SF読書録
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1999年 上半期

“キリンヤガ” マイク・レズニック
“プリズナー” トーマス・M・ディッシュ
“タイム・シップ” スティーヴン・バクスター
“キラシャンドラ” アン・マキャフリー
“プダヴの世界” ラリイ・ニーヴン
“星ぼしの荒野から” ジェームズ・ティプトリー, Jr.
“楽園の泉” アーサー・C・クラーク
“宇宙気流” アイザック・アシモフ
“スロー・バード” イアン・ワトスン
“スロー・リバー” ニコラ・グリフィス
“タイタンの妖女” カート・ヴォネガット・ジュニア
“大きな前庭” クリフォード・D・シマック
“永遠なる天空の調” キム・スタンリー・ロビンスン
“スは宇宙(スペース)のス” レイ・ブラッドベリ
“バービーはなぜ殺される” ジョン・ヴァーリイ
“造物主の選択” ジェームズ・P・ホーガン
“友なる船” アン・マキャフリー & マーガレット・ボール
“カエアンの聖衣” バリントン・J・ベイリー
“レッドシフト・ランデブー” ジョン・E・スティス
“オリンポスの雪 〜水と緑の「惑星誕生」ものがたり〜” アーサー・C・クラーク


“キリンヤガ” マイク・レズニック (ハヤカワSF)

アフリカのキクユ族が、 伝統にのっとった暮らしをするために設立されたユートピア小惑星、 キリンヤガ。 そこで、種族の知恵と伝統の貯蔵庫として、民を導こうと日々努力する ムンドゥムグ (祈祷師)、コリバ。 このような土地でも、伝統を保持していくのは簡単ではなく、 さまざまな出来事に対し、コリバは彼の神、ンガイにひたすら忠実に、 孤独な闘いを続けていく。

この本は、コリバの闘い、苦悩を物語る、オムニバス長編です。 各章の物語はそれぞれ数々の賞を受けた名品ですが、なかでも、 “空にふれた少女”は絶品です。 本の前半にこの作品が登場するので、残りが霞んでしまいそうに思うほどです。

“空にふれた少女”は、このユートピアで暮らすには、 あまりにも聰明過ぎた少女、カマリの悲劇です。 コリバの選択は間違いだった、と言ってしまうのは簡単ですが、 それだけでは問題の本質を見ているとは言えないでしょう。 コリバにとっても、 カマリの才能をキリンヤガで理解しているのは自分だけだ、 ということが解っているだけに、 あまりにも辛い出来事だったことでしょう。 (6/24)


“プリズナー” トーマス・M・ディッシュ (ハヤカワSF)

引退を決めた情報部員が目覚めたのは見知らぬ村だった。 その村には名前がなく、また人々は番号で呼ばれている。 そして、彼自身は 6号だという! 彼は当然、誘拐され (手の込んだ) 監禁をされていると思うが、 村の幹部と思しき人物は「君はもともとこの村にいて、しばらくの間、不在だった」 という。 彼はそんな言葉は信じないが、真実はどうやら単純ではなさそうだ。 虚実入り組んだシナリオの正体は一体何なのだろうか?

英国の異色テレビ映画“プリズナー No.6” を元に書かれた小説だそうですが、 映画のほうとはまた違ったものになっているようです。 読み進むのは辛くないんですが、奇々怪々なプロット故に頭は混乱していきます。 そして結末は…。 うーむ、映画版もこんな感じ、いやもっとややこしいのだろうか。

いさましいちびのトースター” と同じ人が書いているとは信じ難いかも^^;。 (6/17)


“タイム・シップ (上・下)” スティーヴン・バクスター (ハヤカワSF)

全てのタイムマシンものの祖とも言える、H.G.ウェルズの“タイム・マシン” の「公認」続編として、ウェルズの遺族の了解をとって書かれた作品です。 “タイム・マシン”では、時間航行家は二度目の旅に出て、 その後帰ってこなかったことになっていますが…。

その二度目の旅へ出る前後から話は始まります。 旅の第一の目的は、もちろん、モーロック族に連れ去られたであろう、 エロイ族のウィーナを救い出すこと。 今度は準備も万端に勇んで出発しますが、 未来へと進んでいると、どうも前回と様子が違います。 穏やかな気候の世界になるはずなのに、太陽が火を吹き、 そしてとこしえの闇夜になってしまいます。 一体何が起きたのだろう?!

