平成不況 については 経済の専門家がいろいろなことを言っているが、直接に波風を受けて
いる企業の経営層、特に 中堅企業の経営者に会ってみると、在来の景気の循環を期待して
マチに入っている人、何か自分の理解できない出来事が起こったと感じ 自信を失っている人、
まったく 茫然自失 惰性でその日を送っている人、など さまざまである。少なくとも 多少見当は
違っても、ひとつの見解を持って 経営している人に巡り合えないことは、苛立ちよりも 不安を
感じるくらいである。
安さんの持論に 「思わなければ 実現しない」ということがある。当否は別として 思うツモリや
考える前提がハッキリしていなければ、修正も変更もできないことは 自明である。安さんは 顧
問先に対する責任から、必死に勉強 しイメージを凝らして、安さんなりの 結論を得た。真実
マッタクのところは 誰にも判らないとすれば、最善の平成不況の判り方は 「どういうモノの見
方をすれば (外れるとした場合)安全な方へ外れるか」という切り口で判ることである。
いろいろと話しも聞き 本も読んだが、安さん自身が肌で納得できたのは 小室直樹の「国民の
ための経済原論T・U:光文社刊」と、水谷研治の 『「縮小均衡」革命:東洋経済新報社刊』で
あった。次に 安さんが感じた、小室の言う 平成景気の特徴の要点を述べてみよう。
[平成景気は 乗数効果と加速度原理の利き方が特に大きい:小室直樹]
〈ある新聞社〉 〈輪転機メーカー〉
毎年発行分:100% 輪転機(価格:3万ドル/台) 毎年生産量
×20台(毎年1台廃却し更新) 1台を受注・生産・納品
当年発行分:150% 輪転機増設(当年11台発注) 当年生産量(生産設備増設)
×30台(更新1台+新設10台) 11台の生産態勢を整備
感じてみるべき ことは、輪転機メーカーが 毎年11台の生産量を確保するためには、新聞社
側が毎年 当初分に対し50%づつ(150→200→250→と)発行部数を増やさなければならな
いということである。おまけに 輪転機メーカーの設備の増設も、他の部品メーカーの 受注を刺
激するから、思惑の需要(市況)は 乗数的・加速度的に拡大し、落ち込みは当然 一挙にドン
底になる。
恐ろしいのは こういう時に金があり余っていて投資するヤツはいないから、問題は設備の空
転だけでなく 金利に追い駆けられるようになることだ。この辺で 前述のように、ツモリや前提が
ハッキリしていないと 見切る時機をつかみ損なって企業は死ぬ。各業界ごとに どのくらい経済
水準が落ち込むかは、大づかみならば 新聞を丁寧に読んで簡単な算術をやってみればスグ
判ることである。例えば 平成5(1993)年の安さんの試算では、自動車の国内生産能力は 買
い替え需要だけでは3割以上も余る。当然に 新車種・新機能を予測したが、今のところ そのよ
うに推移している。
そういう視点を 国全体で論じているのが、水谷研治の『「縮小均衡」革命』である。安さんが
引用するのは 同書152頁の、今後の経済規模の縮小を 14〜21%の低下と見て、これを恐
慌を起こさないように 数年から10年程度の時間をかけて軟着陸させる考え方である。安さんは
このことを平成バブルの最中から、「制産の時代に備えよう」という言い方で 説き続けてきたが
殆ど聞く耳はなかった。有限の地球に対し アンバランスな形で、生産が飽和した部分が 出始
めたのである。
ラビ・バトラが書いた「JAPAN 繁栄への回帰:総合法令刊」を 全面的に受け入れる訳ではな
いが、ただ 2点、人間の経済活動や生産活動などの ポジティブな活動は、 必ずと言ってよい
ほど人間に対するネガティブな影響を伴う(と思え)と言う点と、経済の規制や保護主義に反対
するあまり 自由化の名をかりて、多くの危険や非効率な変動を起こす 「経済の無政府状態」に
陥るな、という主張は共感がある。変化は それが好ましいものでも、抵抗を乗り越える 必要が
あるのだ。《1.2へもどる》《10.1へもどる》
[提供可能資料]
-----------------------------------------------------------(些論 ver6.1)-----