【7月1日(火)】

 ゲームウォーカーとインターネット@アスキーの原稿。
 講談社ノベルスの新刊が届いたので、未読の二冊を消化。森博嗣の書き下ろし短編集『まどろみ消去』は森さんらしいスタイリッシュな作品集。「Love is the ミステリィ」とか、そんな感じですね。小説を読むときの暗黙の了解事項っていうか、先入観をネタにしたものもあって、どこでどうひっかかったのかを検証すると自分の保守性がよくわかったり(笑)。
 我孫子武丸『ディプロトドンティア・マクロプス』は、カバーまわりで本題を内緒にしてあるので、迂闊に紹介できない。個人的にはネタ割ってもよかったんじゃないかと思いますが。これまたじつに我孫子さんらしいというか、笑っちゃいますねやっぱり。いままでのとは全然違うけど。しかし歩いたり走ったりはやっぱり無理だと思うな、あれ。


【7月2日(水)】

 5時から本の雑誌編集部で、最強カップル決定戦匿名座談会。大森がエントリしたのは、『夏への扉』のダニエルとリッキィ、『火星転移』のキャシーアとチャールズ、『東の海神 西の滄海』の尚隆と六太、そして飛び道具に「十億トンの恋」(藤本泉の短編)から東京と東京湾(笑)。前に出た「最強の悪役決定戦」で惨敗した反省をこめ、万全のおやぢ対策を練った甲斐あって今回は健闘。東京×東京湾が決勝に進出しました。優勝は逃したけど、あれだけウケたからよしとしよう。
 終わったあとは、北上次郎、茶木則雄、菊池仁の三氏と新宿に出て梟門へ。二時間ばかり飲んで、麻雀に去る人々と別れて西葛西にもどり、SFインターセクションの西澤インタビュー原稿を仕上げる。


【7月3日(木)】

 酒鬼薔薇 on Internetってネタでアスキーの連載コラムを書こうとしたら、すみませんかんべんしてくださいと言われてしまったので、新聞報道だけをもとにした原稿に変更。「だれでもどんな情報でも発信できる」っていうインターネットのメディア特性は、マイナスの情報に関してのみ蓋をするのは無理でしょうね、というような話。
 いや、それにしても酒鬼薔薇関連の伝言板がjpドメインからどんどん消えていく姿はすさまじい。インターネット上では、規制メディアとの対決姿勢を明確にする発言が目立ってますが、プロバイダが圧力に弱いのは当然だよねえ。表現の自由って言葉はなじまないと思いますが、ここはやっぱり筒井康隆にコメントを求めるべきでは。

 Cookieさんの名誉毀損裁判で、Lee the Shogun氏もろともNIFTY-Serveが敗訴した一件は、たぶんボディブローのようにインターネット・プロバイダにも波及している。自社サーバに置かれたページ上の発言について裁判が起こされた場合、プロバイダだって責任を問われる可能性が高いわけですからね。「当社のホームページはなんでもありです」を売り物にするプロバイダが国内に出現しないかぎり、リスキーなデータは海外に出ていくことになるでしょう。まあ物理的にデータがどこにあっても関係ないんだけど。
 しかし14歳の男の子の名前(とされているもの)が全国的にこれだけ大きなタブーになってる状況ってのもへんだよね。既成メディア側でもインターネット・ユーザの調査能力を過大評価してるところがあって、産経新聞他の批判的な報道が、酒鬼薔薇関連掲示板の実名情報に(結果的に)お墨つきを与えてしまったという椿事はその象徴。
 神戸市が市長名義でベッコアメに抗議文を送り、そこにはないページの削除を求めたという爆笑の事件もありましたが、これはまるで一時代前みたいな話ですね。

 いままでの実績からして新潮社はぜったい実名報道かなんかするだろうなと思ってたらFOCUSに顔写真を掲載。紙媒体でこれなんだから、インターネットにあの程度の情報が流れるのは当然――だけど、プロバイダ側としては事情が違う。新潮社は確信犯、プロバイダは載せたくて載せてるわけじゃないもんな。あとあとのことを考えれば、ユーザページを自社サーバに保管する行為も「出版」ととりあえず見なしておくしかなくて、だとすれば削除はしょうがない。朝日新聞のアルバイトが会社のコピー機でフォーカスを複写して、社名入りの封筒であちこちに送ったら、そりゃ朝日の人は止めるでしょ。
 ……と頭では納得しても、次々に消滅していくページを見送ってるとなあ。「ズーム・イン・朝」のカメラの前に写真と実名入りのプラカード持って飛び出したくなる人の気持ちもちょっとはわかるってもんです。だからほっとけばいいのにさ。

