ECL805cspp アンプ






  前章のCSPPアンプも一応の完成を見た

 のですが、ドライブ段からブートストラップ

 を掛けてドライブしていた為に、出力段のK

 NF効果が緩められてCSPPアンプらしい

 音が得難いという弱点がありました。そこで

 ブートストラップを止めて高電圧ドライブと

 し、さらに出力管を変更して、より高出力を

 狙ってみました。新しい球はECL805で

 6GV8の欧州名の同等管ですが、五極管ユ

 ニットの内部抵抗が低く1次側インピーダン

 ス5k程度のOPTに適しています。

 出力管を変更してみようと思ったのは、以前の特製OPTを他のセットに流用してしまったので本機に

は市販のOPTを載せたのですが、そのOPTの仕様で負荷インピーダンスの低い出力管の方が相性が良

かったからです。ついでに初段も2SK170に変更して高利得動作をさせ、トータルNFを増やす事で

更なる特性の向上を狙ったのですが、これは利得を欲張りすぎて不安定になってしい、残念ながらソース

に抵抗を入れて利得を下げる事になってしまいました。当初は600倍を超える利得を得ていたので、さ

すがに一段でこれほどの利得を欲張ると(初段とドライブ段はカスコート接続なので回路的には一段動作

となる)あちこちで信号の飛び付きが起きて使い物になりませんでした。それでソースに抵抗を入れる事

で利得を350倍程度に下げたのですが、ここは始めから2SK117にするか、あるいは電流を絞って

負荷抵抗値を上げれば2SK30GRでも使えると思います。

 電源部は、上記のようにドライブ段を高電圧動作としたので出力段より電圧の高い電源が必要なので、

倍圧整流によって高電圧を得ています。この電源は半波整流になっていますが、平滑抵抗により50V以

上の電圧降下で平滑しているのでリップルの心配はありません。さらにDCバランス回路も変更していて

この方式だと調整ボリュームが接触不良になってもバイアス電圧が途切れる事はありません。なお調整時

には電流の少ない球を上側に差して調整すればバランスが取れるようになっています。このボリュームの

位置によってバイアス電圧が微妙に変化しますが、同じマイナス電源から初段のマイナス側電源も取って

いるので、それが有効なブリーダー電流となってバイアス電圧の変化はほとんど無視できます。

 一方、FETの変更により利得が大幅に上がった為に、NF量も増えて負荷解放では発振してしまった

ので、その対策の為に積分補正を掛けています。

 という事で以下のような回路になりました。




 出力管について、日本ではブラウン管テレビの垂直出力用としてヒーター電圧違いの18GV8が多く

生産されたので、中古の球を持っている方も多いのではないかと思いますが、今回の電源トランスのヒー

ター巻線では電圧不足なので6GV8を使う事にしました。この球の欧州名がECL805で、扱い易い

ので18GV8よりも割高になっていますが、18GV8でも5Vのヒータートランスを追加すれば汎用

の電源トランスが使えるので、この方法の方が割安かも知れません。(6.3V+6.3V+5V=17.6Vで点火)

 この出力管を使う上での注意点としては、高感度管なのでコントロールグリッドにもスクリーングリッ

ドにもパラ留め抵抗が必要です。私も当初はこれを入れ忘れた為に、弱い寄生発振に悩まされてしまいま

した。ソケット周りが混雑する複合管の所為なのか個別の出力管を使った時よりもナーバスになるようで

パラ留め抵抗等の「出力管を扱う上でのお作法」はきちんと守った方がトラブルを避けられるでしょう。

 ちなみにアイドリング電流は1本あたり約24mAで、OPTのカソード側巻き線のDCRは上下とも

68Ωで揃っているので、カソード電位が1.6Vとなるようにバイアス調整します。

 話を戻して当機の電源トランスですが、ヒーター巻線が一つしかなく、ここからバイアス電圧も取って

いるので、片側のヒーターは6.3Vだけアースから浮いてしまうのです。そこで電源トランスから遠い

右chを浮いている側として、左右のノイズ量を合わせようとしたのですが、それでも右chの方が残留

ノイズが少なかったので、残留ノイズの中身としては誘導ノイズが多いようでした。


諸 特 性


 歪率カーブは以前の回路とも似

ているのですが、NFが増えた為

か全体的に低歪になっていて、高

電圧ドライブのお陰でブートスト

ラップを外しても、出力段を充分

にドライブ出来ているようです。

 大きく変わったのはDFの値で

以前の回路でも五極管としては優

秀な値でしたが、本機では更に倍

増していて音質的にもかなり良く

なったように思います。


無歪出力15.1W THD2.7% 1kHz

利得 20.8dB(11倍) 1kHz

NFB  11.5dB (3.8倍)

