【11月7日(土)】


 英国映画祭の『妖精写真』こと「フォトグラフィング・フェアリーズ」を見にいくつもりだったが、どうせ来年公開だし、仕事が押してるのでパスしてホラー大賞の原稿を読みつづける。
 きのう夜中に幻冬舎のHから電話があり、松岡佳祐『水の通う回路』の新聞広告用のコメントがほしいとか言われて、ゲーム業界モノだし、ちょっと気になってたので息抜きに通読。ポケモン騒動のゲーム業界版なんだけど、ディテールにリアリティがなさすぎでしょう。スクウェアより大きな巨大ゲーム企業(ハードも発売してる)の社長みずから捜査に乗り出すあたりは服部真澄調……というか、ハリウッド映画的。
「リアリティを犠牲にして話を派手にする」というハリウッド発(たぶん)の病気は日本のエンターテインメントにも蔓延してるわけですが、映像ならともかく、小説で話だけ派手でもあんまりうれしくないと思うけどなあ。
 まあ『水の通う回路』はオチが笑えたので許してもいい。大人の被害者が少なかったのはべつの理由だと思うけどさ。あと、おたくの子供にも被害はなかったはず(だってふつう保存するもん)。

 第一土曜日なので馬場に出てユタ。主目的は、林哲矢既報のとおり、月曜日の兄弟対決ネタ仕込み。
 レンズの子ら、蒼竜伝、アンバーの九王子はたぶん同傾向なので、どれかひとつだろうな。『悪を呼ぶ少年』のナイルズとホランドも捨てがたいが、もはや話を全然覚えていない。『馬の首』の四兄弟は「プライベート・ライアン」の四兄弟に勝つってネタは悪くないかも。しかしだんだん『シナの五にんきょうだい』が強い気がしてきた。



【11月8日(日)】


 幻冬舎Hの電話で起きる。同姓のH氏と勘ちがいして、ずっと敬語(というか丁寧語)でしゃべってたんだけど、途中でどうも話がおかしいと思ったら、元新潮社のHだった。なんだ、損した。
 そういえばこないだも「T内さんから電話」と言われて、ずっと元早川のT内だと思っていいかげんにしゃべってたら、じつはアスミックのT内氏だと判明して途中で驚いたことが(笑)。その節は失礼しました。
 せっかく読んでしまったので、『水の通う回路』についてあたりさわりのないコメントを50字ほど書いて送り、あとはひたすらホラー大賞の原稿と書評用の本を読みつづける。

 サンフランシスコから帰国中の斉藤友子のところに国樹由香嬢が遊びにきて、駅前でお好み焼き食ってるというので、最後のほうに合流。勘定はトーレン・スミス社長持ち。
 食後、カラオケを一時間だけつきあってから、ひとりMAG TIMEに行って原稿。
 小林泰三の第三短編集、『肉食屋敷』の書評を書く(『本の旅人』用)。表題作は、SFマガジン怪獣特集の「脈打つ壁」の改題版。あとは『屍者の行進』に載った「ジャンク」と、メフィストに載った「獣の記憶」と、小説NONの「妻への三通の手紙」。
 発表媒体をいかに強く意識してるかがよくわかる作品集。NONのやつ以外は初出時に読んでるんですが、やっぱり「ジャンク」が好きかな。



【11月9日(月)】


 朝までホラー大賞の原稿を読みつづけ、ワイドショウを見ながら評価表を書く。さいとうよしこが有線と契約したので、BGMはA26チャンネル。日本の有線は端末に曲名が表示されないのが難点だけど、http://www.usen.ne.jp/usen440/でチェックできるんで、「このアニソンはなに?」とかの疑問もすぐ解決できる。

 原稿の山を箱に詰め直し、ヤマト運輸に集荷を頼んで外出。マクドナルドで昼飯食べてから、書泉西葛西で『シナの五にんきょうだい』の新訳版を購入。さらに薬局でエスタロンモカの錠剤を仕入れて眠けを覚まし、『レンズの子ら』を読み返しつつ、笹塚に向かう。《本の雑誌》編集部に向かう途中、どこか喫茶店に寄って『本の旅人』の原稿仕上げようと思ってたら道に迷い、中野通りのデニーズに着いてしまった。このへんの道はよくわかりません。

