弁護士ホーム離婚/婚約不履行
Last update 2015.5.15mf

夫の不貞に対処する:離婚しない妻
(弁護士の法律相談)

(夫婦に離婚の危機)
夫(40歳)とは結婚して10年になります。離婚に同意しない妻は弁護士に相談した夫は、テレビ局勤務ですが、愛人がいて、週2日ほどしか帰宅しません。 本人は、「仕事だ」と、言っています。私が出ると、すぐ切れる無言電話もあります。夫の不貞(不倫)は間違いありません。夫は、「お前が出て行け。この家は売り払う」と、言います。私は夜も眠れず、体の具合も悪くなりました。
私たちには、子供が1人(6歳)おり、夫婦の財産としては、4年前に買ったマンション(夫名義、時価約1億円)とゴルフクラブ会員権(夫名義、時価3000万円)があります。夫は、財形貯蓄をし、株を持っていますが、幾らあるか不明です。
夫の年収は1200万円ほどありますが、私には月額20万円しかくれません。マンションの権利証は私が持っています。
相談者は、弁護士事務所を訪れました。

離婚に対処
離婚の場合、相手がサラ金に債務があり、無資力であるなどの事情のない限り、弁護士に相談しましょう。
日本では夫婦が離婚届を出せば離婚できるという協議離婚の制度があります。夫婦が合意できればこの届出で離婚は成立します。
しかし、夫婦で合意できなければ、家庭裁判所で調停委員が関与して両者の意思を調整し離婚することもできます(調停離婚)。片方が反対しても、実質的に婚姻生活が破綻している場合には、裁判所が離婚判決(裁判離婚)をしてくれます。離婚裁判の手続きの中で話し合いで離婚することもできます(和解離婚)。
中国、台湾、韓国以外の大部分の諸外国では、夫婦が合意しただけでは離婚は難しいです。概して、協議離婚制度がなく、裁判が必要です。別居は認めるが、離婚を認めない国もあります。アメリカでは、州によって手続きは異なりますが、離婚するには、裁判手続き(離婚判決)が必要です。しかも、通常は、別居契約書を作り一定期間別居し、義務を履行してから離婚判決が出るなどの離婚の手続きの中で、弱者が保護されています。

日本では協議離婚手続きが簡単なために、経済的に弱い妻、子供は保護のない状態でほうり出される危険があります。
このケースでは、まず、離婚すべきか否か、作戦を考えました。すぐ離婚との結論を出すのはまずいです。 夫が不倫をしても、愛人がいても、籍を入れたまま我慢して暮らすのが良いのか、離婚した方が良いのか、精神的、物質的(経済的)に比較考量して決断するのです。
籍を抜かなければ、夫に対して婚姻費用(参照、婚姻費用算定表に基づく計算機婚姻費用算定表に完全に基づく計算機)の分担を請求でき、その額は、離婚後に請求できる子供の養育費(参照、養育費算定表に基づく計算機養育費算定表に完全基づく計算機)よりずっと多額です。
離婚しなければ、夫が死亡した場合には、妻には相続権があります。
裁判所は、愛人のいる夫からの離婚請求 (参考: 有責配偶者の離婚請求についての判例) を認めないでしょう。形式的にでも、籍が入って居る妻は、それだけを理由に保護されます。有利な状態を簡単に捨てる必要はありません。
しかし、妻が、「夫は今日も愛人と会っているのではないか」と、悶々と悩んで暮らすのは精神的に良くありません。離婚してさっぱりしたいとの考えも、もっともです。妻が、経済的に独立できるならば、この考えが良いでしょう。しかも、信頼できない人と暮らすなど、生きる意味がありません。貧しくとも、信頼できる人と助け合って暮らす方が意味があります。

