「企業の比較優位の評価が                  

            景気を回復させると思う安さん」 (歯痒末説 ver42.1)

 今のところ景気対策については 政府や有識者からは総花的な浮揚政策しか出ていない。

それどころか 一部の元気な議員には 「反資産デフレ論」を唱える人が出てくる始末で、景

気さえ良くなれば すべてが許されるような口振りである。本末転倒も甚だしいことは 素人

でも判ることで、「英雄 色を好む」と言うが スケベがみんな英雄・豪傑になる訳では無い」

のである。順序を 間違えないで貰いたい。

 

 第一 土地が値上がりすれば、IPI(総合生産性指標)の分母が大きくなって 経営資本利

益率が下がり、生産実務への付加価値の配分が低下してくることは 基本投入費原理から

も明らかで、景気は生産・消費の問題を飛び越えて、投機(バクチ)資本のオモチャになること

は 目に見えている。具体的には 東京都に代表される慎太郎都知事の土地活用案や 国

土交通省の千景大臣の道路整備案なども、まったく手の届かないものになってしまうのだ。

                                           《末説一覧へもどる》

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 安さんが このホームページでも説明しているように、「問題は 理想形と現状の較差から

具体化するもの」である。その手で 現状の「設備・雇用・債務の三つの過剰」の整理解消の

後の形を考えてみれば良い。この内 具体的に着手されているのは、「債務」の それも直接

償却か間接償却かなどというから、少しは 製造業やサービス・流通の活動内容に触れるか

と思えば、それは全く無くて 銀行が製造業に貸した金を諦めるか否かの話ばかりしている。

 

問題は 銀行ではなくて、製造・サービス・流通の実務を担当する企業が 景気の好い時に

はどういう状況になるかを考えれば明らかになる。日銀や政府は 企業が 「自己診断をしな

がら 「比較優位の 序列の低い者」から(必死になって)得意な分野を開発し、業種の転換を

計って行く いわゆるソフト・ランディングで (軟着陸⇒極力解雇を行なわずに)銘々のニッチ

(居処になる スキ間)を探し・造るのを手伝い、その転換の期間を 最適化するのが仕事で

ある。その意味では 「総花ゼロ金利政策」や「総花公共投資政策」などは、淘汰されるべき

業種や企業のキズを深くし 「持ち上げておいてから 叩き付けることを楽しみにしている」よ

うに見えると言ったら叱られるだろうか。

 

 そういう企業の 自己診断と選別支援に適しているのが、「基本投入費原理」であり IPI(総

合生産性指標)であるが それはここには もうその内容は述べない。お気持ちのある方は 

ホームページ:安さんの「本音で!些論」,[URL=http://www.asahi-net.or.jp/~ke

7y-mtmt/ ]」の各項をお読み頂きたいと考える。

 

 現在の不況対策が 製造・サービス・流通の債務のことを言いながら、結局 銀行自身の不

良債権処理の問題になってくる経緯には、バカバカしさを超えて オカしさに通じるものがある

くらいだが、このような悪循環は 銀行が融資に当って「担保主義」から一歩踏み出し、「総合

生産性指標主義」への(全面的な 切り替えでなくても)併用を考えるだけで好転させることが

できる。保有株式が暴落しようとも 貸し出し資金さえ有れば仕事は続けられるのだから。そ

の銀行がB/Sに株式資産を持っていなければ 運用資金に事欠くというのもまた担保主義

だから、そういう銀行は 「基本投入費原理」でも勉強してもらって、「貸し出し先の企業に 焦

げ付きを起こさない 機能的な銀行」になれば良いのである。

 

 銀行がこう言う視点さえ持てば 事態は好転しはじめるが、一般には 現状での過渡的な非

効率状態を克服するまでの、企業選別の評価が アイマイになる傾向がある。これは選別の

問題のほかにも 製造業の現場などで、ヒマな(不況等で 仕事の手持ちが少ない)ときは、

ユックリと 作業者が遊ばないように造る傾向にも関連してくる。安さんはこれについて 生産

速度は、手持ち仕事の多寡に拘わらず常に 標準あるいは 出来高制等ではフル・スピード

で造れと言っている。余った時間は キャッチ・ボールでも草ムシリでも、あるいは 小集団活

動でも遣れば良いのである。

 