 とりあえず書評の原稿を送って、きれいな体になってから、4時に本の雑誌編集部到着。今日は恒例の対決座談会、《最強の兄弟》決定戦。匿名ですが、メンバーはいつものとおり、北上次郎、菊池仁、茶木則雄に大森。
 最終的にオレがエントリしたのは、キニスン家五人兄妹(『レンズの子ら』)、ウィッギン三兄妹(『エンダーのゲーム』)、戦争婆さんの息子四人(『馬の首風雲録』)と『シナの五にんきょうだい』。
 ほんとは『馬の首』のかわりに『ぐりとぐら』が入ってたんですが、「絵本2冊はダメ」とか言われたのでしょうがない。
 伝言板でご協力くださった三四郎様、♪きむらかずしさま、いしかわさま、堺三保さま、村山様、宮崎恵彦様、冬樹蛉さま、妹尾ゆふ子さま、田中啓文さま、浅暮三文さま、タニグチリウイチさま、野尻抱介さま、三村美衣さま、えんじさま、須藤玲司さま、倉阪鬼一郎さま、諸星友郎さま、ありがとうございました。
 おかげさまで、前々回の最強の恋愛対決の準優勝、前回の貧乏対決の対決の優勝につづき、今回も『シナの五にんきょうだい』でめでたく優勝。
 けっきょくこの座談会はいかに面白くディテールを語れるか(それも優勝のためにはネタを四回に分けて語らないといけない)の勝負なので、予習がたいせつ。茶木さんとか北上さんとか、エントリした作品の内容全然覚えてないんだもんな。

 しかし、この日いちばん驚いたのは試合開始前の雑談。伝言板にも書いたけど、面白すぎるので再録する。
茶木「今日は大森さんのひとり勝ちだね。ミステリリーグは兄弟全 然いないもの」
大森「そんなことないでしょ。ホームズ兄弟とかいるじゃん」
茶木「え? ホームズに兄弟いたっけ?」
北上「……知らないなあ」
大森「ほら、マイクロフトがいるじゃないですか」
茶木・北上「だれ、それ?」
 この人たちっていったい……。

 ちなみに伝言板を読んだミステリおたくの間では話題騒然だったらしい(笑)。
 あんまり驚いたので、Y田N子の後輩編集者のおねえちゃんM村嬢をつかまえて、
「ねえねえ、ホームズにお兄ちゃんがいるの知ってるよね」とたずねたら、
「ええ、マイクロフトでしょ」と即答。それがふつうだってば。

 試合終了後、週刊現代の書評がいよいよテンパっているらしい茶木さん(エスタロンモカ常用)はとっとと帰宅。北上・菊池両氏と新宿にくりだして飲む。北上さんとの話題は『密室・殺人』。
「大森くんさあ、きみこないだ『密室・殺人』のこと書いてたじゃない。あれよくわかんないんだけどさ、どういうことなの?」
「あ、読んだんですか、『密室・殺人』?」
「読んだよ。なんかふつうの本格だと思ったけど。違うの?」
「あの探偵がほんとは×××のわかりました?」
「え? なに、どういうこと? ×××なの?」
「だって最後に××××じゃないですか。ぼくはただの××××だと思ってたんだけど、じつは(以下30字抹消)」
「……そうだったのかあ。いや、全然わかんなかったよ。オレ、ああいうのよくわかんなくてさ。へんだなあと思いながら読むんだけど、種明かしがないから、ああ、そういうもんなんだと思って」
「じゃあ、東野圭吾の『どちらかが彼女を殺した』って読みました?」
「ああ、読んだよ。最後がリドル・ストーリーになってるやつだろ」
「……。いや、あれはリドル・ストーリーじゃなくてですね(以下ネタバレ説明)」
「そうだったのか。原稿でリドル・ストーリーって書かなくてほんとによかった。あぶなかったなあ。『秘密』の書評で、「『どちらかが彼女を殺した』もリドル・ストーリーだったが……」って書きかけたんだよ」
 書いていれば我孫子さんが喜んだかも(笑)。

 2時間ほど飲んだあと、麻雀にいこうとしつこく誘われるが、さすがに寝てないので固辞して帰宅。爆睡。



【11月10日(火)】


 ニーヴン&パーネル&バーンズ『アヴァロンの戦塵』上下(中原尚哉訳/創元SF文庫六八〇円・七二〇円)、K・W・ジーター『垂直世界の戦士』(冬川亘訳/ハヤカワ文庫SF七〇〇円)、ナンシー・コリンズ『ブラック・ローズ』(幹遙子訳/ハヤカワ文庫FT六八〇円)を読み終えて、《本の雑誌》の書評に着手。
 といってもメインは『WATCHMEN』なので、小説のほうは刺身のツマ状態。イチ押し作品があると楽でいいなあ。



【11月11日(水)】


《Horror Wave》2号用の、リチャード・レイモンの翻訳("Good, Secret Place")にようやく着手。今週中がぎりぎりの締切らしいけど、まあ70枚なので三日もあればなんとか。
 しかし先週一週間映画祭で遊んだツケがまわってきた感じ。『レフトハンド』の解説もあるし、なんかホラーの仕事ばっかりだな。



