遺言としては無効だが、死因贈与契約として有効
(無効行為の転換)
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2015.5.29mf更新
質問:遺言書に判がない
私は、付き添いの家政婦の仕事をしていました。その後、その方と内縁関係になり、10年間一緒に暮らしていました。
彼は自分が死んだ後の私の生活を心配し、遺言書を書き、私にくれました。そこには、
「自宅は、〇〇A子(私の姓名)に与える。平成〇〇年〇月〇日 〇〇〇〇雄」
と書いてありました。判はありませんでした。
彼には妻も子供もいませんでした。彼の死後、彼の兄弟が、「遺言には捺印がないから無効だ。家を明渡せと」言ってきました。私には立退き料として200万円をくれるというのです。
この遺言は無効でしょうか。私は家を出なければいけないでしょうか。
相談者は、弁護士を訪ねました。
回答:死因贈与として有効
自筆証書遺言には厳格な要件があり、全文自筆、日付、署名、捺印が必要です。どれか1つ欠けても遺言は無効になります(民法968条1項)。捺印のない自筆証書遺言は無効です。この点では彼の兄弟の主張は正しいです。
しかし、この場合、死因贈与契約が成立している可能性があります。いつも、問題になるのは、受贈者が贈与者に対し、死因贈与を承諾する旨の意思表示をしたかです。
本件では、
「自分が死んだ場合、自宅をおまえに与える」と言って、遺言状と題する書面をくれ(死因贈与の申込み)、相談者もそれを受け入れた(承諾)のですから、死亡を条件とする贈与契約(死因贈与契約)が成立しています。遺言としては無効だが、死因贈与契約としては有効です。これは無効行為の転換として判例でも認められています。
あなたは相続人である彼の兄弟に対し家の名義を自分に移転するよう求めてください。
従って、あなたは家を出る必要はありません。
明渡しの訴えを起こされた場合、死因贈与契約に基づく所有権を主張すれば、勝てます。さらに、反訴を提起し、死因贈与に基づく所有権移転登記を求めるとよいでしょう(参考:遺言無効確認裁判)。
遺言としては無効だが、死因贈与としては有効(無効行為の
転換)と認めた判決
- 広島高等裁判所平成15年7月9日判決(出典:判例秘書)
ところで,死因贈与は,遺贈と同様に死亡が効力発生要件とされているため,遺贈に関する規定が準用されるが(民
法554条),死因贈与の方式については遺贈に関する規定の準用はないものと解される(最判昭和32年5月21日民集11巻5号
732頁参照)。したがって,遺言書が方式違背により遺言としては無効な場合でも,死因贈与の意思表示の趣旨を含むと認められる
ときは,無効行為の転換として死因贈与の意思表示があったものと認められ,相手方のこれに対する承諾の事実が認められるときは,
死因贈与の成立が肯定されると解せられる。
これを本件についてみると,前記認定のとおり,亡Dは,死期が迫っていることを悟り,死後自己所有の財産を,敢え
て養子である原審原告を除外して,実子である原審被告らに取得させようと考え,本件遺言書を作成したのであり,その目的は,専ら,
死亡時に所有財産を原審被告らに取得させるという点にあったこと,遺言という形式によったのは,法的知識に乏しい亡Dが遺言によ
る方法しか思い付かなかったからであり,その形式にこだわる理由はなかったこと,そのため結局遺言としては無効な書面を作成する
に至ったこと,亡Dは,本件遺言書の作成当日,Fを介し,受贈者である原審被告らにその内容を開示していること等の点にかんがみ
れば,本件遺言書は死因贈与の意思表示を含むものと認めるのが相当である。
そして,前記認定のとおり,原審被告Bは,本件遺言書作成には立ち会ってはいなかったものの,その直後に亡Dの面
前でその内容を読み聞かされ,これを了解して本件遺言書に署名をしたのであるから,このときに亡Dと原審被告Bとの間の死因贈与
契約が成立したといえる。また,原審被告Cは,本件遺言書に署名することはなかったものの,本件遺言書作成日に,病院内で,Fか
ら本件遺言書の内容の説明を受け,これに異議はない旨述べた上,亡Dを見舞い,その際にも本件遺言書の内容に異議を述べることも
しなかったのであるから,亡Dに対し,贈与を受けることを少なくとも黙示に承諾したものというべきであり,このときに,亡Dと原
審被告Cとの間の死因贈与契約が成立したといえる。
以上によれば,原審被告ら主張の平成11年1月17日付死因贈与契約の成立が認められる。
-
広島家庭裁判所昭和62年3月28日審判(家庭裁判月報39巻7号60頁)
(イ) 申立人が検認を受けた前記遺言書と題する文書は,その作成日付の記載がなく,作成者である,亡井田勝三の押印もないから,自筆証書遺言としての要件を欠く
もので,遺言としての法的効力を有するものとは認めることができない。従つて,遺言が有効であることを前提とする遺言執行者選任の申立は理由がない。
(ロ) しかし,前記遺言書と題する文書は,遺言としての法的効力はないとしても,前記認定事実に徴すると死因贈与契約の成立を証明する文書であることは明らかで