 そしてこのような 過剰な設備の遊休や余剰労働時間が、予め(結果として でなく)見込め

る場合は 基準を策定して(建設仮勘定に対応する)「除却仮勘定」を設け これを封印(生産

に使えないような マーク)をして、生産稼動に対応する分だけを 基本投入費に算入したIPI

(総合生産性指標)を算出するのである。こうすれば 受注不調の過渡期であっても、その企

業の受注能力の低さと併行して 生産能力(機能と産量)の水準を浮き彫りにすることができ

る。この場合 労働生産性指標では、何の 判断もできない。報告に入ってくる ウソの問題

については、実際の封印試行や 第三者による(余剰人員分を 服や帽子で区分した)監査

の事例もあって、実用的には問題無い程度まで 抑え込むことができる。

 

 以上をまとめれば 「景気回復に有効な 企業評価の3要素」は次の3点である。

 (1) 「企業業績(例えば 経営資本利益率等)」に直結する 

         評価尺度(例えば IPI:総合生産性指標)の確立

 (2) 「担保重視の融資」から 「生産性重視の融資」への転換、

         場合によっては 両者の併用段階を置くことも考慮

 (3) 「建設仮勘定」に対応する「除却仮勘定」の策定と 管理会計的運用の開始、

         運用上の 3悪(ウソ・オクレ・マチガイ)追放の歯止めの考慮

 

 なお この考え方の基本には、本年1月の日経新聞夕刊の 下記の記事への安さんの投

稿があるので、参考までに転記しておくので お読み頂ければ幸いである。


資 料                                      【中前氏シリーズ01】

 基本投入費原理の 適用例 : 中前 忠氏への 「日経十字路記事」についてのメール 

                     技術士・経営士・労働安全コンサルタント 松 本 安 雄

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    『なぜ改革なのか』    中前国際経済研究所代表 中 前 忠

                      〔2001.01.04付 日経夕刊 「十字路」欄 (写し)〕

 改革とは、倒産や失業の増大を許容することである。限界的供給者が退出して行けば、業

界上位の企業の売り上げは増え、業界全体としての生産性は飛躍的に高まる。資源配分の

観点からいえば、資源は弱者にではなく、強者の方に振り向けられるべきなのだ。

 

 財政赤字、とりわけ公共投資を中心とする秩序なき政府支出が問題なのは、貴重な貯蓄を

経済の中で最も効率の悪い分野に垂れ流し続けるからである。非効率な建設業者を延命さ

せることは、建設業そのものの効率化を阻害する。

 

 資本の効率が極めて悪いのである。結果として生産性の低い企業が温存されれば、過剰

な設備も雇用も是正されず、経済全体の生産性は低下し、経済は低迷して行かざるを得な

い。財政による景気対策は効用がないだけでなく、経済の体力をむしばんで行くのである。

 

 超低金利政策の罪も同じである。ゼロ金利であれば、理論的にはすべての企業の存続が

保証される。しかし、実体が悪ければ、銀行は貸し出しをためらい、貸し渋りが発生する。金

利機能は働かず、結果的に資金は国債に向かい、財政赤字のファイナンスを容易にしてしま

う。日本経済が3%成長をしようとするのであれば、5%の金利が支払えない企業は退出して

行くべきなのである。

 

 日本経済の再生の条件は金利の上昇である。金利の上昇だけが、財政赤字をの拡大を困

難にし、生産性の低い企業の退出を促すことができる。これは市場の役割である。超低金利

に貯蓄が反乱を起こし、市場がとめどのない財政赤字に危機感を持ったとき、資本の海外流

出が加速し、円安、高金利を実現する。

 

