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12.何様 13.風と共にゆとりぬ 15.どうしても生きてる 16.発注いただきました! 17.スター 18.正欲 20.生殖記 |
【作家歴】、桐島部活やめるってよ、チア男子!!、星やどりの声、もういちど生まれる、少女は卒業しない、何者、世界地図の下書き、スペードの3、武道館、世にも奇妙な君物語 |
11. | |
「ままならないから私とあなた」 ★★ |
2019年04月
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ままならない、ということが本書での共通テーマでしょうか。中編小説2編を収録した一冊。 「レンタル世界」 職場の先輩の結婚披露宴に出席した雄太、新婦の友人という女性が気にかかっていましたが、偶然に街中で再会。しかし相手は姿形以外は全くの別人、何故? 問い掛けたその彼女から打ち明けられたのは、依頼を受けての“レンタル友人”だったとのこと。一目惚れしたからには何とか彼女と真っ当な関係を築きたいと願った主人公でしたが・・・・。 「ままならないから私とあなた」 小学生の頃から親友である少女2人、成長するに伴い2人の目指す方向の違いがはっきりとしてきます。薫がプロミングで出来なかったことが出来るようになる道を開こうとする一方、音楽の道を選んだ主人公の雪子は自分にしか作れないもの作る道を目指します。お互いの考え方が相容れないものであると気付いた2人は・・・・。 前者はスリリングな面白さあり。そして主人公について、その傲慢さを強く感じさせられました。 一方、後者については青春&成長物語の面白さあり。そして2人について言えば、合理的な方向を極めようとする薫に対して雪子の考え方の方が当然にして正論だと感じました。 そう思った時ふと、2篇を比べて自分の考えは果たして整合性が取れているのだろうか?と疑問が生じました。 どうのこうの言っても世の中は便利な方へ、便利な方へと変わっていくもの。そうであるのに、薫の考え方は間違いと簡単に否定できるものなのでしょうか。 そうした諸々を踏まえた上で、最後に残るものは、所詮人間とはままならないもの、ということではないか。 最近では度々ロボットの進化している様子がニュース等で取上げられていますが、将来人間とロボットを分かつものは何なのかと問われた時、その境は「ままならぬ」ということではないかと思う次第です。 ※なお、本書については、これは本当に朝井リョウ作品なのだろうかと思いつつ読んでいました。つまり、従来の朝井リョウ作品とはちょっと趣きを異にする作品。気に入るかどうかは、読み手の好み次第かもしれません。 レンタル世界/ままならないから私とあなた |
12. | |
「何 様」 ★★ |
2019年07月
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5人の大学生のシューカツ模様を描いた「何者」のアナザーストーリィ6篇。 ・「水曜日の南階段はきれい」:「何者」に登場した神谷光太郎の高校時代に遡るストーリィ。出版社に就職したいという光太郎の理由が、高校時代の同級生=荻島夕子との関わりから明らかになります。 ・「それでは二人組を作ってください」:「何者」に登場した小早川理香と宮本隆良が、同棲するに至った顛末を語る篇。 ・「逆算」:主人公は鉄道会社に勤める松本有季、26歳。「何者」で二宮拓人の相談相手として登場したサワ先輩こと沢渡が先輩社員として登場、トラウマを抱える有季を本篇でも支え、アドバイスの上手さと人柄の良さを感じさせてくれます。 ・「きみだけの絶対」:「何者」で演出家兼脚本家として登場した烏丸ギンジの甥、高校生の亮博が主人公。本篇でちょっぴり成長と、青春成長ストーリィといった側面あり。 ・「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」:田名部瑞月の父親と親しくなったマナー教師=桑原正美が主人公。 ずっと優等生を通してきて、今は胸の内に憤懣を抱えるに至った理由が「上手にむしゃくしゃできなかったから」とは、実に判るなぁ。 ・「何様」:1年前は面談される方だった松居克弘が、今や人事部で面接官に。そんな自分に人を評価するなどということができるのだろうか、許されるのだろうか、という困惑。自分はいったい何様だというのか。 現代の若者たちが抱える決意や困惑、様々な思いを、登場人物と同一目線で描いた連作ストーリィという処が貴重です。 6篇の中で特に私が気に入ったのは、人と人との繋がりに今後の広がりが感じられる「水曜日の南階段はきれい」と「逆算」の2篇、そして問題提起というべき篇の「何様」。 「何者」からステップアップさせた処が、実に上手い! 水曜日の南階段はきれい/それでは二人組を作ってください/逆算/きみだけの絶対/むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった/何様 |
13. | |
「風と共にゆとりぬ Yutori with The Wind」 ★★ |