【11月12日(木)】


 夕方までレイモンの翻訳やってから、帝国ホテルの集英社文芸三賞の授賞パーティ。柴田錬三郎賞の受賞作が貘さんの『神々の山嶺』なので、高千穂遙、田中光二、豊田有恒、山田正紀、永井豪、森下一仁……とSF関係者多数。まるでSF大賞みたいな感じ。
 SF大賞といえば、すでに候補作が発表されてますが、『あ・じゃ・ぱん!』『屍鬼』『BRAIN VALLEY』『ループ』『光の帝国』《異形コレクション》というラインナップなんで、これをまとめて読む審査員の人はさぞたいへんでしょう。
 永井豪氏に話を聞いたら、「『あ・じゃ・ぱん!』とか面白いけど、長いよねえ。あれで半分だったらなあ……」とお疲れのご様子。そりゃそうだよな。候補作が公表されたんで、各社編集者のあいだでもけっこう話題になってる模様。ほかのこう長いと『光の帝国』が有利なんじゃないかとオレは勝手に思ってますが、どうなることか。
 高千穂さんとは「ガンダムはSFじゃない」問題と堺三保問題(なんかメールで意見交換(笑)があったらしい)と最近のアニメについて少々。
「おれは好き嫌いでモノを言ったことは一度もない」とか、「ガンダムがSFじゃないのは打ち合わせに一回出てみりゃだれにでもわかるよ。だれもSFのことなんか考えてないんだから」とか。今のアニメでそれなりに評価してるのは(理由はまったく違うけど)「カードキャプターさくら」と「マスター・キートン」だとか。
 ただしこれはいいかげんな記憶にもとづくものなので、くれぐれも高千穂遙発言として引用しないようにね。

 二次会は銀座七丁目のクラブを借り切って、獏さんの受賞祝いパーティ。柴野拓美、北方謙三、萩尾望都がスピーチ、中沢新一が来てたりするあたりが貘さんですね。
 貘団の古い人々とか、大宮信光、新戸雅章とか、佐藤嗣麻子、いしかわじゅん、藤臣柊子とか、大沢在昌、宮部みゆき、馳星周、花村萬月とか、いろんなジャンルの人が入り乱れてわけがわからない。
 伝言板を読んだ日下三蔵との会話。
「いやあ、北上さんのホームズの話は驚きましたよ」
「マイクロフト知らないんだから、クイーン警視も知らないんじゃないかな」
「いくらなんでもそれはないでしょう」
「本人がいるからたしかめてこよう」

 ってことで、奥の席にいた北上次郎にさっそく取材。
「ねえねえ北上さん。クイーンにお父さんがいるの知ってます?」
「そりゃ人間なんだから父親ぐらいいるだろう」
「そうじゃなくて作中人物のエラリー・クイーンの父親」
「え? なに? 有名なひとなの?」
 クイーン警視も意外と無名らしい。

 2次会が終わったのは11時半。「ひさしぶりだからカラオケ行きましょう」という宮部様ご一行にひっぱられ、なぜか筋向かいの《月のしずく》へ。いわゆる文壇バーってやつですね。
 大沢在昌、鳴海章、花村萬月の各氏と各社編集者でほぼ満席状態のところへ合流し、奥のボックスへ。ここにアーサー駄二郎……じゃなくて浅田次郎先生が来れば、まんま《噂の真相》だね……とか思いつつ、Y田N子嬢の旦那の話を聞く。伊丹組の助監督してたとかそういう話は聞いてたけど、そうですか、J Movieで一本撮ってる人だったのね。という話から仙頭プロデューサーの噂話にはじまり、なぜかこの20年の日本映画のネタがえんえんとつづく。Y田嬢妊娠中に「犬、走る」のロケでたいへんだった話とか。

 そのうちなぜか加藤雅也登場。大沢ボスの知り合いらしい。なんか出てたんだっけ。実物もいい男じゃん。と思ったが、さいとうよしこは加藤雅也の顔を知らず、「なんか芸能人だとは思ったけど」とか言ってました。もったいない。ってちがうか。

 その後、人生の真実をめぐる、そのまま短編小説のネタになりそうな「ちょっといい話」を大沢ボスが披露したりとかいろいろあったんだけど、「インターネットで書かないでよ」と鋭くクギを刺されたので詳細は書けない。いい話だと思うんだけどなあ。

 しかしうっかり《月のしずく》ネタを日記に書いたりすると、《噂の真相》に引用されちゃったりする可能性があることはすでに実証されているので、気をつかったほうがいいのは事実かも。もう遅いか。

 午前2時半ごろお開きになり、ぞろぞろ退散。すっかり忘れてたけどいったいだれの勘定で飲んだことになったんだろう。いや、酒は飲んでないんですが。



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