他方で、愛人がいる夫は、愛人から結婚を迫られていることが多く、たいてい、「結婚してくれないなら、慰謝料を払って」と言われています。妻から離婚を迫られることは、夫にとって、好都合であるとの面があります。
この夫も、近松門左衛門の主人公のごとく、妻と愛人の間で心は揺れ、悩んでいるのでしょう。妻から離婚を切り出してくれると、夫は、気持ちの上で楽です。
そのような場合には、離婚を切り札に良い経済的利益を獲得できますので、妻は良い条件が出されるまで待つのも1つの考えです。
無言電話は、愛人が相談者の家庭に対し自分の存在を知らせ、相談者の家庭を破壊しようとしているサインです。「変な電話がある」と言って、相談者が夫を責め、家庭が混乱すれば、愛人と夫の関係は「一歩前進する」のです。冷静に考えなくては、妻は損をします。
一言で言えば、子供がある通常のサラリーマンが離婚をすれば、まともに考えたら、夫または妻のどちらかが犠牲になって、経済的に行きづまります。まともに慰謝料や養育費を払える能力のある夫は、ほんの少数です。
これらの事情を考慮して、結論として離婚を決意したならば、まず、経済的給付を確保する作戦を立てます。
相談者の夫はマンションを売ったり、名義を変えたり、抵当権を設定して銀行から金を借りたりするおそれがあります。相談者が権利証を持っていても、夫は不動産を処分できます。

証拠の確保
この場合、妻としては、メールをコピーしておくなり、興信所に頼むなりして、不貞の証拠を確保する必要があります。
なお、離婚を決意しても、家を出る必要はありません。家が夫名義でも、よい条件が提示されるまで、家を出ない と頑張るのは、よい方法です。どうしても、家を出る場合は、弁護士としては、最低限、給与明細、預金通帳、株の取引き関係の書類など重要書類は全てコピーし、証拠を確保することをお勧めします。

仮差押
離婚の依頼を受けた弁護士は、財産隠匿を防止するため、まずマンションを仮差押えします。
離婚の申立てを知った相手(夫)は誰かに知恵をつけられ、財産を隠したり、処分したりするおそれがあるからです。
仮差押は、家庭裁判所に対し、手続きをします。裁判官によっては、このような仮差押えを認めない人がいます。運が悪く偏屈な裁判官に出会い、仮差押が許可されなくても、時期を変えて再度申立てをします。
仮差押へ手続きでは、銀行に預金をして支払い保証をしてもらうか、法務局へ保証金を供託します。保証金は通常請求額の約1割から2割くらいですが、この場合は1割くらいでしょう。 相談者夫婦の財産は約1億3000万円ですから、財産分与請求権を6500万円、慰謝料を金500万円と見て、金7000万円を請求してみたら、どうでしょうか。その場合の保証金は、その1割の700万円くらいです。場合によっては、500万円くらいにしてくれます。

離婚調停の申立
仮差押が成功したら、家庭裁判所(一覧) に、調停を申立てます(調停前置主義)。調停は、話合いですから、弁護士を頼まずに、自分でできます。離婚、子の親権者指定、財産分与請求、慰謝料請求および養育費請求して調停の申立 をします。そうすると、夫は生活費を入れず、妻を兵糧攻めにすることが多いので、覚悟しておかねばなりません。その場合には、同時に、(離婚成立までの) 婚姻費用(算定表に基づく婚姻費用計算機 )分担の申立をするとよいでしょう。
銀行名と支店名がわかれば、裁判所から銀行に対し夫名義の預金が幾らあるか、照会してもらう申立ができます。株も、同様です。調停では、この申立を認めないことが多いです。その場合は、次の離婚訴訟の段階でするとよいでしょう。

財産分与は婚姻中に夫婦が得た財産の清算です。 本件では財産分与としての請求は、目標としては、財産の半分を請求して良いです。しかし、相談者は、専業主婦ですから、法律的には、財産分与は、財産(1億3000万円)の3割(3900万円)から4割(5200万円)程度でしょう。自営業の家業従事主婦あるいは共稼ぎ主婦は、5割位の請求権があると認定されます。 ただし、最近は、夫と妻間で、財産を折半する財産分与(参考:高額所得者の財産分与)が多いです。
財産分与の1つとして年金分割があります。年金分割は、裁判所あるいは、公証役場において手続きをします。

不貞を理由とする慰謝料は100万円から1000万円位です。1000万円は、夫に相当な資産があったり、収入がある場合です。本件の場合は、夫の収入も多いので500万円位が妥当でしょう。 家庭裁判所(調停・審判)における離婚の慰謝料は300万円万円から500万円位が多いです。