ここまでだと、現代の時間ものでは必須の (しかし、ウェルズの時代には思いも寄らなかったであろう) 「多世界解釈」なわけですが、 話はそれだけに留まらず、旅を重ねるごとにスケールが指数的、いや、 それ以上に、壮大になっていきます。 これだけ壮大なのは初めて読みました^^;。 なかなか面白いです。

細かなところでは、「(時間航行家が語った、最初の旅の途中の、 三千万年後の世界で見た太陽の巨大化について) 君の説明する太陽の進化は一見ありそうだけれども、(中略) 何十億年もあとのはずなんだ」なんていう、 現在の科学的知識によるナイスな突っ込みも楽しいです。

ウェルズの他の作品から取り込んだネタも多々含まれる (知らなくても全く問題無いですが)、 読み甲斐のある作品です。 あ、もちろん、“タイム・マシン”を読んでから読みましょう。 (6/11)


“キラシャンドラ” アン・マキャフリー (ハヤカワSF)

クリスタル・シンガー”の続編。 前作では出だし以外は呆れるほどの(^^;)幸運続きだった主人公、 キラシャンドラですが、今回も出だしは不運に見舞われます。 嵐で自分の岩場が崩されてしまったのです。 そのせいで、星外へ出るだけのクレジットが稼げず、 クリスタルの残響が危険なほどに蓄積されていく…。 ボーリィブランから離れる唯一の手段は、 銀河辺境の星で白クリスタルの設置を行う仕事を引き受けること。 しかし、それは同時にギルド会長、ランゼッキとの関係を失うことも意味するのだ…。

引き受けるのがランゼッキのためにもなる、 ということで泣く泣くその仕事を引き受けるキラシャンドラ。 銀河辺境の星で待っているのは…。

何度か絶望的な気分になったり嫌な思いをしたりしますが、 ピンチらしいピンチもないし、 基本的には前作と同じく天賦の才と運とで突き進んでいきます。 どうせなら前作のように呆れるほどにうまく進み続けるほうが、 よりさっぱりしてて良いかも、という気もします。 (5/27)


“プダヴの世界” ラリイ・ニーヴン (ハヤカワSF)

ニーヴン初の長編にしてノウンスペース・シリーズの原点となる作品。 太古の銀河を支配していたスリント人と、 その遺物が納められている停滞フィールドなどの設定がここから登場しています。

最初に見つかった停滞フィールドの中身は、 なんと生きたスリント人そのもの。 テレパシーを持つ人間が、未知なるそのスリント人とコンタクトを取ろうとしますが、 テレパシーはスリント人の十八番であるから…。

最初の長編のためか結構ぎくしゃくしたところもありますね。 張った伏線が活かされていないのでは? と思うところもありましたし。 まあ、でも、先に他のノウンスペース・シリーズの短篇を読んでいたので、 各種設定の起源を楽しく読むことが出来ました。 (5/13)


“星ぼしの荒野から” ジェームズ・ティプトリー, Jr. (ハヤカワSF)

ティプトリーの短篇集、日本では五冊目。 しかし、順番的には、 “たったひとつの冴えたやりかた” の前に書かれたものだそうです。 そう言われてみれば、 “ 故郷から 10000光年”から始まる「猛々しい」系統と、 “たったひとつの冴えたやりかた” の「ファンタジックな」系統の中間にあるような感じもします。

内容は…天使と不動産屋、星への渇望、男と女、異質なもの。 ティプトリーらしく、甘ったるい結末とはほとんど無縁な世界ですが、 それはもちろん、各作品の感慨を増す効果があると思います。

表題作“星ぼしの荒野から”に見られるような、 「結末へ結末へと向かう力」 のようなものもティプトリー独特なような気がします。 (5/6)


“楽園の泉” アーサー・C・クラーク (ハヤカワSF)

静止軌道に乗っている人工衛星は、 公転周期が地球の自転周期に一致しているので、 地球に対して止まっているように見えます。 では、重心が静止軌道に乗るように気を付けながら、 衛星を上下に伸ばしていくと…。 本当はもうちょっとややっこしいんですが、 基本的にはこのような理屈で地球と静止軌道を塔で繋ぎ、 エレベータにより (ロケットより遙かに経済的に) 地上と宇宙との行き来が可能になります。 充分に強靭な素材さえあれば…。

この小説は、この軌道エレベータを建設しようとする男の物語です。 建設予定地となった古代の遺跡を構築した王の伝説も、 話に広がりを添えています。 遺跡も、霊山も、軌道エレベータも、 それぞれ素晴らしい景観を与えてくれる感じのする小説です。

工学的な一大事業を成し遂げようとする話、という意味 (+α) では “グランド・バンクスの幻影” と似た感じの話ではあります (“楽園の泉”のほうが先の執筆です)。 (4/27)


