2002年01月

スノウ・グッピー(五條瑛) 日本沈没(小松左京)
双頭の蛇(今邑彩) 両性具有迷宮(西澤保彦)
ダイスをころがせ!(真保裕一) 防風林(永井するみ)
五人姉妹(菅浩江)
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スノウ・グッピー

著者五條瑛
出版(判型)光文社
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-334-92352-6(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

「グッピーを一匹失った」。その言葉は、非常事態を意味していた。演習中に行方不明となった自衛隊機には、日本独自開発の電子戦機器が搭載されていた。次々現れる各国の偵察隊の前に、会社内の情報漏洩を疑われる関東電子機器。調査員は逃げた技術者を追うが。

著者が防衛庁出身のために、妙に現実感のあるこの小説。小説として読んでも面白いのですが、その辺つきつめるとちょっと怖いような。日本はスパイ天国だとか、次々起こる拉致事件とか、最近は不審戦騒ぎもあったわけで、表沙汰にならないだけで、非常に危険な国なのかもしれません。戦争にならないことは良いことですが、一方で爆撃を受けたことのないアメリカが、先日の同時多発テロで受けた衝撃は、非常に大きかったようですし、50年無かったからといって、これからも日本が攻撃を受けない保証はないわけです。やっぱり戦争は無いほうがいいのですが、平和を保つにはタダではできないということなのかもしれません。

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日本沈没

著者小松左京
出版(判型)光文社
出版年月1995.4
ISBN(価格)(上)4-334-72043-9(\619)【amazon】【bk1
(下)4-334-72044-7(\619)【amazon】【bk1
評価★★★★

高度経済成長に沸く日本。その日本の地下で異変が起き始めていた。頻発する地震、そして噴火。その調査をしていた在野の科学者が、ある重大な事実に気づく。

1973年刊の大ベストセラー。実は小松左京の本を読むのは初めてで、なるほど科学小説というのはこういうのを指すのか、と感心した至第。さすが当時400万部を売り、今でもこうして本屋で並んでいるだけの傑作です。今更評価は要らないとは思うのですが、私が生まれる以前に書かれたこの本、30年が経過した今でも全然古さを感じさせないところがすごい。さすがに上巻の説明は(地学の知識が多少あったこともあり)少々退屈な部分もありましたが、下巻に入ってから、クライマックスまでのスピード感は、こうしてこんな時間(現在午前1時)まで私を起こしていたくらいの面白さ。

そう言えば、最近地震も噴火も多いのですが、大丈夫でしょうか。もし、こんなことが起きたら、案外日本列島と心中するほうを選ぶ人間が多いような気がする(自分を含めて)気がするのですが、皆さんはどう思いますか?

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双頭の蛇

著者今邑彩
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月2001.1
ISBN(価格)4-04-196205-6(\743)【amazon】【bk1
評価★★★☆

喜屋武蛍子の元恋人が、日の本村を訪れて以来、行方不明になっていた。様々な因習が今も残る村に一体何が。元恋人を探して、喜屋武もそこへと向かう。

蛇神シリーズ第3弾。今回はどちらかというと『蛇神』に戻ったストーリーです。日の本村では何が起こっているのか。そして今年は、「あの祭り」の年で・・・。シリーズで読んでないとダメかも。しかもまだ終わらない。こんなところで終わらせたら、先が気になるではないですか。読もうと思う方は、『蛇神』からどうぞ。

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両性具有迷宮

著者西澤保彦
出版(判型)双葉社
出版年月2001.1
ISBN(価格)4-575-23429-X(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★

森奈津子シリーズ第2弾。お笑い百合小説作家・森奈津子は、今度は宇宙人の所為で、なんと男性器が生えてしまう。という破天荒というか、お馬鹿というか、とんでもないお話(爆)。非常にバカバカしい設定だけど、きっとこの設定は、いつもの西澤の辣腕で、きっとすんごい結末へと収束していくのだ、絶対に。と思っていた私の期待は見事裏切られたのでした。牧野修氏を除く登場人物作家に、幸か不幸か全員お会いしたことがあるので、またそれがなんとも。このシリーズを読むと、何故か変なマスクを被り、ミーコちゃんをいじっている倉阪鬼一郎氏の姿が頭をかけめぐるのですが・・・。一部の方にだけおすすめ?かも。

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ダイスをころがせ!

