SF読書録
読書録トップ
作品名索引____
著者名索引____
Garden Menu
Interaction
天空博物館__
SF読書録___
etc.____

1997年 下半期

“宇宙の小石” アイザック・アシモフ
“グランド・バンクスの幻影” アーサー・C・クラーク
“ウは宇宙船のウ” 萩尾望都 (原作: レイ・ブラッドベリ)
“ウは宇宙船のウ” レイ・ブラッドベリ
“老いたる霊長類の星への賛歌” ジェームズ・ティプトリー, Jr.
“もし星が神ならば” グレゴリイ・ベンフォード & ゴードン・エクランド
“スモーク・リング” ラリイ・ニーヴン
“バベル-17” サミュエル・R・ディレーニイ
“地球の長い午後” ブライアン・W・オールディス
“歌う船” アン・マキャフリー
“ブルー・シャンペン” ジョン・ヴァーリイ
“ファウンデーションの誕生” アイザック・アシモフ
“ファウンデーションへの序曲” アイザック・アシモフ
“天使墜落” ラリイ・ニーヴン & ジェリー・パーネル & マイクル・フリン


“宇宙の小石” アイザック・アシモフ (創元SF)

トランター帝国が形成されてまだ日が浅い頃の地球での物語。 この頃、地球の近くは放射能で汚染されていて銀河のつまはじきものになっていた。 地球と、それ以外の銀河系人とのいがみ合いはすさまじく、 地球を支配する者たちの中には銀河系人殲滅を企む者がいた。 そこに、1900年代の地球からタイムスリップして紛れ込んだ一人の男はどう絡むのか?

うーん、その絡み方と最後の展開はいまいち雑ですね。 地球総理兼大僧正はどこいっちゃったんでしょう。 (12/30)


“グランド・バンクスの幻影” アーサー・C・クラーク (ハヤカワSF)

グランド・バンクスとは、あの有名なタイタニック号が沈んでいる場所である。 2012年にはその事件からちょうど100周年を迎える、ということで船体を引き上げよう、 と計画する二つのグループがいた。 双方ともなかなか突飛なアイデアをもって引き上げようとしているが、 さて果たしてそれは可能なのか?

宇宙以外のもうひとつの未知の領域、海。 そこを舞台に、あまり無理のない空想の工学を用いて話が進む “ハード” SF です。 クラークらしい、静かな話です。 (11/24)


“ウは宇宙船のウ” 萩尾望都 (原作: レイ・ブラッドベリ) (小学館文庫)

萩尾望都が描いたブラッドベリの短篇を原作とした漫画の数々。 表題作“ウは宇宙船のウ” の他、“宇宙船乗組員” “みずうみ” などが収録されています。 原作を全て読んでいるわけではないですが、 どれも雰囲気は損なっていないと思います。 でも、“ウは宇宙船のウ” は文章で読んだほうが味わい深いかな。 (11/22)


“ウは宇宙船のウ” レイ・ブラッドベリ (創元SF)

ブラッドベリの短篇集です (これだけでもおおよそ言い尽くしているかもしれない)。 ファンタジーにも近いですが、いろいろと、SF 的なものへの憧れがつまっています。 宇宙への憧れ、太陽への憧れ、星への憧れ、未来への憧れ、太古への憧れ、 少年の日の憧れ、sense of wonder への憧れ…。 (11/9)


“老いたる霊長類の星への賛歌” ジェームズ・ティプトリー, Jr. (ハヤカワSF)

ジェームズ・“アリス・シェルドン” ・ティプトリー・ジュニアの 第三の短篇集 (これで早川から出ている四冊全て読破だ)。 フェミニズムの波にぶつかってしまった頃の作品群だそうです。 全体をおおよそ貫くテーマは、生命、配偶子、でしょうか。 説教臭かったり押しつけがましかったりは絶対にしないのですが、 いろいろと考えさせられる物語が、ここにあります。 アーシュラ・K・ル・グインによる序文も良いです。 (10/29)


“もし星が神ならば” グレゴリイ・ベンフォード & ゴードン・エクランド (ハヤカワSF)

異星に住む生命体とはどんなものだろうか。 彼らは何を考えるのだろうか。 2017年、遂に人類は知的異星人とのファースト・コンタクトを果たすが、 彼らは「恒星は意識を持つ存在で、神である」という。 彼らと会見した地球人、レナルズは彼らに深く影響を受ける。 その後、木星やタイタンの生命体(らしきもの)を垣間見るが、 レナルズは何を追い求めるのか。