“宇宙気流” アイザック・アシモフ (ハヤカワSF)

特殊で有用な繊維を唯一産出する惑星フロリナに消滅の危機が迫っている − そんな通信を残して、一人の空間分析家が失踪した。 フロリナを有するサークを支配する五人の貴族と、 銀河を席捲しつつあるトランター帝国が、 あわよくばこの事件を利用して膨大な富の源泉・ フロリナを手中に収めようとそれぞれ画策するが…。

そこそこの面白さではありますが、登場人物の堀り下げがいまいちかなぁ、 という気がします。 そのせいもあって、最後の展開にちょっと説得力が足りません。 アシモフの比較的初期の作品だから、というのもあるんでしょうねぇ。 (4/17)


“スロー・バード” イアン・ワトスン (ハヤカワSF)

似たようなタイトルのを立て続けに読みました^^;。 おもちゃ箱をひっくり返したかのように、 いろいろと不思議な世界が登場するファンタジックな短篇集です。 しっかりとした「結末」を迎える話よりも、 不思議な世界のとある場面を抜き出してきたような話が多い感じがします。 そういう意味ではちょっと物足りなさを覚える人もいるかもしれません。 (4/8)


“スロー・リバー” ニコラ・グリフィス (ハヤカワSF)

微生物を用いた汚水処理技術で財を成した大富豪一家の末娘のローアは、 誘拐犯を殺して逃げ出した。 しかし、身代金を払わなかった家族の元へは帰れない。 警察にも行けない。 激しい雨の夜に道端に倒れていたローアは、 たまたま通り掛かったクラッカー (ハッカーじゃないってば) のスパナーに助けられ、 彼女の下で生き伸びるために裏の世界の仕事にも手を染める。 そして、偽の ID を手に入れ、新たな人生を歩もうと勤め始めた下水処理場で…。

勤め始めた下水処理場での話、 スパナーに助けられてから下水処理場で働き始める直前までの話、 幼い頃から始まり、誘拐されて逃げ出すまでの話、 この三つの流れが交錯して話は展開していきます。 多少ややこしくはありますが、よく練られた構成でおもしろいです。

最後に著者付記がありますが、 「普通」の人が出てこないのは作者の想像力の無さではないのか? とちゃちゃを入れたくなります。 あーいうのが普通になっている世界を (作中の世界として) 受け入れるのは SF 読みにはわけないのですが、 「普通」が存在しないかの如く無視されてしまうと、 違和感を感じますね。 それ以外には特に欠陥のない、良い作品ではあります。 (3/27)


“タイタンの妖女” カート・ヴォネガット・ジュニア (ハヤカワSF)

ウィンストン・ナイルス・ラムファードは、 時間的にも空間的にも広がった存在になっていた。 未来も現在や過去と同じように見ることが出来るラムファードは、 大富豪マラカイ・コンスタントに「君は、火星、水星、そして地球へ寄って、 最終的にはタイタンヘ行くことになる」と告げた。 そんな馬鹿な、と笑うコンスタントであったが、彼は富を失い、 記憶を剥ぎとられ、 運命に翻弄されラムファードの予言した放浪をすることになる。 タイタンで明かされるであろう、この大茶番劇の目的は何なのか。

シニカルで残酷な、ばかばかしいような話の奥には、悲しさ、 優しさが見え隠れします。 特にエピローグは暖かです。

意識して選んだわけではないのですが、 二つ前に読んだ“永遠なる天空の調” と同じように、 運命or宿命とそれに抗おうとする人間の姿を題材とした話でもあります。 (3/17)

ワンポイント

・ (←ほんとにワンポイントだ^^;)


“大きな前庭” クリフォード・D・シマック (ハヤカワSF)

“シマックの世界1”とサブタイトルのついている短篇集です。 “2”も“愚者の聖戦”の邦題で出ているはずですが、未確認。 1950年代の作品群なのもあって、とても素朴な雰囲気の漂う話の数々です。

内容的には、人類より進んだ未知の存在との邂逅を扱った話がほとんど、 いや、全部です。 そういう意味では似たような話ばかりなのですが、 それぞれにひねりはあるので、飽きるほどではありませんでした。 (3/10)


“永遠なる天空の調” キム・スタンリー・ロビンスン (創元SF)

数学者/物理学者であるホリウェルキンによって造られた「オーケストラ」 と呼ばれる楽器には、「音楽を演奏する」以外の目的があった。 彼の構築した物理の理論は音楽とよく符合し、故に、 音楽によってこの宇宙を表現することが可能で、 それを表現するという目的があったのだ。 それに気がついた若き天才音楽家、 ヨハネス・ライトは太陽系を横断する演奏旅行において、 その目的を果たそうとする。 しかし、その裏では音楽協会議長や、謎に包まれた宗派の怪しげな動きが…。 果たして、舞台を操っているのは?!

