2001年09月

The S.O.U.P (ザ・スープ)(川端裕人) 虚貌(雫井脩介)
ふたたびの虹(柴田よしき) 心の砕ける音(トマス・H・クック)
エール(鈴木光司)
<<前の月へ次の月へ>>

The S.O.U.P (ザ・スープ)

著者川端裕人
出版(判型)角川書店
出版年月2001.8
ISBN(価格)4-04-873315-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

ある日、ネットワークに大規模な経路障害が発生した。クラックされたホームページに、「経路障害を起こしたのは我々であるという」犯行声明が。EGGというネットワークテロ組織は、実体も構成人数も把握されていない。ネットワークゲーム「S.O.U.P」の作者として知られ、その技術力から魔法使い(ウィザード)と呼ばれる周防は、EGGを追いかけようとする。

こうして毎日ネットワークにどっぷり浸かって生活していると、この回線は、私にとってある意味ライフラインに近いものがあります。実際ネットワークが混乱すれば、私は仕事もできないですし、家に帰ってきても不安が増すでしょう。しかし、日本でのインターネット草創期から、インターネットに接続している人間としては、このネットワークが「善意」によって成り立っているのもよくわかっていますし、その脆弱性を何度も目の当たりにしてきたのも事実です。

いつのまにか人々の生活の中に浸透したインターネット。こういう大規模犯罪が簡単にできてしまうのに、それへの依存度は日に日に高まっているように思えます。ネットワークを日常的に使っている人には、恐ろしくも面白く読める小説に間違いなし。特にゲームの世界も知っていると更に楽しめるでしょう。私としては、もう少しサイバーウォーズ的要素を強くして、娯楽性が高くてもよかったかなと思えましたが、そうしなかったのが川端裕人らしい、と言ってしまってもよいかもしれません。おすすめ。

先頭へ

虚貌

著者雫井脩介
出版(判型)幻冬舎
出版年月2001.9
ISBN(価格)4-344-00113-3(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★☆

勝手に取っていた内職がばれ、退職させられた3人。その腹いせに、社長の家を襲撃。社長夫妻は死亡、娘は半身不随、息子は顔に酷いやけどを負った。そして3人は刑に服すが、主犯格と断じられた一人が出所したとき、一人、また一人と犯人が殺されていく。

つくりも丁寧で、全体に流れる鬱な雰囲気も良いとは思うのですが、推理小説としてみると物足りないし、犯人側から見た犯罪小説としてみると、何かこうスピード感が足りない感じが。そうは言っても、前作『栄光一途』もそうでしたが、読みやすさという点では、かなりいいと思いますね。しかも、同じような路線ではなく、全然違う小説にしたところも、これから楽しみという気がします。この作家は要注目ですね。

先頭へ

ふたたびの虹

著者柴田よしき
出版(判型)祥伝社
出版年月2001.9
ISBN(価格)4-396-63198-7(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

丸の内にばんざい屋という京料理屋があった。そこは一人で夕食を食べたくない常連客たちで、いつもにぎわっている。ばんざい屋名物は、なんといっても美人の女将。特に客に干渉することもなく、自分のことを話すでもない女将の不思議な魅力に人々は毎晩ばんざい屋を訪れるのだが。

連作短編集。柴田よしきは本当にいろんなジャンルを書く作家だと思うのですが、私のイチオシはこういう切ない恋愛小説。この手の小説を書かせたら、本当一級品ですね。『桜さがし』がお好きな方は、是非是非読んでみてください。ある意味ベタな話ではありますが、きっと気に入るはず。私はこの本をあまりに集中して読んでいて、降りる駅の2つも前で電車を降りてしまいました。こんなお店があったら私も訪れたい、と思うような『ばんざい屋』と、その女将をとりまく人々の心あたたまる物語。おすすめです。

先頭へ

心の砕ける音

著者トマス・H・クック
出版(判型)文春文庫
出版年月2001.9
ISBN(価格)4-16-752784-7(\581)【amazon】【bk1
評価★★★★

弟を刺殺死体で発見した。時を同じくして弟が「運命の女」と信じていた女が消えた。兄はその女の行方を捜し始める。

クックの描く世界は、よくあるストーリーでも、何故か重苦しいものがありますね。ロマンチストの弟と、現実主義の兄。その二人が出会う「運命の女」。女が現れてから、弟が殺されるまでの「過去」、そして、弟が殺されてから、兄が女を捜す「現在」が混在するストーリーは、結末が見えていながらも、続きが気になる展開でした。クックファンにはおすすめ。

先頭へ

エール

著者鈴木光司
出版(判型)徳間書店
出版年月2001.9
ISBN(価格)4-19-861410-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★

「私はこれまでの人生で本気で闘ったことがあるだろうか?」・・・担当作家の「格闘ものをやりたい」という言葉に触発され、ふとそんなことを思った編集者の梅村靖子。勝ち負けだけの世界で闘ってきた、様々な人々と出会うことで、彼女は成長していく。

帯に「著者初の本格恋愛小説」と銘打つなら、連載されたままではなく、もう少し手を入れてもよかったんじゃないかと思える中途半端な出来の1冊。1日で一気読みできてしまう内容と長さというのは良しとしても、通して読むとかなり不満の残る内容です。2児の母親ながら未婚のルポライター、格闘技を初めて取り上げようとする理系小説家、そして最後の死闘へと向かう、格闘家。どれも魅力的人物且つ面白いテーマなのに、どれも片足をかけただけで話が進んでいってしまい、ラストも尻切れトンボ。ちょっとやる気あるの?という感じの小説でした。。。この作家、もしや『リング』で力尽きてしまったのか?

先頭へ