あると認められる。即ち,亡井田勝三と申立人との問に,昭和51年7月下旬ころ,亡井田勝三の所有する一切の財産を申立人に死因贈与する旨の契約が成立したことが
明らかである。そして,死因贈与については,遺贈に関する規定が準用される(民法554条)。従つて,遺贈の執行に関する規定である民法1010条を準用して,死
因贈与の執行のために執行者を選任することができるものと解される。
- 東京高裁昭和60年6月26日決定(出典:判例時報1162号64頁)
証人のうち1人が欠格事由があるとの方式違背により無効な公正証書による遺贈を原因とする土地所有権移転登記の更正登記手続を求めた事件の控訴審において、当該公正証書は方式違背の瑕疵により公正証書遺言としての効力は有しないものの、その作成の経過にかんがみると死因贈与について作成されたものと認めることができ、民法550条所定の書面としての効果は否定することはできないから、本件移転登記は、書面による死因贈与契約に基づくものとして有効である。
- 東京地裁昭和56年8月3日判決(出典:判例時報1041号84頁)
仮に本件遺言書が自筆証書遺言としての要式性を欠くものとして無効であるとしても、太郎が、昭和51年3月17日、自分が死んだ場合には自分の財産の2分の1を原告に贈与する意思を表示したものであり、原告はこの申し出を受け入れたものであると認めるとし、・・・・
裁判所は、全財産の2分の1につき死因贈与契約の成立を認めた
。
- 水戸家裁昭和53年12月22日審判(出典:家庭裁判月報31巻9号50頁)
押印を欠く自筆証書遺言は方式上無効と解さざるを得ないが、右書面の内容等から判断すると、死因贈与契約は有効に成立していると解され、また、死因贈与につき特に遺言執行者選任の規定を排除する合理的理由はないから、遺言執行者を選任するのが相当である。
遺言を無効としたが、死因贈与を認めなかった判決
- 仙台地方裁判所平成4年3月26日判決
この
事実と本件書面の文言を合わせ考えると、本件書面は、訴外太郎が自分の死後本件各不動産を含む自己の全財産を原告に譲ることなどを目的として、遺言のつもりで作成
したことが明らかである(ただし、本件書面は訴外太郎が自書したものではないから、自筆証書遺言として無効であることはいうまでもない。)。
二 そこで、本件書面が原告主張のように死因贈与の意思表示の趣旨を含む書面といえるか否かを検討する。
証人鈴木六郎、同甲野山子(一部)の各証言並びに被告二夫の本人尋問の結果によれば、訴外丁海は、代筆した後、訴外太郎が死亡してその葬儀の日まで本件書面を保
管したうえ、葬儀の日に四郎方に持参して、四郎や原告に対しこれを呈示したことが認められ、したがって、原告は葬儀の日以前に本件書面を見る機会はなかったのであ
るから、原告本人尋問の結果のうち、原告が訴外太郎から本件書面を示されて死因贈与を承諾したという部分は、真実に反するものといわざるを得ない(なお、証人甲野
山子が当初原告の主張に符合する証言をしているが、右証言は、訴外丁海が本件書面を葬儀の日に持参したことについていったん具体的にして詳細な証言をしたうえで証
言を変えた後のものであり、到底信用することができない。)。
そうすると、本件書面は、遺言書以外のなにものでもなく、その作成の状況、保管の経緯、原告等の親族に呈示された時期などの事情を加えて斟酌しても、死因贈与の
意思表示の趣旨を含むとは認められず、また、それに対する原告の承諾の事実も認められない。したがって、訴外太郎から原告に対する死因贈与は認められないのである
から、原告の請求は、その余の判断をするまでもなく、すべて理由がない。
- 大阪高等裁判所昭和43年12月11日判決
そこで、本件公正証書の効力について判断するに、みぎ公正証書の作成に証人として立会した証人の一人である訴外大西米造は遺言者訴外亡仲川安太郎の長女大西アサ
ヘの夫であることは当事者間に争いがないから、民法九七四条三号所定の証人欠格事由ある者に該当すること明白であって、このような証人欠格事由のある者を証人とし
て立会させて作成された遺言公正証書は遺言としての効力を持ち得ず、したがって、被控訴人仲川文子はみぎ公正証書をもってする遺贈によって本件各物件等の遺贈目的
物についての所有権を単独で取得することはできなかったわけである。みぎ公正証書の効力に関する被控訴人らの主張は、独自の見解であって採用できない。
被控訴人らはみぎ公正証書をもってする遺贈は贈与または死因贈与と解することができると主張するが、遺贈は単独行為であって必ずしも相手方に対する意思表示を必
要としないところ、贈与は契約の一種であるから贈与者が被贈与者に対して贈与の意思表示をなし被贈与者が贈与者に対して贈与を受諾する意思表示をすることを必要と
するので、前認定のように、訴外亡仲川安太郎が生存中に被控訴人仲川文子に対して本件各物件を贈与または死因贈与する意思を表示したことも、また同被控訴人が同訴
外人に対して贈与受諾の意思表示をしたこともない本件の場合には、みぎ公正証書による遺贈を贈与または死因贈与があった場合に当ると云うことはできない。
この点に
関する被控訴人らの主張は採用できない。
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