もともとは第二部/月、第四部/木星がそれぞれ短篇として発表されたものだそうで、 第二部、星を神と崇める知的異星人とのファースト・コンタクトの部分のタイトルが “もし星が神ならば” だったそうです。 この部分はもちろん、それ以外の部分でも宗教哲学的な雰囲気の色濃い作品で、 難解な感じがします。 (10/11)


“スモーク・リング” ラリイ・ニーヴン (ハヤカワSF)

如何にも続編がありそうだった“インテグラル・ツリー” の続編。 前作の事件から 14 年後、人が住んでいるとは思われていなかったラグランジュポイントの “クランプ” の住人が事故でシチズン樹に流れつきます。 そうなるとやはりクランプへ行って新たな知識を得たいという欲求が (「科学者」を中心に) 頭をもたげて…。 さあ、冒険に出かけよう。

前回、ずっと待たされていてあまり出番のなかった 「監察官」ケンディも今回は出番がたっぷりあります。 今明かされる“反乱” の謎、という感じです。 でもまだ謎も残っているし、スモーク・リングの社会がどうなって行くかは未知数だし、 また続編が書かれるのかもしれません。 ちなみに今回の主役 (前回の主人公の少年の息子) は主役の座は奪われません^^;。 (10/4)


“バベル-17” サミュエル・R・ディレーニイ (ハヤカワSF)

銀河系で対立する同盟軍とインベーダー。 ある時期から同盟軍領内でインベーダーの大規模な破壊活動が行なわれるとき、 必ず謎の通信が傍受されるようになった。 その通信に付けられた名前が“バベル-17” である。 軍はその解読を、詩人にして言葉の天才、リドラに要請した。 リドラは“バベル-17” が暗号ではなく理路整然とした言語であることを見出し、 語彙や文法を解析しその簡潔さや分析能力に魅了されたが、 そこに落とし穴があることにはまだ気づかなかった…。

スペース・オペラ風の舞台でスペース・オペラ風の登場人物などが登場しますが、 “バベル-17” の謎を軸とした本格的な SF です。 最後の「巧妙なパラドクス」がどんなものかが判らないのが不満ではありますが、 下手にちゃちなものを出されてもつまらないので、あれで良いようにも思います。 うーん、「不完全性定理」くらいじゃ駄目なんだろうなぁ。 (9/20)


“地球の長い午後” ブライアン・W・オールディス (ハヤカワSF)

遠い遠い未来の地球。 どれくらい遠い未来かというと、 地球は常に同じ面を太陽に向けて公転し (あれ、そうすると月はどうしちゃったの?)、月は太陽-地球の L4 or L5 点 (という言い方でいいのかな?) に当たる場所でやはり常に同じ面を太陽に向けて公転するようになっているほどの未来である (現在の状態からそういうことって起こり得るのかなぁ?)。 太陽はその光を増していて、地上は動物がほとんど絶え、 植物がその王国を築き上げていた。 人類の末裔はその片隅で細々とかろうじて生きていた…。

もともとは、5つの短篇として発表された一連の話だそうです。 (そうか、だから「何でこの期に及んで新しいキャラクタを出すんだ」 というようなところがあったのか。) 話のポイントはやはり次々と現れる奇っ怪な植物 (植物といっても動物のような進化を遂げたものも多い) でしょう。 (9/6)


“歌う船” アン・マキャフリー (創元SF)

彼女は申し分ない頭脳を持ってこの世に生を受けた。 しかし、身体の方は、そのまま生き延びることはできないものであった。 両親は彼女に、殻人 (shell person) として生きる道を与える決断をした。 そして十数年の教育の後、彼女ヘルヴァは宇宙船の身体を与えられ、 優秀な「頭脳船(brain ship)」として 「中央諸世界」の為に銀河を飛び回ることになる。

数々の任務をこなす間に、いろいろな人と出会い、別れ、愛し、歌い、 喜び、悲しむ。 ヘルヴァはやはり人間の女の子なのである。

うーむ、 紹介を書こうとするとどうも本の裏表紙に書いてあることとほとんど同じになってしまいますねー。 これ以上の内容は、本を読んで下さいとしか言いようがないです。 ヘルヴァを主人公とした連作短篇集です。 傑作と言えるでしょう。 この「歌う船」ことヘルヴァの船に乗って銀河を旅してみたいものです。 (8/28)


“ブルー・シャンペン” ジョン・ヴァーリイ (ハヤカワSF)

