2002年11月

イリーガル・エイリアン(ロバート・J・ソウヤー) マドンナ(奥田英朗)
神様からひと言(荻原浩) ダーク(桐野夏生)
骨音-池袋ウェストゲートパークIII-(石田衣良) 誘拐の果実(真保裕一)
青い虚空(ジェフリー・ディーヴァー) 冬になる前の雨(矢崎存美)
ハリーポッターと炎のゴブレット(J.K.ローリング) ゲームの名は誘拐(東野圭吾)
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イリーガル・エイリアン

著者ロバート・J・ソウヤー
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-15-011418-8(\940)【amazon】【bk1
評価★★★★

アルファケンタウリから突如地球に現れたエイリアン。故障した宇宙船を直したいというエイリアンと、人類とのファーストコンタクトは、友好的なものだった。エイリアンに提供した宿舎で、人間が惨殺されるまでは。そして、その犯人として、エイリアンの一人が逮捕されるまでは。

SF仕立てのリーガルサスペンス。リーガルサスペンスはいろいろと読み、アメリカの法廷っていうのは面白いところなんだと思ってましたが、エイリアンであるトソク族の風俗・習慣や、体の仕組みも全くわからない状態からはじめられる法廷劇は、さらに目新しく、かつ笑えるものでした。そしてこの法廷劇のキモは・・・いや、それは言わないほうがいいでしょう。とりあえず読み始めたら止まらない、といった印象。ただラストがなあ。なるほど、そうきますかと思いましたが、「期待した」方向ではなかったかも。感心はしましたけど、一方で拍子抜けという気もしたり。というわけで、複雑な気分の★4つ。

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マドンナ

著者奥田英朗
出版(判型)講談社
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-06-211485-2(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

ずっと年下の部下をついつい好きになってしまうという標題作をはじめとして、会社にまつわるちょっとした出来事をテーマにした短編集。私の職場はいわゆる「会社」という感じではないのですが、なんとなくわかるな、この雰囲気。まあ1日のうちで、一番長くいるのが職場だし、いろんな人がいるし、出世や給料が絡んでいる分、学校なんかよりも人間関係が複雑だったりして。

「マドンナ」は、主人公よりも、主人公の奥さんがかっこいいし、「ボス」に出てくる、ちょっとかわいい女性上司も素敵だし、全体的に女性が光ってる(だから「マドンナ」なのか?)ような気がするのは私だけかな(笑)

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神様からひと言

著者荻原浩
出版(判型)光文社
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-334-92373-9(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

大手広告代理店を退職し、失業保険でぶらぶらしようと思っていたのに、抜き差しならぬ事情で珠川食品に入社した涼平。ところが、古い体質の会社、頭の固い上層部にキレてしまい、入社3ヶ月で「お客様相談室」に転属させられた。リストラ要員を飼っているというその部署で、彼が見たものとは・・・。

精神に異常をきたすとか、自殺者続出とか言われるお客様相談室。そして、そこに居残ることができるのは、その中でも大ゴキブリとも言われるツワモノ揃い。そんな彼らが企む胸のすくような奮闘物語。こういう頭の固い上層部(=体制側)に反抗する話って、一様に面白いものですよね。とはいえ、一方でゴキブリぶりもすごいものがあって、ネット上監視と称してアダルトサイト見まくったり、口止め料として会社から引き出したお金を競艇につぎ込んじゃったり。さてさて、そんなゴキブリ社員たちのむちゃくちゃな活躍を楽しめる作品です。

ストーリーとは関係ないのですが、競艇で大穴を狙って、印の無いとこ(=人気薄でオッズの高いところ)ばかり賭ける先輩に、「わざとハズレ券を買っているみたいだ」という主人公の一言。耳が痛い。

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ダーク

著者桐野夏生
出版(判型)講談社
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-06-211580-8(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★

