6AQ5 島田式cspp アンプ






  前作の6BQ5島田式CSPPアンプは、

 有り合せトランスで組んだので人並みの音が

 出れば上々と思っていたのですが、あるオフ

 会で披露したら、試聴された方から「6BQ

 5でこれほど良い音が出るとは!」と、お褒

 めのお言葉を頂戴し、思わぬ好評に気を良く

 して第二段を製作しました。

  今回のOPTはチョロQトランスで、DE

 PP換算では12kΩなので、それに合わせ

 て出力管を6AQ5にしました。

 長期在庫のトランスは他にもあったので回路自体は以前から考えていたのですが、裸トランス搭載の美

しくないアンプを続けて作っても仕方が無いかと躊躇していました。しかし、ありふれた五極管6BQ5

を使ったのにも拘わらず思わぬ好評価を頂戴したので、さらにありふれた6AQ5ならどうだろう! と

俄然製作意欲が湧いてきたのです。6AQ5は、今ではほとんどオーディオアンプで使われる事もない球

ですが、このアンプで人並みの音が得られたら、長期在庫トランスを整理しつつ、チョロQプロジェクト

で使って以来ずっと眠っていた6AQ5も活かせると思ったのです。

 という訳でシャーシ上は裸のトランスが並んで見苦しいのですが、せめてもの努力でシャーシをライト

ブルーに塗装しました。このPTは本来縦型のものを誘導ノイズ対策で伏型に取り付けたのですが、二次

巻線が上面から出ているので天板を被せる事が出来ないのです。さらにブロックコンは不揃いですしOP

Tも裸ですから見た目は最悪ですね。しかし手持ち部品の整理も目的の一つなので、外観には目をつぶり

OFF会にも持ち込まず、自分一人で聴いている分には良いだろう思っています。

 と言いながら、冒頭に写真を貼ってしまいました。・・・笑ってやって下さいな。




 回路的には前章の6BQ5島田式CSPPアンプと同じ島田式CSPPなので説明は省きますが、ただ

ドライブ段には6211を使っています。この球は12AU7と12AT7の中間のような特性の球で、

当初は12AU7を使ったのですが、利得が低い為に初段が苦しくなっていたようで、歪率特性が良くな

かったのです。そこで5割ほどμの高い6211に変更する事でドライブ段の利得を上げました。さらに

簡単なDCバランス回路も入れていて、図の上側に電流の少ない球を挿せばDCバランスを取る事が出来

ます。電源部は前章と同じジャンクPTを使った6倍圧の両波整流回路で、やはり同じような回路ですが

今回はバイアス用の負電源も同じ巻線から取り出しています。またB電圧が低いので、使わず余った巻線

をヒーター用にまわして不足分に小型ヒータートランスを追加しています。


諸 特 性


 クリップ点はチョロQアンプ

り早いようで、動作点はほぼ同じ

ですが、チョロQトランスはDC

Rが大きいので、設定インピーダ

ンスを下げるとOPTによるロス

が大きくなって来るようです。

 それでも特性曲線は大体揃って

いて、さらに低域の歪率も誤差の

範囲程度の差で、DCバランス回

路が効を奏しているようです。



無歪出力5.0W THD0.75%/1kHz

利得 16.7dB(6.8倍) 1kHz

NFB  9.5dB

DF=9.5 on-off法1kHz 1V

残留ノイズ 0.20mV




 次に周波数特性で、左右どちらでも100kHz付近に大きなディップがあります。このOPTはチョロ

Qトランスの並品を使ったのでトランス単体の実測特性でもやはり同様のアバレがあったもので、並列使

用でも素性が出てしまったようです。しかしARITOさんが一つ一つ実測してペア組してくれたお陰で

CSPPで使っても左右の特性が揃うのです。あらためて感謝ですね。

 ただ落ち込んだ後にまた盛り返しているので、ディップを無視すれば高域が200kHz付近まで伸びた

広帯域アンプとなりますが、これは並列接続のもう一方のOPTが落ち込み後をカバーしているのではな

いかと思います。なお、安定度に問題はないようなので補正は入れませんでした。

 最終的な高域特性としては、厳密に見ると10Hz〜88kHz/-3dBとなりました。




 それは方形波応答にも表れていて、8Ω負荷ではディップの影響で少し乱れていますが、負荷開放はほ

とんど乱れのない波形を示しています。NF量が違いますが、Quad式アンプの時には補正が必要だっ

た事を考えると、高域の伸びないOPTを使う場合には、本機のように強力なKNFを掛けて高域を大き

く伸ばせば、前段に五極管やFETを用いても補正無しで済むようです。




 一方、島田式CSPPではタスキ掛けCが擬似電源となるために、このCの容量が少ないとクロスオー

バー歪の発生する恐れがあります。本機では手持ちの関係で47μFと今までより少ない容量なので、念

の為にクリップ後の波形で段差の有無を確認して見ました。

 これを見るとクリップ後の台形波になっても、クロスオーバー付近の段差は現れず良好な繋がりを見せ

ています。負荷インピーダンスが3kΩと高い事が今度は良い方向に働いたものと思います。(標準動作

例よりRLを高くしているので、A級動作に移行していてクロスオーバー歪が出難い状態になっていた)