 これは、グローバル化した市場経済の原則といってよい。これを好機と捉え、財政再建、経

済の効率化といった目標に向けて、政治が合理的で透明なプログラムで対応できれば、新世

紀の日本は明るい展望を持つことができるであろう。                            

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 これを読んで感動した松本は 同5日に、中前氏宛に 次のお礼のメールを送信した。

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 中前国際経済研究所長  中 前 忠 先 生

 

 昨4日付の 日経夕刊の先生の「なぜ改革なのか」を、感動を以って 読ませて頂きました。

そして 年頭に当り、自身のライフワークの新展開の基盤を得たことを 心よりお礼申し上げ

ます。

                                                   小生は

ライフワークなどと つい申し上げましたが、既に 整理期にある老齢のコンサルタントです。

開業以来の目標は 基本投入費原理による企業の革新ですが、現在の日本の 閉塞的な

情況につきましても、次のような イメージを持っていました。

 

 基本投入費原理によって 大企業から中小零細企業を問わず、各企業が 総合生産性指

標で競争し、これで勝ち目の無い企業は 早期に転進して「自社優位の事業分野」を模索す

るようにすれば、当該企業のみならず 日本経済全般の好況化を促進し、やがては 財政赤

字の解消にも貢献できる「筈だ」ということです。

 

 しかし そういうイメージを持ちながら、経済素人の悲しさは どうしてもその「筈だ」を取り去

り、「することが出来る」と 言い切ることが出来なかったのです。先生の記事は 小論文とし

ても完璧なもので、これで 政府が補完政策を誤らなければ、必ずや 日本は、現在の閉塞

を突破できる と言い切れる自信が湧いてきました。今年は 是非とも、先生のこの論文を基

調にして、小生の仕事も 展開してゆきたいと考えて居ります。

 

 厚くお礼を申し上げると同時に 先生の記事の引用をお許し頂きたいと存じます。ただ心に

掛かるのは 先生の「経済環境⇒生産性(企業業績)の論旨」と、小生の言う「生産性⇒経済

環境の論旨」が双方向に可逆的であるか否かですが、これはもう少し考えてみますが 多分

成り立つのではないかと考えています。

 

 今の日本の閉塞感は 別の見方をすれば、一般国民が 現在の環境を、「オレタチには ど

うしようも無いモノ」と考えているところにもあると思います。小生はこれを 故ケネディ大統領

の就任演説と同主旨で、「銘々に遣れることがあり 国民の銘々がそれに挑戦する情況」を造

り出すこと で打破したいと考えています。それには 先生の所論の論理に繋がる、国民銘々

のさまざまな経営体に使える経営指標が必要です。

 

 現在のところ モノの本に書かれている指標類では、この目的に使えるものはなく、労働生

産性なども 企業の産出付加価値や給与の配分基準とも無相関になっているのに、国民の

経済福祉水準をあらわす 配分可能性として使う先生方も現われる始末で、生産の現場の混

乱は 大きくなるばかりです。このため小生は そ目標や評価のための尺度を基本投入費原

理に求め、総合生産性(IPI)を誘導して使いはじめています。

 

 幸い結果は良好で それがこの度先生の所論で基盤を得たのですから、その嬉しさは 言

いようも無いくらいです。その上昨年の年末には 懸案で小生が手を付けることができなかっ

た「農業への適用」を試行して、良い結果を出して下さった方が出てきました。これなど当に 

今回の先生の所論の「建設業を農業に置き換え」れば、そのまま通用する 情況にあります。

 

 いろいろと申し上げましたが 取り敢えず先生にお礼を申し上げたい一心で突然のメールを

差し上げました。失礼の段は 伏してお詫び申し上げます。

 末筆乍ら 中前先生のご健康と、中前国際経済研究所のご清栄を 心よりお祈り申し上げ

ます。                                           松 本 安 雄


                                   《1.1へもどる》《末説一覧へもどる》

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