2002年02月

今日を忘れた明日の僕へ(黒田研二) 鬼女の都(菅浩江)
石ノ目(乙一) ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(J.K.ローリング)
牛乳アンタッチャブル(戸梶圭太) 刑事ぶたぶた(矢崎存美)
続巷説百物語(京極夏彦) メロス・レヴェル(黒武洋)
しゃばけ(畠中恵) 幽霊船が消えるまで(柄刀一)
世界の終わり、あるいは始まり(歌野晶午)
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今日を忘れた明日の僕へ

著者黒田研二
出版(判型)原書房
出版年月2002.1
ISBN(価格)4-562-03468-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

目が覚めると、8月20日になっていた。妻の話によると、自分は3月31日にひどい事故に遭い、それから記憶が蓄積できなくなってしまったらしい。眠るとリセットされる記憶。しかし、その失われた時間の中で、親友が殺害されていた。犯人は・・・。

前向性健忘症というのは、ここにも出てますけど、医療ミスによる症例が結構あるらしくて、テレビのドキュメンタリーでもやってましたけど、非常に不思議な感じ。記憶が蘇らないのではなく、記憶が蓄積されないのって非常に恐怖なんだろうなと、この本を読んで改めて思いました。

そんな仕掛けを上手く使ったミステリ。主人公は自分の書いた「日記」を元に、失われた(蓄積されてない)記憶と対面し、親友を殺した犯人を探そうとするのですが。うーん、結末が非常に不満。肩透かしくらったような気分です。まあ言われてみれば、ちゃんと伏線も張られてるわけですけど・・・。「記憶できない」ということが、自分の中でちゃんと想像できてないからかも。というわけで、-0.5点マイナス。全体的には面白かったんですけどね。

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鬼女の都

著者菅浩江
出版(判型)ノンノベル
出版年月2001.9
ISBN(価格)4-396-20725-5(\905)【amazon】【bk1
評価★★★☆

色鮮やかな小袖が広げられた部屋で、京都出身の同人誌作家・藤原花奈女は自殺していた。京女らしい彼女を崇拝していた同人誌仲間の優希は、彼女を死を嘆き、何が彼女を死へと追いやったのかを探ろうとする。

最初、優希やその周りの女の子の同人誌的な会話についていけず、ちょっと読むのがつらかったりしたのですが、「京都の髄」に取り殺された藤原花奈女の謎に中心が置かれるようになってからは面白くなってきて、あとは一気読み。

私も京都って好きですけど、勝手に想像している「平安の都」という印象が好きなんですよね。多分京都がいいって言う人は大抵そうなんだと思うのですが。私が初めて京都に行ったのは中学校3年の修学旅行のときだったのですが、最近行ったときと比べると、もっと京都に幻想を持っていたような気がします。この前行ったときなんて、単に友人の家に鍋しに行っただけだし(笑)。あれほど観光地として理想的な場所って無いと思うのですが(碁盤の目でわかりやすいし、観光スポットがあちこちあるし)、古いものを古いまま維持するのって、非常に大変なんでしょうね。合掌造りの家の世界遺産登録の時も、個人の家なのに直すのさえままならない、という不満の声があるとか無いとかどこかで報道されてましたが、京都なんて、街そのものが世界遺産なわけで、ある意味非常に住みにくかったりするのではないでしょうか。

古いものっていうのは、どんどん変わっていくわけで、それを時代の流れに逆らって残していくというのには、ものすごいエネルギーが要るのでしょうね。そう思った1冊でした。

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石ノ目

著者乙一
出版(判型)集英社
出版年月2000.7
ISBN(価格)4-08-702013-4(\857)【amazon】【bk1
評価★★★★

山には石ノ目という怪物がいて、その目を見ると、石になってしまうという言い伝えがあった。そんな土地に住むSは、山へ行ったまま行方不明になった母を捜しに山へと登る。標題作の『石ノ目』を含むホラー短編集。

設定は、自然の摂理を離れた不思議なモノや人の話で、どの短編もホラーと言えるのですが、ただ怖いだけではなく、なんとなく暖かい気持ちになるようなお話。特に動くぬいぐるみの少年への思慕を描いた『BLUE』がよかったな。『はじめ』も切ないお話で好き。どの短編も非常にレベルが高くて、今まで読んだ乙一の中ではいちおし(そんなに読んでないけど)。長編で大ブレイクしてくれないかしら。

