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32.火星に住むつもりかい? 33.ジャイロスコープ 35.サブマリン 36.AX(アックス) 37.ホワイトラビット 38.クリスマスを探偵と 39.フーガはユーガ 40.シーソーモンスター |
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終末のフール、陽気なギャングの日常と襲撃、フィッシュストーリー、絆のはなし、ゴールデンスランバー、モダンタイムス、あるキング、SOSの猿、オー!ファーザー、バイバイブラックバード |
マリアビートル、3652、仙台ぐらし、PK、夜の国のクーパー、残り全部バケーション、ガソリン生活、死神の浮力、首折り男のための協奏曲、アイネクライネナハトムジーク |
クジラアタマの王様、逆ソクラテス、ペッパーズ・ゴースト、マイクロスパイ・アンサンブル、777、楽園の楽園 |
「キャプテンサンダーボルト CAPTAIN THUNDERBOLT」(共著:阿部知重) ★☆ |
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2017年11月 2020年10月
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阿部知重さん、伊坂幸太郎さん、2人の合作による長編エンターテインメント作品。 これまでの伊坂作品に比べると物足りないと感じる人もいれば、単純に面白いという人もいる・・・と、読み手の好みによって評価は分れそうな気がします。 |
32. | |
「火星に住むつもりかい? LIFE ON MARS?」 ★★ |
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2018年04月
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いくら伊坂さんとはいえ、余りに意外な題名でまさかSF?と思ったのですが、勿論そうではなく、読んでいく中で題名の謎は解けます。 中世ヨーロッパで行われた“魔女狩り”、高校生の時に読んだフックス「風俗の歴史」でそのおぞましさを知り、以降忘れ難いものになっていますが、本作品はその魔女狩りさながらの状況を現代社会に誕生させたストーリィ。 「安全地区」に指定された仙台、その仙台にも「平和警察」が力を広げます。犯罪の事前撲滅を掛け声に、怪しいと思われる人物を一方的に捕え、拷問により自供を引き出して公衆の前で処刑してしまう、というのがその平和警察の実態。 その平和警察の前に現れたのが“正義の味方”。さてその正体はいったい・・・? 現代社会を舞台にしている筈なのに信じ難いストーリィという点では「ゴールデンスランバー」に共通しますが、伊坂さんが書くと、そうした社会が現実にもうひとつ存在する様な気分になってくるのですから、不思議。 “正義の味方”という呼び方ひとつをとっても、古いような新しいような、また現実であると同時に非現実的であるようで、とても拍手喝采とはいきません。 でも、それらが伊坂作品の魅力と言えば、独特の魅力。 えっ、こんな展開があっていいの? えっ、このまま終わってしまうの?と、呆然気味の処で急転直下の逆転劇。 ただし、単純に「痛快!」とはとても言えず、ちと複雑な気分が残ります。 |
33. | |
「ジャイロスコープ」 ★☆ |
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伊坂さんのデビュー15年を契機にした、初のオリジナル短篇集とのこと。 題名の「ジャイロスコープ」ですが、外力を加えるとコマ独特の意外な振舞いをすることから転じて、「軸を同じにしながら各々が驚きと意外性に満ちた個性豊かな短編小説集を指す」とのこと。 なお、7篇の内、書下ろしは1篇のみ。 驚き、意外性、個性という点は、今さら言われなくても伊坂ファンにとってはもう当然というぐらいの要素。 各ストーリィ、最初こそごく普通(それでも結構不可解ですが)に進んでいても、最後にえっと驚くような展開が潜んでいます。それこそ伊坂作品というべきもの。 ただ、長編ですとその面白さが十分に描きつくされるのですが、短編となるとさわりで終結してしまったという観があって、物足りなさも多分にあります。 7篇の中で特に面白く感じ、かつ私好みなのは「浜田青年ホントスカ」「一人では無理がある」「彗星さんたち」の3篇。 「浜田青年」は逆転、逆転の面白さ。「一人では無理」はこんなムチャクチャなという展開の末に心和ませられる処があって読後感がいい。「彗星さん」は以前評判になった「新幹線お掃除の天使たち」を題材にとった“お仕事小説”という一篇。 浜田青年ホントスカ/ギア/二月下旬から三月上旬/if/一人では無理がある/彗星さんたち/後ろの声がうるさい/十五年を振り返って伊坂幸太郎インタビュー |
