえるならば、まずパソコンは2台持っているのが常識であり、1台目が壊れた、よし2台目にシステムを移行して使おう、としたら2台目もあっけなく壊れてパニック。こうなったら、と最終段階の手書き原稿に挑戦したものの、ファックスがなくて立ち往生、さすがに原稿の分量は多くて「電話送り」(といって、電話で原稿を読みながら、会社の中で文字をとってもらう原始的手段)では、とても不可能で締め切りの延長、といった様子である。
 極めてテクニカルの原因を求めるならばこうした問題であり、このほかに人的な、例えば組織委員会のリスク回避能力、つまりあやふやな相手を信頼しすべてを任せていた点は、今後もこうした問題が起きることを考えると、総長の言うような責任問題などという大それた話や良し悪しの判断よりも、単純に不安が残る。コンサルタントの佐佐氏のコメントは極めてユーモアに満ちて、しかも象徴的だった。
「私たちからは、ハード面を委託されていたPSInetへの直接コンタクトができなかった(する手段を与えられていない)。そのためにFIFAを通じて連絡をすると、FIFAも先方の連絡をそのままこちらに伝えるしかなかったのだろう。返事は常に、大丈夫、やってます、信じてくれ、間に合います、の4拍子揃ったものだった。乗り込んでいって見せろ、というものではなく、ここまで最終段階になったことも仕方がなかった」
 この問題に透けて見えるのは、人類史上最高のアクセスが間違いないインターネットという新しい武器を使いながらも、それに翻弄され、顔の見えない相手と確認の連絡さえ取り合うことのできない、「コミニーケーション不足」である。世界をつなぐはずの「コミニケーション手段」の根底にあるパラドックスである。

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