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弁護士河原崎弘

代襲相続と遺産分割方法の指定、遺贈の法律関係

質問:代襲相続しますか

昨年、私の祖母(父の母)が亡くなりました。遺言があり、「下記不動産を長男太郎(父)に相続させる」と書いてありました。 これは遺贈ですか。
父は、既に、亡くなっています。私に、代襲相続権があるそうですが、私が父に代わって相続する権利はありますか。

回答:遺産分割方法の指定の場合は、代襲相続の効力は発生しない

遺産分割方法の指定か、遺贈か

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言については,従来、これを「遺産分割方法の指定」か、「遺贈」かが争われてきました。最高裁平成3年4月19日判決は、特段の事情のない限り、遺産分割方法の指定であるとし、当該遺産は、被相続人の死亡の時に、直ちに、当該相続 人に相続により承継されるとし、以後、この判例が確立しました。

代襲相続の適用を肯定

その場合、「相続させる」旨の遺言の効力に関する派生的問題として、代襲相続に関する民法887条2項の適用の有無の問題があります。 遺産の分割方法の指定により、指定された相続人が被相続人より先に死亡した場合(民法887条2項)に該当するか です。 該当すれば、指定された相続人の子が代襲相続します。
東京高裁平18年6月29日判決は、当該相続人は,相続の内容として,特定の遺産を取得することができる地位を取得することになり,その効果として被相続人の死亡とともに当該財産を取得することになる。そして,当該相続人が相続開始時に死亡していた時は,その子が代襲相続によりその地位を相続するものというべきであるしています。この問題を肯定しています(代襲相続を認める)。

代襲相続の適用を否定

ところが、 最高裁平成23年2月22日判決は、「当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと否定します(該当しない)」。代襲相続を否定したのです。
「遺言は死亡時に効力が発生するので、死亡時に受取人が存在している必要がある」からが、否定する理論的理由です。 受益者である相続人が先に死亡した場合に、その子に対象となる遺産を承継させたいという遺言者の意思があると までは言い切れないというのが、実際的理由です。
回答としては、本件は分割方法の指定ですね。従って、質問者は、代襲相続しないとの結論になります。

遺贈の場合

これは、相続させる遺言を、遺贈と見ても同じです。受遺者が遺言者より、先に死亡した場合は、遺贈は効力を生じません(民法994条)。
相続させるとの遺言についても、名宛人が、先に死亡した場合は、遺言者が、その代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、遺言は効力を生じません。

対策

判例は、通常人の意思に反しているように見えます。要するに、 受益者である相続人の子に相続させるとの特段の事情が、遺言状に書いてあればよいのです。そこで、相続させる遺言で、代襲相続まで考えている場合(万一、子どもが死んでいるときは孫に相続させたい場合)は、遺言に次のように書けば解決できます。

例文
私(遺言者)の下記不動産は、長男太郎に相続させる。
太郎が私と同時に、あるいは、私よりも先に死亡した場合は、下記不動産は、太郎の子○○○に相続させる。
・・・・・
・・・・・

この一文がないと、遺言の、遺産の分割方法の指定、ないし、遺贈は、効力を生じません。

下記に判決を挙げておきます。
当サイトの代襲相続に関するページ

法律

(民法887条)
被相続人の子は、相続人となる。
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。 但し、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合に準用する。

(民法889条)
次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
被相続人の兄弟姉妹
第887条第2項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

(民法908条)
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

(民法939条)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

(民法994条)
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

判決

  • 最高裁判所平成23年2月22日判決(出典:判例タイムズ1344号115頁)
    4 所論は,本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人ら が本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。
    5 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関 係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定 相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続 させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相 続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時 における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
    したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以 前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置 かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していた とみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
  • 東京地方裁判所平成21年11月26日 判決
    亡花子が、本件遺言に当たり、亡春夫が先に死亡した場合に、原告らに代襲相続させる意思を有していたと 推認すベき特段の事情を認めることはできない
     したがって、本件遺言は亡春夫の死亡によって失効したというほかない。
  • 東京高裁平18年6月29日判決
    ところで,相続人に対し遺産分割方法の指定がされることによって,当該相続人は,相続の内容として,特定の遺産を取得することができる地位を取得することになり,その効果として被相続人の死亡とともに当該財産を取得することになる。そして,当該相続人が相続開始時に死亡していた時は,その子が代襲相続によりその地位を相続するものというべきである。
     すなわち,代襲相続は,被相続人が死亡する前に相続人に死亡や廃除・欠格といった代襲原因が発生した場合,相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり,代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく,直接被相続人に対する代襲相続人の相続分として取得するものである。そうすると,相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても,この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず,その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではなく,代襲相続人に相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当である。
     これと異なり,被相続人が遺贈をした時は,受遺者の死亡により遺贈の効力が失われるが(民法994条1項),遺贈は,相続人のみならず第三者に対しても行うことができる財産処分であって,その性質から見て,とりわけ受遺者が相続人でない場合は,類型的に被相続人と受遺者との間の特別な関係を基礎とするものと解され,受遺者が被相続人よりも先に死亡したからといって,被相続人がその子に対しても遺贈する趣旨と解することができないものであるから,遺贈が効力を失うのであり,このようにすることが,被相続人の意思に合致するというべきであるし,相続における衡平を害することもないのである。他方,遺産分割方法の指定は相続であり,相続の法理に従い代襲相続を認めることこそが,代襲相続制度を定めた法の趣旨に沿うものであり,相続人間の衡平を損なうことなく,被相続人の意思にも合致することは,法定相続において代襲相続が行われることからして当然というべきである。遺産分割方法の指定がされた場合を遺贈に準じて扱うべきものではない。
  • 最高裁判所第2小法廷平成3年4月19日 判決
    遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させ る」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思 は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的 な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。 そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続 人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとして いるのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。
    したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割 の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属さ せる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたな どの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解 すべきである。

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