34. | |
「陽気なギャングは三つ数えろ A cheerful gang, Count three.」 ★☆ | |
2018年09月
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9年ぶりに“陽気なギャング”たちが戻ってきます。 本書は「陽気なギャングが地球を回す」「陽気なギャングの日常と襲撃」に続く第3弾。 ただ、率直に言って今更“陽気なギャングたち”でもないよなぁという気持ちが無きにしも非ず。 肝心の銀行強盗は今はも流行らない、そう何でも成功できる訳はない筈、と思うからです。 今回は久遠が余計なことに首を突っ込んだことから、“陽気なギャング”仲間である響野、雪子、成瀬やその親類縁者まで危機の追い込まれるという由々しき事態が発生。 4人の敵は、人が抱えている弱みを嗅ぎ出して暴き、何人も自殺に追い込んだ悪辣なスクープ記者の火尻正嗣。 予想を越えた火尻の悪質な手管に、あろうことか4人のギャングたちが次々と追い込まれていきます。守るものがない人間は強い、守るものを持つ人間は弱い、という典型例でしょうか。 「小説」であってさえ今回の展開と結末はいくら何でも非現実的に過ぎる、と思わざるを得ないのですが、そもそもこの“陽気なギャングたち”シリーズ自体が非現実的なストーリィであることを思えば、そんな感想自体何をか況や、と思います。 なお、本巻では“ギャングたち”がある特定のグループと連携して火尻に対抗する処がミソです。 1.悪党たちは久々に銀行を襲い、小さな失敗をきっかけにトラブルに巻き込まれる。いつものこと。/ 2.悪党たちは降りかかる火の粉を払うため、何が起きているのかを探るが、払えば払うほど火の粉がまとわりつく。/ 3.悪党たちは事件の構図に気づくが、相手の後手に回る。/ 4.悪党たちは別の悪党から逃れるために必死に行動するが、予定通りに物事が進まない。 |
35. | |
「サブマリン Submarine」 ★★ | |
2019年04月
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「チルドレン」に登場した家裁調査官、陣内と武藤が主役となってストーリィを回す長編小説。 前作は連作短編であると同時に長編という趣も兼ね備えた作品でしたけれど今回は長編。そして、2人が少年犯罪に対してどう向かい合うのか、という内容になっています。 やりきれない少年犯罪が現実に起きている中、陣内と武藤たちが活躍する形で新しいエンターテインメント物語を書いてみよう、というのが伊坂さんの執筆動機だったそうです。 本書での事件は、無免許運転で事故を起し通行人を死なせてしまった少年、幾人もの人にネット上で脅迫文を送りつけたというもの。前者の棚岡佑真については事情聴取中、後者の小山田俊については試験観察中、という設定です。 なお、前作に登場した視覚障害者の永瀬とその妻の優子も、準主役的な役回りで本書にも登場しています。 この対象者2人に陣内と武藤が食い下がるかのように調べていく過程で、予想外に深い事情・様相のあることが判明していきます。陣内・武藤を介して読み手の目に映る2人の姿が徐々に変わっていきますが、だからといって彼らが起こした事件、その罪の責任が何ら変わる訳ではない(勧善懲悪的な物語と違って)という現実を伊坂さんは語ろうとしている、というように感じます。 2人の他、10年前に事件を起こして陣内が担当し、その後更生した青年も登場しますが、更生したからといって彼の過去が消せる訳でもないという現実も併せて語られます。 そうした現実を語らせるにおいて、陣内以上の適役はいないでしょう。 相手を気遣うということが一切なく、言葉を選ぶこともなく、容赦なく言いたい放題。だからこそ当事者が目をそむけたくなる現実を直視せざるを得なくなる。 前回も今回も慣れるまでは陣内の言動に困惑され通しですが、一旦慣れるや如何にも伊坂作品らしい登場人物と、痛快に感じる処多々あり。 陣内、武藤、永瀬の3人共興味尽きないキャラクター。是非またいつか再会したいものです。 |
36. | |
「AX(アックス)」 ★★☆ |
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2020年02月