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ハリー・ポッターとアズカバンの囚人

著者J.K.ローリング
出版(判型)静山社
出版年月2001.7
ISBN(価格)4-915512-40-1(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

地獄の夏休み。おじさんおばさんのところで苛められているのに嫌気がさしたハリー・ポッターは、とうとう家出を試みる。ところがそのハリーには、アズカバンを脱獄した囚人の影が・・・。

世界的ベストセラー第3弾。映画も順調なようで。この歳になって読むと、あまりにも予定調和の展開に、やはり児童書の域を越えてないなあと思ってしまうのですが、いかがでしょうか。面白いとは思うのですが、「きっとこうなるだろうなあ」と思うとおりに展開で進んでいくのがなんとも・・・。きっと子供たちに読み聞かせたら、面白がってくれるのでしょうね。と言いつつ、次も読んでしまうような気もするのですが。思いもかけない謎とか出てくると面白いなあ。

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牛乳アンタッチャブル

著者戸梶圭太
出版(判型)双葉社
出版年月2002.2
ISBN(価格)4-575-23430-3(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★

大企業を突然襲った大激震。なんと安全なはずだった牛乳で何万人もが食中毒に。杜撰な衛生管理、役員のいい加減な危機意識に世間からの集中砲火を浴びる雲印。その会社を立て直すため、一人の役員が立ち上がった。

そのモデルである会社は、子会社の信じられない詐欺事件によって、再び倒産の危機に瀕してるのですが・・・(^^;。きっとこういういい加減な会社って、日本には沢山あるんじゃないかと思う今日この頃。口では危機管理とか言いながら、「そんなことはウチの会社には起こらない」とか思ってる役員連中とか多そう。どうせクビを切るのは自分達みたいなのも・・・。ある意味痛快なクビキリ大作戦なのですが、やはり過激な戸梶節。単なる社会派小説ではありません。さてさて、雲印のクビキリチームは無事危機を乗り越えることができるでしょうか。戸梶圭太のノリが好きな方にはおすすめ。

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刑事ぶたぶた

著者矢崎存美
出版(判型)廣済堂
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-331-05842-5(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

立川は初めての勤務先、春日署へと向かっていた。そこは「変なところ」らしい。一体何が変なのだろう。緊張しながら向かった先で、紹介された上司は・・・ぬいぐるみのぶただった。

爆笑。ぬいぐるみ刑事・ぶたぶたは潰される、洗われる、飛ばされるの大活躍で、事件を解決してくれます。本当は前があるみたいなのですが、たきどりさんにこの本を頂いたのでこれから。いやー面白かった。しかもこのぬいぐるみ、謎も沢山。一体ぶたぶたの「奥さん」と「子供」は人間なのか、それとも・・・。そして何故ぶたぶたはぬいぐるみなのか。他のも読んでみようと思ったのでした。癒しの1冊。おすすめです。

その他入手情報:徳間デュアル文庫(ISBN4-19-905061-2)

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続巷説百物語

著者京極夏彦
出版(判型)角川書店
出版年月2000.5
ISBN(価格)4-04-873300-1(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

諸国の不思議な現象を集めて、いつか百物語を作ろうと考えている百介。そんな彼に、兄が助言を求めてきた。妙な変死があったというのだ。百介は又市に助言を求めるが。

妖怪遣い又市とその仲間達の活躍するシリーズ第2弾。短編ながら、1冊でひとつの流れになっているという仕掛け。その敵が強ければ強いほど面白いもので、又市一味と百介が大活躍です。京極夏彦のすごいところは、これだけの話で、又市(=主人公)の魅力に読者を引き込むところですね。最後は百介と同様、非常に寂しい気分になってしまいました。まるで又市に置いてかれてしまったような気分というのでしょうか。読んだ方どうでしょう。うーん、これで終わりなのかしらん。もう少し続きが読みたいなぁ。

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メロス・レヴェル

著者黒武洋
出版(判型)幻冬舎
出版年月2002.2
ISBN(価格)4-344-00151-6(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

「絆」を国民に再認識させるために政府が企画した「メロス・ステージ」。2人一組で参加し、勝者には名誉と莫大な金を、敗者には最悪「死」という壮絶なペナルティを与えるその「ゲーム」に10組20人の男女が挑んだ。