音楽と物理学が符合する、というのはなかなか面白いアイデアですね。 その辺りの架空理論の展開が、ホーガンほどではないですが楽しめます。 話の中心となるのは、この音楽の話と太陽系観光ツアー的な要素ですね。 そして、「この展開は既に決定されていたことだったのか?」という謎、です。 結末は、ちょっと解りづらいような気が。

ああ、火星のオリュンポス山でのコンサートなんて、 想像するだけでも凄そうです。 聴いてみたいなぁ。 (3/3)


“スは宇宙(スペース)のス” レイ・ブラッドベリ (創元SF)

ウは宇宙船のウ”に続く、 ブラッドベリの自選短編集。 “火星年代記” や“たんぽぽのお酒” の一部を成すエピソードの原型もいくつか含まれています。 戦争に明け暮れる地球から火星への脱出、人間の変貌、 宇宙からの侵略などから、少年の日の憧れまで、 ブラッドベリらしい話に溢れています。

ついつい較べてしまいますが、全体的には “ウは宇宙船のウ” のほうが面白いかな、という感じがします。 でももちろん、萩尾望都が漫画化 している “僕の地下室へおいで”や“泣き叫ぶ女の人”など、 面白いものもたくさんあります。

一番気に入ったのは、“透明少年”の結末です。 (2/19)


“バービーはなぜ殺される” ジョン・ヴァーリイ (創元SF)

ジョン・ヴァーリイの短編集。 表題作は、“ブルー・シャンペン” などにも登場する アンナ=ルイーズ・バッハが、全ての個性を捨て去り全ての人々が同じ姿形、 同じ考えを持つべきだとする教団の内部で起きた殺人事件を捜査する話です。 その教団の人々は外科手術によって皆そっくりな外見をしており、 監視カメラの前で堂々と行われ、 犯人がばっちりビデオに映っている殺人にも係わらず、 捜査は困難を窮めます。

このバッハさん、一番最初に収められている短編“バガテル” で最も偉い役職で登場しますので、 おそらくこれがシリーズ中、時間軸的に最も後になるのでしょう。

他には、土星の輪で暮す、人間と共生生物「シンブ」 の結び付きを描く話 (個人的にはこの話がこの本の中では一番気に入っています) や、 身体の改造や、クローン再生した身体への記憶の移植による事実上の不死、 そして気軽な性別の転換が可能になった世界における、 独特の心理を扱った話など、 他の短編集に収められている数々の話 (+長編“へびつかい座ホットライン”) と同じ世界に属する話がいくつか収録されています。

一番後ろに収められている話、“ピクニック・オン・ニアサイド” はヴァーリイのデビュー作だそうです。 (2/14)


“造物主(ライフメーカー)の選択” ジェームズ・P・ホーガン (創元SF)

インチキ心霊術士がタイタンで発見された自己増殖する機械生命相手に活躍する “造物主の掟”の続編です。 帯によると「造物主、襲来!」。そうです、 今度は機械生命たちの原型を造った、造物主(ライフメーカー) が登場するというのです。

造物主の掟” のプロローグによると、造物主たちの文明は百万年前に滅びたはずですが、 彼らはどうやって生き延び、そしてどのようにしてタイタンに現れるのか? そしてザンベンドルフはどうやって彼らと相対するのか? それが読者にとっては最大の関心事でしょう。

敢えて粗筋はこれ以上紹介しませんが、 三部構成で第一部が状況設定のためのタイタンのその後の様子、 第二部が百万年前の造物主の世界の話、 そして第三部で遂に造物主の襲来です。 第一部は状況設定なのでちょっと退屈かもしれませんが、 後へ行くほどおもしろくなります。 造物主たちの質(たち)の悪さがなかなか見物です。 とても疑り深く、ザンベンドルフの技(?)がとても通じそうにない相手なのです。

結末は「本当にこれで大丈夫なの?」という感じでややすっきりしませんが、 前作を読んだ人には十分に楽しめるでしょう。 欲を言えば、もうちょっとタロイドたちに活躍してほしいところです。 (2/6)


“友なる船” アン・マキャフリー & マーガレット・ボール (創元SF)

歌う船”シリーズ、(日本では)第4弾。 原著では日本での 3冊め、 “戦う都市”のほうが後だそうです。

時はヘルヴァの時代から200年近く経ったころ (おそらく“旅立つ船” の時代からもかなり経っていますね。船の番号は 4桁でループするのかな)。 今度は華族 (ハイファミリー) の血を引くナンシアが頭脳船 (ブレイン・シップ) として旅立ちます。 まだ筋肉 (ブローン) も決まらないうちに言い渡された仕事は、 同じく華族の若者たちを銀河の辺境の地へと運ぶこと。 どうってことはない仕事だ、と思いきや、この若者たち、 それぞれの家族のはみ出しもので、 みなそれぞれ邪悪な計画を持っているらしいのを聞いてしまった。 この後、どうすれば良いのだろう?