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2020年05月
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「時をかけるゆとり」に続くエッセイ集第2弾。 同書を私は読んでいないので、朝井さんのエッセイを読むのは本書が初めてです。 その冒頭、何とまぁ・・・・。 本書は三部構成。 第一部は、朝井さんのいろいろと奇矯(?)な行動について自ら語ったエッセイの数々。 これがもう絶句するような話ばかり。エッセイを読んで思わず吹き出してしまう、というのはそうあることではありませんが、本書はまさにそのケース。最初は、朝井さんのサービス精神のなせる処かと思っていたのですが、そんな話ばかり。朝井リョウさんってこんな人だったの?と、すっかり印象が塗り替えられてしまいました。滅茶苦茶じゃん!という感じ(笑)。 第二部は、日本経済新聞のコラム「プロムナード」に2015年07〜12月の半年間に亘って連載されたエッセイ。 朝井さんが感じたことや、オーディションや劇等々の審査員として招かれたこと等々が主内容なので、第一部に比べるとかなり穏当という印象。ご自身の行動を語ったものか、そうでないものかという違いのようです。 第三部は書下ろし、肛門の疾患とその手術の体験記。 最初は“粉瘤”と診断されていたものが結局“痔瘻(じろう)”との診断を受け、とんでもないことになったという顛末。 小説並みに面白いかも、としみじみ感じます。 まぁ、普通は誰も書きたがらないような疾患ですから、それだけに物珍しくあり、朝井さんらしい枠に収まらない行動ぶり、というか。 一言、朝井さんの本エッセイ、面白いです。 第一部 日常/第二部 プロムナード/第三部 肛門記 |
14. | |
「死にがいを求めて生きているの」 ★★☆ |
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2022年10月
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朝井リョウ作品としては、初めての大作という印象。 各章の題名となっている人物が各章での主人公になっており、連作ストーリィといった構成。 しかし、実際には堀北雄介と南水智也という、札幌で幼稚園以来の親友という2人がストーリィの中心軸になっています。 各章の表題人物たちは、各章ドラマの主人公であると同時に、雄介と智也を軸とした長編ストーリィにおいては2人の観察者という立場です。 まず冒頭、白井友里子は若い看護師。転倒事故が原因で植物状態となっている南水智也と、足繁く彼の見舞いにやってくる堀北雄介と関わります。 それ以降、2人と小学校で友人になった前田一洋、中学で一緒になった坂本亜矢奈、同じ北大生の安藤与志樹、TV制作会社のディレクター=弓削晃久という人物が2人を語ります。 小学校〜中学校と、学業・スポーツ両面でリーダーかつヒーロー的存在だった雄介が、大学では何故か変質してしまっています。それは何故なのか。 人は生きていくうえで“生きがい”を持たなくてはいけないのでしょうか。人から認められる存在にならなくてはいけないのでしょうか。 それは何やら、ひどく窮屈な気がします。 どうも最近、“やりがい”とか、意欲とか能力とか、若い人たちに抽象的なものを求め過ぎているのではないでしょうか。 自分が在るから生きている、生活の糧を得るために働いている、それではいけないのでしょうか。 その悲劇の象徴となる人物が、堀北雄介ではないでしょうか。 最後、今は大学生である坂本亜矢奈が意外な存在感を見せつけて、圧巻。その最終章が、本作のすべてを凝縮しています。 題名の「死にがい」とは、本作においては、言い得て妙な一言。 ※なお本作は、時代ごとに8組の作家たちが「対立」をテーマに物語を紡ぐという文芸誌の企画によるもので、朝井さんが<平成>を担当して書いたものだそうです。 1.白井友里子/2.前田一洋−前編−/3.前田一洋−後編−/4.坂本亜矢奈−前編−/5.坂本亜矢奈−後編−/6.安藤与志樹−前編−/7.安藤与志樹−後編−/8.弓削晃久−前編−/9.弓削晃久−後編−/10.南水智也 *「小説BOC」1〜10号に渡って連載された、8作家による壮大な文芸競作企画“螺旋プロジェクト”(3つのルールに従って、古代から未来までの日本で起こる「海族」と「山族」の闘いを描く)の一作。 ・・・伊坂幸太郎「シーソーモンスター」 |
15. | |
「どうしても生きてる」 ★★☆ |
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2021年12月