なんだか難しいなあ。このアンバランスさ。メロス役が闘い、その結果をセリヌンティウス役が負う、という『走れメロス』を元にした政府公認のゲームに挑む20人。というなかなか面白い設定なんです。ころころ変わる視点や、突然現れる無粋なナレーション的記述といった素人くさい(って私が言うのもなんですが)文章が少々興ざめだったりもしたのですが、途中までは次のステージは何なのかとか、誰が落ちるのかとか、かなり楽しく読めたのです。1日で読んでしまったのもそれを表してます。ただ5段階という長丁場に、著者のほうの気力も途切れてしまったのでしょうか。ステージ4とかは明らかにそれが現れてて、あれ〜?と思ってる間に、このラスト・・・うーん。私は納得できない。3.5点かなあ。といった感じ。途中まではかなりおすすめ、と思ってたのですが、やっぱりヤメ。

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しゃばけ

著者畠中恵
出版(判型)新潮社
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-10-450701-6(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★☆

江戸の大店の御曹司は、体が弱い。そんな彼を守るのは、いろいろな妖たち。そんな彼が、こっそりと店を出たとき、思いがけない事件に遭遇してしまう。

ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作ですが、私は『クロニカ』よりもこちらのほうが好き。少し流れが退屈なところもありますが、妖怪たち大活躍のこの本、なかなか面白いです。大店の御曹司が遭遇する奇妙な殺人事件、しかもその犯人を目撃してしまったから、さあ大変。次は御曹司が狙われるんじゃないかと心配する周りの妖怪。その妖怪たちがなかなか笑えます。特に鳴家がお気に入り。実際いたら嫌ですけど。

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幽霊船が消えるまで

著者柄刀一
出版(判型)ノンノベル
出版年月2002.2
ISBN(価格)4-396-20734-4(\857)【amazon】【bk1
評価★★★☆

博覧強記、でも生活能力ゼロ。天才なのに、騙されやすい龍之介は、後見人探しのために、従兄弟の光章と共にあちこち旅をする。

龍之介と光章の一行が活躍する連作短編集。内容は本格ミステリなのですが、途中に出てくる「龍之介観察日記」に大ウケ。こんな人、どこかにもいなかったか・・・(^^;。なんかドジさ加減に親近感が沸いてしまいました。一方で、ものすごい知識とそれに伴う推理力で、事件をずばずば解決してしまう天才部分もさえ、ボケボケの言動の前に、天然な雰囲気100%で、楽しんで読めました。キャラ萌えの方には特におすすめ(^^)。

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世界の終わり、あるいは始まり

著者歌野晶午
出版(判型)角川書店
出版年月2002.2
ISBN(価格)4-04-873350-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

東京近郊で起こった小学生誘拐事件。被害者は皆、身代金要求前に射殺されていた。残忍な事件に震撼する世間。しかし一方で、「自分の子どもが被害者ではない」ことに誰もが安堵していた。最初の被害者と同じ町内に住む富樫修もそんな父親の一人だったが、あるとき驚くべきものを息子の部屋で発見する。それは犯行に使われたと報道された、被害者の父親の名刺だった。

多分ニュースを見ているときって、テレビの中の出来事っていう認識がどうしてもあるものですよね。どんな人でも「自分が当事者でなくてよかった」と思っているはず。いや、そこまで身近に思えるならまだよくて、「自分の子どもにはそんなこと起こらない」って思い込むことだって、そんなに珍しくないはずです。日本はまだまだ平和で、「夜一人で歩くなんて非常識」と思われるほどではないですし、普通に生活していて、殺されるような目にあうのが日常茶飯事なんてことはありません。最近残忍な事件が続いていますけれども、このところ「自分の子どもが被害者ではなくてよかった」って心配じゃなくて、「自分の子どもが加害者ではなくてよかった」って思わなくてはならなくなってきてます。でもこちらはどうでしょう。そう思える人たちってどのくらいいるのでしょう。被害者になることがあっても、自分の子どもが残忍な殺人者になることまで想像できる人がいたら、お目にかかりたいものです。っていうか、そんな育て方をする人なんているのでしょうか。ということは、世間を騒がしている殺人鬼と言われる子どもたちだって、普通に育った子なわけですよね。

厚い壁があると思っていたモノが、紙一重薄さしかなかったことに気づかされた主人公。その苦悩は、思わぬ想像を呼んで・・・というお話。テーマを綺麗に決めれば、もっと社会派的になったと思うのですが、そこは歌野氏、思いっきり壊してくれて、ラストは私にとっては少々不満の残るものでした。それでも、この本はオススメかも。重いテーマの本を望んでる方におすすめ。

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