なので、もう少し無信号時の電流を絞っても良いようです。




 実際に音を聴いて見ると、高域のディップは気にならず素直に伸びているように聴こえますし、低域に

付いてもチョロQトランスを使った過去のセットとは段違いの伸びが感じられます。左記のセットなどは

三結の上にKNFを掛けているので、低域に関しては、かなり有利に働いていると思ったのですが、今回

のセットは低域がさらに伸びているようなので、やはり波形観測で確かめて見ました。

 クリップ出力の5Wの正弦波を入れて周波数を下げていった物で、通常のDEPPなら波形にならない

20Hzでも40Hzとほとんど変らない波形を示しています。

 本機のOPTは50Hz/5W定格のチョロQトランスの並列使用で50Hz/10Wですが、それで

も「磁束密度は1次電圧に比例し、周波数に反比例」なので、通常の場合だと20Hzでは1.6Wの定格

しかない事になります。ところが以下の画像のように20Hz/5Wの波形でも乱れる事なく送り出され

ていて、CSPP接続とした効果により優れた低域伝送能力がある事を示しています。




 前章の6BQ5CSPPとの比較では、特性的には半分の出力で、音的にも6BQ5CSPPアンプに

は及ばないようです。この違いの理由としては、今回の6AQ5は6BQ5に比べると球のgmが高くな

いので、KNFの効きが緩いのではないかと思います。それならドライブ段にブートストラップを掛けな

ければ良いのですが、電源電圧が出力段で制限されているので、ブートストラップを掛けなければ出力管

をフルドライブ出来ないのです。

 ただ、こんなセットでもCSPPらしい音が出ていますし、普段BGM的に聴いている分には充分な音

質ではないかと思います。また6AQ5の高負荷動作なので消費電力も発熱も少なくて、このセットなら

夏季以外は気楽に聴いていられそうです。


 雑 感

 このように島田式のアンプを二作続けて組んで見て、CSPPでも島田式なら市販のOPTが改造する

事も無く使えるのですが、ネット上でも出版物でも元祖の島田先生以外の作例は皆無という状況でした。

やはり前提となる回路の理解が難しいようで、私の場合は「イワシ頭で考えるより手を動かそう!」主義

なので、とりあえず試作して見たところ、諸先輩方から大変有意義なアドバイスを頂戴して、実機を作り

ながら理解を深めていったというのが正直のところです。

 もっともMJ誌等の執筆者の先生方でも、CSPPをきちんと理解している方は少ないようで、島田式

ならバイファラートランスが無くてもCSPPアンプが組めるのに、今まで記事として発表された事がな

いのは・・・・要は理解できなかったから? そんな事はないかも知れませんが、十年一日の如く似たよ

うな回路のアンプばかり掲載していたら、そう思われても仕方ないように思いますね。





ドライブ段をチョーク負荷に変更


  先にも述べたように、本機の出力段は高R

 L動作なので必然的に出力段のドライブが難

 しくなっていて、ブートストラップを掛けて

 いますが出力を上げると歪も上昇してしまい

 ます。そこでARITOさんからドライブ段

 をチョーク負荷にしてはとのアドバイスを頂

 き、有難い事にドライブ段用のチョークも巻

 いて頂いたので、さっそくチョークドライブ

 に変更してみました。




  チョークはシャーシ内には入らなかったの

 で、ご覧のようにタコ糸でOPTの上に縛り

 付けました。何ともみっともない外観ですが

 仮付けという事でご容赦です。

  さっそく音を聴いてみたところ、主観では

 ありますが、かなり良くなったように思いま

 す。音が活き活きとして、それでいて清々し

 さは失われていません。とにかく心地良い音

 という印象がします。

 なお、先に述べたように当初はドライバー段には12AU7Aを挿していたので、以下のデータはこの