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「グラスホッパー」「マリアビートル」に続く、殺し屋もの第3弾。 今回の殺し屋はなんと、極めつけの恐妻家! 文房具メーカーの営業社員、高校生の息子をもつごく平均的な家庭の主人という表向きの顔をもつ三宅、裏では“兜”という異名をもつ凄腕の殺し屋。 これまでに登場した個性的な殺し屋に比べると地味という印象ですが、すこぶる高い身体能力を持つという点では、かえって他の殺し屋より凄いかも。 しかし、それ以上に凄いのは、これ以上ないというくらいの恐妻家であること。 本作は、殺し屋兼恐妻家の主人公を公私(?)に亘って描いた連作風長編ストーリィ。 この恐妻家ぶりが本当に凄い。妻の一挙手一投足に緊張をもって注意し、怒りを買わないよう自分の言動に注意を怠らない、というのが常なる姿勢なのですから。 でも、でも、共感するところ大なんですよねー。決して絵空事ではありません。これは現実なんです! この主人公の恐妻ぶりに共感する読者は、私以外にもきっと多くいるのではないでしょうか。 この現実をリアルに描いてくれた伊坂さんに、感謝したい気持ちでいっぱいです。(苦笑) さて、主人公の兜、平穏な家庭を守るため廃業したいと思っているのですが、仲介者は先行投資が回収できていないと、それを許さず。おかげで主人公の苦労も続く、という展開です。 しかし、家族を不幸のどん底に落とすことなく守り、最後まで殺し屋としての凄腕を全うしたところは、すこぶる小気味良い。 ユニークさが伊坂作品の魅力ですが、本作も、上手いなぁ。 AX/BEE/Crayon/EXIT/FINE |
37. | |
「ホワイトラビット a night」 ★★☆ |
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2020年07月
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関係者が“白兎事件”と呼ぶ、仙台市の分譲住宅地で起きた一戸建て住宅での人質立て籠もり事件の顛末を描いたストーリィ。 まず冒頭、誘拐ビジネスに従事している男に、一味の首謀者から「お前の妻を誘拐している」という電話が入ります。 そして次に、何故かその男=兎田が無関係な一軒家に押し入り、一家の主婦と息子を人質に取って立て籠るという事件発生の場面へと急展開。 そこでさらに、たまたまその家に忍び込んでいた泥棒が一家の主人と間違えられ、母子と共に人質にされるという理解不能な展開が繰り広げられます。 その泥棒というのが、「フィッシュストーリー」「首吊り男のための協奏曲」に登場したあの黒澤。 本書の特徴は、登場人物以外の、まるで講談を語る講談師といった感じの人物がこの事件の顛末を語る、という構成になっているところ。 この<語り>が面白いのですが、同時に曲者でもあります。 つまり、事件の推移を時間の進行どおりに語るのではなく、前後して語られるのです。 事件発生までの経緯があとから語られることによって、まるで玉ねぎの皮を剥いていくように、次から次へとまるで予想外の、これが現実なの?としか思えないような奇妙な真相が明らかにされていくという展開。 本来、人質立て籠もり事件といったらスリリングでサスペンスフルな展開になって当たり前なのですが、黒澤のちょっとズレている淡々とした口調が、まるで異なる雰囲気を醸し出しています。また、事件の展開そのものより、事件の裏側が実はどうであったのかという真相こそが珍妙で面白い。 それらは皆、<語り>という手法があってこその楽しさ、面白さであると言って間違いではありません。 予想の付かない面白さ、これこそ伊坂作品の魅力ですよね。 |
38. | |
「クリスマスを探偵と Christmas with a Detective」 ★★ |
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伊坂さんの絵本と聞いて意外な感があった本書、大学生の時に伊坂さんが初めて書いた短編小説をリメイク、フランスのイラストレーターによるイラストを加えてクリスマスもの絵本にしたそうです。 クリスマスに探偵が登場したらどう感じますか。 スリリングを感じるでしょうか、それとも折角のクリスマスなのにとうら寂しさを感じるでしょうか。 本作に登場する探偵、後者の方です。クリスマスだというのに浮気調査のため中年男を尾行。 その男がある邸宅に入ったのを見届けた後、公園へ。そのベンチで、寒い中ひとりで本を読んでいた若い男から話しかけられ、ぼちぼちと語り出す、というストーリィ。 やはり伊坂作品らしいと思うのは、いくつもの謎が仕掛けられていること。サンタクロースの正体はから始まり、探偵が抱えていた過去の謎、そして現在の謎。 そのうえで最後は、若い男の正体は・・・・。 センスのいい、洒落たクリスマス・ストーリィ。本好きにとっては何よりのクリスマス・プレゼントです。 “心温まるクリスマス・ストーリィ”に本書も追加しました。 マヌエーレ・フィオール Manuele Fior 1975年イタリアのチェゼーナ生。2000年、建築学の学位をヴェニスで取得後、05年までベルリンで漫画家、イラストレーター、建築家として働く。11年「秒速5000km」にてアングレーム国際漫画祭最優秀作品賞を受賞。 |