DF=13.3 on-off法1kHz 1V

残留ノイズ 0.12mV


 次に周波数特性は以下通りで、補正が効き過ぎたのか上が100kHzを下回ってしまいました。数値で示す

と10Hz〜86kHz/-3dBとなりますが、それでも高域にアバレ等は無く素直に減衰しています。





 最後に方形波応答をみると、回路を見直したお陰か、今回は以前の回路では抑えられなかった寄生発振も

見られず、また補正も有効に効いてるようで負荷開放でも整った波形を見せています。




 ただ全体的に利得が多めでNF量も増えた所為か、補正無しでは負荷開放時にどうしても発振を起こし

てしまうので、ドライブ段の積分補正は外せませんでした。またある程度のNFアンプではOPT2次側

に作法としてゾベル補正を入れるようにしているのですが、当機では出力段の方が高域が伸びているので

ゾベル補正は逆効果のようで、入れると不安定になったので敢えて外しています。


 製 作 後 記

 この以前の回路で寄生発振が見られたのは、当初は複合管の両ユニット間に入っているシールドの所為

かと思い、前後のユニットを上下入れ替えてクロスするように配線して見たのですが、状況に変化はあり

ませんでした。どうやらシールドを疑ったのは濡れ衣だったようで、既に書いたように今回は出力管のコ

ントロールグリッドに1kΩとSGに100Ωのパラ留めをそれぞれ入れ、さらに初段の利得を適正な値

に抑えた事が功を奏して寄生発振が観測される事はなくなりました。という事で、今回のアンプ製作では

「どんな時でも基本的なお作法を守るべし!」を思い知らされる結果になってしまいました。

 一方、本機の出力はノンクリップで約15Wでしたが、歪率5%の時だと16W強の出力が得らます。

五極管ユニットのプレート損失が少ない複合管なのに欲張り過ぎと思われるかも知れませんが、カットオ

フ時の過渡応答歪が少ないというCSPPの特性を生かしてアイドリング電流を減らし、無信号時の損失

を6W程度に抑えているので、出力の割には球に無理をさせていません。そしてOPTも1次側5kΩで

の使用時には20Wの容量を確保しているので、出力を上げても気持ち良く聴いていられます。

 という事で、今回の回路では完成に漕ぎ着けるまで紆余曲折があって苦労してしまいましたが、お陰で

完成度の高いセットになったと思います。




注 目 情 報


待望のバイファラー巻きトランスが染谷電子から発売となっています。

ASTR−20の特性表    染谷電子のページへ

 前章でも触れましたが、今回のECL805/6GV8やPCL86/14GW8や、さらに6BQ5

など10W以上の出力で、通常のPP換算で負荷5KΩから8KΩ程度を最適負荷とする出力管に広く適

合するトランスです。

 一つだけ注意が必要なのはCSPP用のOPTですから通常のPPには使えません。ただ上下の巻線を

並列にすれば、SEPP出力のマッチングトランスとしても使えると思うので(未実証)、これは少々勿

体ない使い方ですが、CSPPは荷が重いと思われる方でも後々の応用範囲は広いと思います。

 さらには、体裁の良いケース入りなのも嬉しい限りで、私の場合は割安になるのでケース無しを購入し

自前のケースを製作したのですが、取り付け金具の加工とか外装塗装とか結構な手間が掛かるので、この

ケース入りも価格以上の価値があると思います。このような特殊なOPTが他のメーカーから発売される

事はしばらく無いと思いますので、ぜひチャレンジしてみて下さい。