短篇集です。 表題作は、宇宙に浮かぶ美しいレジャー施設「バブル」で働く男と、 世界的に有名な芸能人の女の恋の物語。 この「バブル」、力場 (いろいろなことを実現する便利な SF 用語の一つ ^^) によって作られた水の殻 (ここで泳ぐことができる) と、その殻から延びる、 力場を発生させ、制御する部分から成ります。 水の殻と反対側の制御部の端の部分は、ホテルなどの施設のために円盤上になっています。 すると全体は、遠くから見るとまるでシャンペングラスのように…。 想像するだにとてもとても美しい建造物です。 このとても素敵な「バブル」 が物語中ではあまり活かされていないような気がするのがちょっと残念です。

他の収録作品には、“ブルー・シャンペン” の登場人物が何人か再び登場する “タンゴ・チャーリーとフォックストロット・ロミオ” (話としてはこちらのほうが好きです)、サイバーな感じのミステリー (ホラー?)、 “PRESS ENTER” (点滅するかな?) などがあります。 僕の一番のお気に入りは“プッシャー” です。 「変なおじさん」の正体、意図は何か? (8/23)


“ファウンデーションの誕生” アイザック・アシモフ (早川書房)

“ファウンデーション” シリーズの 7 冊め、 最終巻。 1992年4月6日に亡くなったアシモフの(たしか)遺稿でもある。 6巻め、 “ファウンデーションへの序曲” の続きで、 心理歴史学を完成させる決意をしたハリ・セルダンが、苦節数十年、 遂に二つのファウンデーションを送り出すまでを描く。 十年ごとの短めのエピソードから全体が構成されている。 そして、エピローグは“ファウンデーション” (“銀河帝国の興亡 1” ) の冒頭の“心理歴史学者” の章とオーバーラップして物語は幕を閉じる。

心理歴史学は進歩して行くけれども、 年とともにハリ・セルダンの失ったものも増えていきます。 “心理歴史学者” の章の裏にはこんな物語があったんですね。 また“ファウンデーション” を読み返してみたくなります。 そして、ハリ・セルダンの死に関する銀河百科事典の記述は、 なんとなく、アシモフ自身の死と重ね合わさって見えてしまいます。 (7/27)


“ファウンデーションへの序曲” アイザック・アシモフ (早川書房)

“ファウンデーション” シリーズの 6 冊め。 “ファウンデーション” シリーズと “鋼鉄都市” などのロボットもののシリーズを繋げるための作品の一つで、 若き日の、心理歴史学の第一歩を踏み出すところのハリ・セルダンを描く。

心理歴史学の可能性は示したが、 実用的に使えるだろうとは思っていないハリ・セルダン。 しかし、「科学的な預言」という言葉が権力者、 そして権力を狙うものの心をくすぐる。 たとえ、それが実現はできなくとも、セルダンを手に入れ、 「科学的な預言」が可能でそれは自分の優位を示している、と宣伝しさえすれば…。 追われながら心理歴史学の実現への手がかりを探すことになったセルダンは何を見つけるのか。

シリーズを読んできているものにとっては、 一番背後にあるものを知っているだけに驚きは少ないのですが、 ちゃんと意外な点も含まれているので面白く読めます。 全体の構成としては 5冊めの “ファウンデーションと地球” に似た感じなのが気になるといえば気になりますね。 (7/16)


“天使墜落 (上・下)” ラリイ・ニーヴン & ジェリー・パーネル & マイクル・フリン (創元SF)

軌道上の宇宙ステーションは今や地球から独立していた。 地球上では、 科学技術を憎悪し過剰な環境保護政策を掲げる勢力が国を支配してしまったからだ。 そんな中、宇宙ステーションの宇宙船がアメリカ北部に墜落した。 一命はとりとめた乗員たち。しかし、そのままでは政府に捕まってしまう。 宇宙ステーションは地上にいる“仲間” に助けを求める。 それは「科学の信奉者だ」 と弾圧する政府や社会にもめげずに活動を続ける SF ファンたちだった。 かくしてファンたちの、天使 (=宇宙飛行士) を救い出し宇宙へ帰そうという、史上最大の作戦が始まる。

帯に書いてあるとおり、「近未来ドタバタ本格SF」です。 ファンたちの会話のそこかしこには当然実在の SF の名前やそこに登場するキャラクタの名前が登場します。 そして、ファンたちが知恵と無茶とで博物館入りした宇宙船を打ち上げようというのですから、 SF ファンなら思わず手に取らずにはいられません。 僕は出てくるネタの半分ほどもわかりませんが、充分に楽しめました。 (7/3)

Contact: aya@star.email.ne.jp.cut_off_here