2001年12月

ミドリノツキ(岩本隆雄) 誘拐ラプソディー(荻原浩)
残響(柴田よしき) 鏡の中は日曜日(殊能将之)
ご近所探偵TOMOE(戸梶圭太) クリスマスの4人(井上夢人)
黒と茶の幻想(恩田陸) オロロ畑でつかまえて(荻原浩)
未来形J(大沢在昌) クロニカ-太陽と死者の記録-(粕谷知世)
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ミドリノツキ

著者岩本隆雄
出版(判型)朝日ソノラマ
出版年月2001.6-10
ISBN(価格)(上)4-257-76936-X(\533)【amazon】【bk1
(中)4-257-76941-6(\495)【amazon】【bk1
(下)4-257-76949-1(\495)【amazon】【bk1
評価★★★

豊野高校の校庭に突如現れた謎の物体。多くの人が抜こうとしても抜けないその物体。しかも地球上に現れた物体はそればかりではなかった。モンゴルに現れた巨大な「塔」は言う。「選ばれし者の願いをかなえよう」と。

学園ものの色が強いファンタジー。きっと高校生くらいに読めばもう少し同調できたかと思うのですが、この歳になって読むと、ご都合主義が目立ってしまって、どうもはまって読めた、という気がしないのが残念です。ご都合主義ならご都合主義で、もう少し敵味方がはっきりしてるとよかったような。ある意味お馬鹿SFに近いものがあるように思うのですが、世界観を描く前にラストまで無理矢理進んでしまったという印象があるのは、3巻でも短かったということなのかな。こういう本を楽しんで読めなくなってしまったのは、ちょっと寂しいかも。

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誘拐ラプソディー

著者荻原浩
出版(判型)双葉社
出版年月2001.10
ISBN(価格)4-575-23424-9(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★★

前科数犯。何度目かのお勤めの後、頑固オヤジに拾われて少しは真面目に働いていたのに、またしてもオヤジを殴って逃げてきてしまった。もう死のう、そう思っているところに現れた「金持ちらしい」少年。そして彼の思いついたことは・・・

最初『大誘拐』みたいな話かと思って読み進んでいったのですが、方向はどんどんずれてかなり笑える痛快誘拐小説に。次々判明する「とんでもない」事実に、刑務所で聞いた「誘拐の大原則」を思い出しつつも奮闘する伊達秀吉。彼の運命やいかに。「不覚にも涙するノンストップユーモアクライムストーリー!」という帯と、あまりにそっけない装丁に思わず手が出た1冊でしたが、これが当たり!でした。面白さでは今年no.1かもってくらいの勢いです。超おすすめ。

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残響

著者柴田よしき
出版(判型)新潮社
出版年月2001.11
ISBN(価格)4-10-402653-8(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

元夫から受け続けた暴力の所為で、「過去の声」を聞くという特殊能力を身に付けてしまった鳥居杏子。警察に依頼されるままにいろいろな現場の「過去の声」を聞くことになる。

連作短編集。「過去の声」とそれに付随する暴力の記憶。その「過去の声」を聞くことによって解決するミステリでもありながら、一方で「過去の声」との折り合いを自分なりにつけていくことで、自分にとってトラウマとなっている元夫との結婚生活を清算していこうとする女性の成長物語でもあります。超能力系の話は、よく宮部みゆきが書いてますけど、それと比べてしまうとその能力の枠が曖昧で、DVによって引き起こされた過去の声という前提がどんどん変質してしまうのが気になったかも。ただその「変質」が、女性の成長物語のほうの説明にもなっているわけで。無理矢理ミステリにしなくてもよかったかなという印象を受けました。でもラストが美しいから★4つ。

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鏡の中は日曜日

著者殊能将之
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-06-182222-5(\820)【amazon】【bk1
評価★★★★

14年前、鎌倉の梵貝荘という奇妙な建物で起こった殺人事件。事件は名探偵・水城によって解決されたはずだった。14年後、未完の小説『梵貝荘事件』に終止符を打つため、編集者が名探偵・石動に調査を依頼する。

14年前の「解決」は、真実だったのか。そして、『梵貝荘事件』は何故未完なのか。小説をめぐる本格ミステリ。毎回新しい仕掛けを提供してくる殊能将之。今回も本当に面白い。こういうのって回りくどくて飽きてしまうものも少なくないのですが、この本がテーマとしているのが何なのか、私は最後まで見抜けず。だから余計に面白かったかな。だんだん本格ミステリを読む量が少なくなってますけど、この人の本はまだ当分読みます。おすすめです。

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ご近所探偵TOMOE

著者戸梶圭太
出版(判型)幻冬舎文庫
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-344-40181-6(\495)【amazon】【bk1
評価★★★☆

売れない女優トモエと、売れないイラストレーター勝雄は埼玉のニュータウンに住むラブラブ新婚カップル。平穏な日々なはずだったのに、何故か最近周りで覚醒剤騒ぎが多発していた。

気分爽快戸梶の爆笑小説。気の強いトモエと、トモエについて回っている旦那の勝雄。スーパーで起こるとんでもない事件のお話ですが、まあストーリーは結構どうでもよくて(笑)、この文章だけでも戸梶はいいです。笑えます。電車の中で読んでいて、何度噴出しそうになったことか。最近笑いが足りない方におすすめ。