12AU7Aを使った回路のものです。

 その変更点としては以下のようになりました。と言ってもブートストラップを止めてドライブ段の電流

を増やしただけです。当初はグラフに定規を当てて何ミリ流すか決めたのですが、実際に歪率を見ながら

変化させたら3mA付近が低歪でした。ARITOさんから「特性はあまり良くない・・・」と言われて

いたのですが、やはり気になって最低限の特性を採って見たのですが、

 DFは当初6.7が10に増え、F特は上が56kHz/-3dB と下がりました。



 本機はNFアンプですから、チョークが入った事による安定度が気になり、さらに10kHzの方形波

応答も確認してみました。この波形からも高域が下がっているのは確認できますが、波形の立ち上がりの

乱れは以前からですし、負荷開放でも大きな乱れは見られず、二段に渡ってLが入っているにも拘わらず

当初心配された安定度に問題は無いようです。



 チョークの基本特性についてはARITOさんの作例ページが詳しいので、そちらをご覧下さい。

http://www.za.ztv.ne.jp/kygbncjy/tubeamp/25E5/25E5_CSPP.htm

 これによると、本機のように出力段のグリッドリーク抵抗が470kでは大きいようで、ドライブ管の

12AU7Aが低負荷には不向きなので抵抗値を変えませんでしたが、このチョークの負荷としては本来

なら100kΩ以下が適しているようです。


 そして問題の歪率特性ですが、

これはチョークドライブの効果が

はっきりと出ました。

 上昇に転じてからのカーブが緩

やかになって全体的に低歪になり

ました。小出力側でやや数値が高

いのは、チョークの金具がアース

から浮いているのが原因ではない

かと思います。

 なにしろ杉板とタコ糸で留めて

いる物ですから、仮留めと言う事

で大目に見てください。

 なお青色の特性曲線も、既に述

べたようにドライバー段に12A

U7を使った場合の歪率です。



 続けて次も歪率特性で・・・


数値ばかり追いかけてないで、ま

あ音を聴きなさい! って言われ

そうですが、さらに低域と高域の

歪率も見てみました。

 チョークを入れた影響もあって

図にしてみると1kHzの特性よ

りは悪いのですが、歪率自体はそ

れほど悪いという事ではないと思

います。事実、出てくる音は高域

の粗さなんか感じさせませんし、

まして歪っぽさなどは微塵も感じ

られませんでした。

 さらに出力段のグリッド抵抗を

100kΩ以下とすればチョーク

の特性が平坦になり各特性曲線も

揃うようになると思います。




 雑 感

 しばらくはこのまま聴き続けるつもりでしたが、その後どうするか迷いが出てきました。当初は三極管

の12B4Aと組ませるつもりだったのですが、これだけ音が良くなるのなら、もっと本格的なセットで

使いたいという欲が出てきたのです。

 例えば、ほとんど聴く事のない以下のセットをバラして、このセットに載せていたOPTの再活用を図

れたらと思っています。

http://www.asahi-net.or.jp/~cn3h-kkc/claft/ecl805cspp.htm

 というのも出力管のカソードがアースから浮いてしまう全段差動とかCSPPとかは、複合管では必ず

補正が必要になって相性が悪いと思うようになりました。上のセットで使われているOPTは、私の記念

すべきバイファラートランス第一号なので、このまま眠らせてはおくには忍びなく、今回のチョークと組

み合わせて復活させたいと思っています。

 さらに出力管にはcsppでは誰も使った事のない6080を使ってみようかと・・・ただでさえドラ

イブの難しい球なので、ある意味、禁断の組みあわせかも知れませんがね。