今回は頭脳船以外の視点から語られることも多く、 ナンシアが本格的に主役を張っているのは、 最初と最後くらいのようにも思えるほどです。 そのせいもあって、中盤はちょっと話が散慢な感じもしてしまいますが、 最後にはちゃんとまとまってくれます。

何度か立ち回りの場面がありますが、 そこでもうちょっと駆け引きで盛り上げてくれればもっと楽しいかな、 という感じでした。 また、今回は題名があまりぴたっとは来ないような気がするのも残念なところ。 でも、まずまずの面白さでしょう。

…最後に、毎度のことですいませんが、それはクラッキングだってばぁ。 (1/26)


“カエアンの聖衣” バリントン・J・ベイリー (ハヤカワSF)

「衣服=意識」という文化を高度に発達させたカエアンで作られた衣装は、 着る者を内面から引き立てる。 カエアンと敵対関係にあるジアードの人々さえカエアン製の衣装には魅了されてしまい、 禁制にも係わらず高額で闇取り引きが行われる。 今、伝説的な名服飾家が最高の素材を使い作った、カエアンでもたった 5着しかない幻のスーツがジアード人のとある服飾家の手に渡った。 しかし、このスーツにはカエアン人も知らない、とてつもない秘密が潜んでいた。

着用したものを変えてしまう服、 というなかなか飛ばしたアイデアを元に、 それが意味するところは何か、を追うように描かれる物語です。 ジアード人の服飾家がメインの場面と、 カエアン領近くで発見された、 スペーススーツを自分の身体と思い込んでしまっている人々の話はどこで交差するのか、 など読ませる構成になっていると思います。 低周波音が充満している惑星など意外性のあるものが、 それなりの説得力を持って描かれているのも良いですね。 (1/16)

ワンポイント

「やくざ坊主」ねぇ… ^^;。


“レッドシフト・ランデブー” ジョン・E・スティス (ハヤカワSF)

光速と距離の縮尺の違う超空間を航行する宇宙船「レッドシフト」 の船内では、(場所によって違うのだが)光は秒速わずか10数m で進む。 そうすると、目に写る風景はほとんどが過去のもの、 ドップラー効果で近付いてくるものは青く見え、遠ざかるものは赤く見える。 その船内で乗客が一人、殺された。 「レッドシフト」全体を考えると「密室」なので犯人は乗客か乗員である。 すぐに捜査が開始されたが、 その事件はさらに大がかりな犯罪への序曲に過ぎなかった。

光速が遅い空間という特性をトリッキーに使ったミステリ or サスペンス、 かと思って読んだら違いました。 最初のほうは結構それっぽいんですが…。 物理的な設定の伏線はちゃんとあとで使われてますが、 それ以外に関しては最初のほうの話を最後のほうではちょっと忘れているような気も。 (1/8)


“オリンポスの雪 〜水と緑の「惑星誕生」ものがたり〜” アーサー・C・クラーク (徳間書店)

表紙に書かれている題名をフルに書くと、 “アーサー・C・クラークの火星探検 オリンポスの雪 水と緑の「惑星誕生」ものがたり” なのですが、長いのでここでは原題 “The Snows of Olympus A Garden on Mars” も考慮して上のような表記とさせて頂きます。

さて、題名からおおよそわかるように、SF ではありません。 うーん、何と言うんでしょう。「火星、 特に火星のテラフォーミングに関するエッセイ」 というところでしょうか。 「ビスタプロ」という景観シミュレーションソフトを用いた火星の風景 (テラフォーミングの過程での変化の様子の想像図も含めて) の図版もたっぷり見られます (ちなみに最近の「ビスタプロ」 だともっとリアルな画像が生成できるはず)。

これといって特筆すべき点もないとは思いますが、 一度は目を通しておきたい本ですね。 新たなフロンティアが、この本に描かれているように発展していくといいなぁ。 フロンティアを切り開こうとする精神はとてもとても大切です。 (1/2)

Contact: aya@star.email.ne.jp.cut_off_here