浅草的文学・Part1

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浅草は東京の心臓――。
浅草は、人間の市場――。

川端康成の『浅草紅団』には、こう書かれています。
この小説は昭和初期の浅草の不良少年たちを描いて、多くの「浅草もの」小説の先駆的作品となりました。

川端康成というと『雪国』や『伊豆の踊り子』の印象しかない人も多いようですが、昭和4〜5年には上野桜木町に自宅をかまえて毎日浅草に通い、『浅草紅団』をはじめ『浅草の九官鳥』『浅草の姉妹』といった浅草シリーズを書きました。
でも、この一連の浅草小説は今では(たぶん)全集でしか読めなくなっています。文庫で出してほしい !

浅草を歩く川端夫妻。なかなかオシャレなカップル。




同じ頃、やはり浅草を舞台に、川端とはまったく別の怪奇幻想の世界を作り出した作家がいます。言わずと知れた探偵小説の巨匠、江戸川乱歩です。
浅草十二階(凌雲閣)を舞台にした『押絵と旅する男』は有名ですが、他にも『蜘蛛男』『人間豹』など、10作を越える作品に浅草が登場します。
浅草という街なしには、乱歩の幻想は生まれなかったといっても過言ではありません。


昭和6年の『江戸川乱歩全集』(平凡社)の広告。コピーに注目 !



さて、浅草の人々を描いた代表的な小説のひとつに必ず数えられるのが、高見順の『如何なる星の下に』でしょう。昭和13年頃、浅草のアパートを仕事部屋にしていた高見順は、孤独な視線で踊り子や芸人の横顔を描きました。
西浅草に今も残るお好み焼き屋「染太郎」の命名者でもあります。この店は『如何なる星の下に』の中心舞台となりました。
「染太郎」にはの記念の品々がある。タレント高見恭子の父。




浅草にゆかりの小説家は、永井荷風を始めまだまだいるのですが、外国人も登場させましょう。

エドワード・サイデンステッカーは浅草とも日本文学とも縁の深かったアメリカ人です。1947年に外交官として来日しましたが、のちに日本文学研究の大御所となり、川端康成などの作品を英訳しました。
『東京 下町 山の手』というエッセイは、日本についての驚異的な知識と愛着にあふれていて読みごたえがあります。
浅草をこよなく愛していたようですが、浅草の良さも悪さも見通した本格的(?)な愛情には脱帽させられます。
『東京 山の手 下町』は永井荷風に捧げられている。



(参考文献/『浅草の百年』/神山圭介『浅草ラビリンス』ポチ/『浅草――その黄金時代のはなし』高見順編/『東京下町山の手』サイデンステッカー/『人間豹』江戸川乱歩/別冊太陽「乱歩の時代」)

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