 ついでだから、今回の事件でいちばん腹が立ってることふたつ。
 その1。ワイドショーで『Yの悲劇』のネタを割るんじゃない!(笑)
 その2。新聞でもTVでも頻出しますが、「少年は、『13日の金曜日』の殺人鬼ジェイソンに異常な関心を持ち……」ってやつ。
 だから『13金』の殺人鬼はジェイソンじゃないんだってば!
 って『13金』のネタ割っちゃってますが(笑)、犯人はお母さんなんですね。一作目はサイコサスペンスだからさ。ウェス・クレイヴンの『スクリーマーズ』さえ見てればみんなまちがえずにすんだのに(殺人鬼がホラー映画クイズを出すんだけど、二つ目かなんかがこのひっかけ問題――ってまたネタ割っちゃってすみません)――と思うと、『スクリーマーズ』はこの騒ぎで公開延期になってしまって見られないという(笑) 自業自得ってやつですか。ってだれの。

 容疑者逮捕の当日は、「14歳」ってことでセンセーションだったのに、エヴァとの関連を指摘する発言がマスメディアに出ないのもわりと不思議。だれでも最初にシンジとカヲルを思い出すだろうになあ。「DEATH」が引き金をひいたとか主張する考えの足りない人はたくさんいそうな気がするんですが(逮捕前にはいたような……)。
 でも「話として面白い」だけの話を本気にする人も大勢いるみたいだから、それはそれでいいことかも。符牒が合いすぎだしね。


【7月4日(金)】

『NIGHT HEAD DEEP FOREST』の解説を書くためにTV版の一部と劇場版を見直し、ノベライズの一部と徳間のナイトヘッド本を再読。
 角川ホラー文庫で出る村田基の短編集のゲラを読み、『恐怖の日常』と『愛の衝撃』を再読。日本SFの代表作と言われてる短編の半分は、今ならホラーかもしれないという気がちょっとする。「おーい、出てこい」とか「ボッコちゃん」とか「くだんの母」とか「鍵」とか「骨」とか「夢の底から来た男」とか。第一世代でホラー書いてないのは光瀬龍ぐらいかも。


【7月5日(土)】

 小林泰三『人獣細工』を読む。書き下ろし短編が三つ。表題作は臓器移植ネタの近未来ホラー――というか、言葉の正しい意味で鬼畜な話。すぐに割れてしまうオチでひっぱるのが惜しいけど、みごと期待に応えてますね。しかし個人的には巻末の中編「本」がベスト。「不幸を呼ぶ本」というネタはさんざん使われてるけど(『リング』もそのバリエーションだし、川又千秋『幻詩狩り』とか、笠井潔『梟の大いなる黄昏』とか)、こういうひねりかたは初めてかも。問題の「本」の奇天烈さは出色。

 4時、ユタ@高田馬場でウェザーライトのブースタードラフト。三村美衣と、ヨーロッパ旅行から帰還した柳下毅一郎が参加。柳下はコンストラクションでステイシスデッキをつくっている。わたしは現在のレギュレーションに合わせたタイプIIのデッキがないっす。次につくるのはミラージュ/ヴィジョンズかも。


【7月6日(日)】

『DEEP FOREST』と村田基短編集の解説原稿を仕上げて送り、ほっとひと息。メフィスト座談会のテープ起こし原稿とデータが郵便で届いたので、構成作業に着手。ぜんぶで100枚あるからたいへんだ。
 仕事に疲れると酒鬼薔薇サイトめぐり。どんどん消えてるのでキャッシュ重要。


【7月7日(月)】

 今日はお誕生日ですね。っておれのじゃないけど。これから七夕のたびに思い出すんだろうなあ。とかゆってて、七夕だということはずっと忘れていたおれ(笑)。馬鹿者だね。  ホラー大賞の授賞パーティなので、夕方東京會舘に出かけて、開宴まで資生堂・花椿編集部の女性とコラムの打ち合わせ。花椿っていうと、むかしギブスンの原稿載せた雑誌ですね――ってそういうことだけ覚えてるのがSF者のしるしだ。
 よく聞いてなかったけど、審査員代表の挨拶では、景山民夫氏が神戸の事件に触れて、スプラッタは低級だがホラーは文学だ、というような意味のことを言ったらしい。うーん、昔はそういう人じゃなかったと思ったけどなあ。
 ふと気がつくと会場の片隅にホラー大賞オリジナル・フレームのプリクラマシンが。3秒考えてまっすぐ瀬名秀明のところへ行って、乾杯が終わるなり、「さあ、プリクラとりましょう」とツーショット撮影(笑)。鈴木光司とも撮ったからこれで完璧だな。と思ったらC嬢はきっちり、荒俣さんとのツーショットを抑えていたのだった。侮れん……。
 瀬名さんと言えば、第二作は残り90枚。トータル1500枚の超大作らしいっす。11月ぐらいには出るらしい。鈴木さんの『ループ』は年内も危ない気配。あ、馳星周氏の次のは9月刊行だそうです。