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「どうしても生きてる」という題名からは内容が掴みにくいのですが、言い換えれば、どんなに辛い状況にあっても耐えて生きていくしかない、どうあっても生きているしかない、という意味なのではないか。 そうしたストーリィ、6篇を収録した短篇集。 “螺旋プロジェクト”の一作であった前作「死にがいを求めて生きているの」と対照的ですが、ある意味では同作に連なる作品のように思います。 前作が<生きがい>を求めてあがく群像劇であったのに対し、本作では最初から<生きがい>が否定され、そうであっても生きていくしかないんだという現実、覚悟が描かれています。 ただし、覚悟という点では女性の方が強く、男性はどうも弱々しいと感じざるを得ません。まぁそうした傾向が現実としてあるのは否めませんが。 ・「健やかな論理」:祐布子は離婚して一人暮らし、30代後半。まるで世界が存在していないかのように感じられる。 ・「流転」:恋人の妊娠の夢を諦める理由にした豊川。20年経った今、今の生活に少しも満足を覚えられない。 ・「七分二十四秒めへ」:依里子、46歳になって突然派遣社員の契約を切られる。今の生きづらさを一瞬でも忘れられる時はあるのか。 ・「風が吹いたとて」:由布子の周りには欺瞞、不正が充満している。それでも、生きていかなくてはならない。 ・「そんなの痛いに決まってる」:妻の仕事は順調、それに引き換え良大の仕事はブラックで、もはや収入額も逆転か。とても子作りに励みなど出来ない。 ・「籤」:胎児の出生前診断の結果により、みのりの前に夫は本性をさらけ出す・・・。 健やかな論理/流転/七分二十四秒めへ/風が吹いたとて/そんなの痛いに決まってる/籤 |
16. | |
「発注いただきました! Thank you for all orders」 ★★ | |
2022年06月
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作家デビューから10年、その間様々な企業から依頼を受けて執筆したタイアップ作品、短編小説14本(内書き落とし新作 1本)、エッセイ 6本、計20本を収録した一冊。 各篇、どんな企業から、どんな発注依頼を受けたのかをまず明示し、そのうえで作品本文、その後に事後感想という構成。 ですから、どんな依頼にどう応じたのか、時には朝井さんの苦労ぶりも窺え、本書全体として楽しめます。 各作品も、掌篇から読み応えのある短篇までと様々。 掌篇には短いが故の工夫、苦労も感じられますし、それなりに長さのある短篇はストーリィを十分楽しめます。 朝井さん曰く“お祭り的な企画本”とのことですが、小説家ってこうした仕事もしているんだ、と知ることができたところも面白味です(小説家皆々そう、という訳ではないと思いますが)。 私としては、いろいろ楽しいものが入っている“おもちゃ箱”という印象です。 割と楽しめたのは次の短篇。 「蜜柑ひとつぶん外れて」(発注元:アサヒビール)、「胸元の魔法」(JT)、「十八歳の選択」(朝日新聞出版)、「きっとあなたも騙される、告白の物語」(資生堂)、「十七歳の繭」(小学館)。 中でもユニーク、面白かったのは、「こち亀」と「チア男子!!」のコラボ作「こちら命志院大学男子チアリーディング部」(集英社)。元々「こち亀」がハチャメチャで面白いのですから、まさに爆笑という他なし。 |
17. | |
「スター Star」 ★★ |
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2023年03月
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ともに大学の映画サークルに所属していた立原尚吾と大土井紘の2人、共同監督で制作した作品「身体」が、何と新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞します。 注目を受けたからには2人とも、映画制作の道に進むと思う処ですが、そこからが違う。 尚吾は、名監督の鐘ヶ江誠人の傍にいて映画制作を学ぶことができる“監督補助”の座を得ます。それと対照的に紘は、映画制作の道に進まず、ボクシングジムの公式サイト運営の手伝いを通じてネットでの映像配信を手掛けるようになります。 映画作りのライバル、そして対照的な道を進んだ2人。 斜陽とかつて言われた映画産業、You Tubeなどで動画配信が広がるネット世界、でも2人の選んだ道のどちらが正解とは言えないところが難しい。 映画制作には制作費調達という現実が影を落としますし、ネットではクオリティの低下という懸念が付きまとう。 随分と多様な社会になったものだと思います。それはすなわち、価値観も多様になったということでもあります。 そうした環境下にあって、自分が進もうとする道にどう価値観を見出すか、保てるかは難しい問題だと思います。 卒業により一旦別れ、また再会するまでの間に2人が体験したのは、そうした迷い悩み、考える道だったのではないか。 正解はありません。正解だったかどうかを決められるのは、もはや自分自身だけなのでしょう。 若者が生きる現代社会、その時代性を描いてきた、朝井リョウさんらしい作品だと思います。 |
18. | |
「正 欲」 ★★☆ 柴田錬三郎賞 |
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2023年06月