待っていた成瀬が、4年も前に獄中で自殺していた。目標を失ったミロは、自殺を知っていながら知らせなかった父を恨み、小樽へと向かう。

ある意味ジェットコースターストーリーというか、父が死んだことで、連鎖的に引っ張り込んでしまった困難を次々と乗り越えていく小説で、長さは全く感じさせず最後まで一気読み。最近厚い本を全然読んでなかったので、久々の厚さにためらいましたが杞憂に終わりました。ただ、読み終わってから思ったのは、結局この小説は、ミロシリーズという長いストーリーの一部分なのだなということ。ちょうど西澤保彦のタックシリーズの『依存』のような位置づけかな。なので、ミロシリーズをずっと読んでいる方には、別の感慨があるのかもしれませんが、私は『顔に降りかかる雨』以来、ミロシリーズとはご無沙汰だったので、ミロの生き様や、父親との確執、成瀬の話なんかも全く知らず・・・。というか、そんな話はシリーズ中に出てこないの?・・・そんなわけないですよね。

面白いけど、他人に手放しでは薦められない、そんなジレンマを起こす小説でした。そもそも、私は主人公のミロがどうしても好きになれなかったのですが、他の方はどうなんでしょう。

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骨音-池袋ウェストゲートパークIII-

著者石田衣良
出版(判型)文藝春秋
出版年月2002.10
ISBN(価格)4-16-321350-3(\1619)【amazon】【bk1
評価★★★☆

急増するホームレス襲撃の中で、異色な事件が一つあった。ホームレスをクスリで眠らせ、骨を折っていくのだ。ホームレスのまとめ役「カツシン」から依頼を受けたマコトは、犯人探しを始めるという標題作ほか3編の連作短編集。

『ダーク』の後だっただけに、この軽快な小説はそこそこ楽しく読めました。が、楽しさはありますが、なんとなくそれだけ。シリーズものとしては面白い小説だと思うのですが、全体的に古い印象は、このシリーズの1作目を読んだときから変わってません。最近の子供たちは、何かを教祖に纏まるってことをするのでしょうか。いや、それも印象だけで、私は「最近の子供」の知り合いっていないのですが、こうして子供たちが、自分たちだけである程度組織だったことができるなら、まだまだ日本も捨てたものじゃないって気はします。

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誘拐の果実

著者真保裕一
出版(判型)集英社
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-08-775318-2(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

宝寿会総合病院の病院長の孫娘が誘拐された。犯人の要求は、病院のスポンサーでもあり、現在株譲渡事件で刑事告発されて病院内に入院している永渕の命。要求が身代金ではない誘拐に戸惑いを隠せなかった家族は、秘密裏に警察に相談することになるが・・・。

展開も面白いし、ラストも考えられてるなーとは思うのですが、ちょっと長い。あまりに重複した記述が多いので、連載ものかと思ったら、書き下ろしって書いてあるし。誘拐っていう題材からしても、もう少し校正してスピード感に主眼を置いてもよかったんじゃないかと思った次第です。誘拐ものというと、ついつい岡嶋二人の一連の著作と比べてしまって、こういうある意味回りくどい小説だと長く感じてしまうというのもあるかもしれません。私としては、逆に犯人側からの視点で書いたほうが面白かったんじゃないかと考えたのですが、そうするとどうしてもラストが厳しくなっちゃうか。

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青い虚空

著者ジェフリー・ディーヴァー
出版(判型)文春文庫
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-16-766110-1(\829)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

クラッキングの罪で収監されているジレットのもとに、刑事が訪れた。護身術のホームページを開いている女性が惨殺され、その犯人がどうもハッカーの犯行だという。天才ハッカーは、パソコンとしばし外に出られるという条件と交換に、犯人捜査に協力することになるが・・・。

「青い虚空」(ブルーノーウェア)というのは、今皆さんが覗いているサイバースペースを表すディーヴァーの造語だそう。確かにこの世界ができて、ものすごく環境が変わりました。多分ネットワークに繋いでなかったら、今と全然違う生活してただろうなあ。