養育費は、通常は、月払いです。約束しても、段々払われなくなる例が多く、できたら離婚時に1000万円位を一時払いしてもらうことが良いです。しかし、権利として一時払いは要求できるわけではありません。
養育費は、相談者の夫の年収が多いので月払いでは10万円位が妥当でしょう。正確には、養育費計算機養育費支払い義務者に子供がいる場合の養育費計算機)で計算してください。
なお、養育費は、子ども1人の場合月額4万円位、子ども2人の場合月額5万円から6万円位の例が多いです。あるいは、一時払いで、300万円から500万円くらいが多いです。
一人前に浮気しても、収入ないし責任感が一人前でなく、この金額さえ払わない人が多いです。調停の席で、養育費を「1万円」とか、「1万円3000円」と、提案する男性も結構います。車を持っているのにです、手放そうとしません。
さらに、たいした金額を支払っていないのに、「再婚するのですが、今支払っている金額は低くできますか」と、相談する男性もいます。こんな男性が少なくないのです。そのような男性を選ぶ愚かさも忘れてはいけません。
これとは別に、離婚後、区役所に申請すると、月額3万円ないし4万円余の児童扶養手当 が支給されます(母親の所得によって金額は異なる)。
こんな金額では生活できないと考える妻は多いでしょう。

離婚訴訟
それなら、離婚はせずに、愛人に対して慰謝料請求 の訴えを提起し、積極的に活路を開いたらどうでしょう。ひょっとすると、良い結果が出るかもしれません。雨降って地固まることもあります。訴訟は、弁護士に依頼した方がよいでしょう。
愛人宅に対して無言電話で応える妻が多いですが、そんな方法より訴訟の方が健康的です。受身で、悶々とするよりも良いです。
慰謝料としては1000万円ほど請求したらどうでしょう。
100万から200万円位の金額を支払えとの判決が言渡されるでしょう(婚姻生活が破綻していない場合) 。金額が少なくても、やりがいのある裁判です。相手が払わなかったら、給料でも差押えしたらどうでしょうか。予想した以上の威力があります。
どうしても我慢できないのなら、経済的に苦しい生活を覚悟して夫に対して離婚請求の訴え 夫および愛人に対して慰謝料請求の訴えを提起して下さい。
2004年4月1日以降は、この種の事件は、家庭裁判所に対しても、両事件を併合して訴え提起できるようになりました(人事訴訟法17条、8条2項)。

*協議離婚
日本、中国、台湾、韓国などには協議離婚の制度があります。旧ソ連では子どものいない夫婦の場合協議離婚を認めていました。
協議離婚は費用が不要なことはよいのですが、欠点は、血の気の多くなった当事者が軽率な離婚をしてしまうことです。中国では、離婚登記によって、離婚は効力を生ずるが、離婚登記に際し、離婚意思、子どもの養育費などの処置、夫婦共有財産の処置、生活困な配偶者に対する援助措置などについて審査があり、軽率離婚を防止しています(参考 加藤美穂子 「中国家族法の諸問題」 敬文堂、利谷信義外 「離婚の法社会学」 )。
多くの国では、離婚は当事者が決めることではできなく、裁判所が決めることです。
日本では、女性の力が強くなるにつれ離婚が増えています(離婚に関する統計:厚生労働省参照)。

*東京近辺の家庭裁判所

裁判所 郵便番号 住所 電話
東京家庭裁判所 100-0004 東京都千代田区霞ヶ関1-1-4 03-3502-8311
東京家庭裁判所
立川支部
190-8589 東京都立川市緑町10-4 042-845-0335
横浜家庭裁判所 231-0026 横浜市中区寿町1-2 045-681-4181
さいたま家庭裁判所 336-0011 さいたま市高砂3-16-45 048-863-4111
千葉家庭裁判所 260-0013 千葉市中央区中央4-11-27 043-222-0165


*家庭裁判所一覧(東京/横浜/浦和/千葉/宇都宮)

*調停の申立の書式

東京家庭裁判所は各申立の書式をFAXで送付するサービスをしています。FAXの付いている電話で、0570-031840 へ電話をして、書式を取出して下さい。
弁護士事務所地図
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)弁護士河原崎法律事務所 電話 3431-7161