「血清反応陰性脊椎関節炎と線維筋痛症」  
  
 


最近、原因不明の疼痛疾患、線維筋痛症という病気が注目されています。
いわゆる血清反応陰性脊椎炎と混同されて考えられているケースもあり、双方の共通点や相違点を考えて行くことにより、これからの治療の展望が見えてくると考えます。


(線維筋痛症、診断基準)
1990年に発表されたアメリカリウマチ学会の分類基準によりますと、全身に18箇所の圧痛点があり、4kgの力で押し11箇所以上痛く、また広範囲の痛みが3ヶ月続いていることが条件。但し、他の病気がある場合は線維筋痛症と診断されません。また、圧痛点が11箇所以下であっても線維筋痛症という診断がされる場合があります。
通常、検査をしても異常がないのが特徴です。血液、レントゲン、CRPという炎症反応、筋電図、筋肉の酵素、CT、MRIを検査値も異常がないことが多く、検査データにより線維筋痛症と診断できる検査がありません。
現在、本邦では健康保険の適応がありませんので、随伴症状により治療を行う事になります。


(血清反応陰性脊椎関節炎との比較)
一方、血清反応陰性脊椎関節炎は、乾癬という原因不明の皮膚疾患や潰瘍性大腸炎、クローン病といった腸疾患、ベーチェット病やライター症候群という原因不明の疾患に強直性脊椎炎と同じ変化が起きる症例があることから、強直性脊椎炎とこれらの疾患を加えて、血清反応陰性脊椎関節炎と呼ばれています。
しかし、実際には随伴症状(皮膚疾患、腸炎、眼の症状)がない未分化型脊椎関節炎が、相当数存在していると推測され線維筋痛症との分類を難しくしています。


(血清反応陰性脊椎炎と線維筋痛症分類と合併)
血清反応陰性脊椎炎は、多くの場合、レントゲン所見、血沈、CRPの上昇などから診断されますが、実際のところはデータなどの所見に現れないケースも少なからずあります。
このように線維筋痛症と血清反応陰性脊椎炎(特に未分化型脊椎関節炎)は、大変分類が難しい場合が多く存在します。
この二つの疾患においての典型的な症例による分類は明確にできます、血清反応陰性脊椎関節炎の代表格である強直性脊椎炎と線維筋痛症との比較は、確かに異なった疾患といえる一例になるかもしれません。
しかし実際には、多くのケースにおいて血清反応陰性脊椎炎と線維筋痛症では分類できない場合が多く存在し、また重複して存在することが少なくないという考え方が的確、且つ、現実的な推測となります。


(今後の展望)
血清反応陰性脊椎炎と線維筋痛症が合併していると考えられる疾患において、多くの場合は関節リウマチや強直性脊椎炎のように、強い治療(抗リウマチ薬や免疫抑制剤)や手術が必要とされるケースは稀と考えられます。
また、血清反応陰性脊椎関節炎と線維筋痛症の重複に限らず、広義でのリウマチ膠原病疾患においては、類縁疾患が複数被って存在するケースが少なくないといえるでしょう。

現在、線維筋痛症の診断基準や治療方法を確立させるという方向が、出てきて注目されています。このことは基本的に良いことだと思いますが、線維筋痛症という一つの「症候群」のような分類に対して十把一絡げにして治療方法を考えていく事が、本当に的確な方向付けなのかをもう少し精査する必要があるように感じます。

確かに患者さんにとっては、明確な病名がついて、しっかりとした治療方法、指針が明確になるということは一つの安心につながります、しかし、線維筋痛症のように、原因、診断基準さえも非常に曖昧な疾患において、患者さんが病名別に縛られた治療を受ける事は必ずしも得策とはいえないように感じます。
以上、これまで述べたように線維筋痛症の場合、他の病気が重複しているケースも想定して考えて治療にあたることが必要だとおもいます
線維筋痛症を一つの症候群として考え、あまり病名や確定診断を先行させずに、まずは随伴症状における対症療法を中心に考えて、患者さんのQOL(生活の質)の改善を中心とした治療方法を模索していく事が先決されることであろうとおもいます。
2007/8/27



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