OSがGUIになって、操作が簡単になったお陰で、「ブルーノーウェア」の人口も飛躍的に増えたし、その世界はいろんな人がいる一般の世界と変わらなくなりつつあります。でもリアルワールドにも必ず暗黒界があるように、ブルーノーウェアにも暗黒界があって、彼らは普通なら絶対入れないような国家機密機関のサーバーをクラッキングして、大統領のような権限を手にしたり、あるいは別人を装ったりする・・・そんな世界を小説にしたのがこの作品。今のところ、そうした狂ったパソコンマニアの所為で核戦争が起こったことはないので、実際どこまであり得るのか、というのは疑問なところですが、「一般人が自分の技術で普通ならできないことをする」のは、こういう小説としては格好の材料ですね。また、ピンチありチャンスありといったジェットコースター的話し運びをさせたら一級品のディーヴァー。こういう本が読みたかったのよ、といった感じでした。おすすめ。

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冬になる前の雨

著者矢崎存美
出版(判型)光文社文庫
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-334-73408-1(\552)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ホラータッチの短編集。というよりショートショートに近いようなものも。『ぶたぶた』の印象が強かったので、その気分で読んでいたら、妙に怖いんですよ。なんだか笑ってるのに手にはナイフ握ってるみたいな、わけのわからない怖さでした。こんな本も書けるんですね。いや、こちらのほうが古いんだから、これが元々で、『ぶたぶた』が意外な路線だったのかな。私自身は短編が好きではないのですが、この作品集はどれも水準以上でなかなかの評価です。

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ハリーポッターと炎のゴブレット

著者J.K.ローリング
出版(判型)静山社
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-915512-45-2(\3800)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

ハリーポッターシリーズ第4作。魔法学校に通うようになって3回目の夏休み。ハリーは、ロンやハーマイオニーと共にクィディッチ・ワールドカップの決勝戦を観戦する。ところが、盛り上がった試合の後、一気に興奮を冷ますような恐ろしい出来事が起きる。

読みつつも、なんだかんだ文句つけてきたハリー・ポッターシリーズですが、今回のは面白かった。百年ぶりに行われた学校行事、思春期を迎える彼らの淡い恋物語、そして、最大の敵との戦い、これでもか、というくらい「児童書のセオリー」に従いながらも、全く文句ない内容だったと思います。長さも気にならなかったし。子供みたいに、次が気になってしまって、電車に乗る(=読書の時間)が楽しみでしたよ。世界中でハリー・ポッターが売れて、まだラストまで書かれてないのに映画化。そういう期待を背負いつつも、こんな話よく思いつけるなーと感心。ちょっと気になるのは、強敵に出会いながらも次々と乗り越えていってしまって、そこで大団円にすればよかったのに、まだまだ続けてしまった『ドラゴンボール』みたいにならないかということ。次はいったいどんな困難をハリーの前に持ってくるのか、スランプ説もささやかれる彼女の次の作品、期待してます。

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ゲームの名は誘拐

著者東野圭吾
出版(判型)光文社
出版年月2002.11
ISBN(価格)4-334-92375-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

自分が手がけていた一大プロジェクト。ところが、相手の副社長のひと言で、突然そのプロジェクトから外されてしまった。その彼が、ひょんなことから副社長の娘と出会う。そして彼が思いついた復讐は、誘拐劇だった。

長さ的にも中途半端、内容的にもあまりに見え透いた伏線とベタベタの展開に、ちょっと拍子抜け。連載ということもあってか、なんとなく「やっつけ仕事」という印象を持ってしまいました。。。帯の惹句からハラハラドキドキ感を期待していたのに残念です。もちろんこの著者ですから、エンターテイメント小説としては水準以上だとは言えますけれども、お勧めという観点から考えると★は3つどまり。複雑な気分。

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