39. | |
「フーガはユーガ TWINS TELEPORT TALE」 ★★ |
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よくまぁこんな着想をするなぁと呆れてしまうくらいなのが伊坂作品の持ち味ですが、奇抜な着想に留まらず、それを元にしたストーリィの運び方が独創的。そこに伊坂作品の魅力、楽しさがあるのですが、本作もそのひとつ。 久々に伊坂さんらしいストーリィを堪能した、という気分です。 高杉というフリーのディレクターに、双子の片割れだという常盤優我が、弟の風我との間に繰り返されるテレポート現象、それにまつわるこれまでの出来事を洗いざらい語り始める。本ストーリィはそんなところから始まります。 伊坂さんらしい、突拍子もない話。それをわざわざ他人に語ろうとする主人公・・・・その狙いは何にあるのか? ともあれ、語りの面白さってありますね。息子に意図的に暴力を振るう父親、自分の保身ばかりで息子への暴力に無関心な母親。その元で2人で助け合って来た兄弟の物語・・・と。 一方、別の角度から見ると、悲惨な家庭状況に育つ子供と、子供に暴力を振るって平気だったり快感を得たり、無関心だったりする親たち。 本ストーリィにおいて被害者側と加害者側の対比は、きわめて明瞭です。 つまりは、虐げられてきた子供たち側が如何にして協力し合い、自分たちの人生を守ろうとするか、というストーリィにもなっています。 これは現代社会の縮図のようにも思えます。表面的なストーリィは別にして、さらに結末に切なさを感じるものの、主人公たちの未来に希望を抱かせてくれます。それが嬉しい。 |
40. | |
「シーソーモンスター Seesaw Monster」 ★★ |
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2022年10月
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中央公論新社企画“螺旋”プロジェクトに連なる2作を収録。 「シーソーモンスター」の時代設定は、昭和最後の年。 そして「スピンモンスター」の時代設定は2050年、近未来。 「シーソーモンスター」の幕開けは、ごく日常的な光景から始まります。 製薬会社の営業社員である北山光毅が、先輩社員に<北山家嫁姑摩擦問題>の板挟みになっている苦しさを愚痴るところから。 そしてその嫁=宮子の憤懣も「わたし」語りで綴られます。 しかし、その背景が面白い。実は宮子の前職は〇〇〇。だから姑=セツとの対応も自分には造作ないことと思い込んでいたのですが、現実はそうならないから苦笑。 (私も両者を取り持とう等という野望は早々と放棄しました) この辺り、伊坂さんらしい仕掛けで楽しませてもらえる処。さらに、多分こうかな、という面白さも加わりますから、どうぞお楽しみに。 「シーソーモンスター」の主人公は、小3時、自動走行中の車の事故で家族が死に、唯一人生き残った水戸直正。そして相手の家族も息子だけが同様に生き残り、檜山景虎。 宮子とセツが因縁の関係だったのと同様、直正と景虎の2人も。 人工知能との対決、それに伴う逃走劇。なにやら「ゴールデンスランバー」を思い起こされました。 近未来社会の根本にある恐ろしさ、それに気づかない人間の鈍感さという要素は、伊坂さんなりの警鐘のように感じますが、結末自体は余りすっきりしないなぁ、という思いが残りちと残念。 シーソーモンスター/スピンモンスター *「小説BOC」1〜10号に渡って連載された、8作家による壮大な文芸競作企画“螺旋プロジェクト”(3つのルールに従って、古代から未来までの日本で起こる「海族」と「山族」の闘いを描く)の一作。 ・・・朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」 |
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