著者真保裕一
出版(判型)毎日新聞社
出版年月2002.1
ISBN(価格)4-620-10654-2(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

会社に嫌気がさして辞職した駒井健一郎、34歳。妻と子供のために職探しをしているところへ、高校時代の親友・天知達彦と偶然再会した。しかも新聞記者をしていた天知も職を辞し、次の衆議院選にうってでるという。天知の情熱におされて、彼の選挙事務所を手伝うことになった健一郎だったが。

「政治家なんて悪い奴ばかり」って言う人は多いですけど、そういう人が「あんな奴らにまかせておけないから、自分が政治家になってやる」っていうことってないですよね。冗談で言ってるかと思われると思うのですが、それを天知はやろうとした。確かに彼の言うことは青臭いかもしれませんけど、元々代表を選んで、民意を反映したその人たちが、国を動かしていく、という政治制度自体が「青臭い」ものだと思うんですよね。しかも民意を反映する人なのですから、これでもか、ってくらい明らかで一貫した主張と、行動力が伴う人でなくてはならないわけで、天知みたいな人がひとりでも多く国会に行ったら、少しは日本の政治も変わるのかも。最近無党派の躍進が著しいですけれども、彼らの当選の裏には、こんな苦労がたくさんあったのでしょうか。

20歳になったときに選挙権がもらえたのがとっても嬉しかった私は、今まで選挙をさぼったことは一度もありません。ただ、選挙広報や政見放送は見てても、街頭演説を聞いたり、演説会に行ったりなんていうことをしたことはないですし、そこまで政策を吟味して投票を行ったことは無かったのでした。なんだかこの本を読んでいたら、少々申し訳なく思えてきました。もう少し立候補者の主張に耳を傾けようと思った1冊。小説としてもなかなかなできのこの本、おすすめです。

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防風林

著者永井するみ
出版(判型)講談社
出版年月2002.1
ISBN(価格)4-06-211061-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

札幌を離れて17年。東京で就職し、結婚し、子供まで生まれた。そして、会社が倒産した。再び札幌に戻ってきたが・・・

防風林に残した記憶のお話。ですが、このテーマというか、モチーフというか、話運びというか。最初からラストが見えてしまって、少々興ざめ。もう少し捻って欲しかったかな。ただ、私は同じような本を読んでしまっているからそう思うのであって、そうじゃない人には面白いと思います。読みやすいですし。可もなく不可もなくといったところ。

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五人姉妹

著者菅浩江
出版(判型)早川書房
出版年月2002.1
ISBN(価格)4-15-208394-8(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

バイオ企業を持つ父から人工臓器を埋め込まれた葉那子には、4人の姉妹がいた。クローン問題を扱った標題作のほか、機械と人間、技術と人間をテーマとした短編集。

技術の進歩っていうのは一朝一夕に起こるものではなくて、徐々に徐々に人の間に浸透するものですよね。例えば携帯電話も、私が子供の頃は外で電話ができるなんていうのは夢の技術だったわけです。多分子供の頃に、日本中の人が、子供に至るまで、外で電話をし、文字をやりとりし、果ては画像や映像までやりとりするなんて言われたら、そんなのは、テレビや映画の世界で、無理に決まってるよ」と返したに違いありません。しかし、そんな時代は思ったよりも早くに実現してしまいました。FAXどころかコピーさえ珍しかった時代を、日本人は忘れかけているわけです。

菅さんの描く世界というのは、既にロボットが人間の中に浸透している世界が多く、また技術も、今では考えられないほど発達しているわけです。理論上は可能とされる技術も、「そんなことも将来的にはできるらしい」というのと、こうして一般生活の中に浸透するのとは全然違うもの。実際、こうして徐々に慣らされながら、人間のクローンができ、人間をロボットが介護し、そして死までも変わっていく時代というのは、もしかしたら近いうちにきてしまうかもしれません。私が今この本を読むと、登場人物の考え方に違和感を感じるのですが、そのうちこういうのも普通になってしまうのかなぁ。そう思うとちょっとホラーかも。

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