 一昨年の短編賞の小林泰三さんとはこのパーティが初対面。『フロリクス8から来た友人』が好きだという奇特な人でした(笑)。作品のわりに明るい性格みたいでよかったよかった。ほかにも完成済の短編はたくさんあり、これからSFマガジンにも作品が載るみたいなので楽しみ。

 パーティ終了後、ミステリな人たちと東京會舘ティールーム→帝国ホテル17Fレインボーラウンジ→銀座のカラオケボックスと移動。綾辻、我孫子、二階堂、貫井、加納、竹本、井上雅彦……の作家陣に、宇山さん、C嬢ほか。最後に残ったのはだいたいいつもの人たちでした。


【7月8日(火)】

 3時ごろ起きてだらだら仕事してたらなぜか急に睡魔に襲われ、おかしいと思いながら寝床で本読んでたら10時ごろほんとに寝てしまいました。こんな短い一日はひさしぶりかも(笑)

 とうとうtripod.comの酒鬼薔薇サイトも消えはじめた模様。と思ったら、発端ページは韓国に移動して再開。


【7月9日(水)】

 なぜか午前五時に目が覚めてジョナサンで仕事。週刊アスキーの書評(ホラー大賞がらみ)とメフィストの座談会構成。
 場所を変えようと外に出たらあんまり暑いので、予定を変更して江戸川区プールガーデン。公営の屋外プールなんて15年ぶりくらいかも。夏休み前の午前中で人も少なく快適。プールは広いし、流れるプールにウォータースライダーまであるもんなあ。さすが江戸川区。450円のラーメンもまずまずの味。ほとんど泳がず、日向で『リトル、ビッグ』を読む。

 ミストラルで仕事してから家に帰って原稿を送り、「ウテナ」を生で見る。今週はあんまり進展なし。来週の牛に期待しよう(笑)

 原稿送るついでにチェックしたら、昨日韓国サイトで再開したばかりのページが消えている。ってことは、アレはひと晩しか公開されていなかったのか。うーん、もったいない。ってなにが(笑)。
 フジテレビで紹介されたり、東スポの朝刊に載ったりしたらしい。数少ない生き残り伝言板には、有名サイト管理者のお別れメッセージが上がってたり。たがいにリスペクトしあったり、エール交換したりしてるのがいい感じ。これで「表現の自由」とか言わなきゃいいのになあ。
 それにしても、インターネット上の検閲は不可能じゃないかと思ってたけど、今回の一件を見てるかぎり、本気になればある程度まで情報流通が制限できるかも。図書館でFOCUSの閲覧に制限をつけるように、検索サイトでも特定ページがヒットしないような制限をつけることは可能だろうし。しかしこれが前例になってユーザーページ削除が一般化すると、あまり面白くない状況が生まれるかも。
 だったらいっそ、消えちゃったページをここでミラーしましょう――という発想も当然出てくるわけだが、それはやっぱり殺人研究家の人の役目だよな。柳下ページに期待(笑)。でもそれじゃ結局ltokyo.comに迷惑がかかるから、これからは自前でサーバを持つことの重要性が高まるでしょう。新潮社だってaix.comに間借りしてなきゃ、インターネット上で写真を公開できたわけだしさ。

 あ、ちなみに、わたし個人の立場としては、実名・顔写真の公開には反対です。が、べつにそれが正義だとは思わないよってことで。

 午後9時半、綾辻さんに呼ばれてグレインズ@南青山。ファミ通編集部のN嬢、いとうせいこう氏、香山リカ嬢と5人で飲みつつ酒鬼薔薇話とスキヤキ話。
 午前零時閉店で店を出てから外苑前のボックス入ってBeMAX2時間。香山リカ嬢と「ダイナマイト」「STEADY」をデュエットしたのが主な自慢……じゃなくて、やっぱりアレですね、ひと晩で消滅しちゃった「檄! 帝国華撃団」の替え歌。セリフの部分がハマるハマる。やっぱり傑作だね。ってなんの歌かはとてもここには書けません。いとうさんのカラオケはあいかわらず芸がある。時間短いと思うとすぐ飛び道具が出るしなあ。さすがっす。
 カラオケ後、綾辻さんと表参道のロイホでお茶飲んでタクシー帰宅。


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