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クリスマスの4人

著者井上夢人
出版(判型)光文社
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-334-92350-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

あの男は1970年のクリスマスに死んだはずだった。バカ騒ぎの後に突如起こった交通事故。4人の目の前で死んだはずの男。そして謎の200万円。目の前にいる男は一体誰なのだ。

10年ごとに集まる彼らの前に起こる、奇妙な事件。さて真相はいかに。というストーリー。なんだか読んでたら怖くなってしまいました。連載が1年おきだった所為で、掲載紙のほうがなくなってしまい、別の雑誌に結末が掲載されたとどこかで読んだのですが、もっと続く予定だったのか、それとも無理矢理結末にしたのか、ちょっと微妙だなーと思った至第。読んだ皆さん、どう思いました? いずれにせよ、面白いのは間違いなく、おすすめっていうのは変わりません。

実はこのストーリーを更に謎たらしめている奇妙な事実があって、私はそっちのほうが興味があったり。

以下微妙にネタバレなので、読みたい方は反転させてください。
この本を読んで、「ラストサマー」を思い出した方も多いはずです。4人の男女が、パーティの後に、全く知らない人を事故で殺してしまう。そして、彼らは事件の隠蔽のために、死体を隠す。正にこの出だしのストーリーそっくりです。しかし、この本の第1章(「1970年」)が雑誌「EQ」に掲載されたのは1997年5月、「ラストサマー」がアメリカで公開されたのは1997年10月で、こちらのほうがオリジナルなのです。もうひとつ、宗教団体と、その事件を扱った『ダレカガナカニイル・・・』が発表されたのが1992年、ある宗教団体が事件を起こしたのが1994年。実はこの本にかかれているのは事実だったりするのでは・・・と思ったのは、私だけでしょうか(絶対私だけ)。

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黒と茶の幻想

著者恩田陸
出版(判型)講談社
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-06-211097-0(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

同窓会でしばらくぶりに出会った4人。彰彦はその4人で非日常的な旅行へ行こうと言い出す。幹事・彰彦の出した旅行への宿題。「謎を考えてくること」。それぞれは、それぞれの過去の謎を解き明かそうとするが。

それぞれの章は悪くないと思いますし、謎解き部分とかは面白かったりもするのですが、長編としてみるとどうでしょうね。一貫した謎というのが、他の謎にくらべてこの長さを支えるのには小さかったかなと思うな。連作短編でもよかったのでは。連載ものって、やたらと長いくせに終わらない、みたいなの多いですよね。

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オロロ畑でつかまえて

著者荻原浩
出版(判型)集英社文庫
出版年月2001.10
ISBN(価格)4-08-747373-2(\457)【amazon】【bk1
評価★★★★

東京都の6分の1にも及ぶ広さをもちながら、人口わずか300人の山奥の過疎の村。どうにかして過疎を食い止め、村おこしをしようと思い立った青年会の面々。お金を集めて東京の広告会社に依頼をするが・・・。

たまに旅行に行くと、こんなところにも人が住んでるんだなと思ったりします。そういうところで過ごすのってどんな感じなんでしょう。通勤ラッシュに揺られて1時間のところに住んでも、狭い家にしか住めない首都圏とは、全然違った時間と価値観があるんだろうなーと思うのです。でも人間というのは無いものねだりをするもの。そういうある意味贅沢な空間も、どうにかして人の来るにぎやかな街にしたいと願うわけです。ふるさと創生資金とかで、なーんにも無いところに、すんごい建物がまるで廃墟のように建ってたりすることがありますが、そんな風に力の入れ方を間違えると、ただの無駄遣いになってしまう地域活性化を引き受けたのは、もう次の決済をなんとか乗り越えないと、倒産という危機に見舞われている三流広告会社。さてさて、結果はいかに。ユーモアあふれるストーリー。楽しい気分にさせてくれる本でした。おすすめ。

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未来形J

著者大沢在昌
出版(判型)角川文庫
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-04-167120-5(\381)【amazon】【bk1
評価★★★

お互いに知らない男女4人がメッセージを受け取った。差出人は「J」。指定された公園に集まった4人と通りかかった少年1人。Jは、自分が誰かを探して欲しいという。

インパクJ-PHONEパビリオンで連載されていたウェブ小説。結末を公募したり、クイズをやったりと実験的な色合いが強かったせいか、どっちへも持っていけるようなストーリーで、いまいちはまりこめず終わってしまったという印象。ウェブで読んでいればよかったのかも。

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クロニカ-太陽と死者の記録-

著者粕谷知世
出版(判型)新潮社
出版年月2001.12
ISBN(価格)4-10-450601-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

教会で手伝いをするアマルは、町に巡察使がやってくることを知る。祖母チャカラにその話をすると、顔色を変えた祖母は、アマルを連れて祖先が祭られるある場所に行く。

小説と言うのかなあ。これは。本当に「クロニカ」なのでした。文字をもたない民族の、ミイラを通して語られる過去。ミイラの語りは面白かったのですが、妙に現実に戻されてしまうところが、好き嫌いの分かれるところかもしれません。歴史系瀬名秀明っぽいかも。

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