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究極のマイノリティー小説、本作についてはそう言って良いのではないだろうか。 まさに朝井リョウさん、渾身の力作、と感じる次第です。 「性欲」ではなく「正欲」という題名、何のことだろうかと考えます。正しい「欲」とは何ぞや、と。 そして逆に、正しくない「欲」とは何だろうか、と。 本作で主要人物となるのは、普通とは異なったことに生き甲斐、興奮を覚える小学生、大人の男女たち。 不登校となり You Tube に進むべき道を見つけたのは、誤りなのか。多くの人のように異性へ性的欲求を感じず、水フェチであったりすることは許されないことなのか。 周囲の人のセックスばかりの会話に同調できないからといって、何故異常扱いされ、蔑まれなければならないのか。 それが分かっているから、自分たちだけで密かに繋がろうとしただけなのに、それも許されなかった・・・。 説明しようとしても端から事実ではないと否定され、理解してもらえない絶望感・・・。 それは広く、現実社会に共通してある問題ではないでしょうか。人種、少数民族、価値観の違い。やっと理解されるようになってきましたがLGBTにしても同様だと思います。 最後、主要人物の一人である夏月が口にする「どうせ説明したってわかってもらえない」という言葉には、孤独感と深い絶望感が滲み出ていて、愕然とする思いを否めません。 マイノリティーの人たちに添おうとする作品。 どんな人の言葉にもまず耳を傾けたい、そう感じさせられます。 |
19. | |
「そして誰もゆとらなくなった And then there were no time for yutori」 ★☆ |
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エッセイ第3弾目で、完結編とのこと。 私としては最初の巻は未読のままなので、「風と共にゆとりぬ」に続く2冊目の読書。 頭を空っぽにして共犯者のつもりで読んでください、という著者の弁ですが、それしかないでしょう、このエッセイ集は。 基本的には前巻エッセイからの延長と言えます。 冒頭から「肛門記」の事後談に始まり、会社員時代に遡ってのバッチイ悲闘話へ。それ以後も、トイレをめぐる苦闘話は何処へ行こうと尽きません。 それにしても朝井さんと仲間たち、止めておけばよいと思うイベントへのエントリー、何と多いことか。エッセイを書くためのネタ作りじゃないか、と思うほどです。 友人の結婚披露宴でも余興についても、同様です。 爆笑ものだったのは、「空回り戦記〜サイン会編〜」。 担当編集者さん、これは止めなさいよ。いくらファンだってこれには引きますって。 はじめに/肛門科医とのその後/腹と修羅/作家による本気の余興〜人体交換マジック編〜/空回り戦記〜説明会編〜/空回り戦記〜サイン会編〜/初めての催眠術/バレーボールと私、その後/作家による本気の余興〜職業病編〜/他力本願スマートハウス/精神的スタンプラリーin南米 前編/精神的スタンプラリーin南米 後編/踊ることに踊らされて/十年ぶりのダンスレッスン/MOTTAINAIの囁き/似合わない店にいこう/ホールケーキの乱/脱・脂質異常症への道/私なりの「おめでとう新福さん」/ 柚木麻子特別寄稿・・・精神的スタンプラリーin北米 前編/精神的スタンプラリーin北米 後編/ おわりに |
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「生殖記」 ★★ |
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まず「生殖記」という題名そのものが謎。どういう意味なんだろうとずっと思っていました。 主人公は達家尚成、33歳のオス個体であり、同性愛個体。家電メーカーの総務部総務課勤務。 そして、主人公以外に<語り手>が存在します。その語り手とはいったい何者なのか? それはすぐ明らかにされますが、それによって「生殖記」という題名の意味が納得できました。 長編ストーリーですが、その割に登場人物は少ない。 尚成と共に未だ独身寮に留まっている同期入社の柳大輔(オス個体、営業部)と岡村樹(メス個体、新規事業部)、そして後輩社員の多和田颯(オス個体、総務部広報課)、そして尚成の直属上司である岸課長。 同期3人+後輩という4人が、それぞれ生き方における4つの類型を象徴しているようです。 人間以外の生物は基本的に生殖本能にしたがって生きている訳ですが、人間だけが感情とか考え方というものが入り込んでくるのでややこしい。時に生殖に反する行動さえあり得ます。 柳大輔、サラリーマンらしい、会社から要求されるままの類型。それに対して岡村樹は、現代社会に働く女性の類型。 一方、多和田颯は新しい社会人と感じる類型。 そして主人公である尚成は、何も考えず行動せず、楽に過ごせればいいと考える、隠れサラリーマンの実相、と感じます。 どれが正しいとか、誤った存在かというのを描いている訳ではなく、いろいろな類型の個体がいる、ということではないかと思います。 いやはや、人間とは何と面倒臭い生命個体であることか。 人間と別の視点から、突き放したように語る処が本作の面白さ。 なお、最終的に登場人物それぞれが尚成をどう捉えたのか、知りたかったですね〜。 |