未成年者の相続放棄
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2015.7.29mf更新制作:弁護士河原崎弘相談
私の兄が昨年12月に亡くなりました。兄には前妻との間の子供(16歳と14歳)がいます。後妻にも連れ子(14歳と12歳)がいます。それぞれ、子供を連れて再婚しました。
再婚時に、兄は後妻の連れ子(14歳と12歳)との間で養子縁組をしていましたが、後妻と兄の連れ子との間では養子縁組はしていません。
兄が亡くなった後、兄に債務が約400万円あることがわかりました。そこで、私が兄の子を連れ、 相続放棄をしようと思い、家庭裁判所に行きましたところ、家庭裁判所から、「兄の実子の親権が後妻にないため、放棄できない」と云われました。
前妻(実母)は現在どこにいるのかもわからないのですが、その場合放棄をするにはどうしたら良いですか。
3か月の放棄の期限まであと僅かしかないので、急いでいます。
相談者は、市役所の法律相談所で弁護士に相談しましました。回答
未成年者は単独で法律行為をなすことができますが、これは完全な法律行為ではなく、後で取消すことができます(民法5条2項)。相続放棄も未成年者ができそうです。
他方、未成年者は訴訟行為をなすことはできません(民事訴訟法31条)。訴訟行為は複雑で、その行為を前提に他の訴訟行為がなされるので、後で取消することは不都合だからです。
相続放棄も裁判所に対する行為ですので、訴訟行為に準ずると解釈できないこともありませんが、その行為を前提に他の訴訟行為がなされるものでもありません。これについては未だ判例はないようです。
従って、相続放棄は未成年者が単独でできると解釈できます。民法も未成年者に相続放棄があることを前提に取消権を制限しています(民法919条2項)。しかし、この場合、未成年者には法律の意味を理解する能力は必要でしょう。まあ、大体、12歳以上である必要があるでしょう。実務
そうは言っても、家庭裁判所の通常の取扱いは、次の通りです。でも、未成年者自身が相続放棄の申述書を裁判所に提出した場合、裁判所は受理を拒否できないでしょう。
- 未成年者は相続放棄できない。親(法定代理人)が、未成年者に代わって、相続放棄の申述をする。
- 親(法定代理人)が、自由に、子を代理して相続放棄できると、子に相続放棄をさせ、自分の相続分を増やすことが可能となってしまい、子の利益を害するおそれがあります。利益相反の状態です。
そこで、未成年者と親(法定代理人)が、共同相続人であって、未成年者のみが放棄の申述するとき、または、複数の未成年者の法定代理人が一部の未成年者を代理して申述するときには、利害が相反しますので、未成年者について特別代理人を選任します(民法826条)。
ただし、親子ともに相続放棄するような場合は、そのおそれはありませんので、親(法定代理人)が未成年者の代理人として相続放棄をすることはできます。- 親(法定代理人)がいない場合は、未成年者の親族、ないし、利害関係人に、家裁に対し、後見人(法定代理人)の選任申立をしてもらい、家裁が後見人を選任し、後見人が未成年者を代理して相続放棄する。
そこで、未成年者名で相続放棄の申述書を作り、家庭裁判所に出してみたらどうでしょう。(養子縁組をしていないので)後妻には代理権はないです。未成年者名で書類を提出したら、家庭裁判所は書類を受取るでしょう。後は、裁判官の判断で、特別代理人選任申立をするよう指示されるかもしれません。
相続放棄の3か月の期間(熟慮期間、民法915条1項)については、「未成年者の法定代理人が未成年者のために相続開始があったことを知ったときから起算する」との規定(民法917条)があります。だから、父親(親権者、法定代理人)が死亡して、法定代理人がいないときは、期間は進行しません。そんなに心配することはないでしょう。
法律
民法第919条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
1 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。 2 前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。 3 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。 4 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。