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2016.2.17mf更新
弁護士河原崎弘
抵当権に基づく物上代位/不自然なサブリースの場合
相談
当社は、取引先の不動産会社に対し、6000万円の債権を有しておりました。当社は、不動産会社が所有していた建物(10室)に抵当権を設定しました。当時、建物には、賃借人が居て、賃料合計は月額80万円でした。
ところが、この不動産会社は、契約を切り替え、他の不動産会社(仮に、S社とします)に、この建物を、賃料月額50万円で、サブリース契約で貸し、S社が、この建物を、それぞれ、旧入居者に、旧賃料で貸しています。
当社は、S社は、単なるダミーであり、実体がなく、S社に入った賃料は、不動産会社ないし不動産会社の社長に入っていると推測しています。また、S社に管理を任せるにしても、賃料の4割近い管理費を与えるのは、異常です。
不動産会社は、差押さえを免れようとして、このようなサブリースをしたものと推測できます。
このような場合、当社は、S社が各入居者に対して有する賃料債権を差押さえすることができますか。
顧問の弁護士が会社に集まり、S社対策について協議しました。
回答
貴社は、抵当権に基づき物上代位して、不動産会社がS社に対して有する賃料債権を差し押さえることはできます。しかし、この金額は月額50万円です。
さらに、S社が、単なるダミーであり、実体がなく、S社に入った賃料は、不動産会社ないし不動産会社の社長個人に入っていると証明できるなら、もちろん、貴社は、抵当権に基づき物上代位して、S社が各入居者に対して有する賃料債権を差押えすることができま
す。
しかし、そのような証明の対象は、相手の内部事情ですから、難しいでしょう。
だが、S社が、賃料の集金など、管理業務をしても、賃料の4割近い管理費をとることは、ご指摘の通り、異常です。
不動産会社は、強制執行を免れる目的に、このようなサブリースをしたものと推測できます。不動産会社の行為は、強制執行妨害罪(刑法96条の2)に当たる可能性もあります。
S社がダミーで、
強制執行を免れる目的でのサブリースなら、抵当権者は、抵当権に基づき物上代位して、S社の賃料債権を差押えしてはどうでしょう。貴社のケースではS社の賃料債権の差押が認められる可能性が大きいです。
最近は、警察も、強制執行妨害を、まともな刑事事件として扱うようになりました。
弁護士につき、
強制執行妨害幇助罪の成立を認めた例もありました。
裁判所も、強制執行妨害に対しては厳しいです。
民事の判例でも、強制執行妨害と認められるケースでは、抵当権者が、サブリース契約における賃借人(転貸人)に対する債権差押えすることを認めた判例も出てきました。
判決
- 東京高等裁判所平成12年9月7日決定(出典:金融法務事情1594号99頁)
以上の認定事実に基づいて判断するに、高山による本件土地建物の取得については、(1)その時期が、相手方による代位弁
済が行われた直後であって、しかも、勝呂夫妻に本件求償金債務を任意に弁済する能力はなかったものと認められることからすれ
ば、高山としては、本件競売手続が開始されることを十分に予想できたものと推認されること、(2)本件土地建物に係る正式な
売買契約書は存在せず、売買代金の算定根拠も不明である上に、相手方による本件求償金債権額は、1億8000万円を上回るも
のであるのに対し、本件土地建物の客観的価値は、右金額には到底及ばないものであったと推認されることからすれば(《証拠略
》によれば、本件土地建物の平成12年3月時点における評価額は約5200万円にすぎなかったことが認められるところ、売買
契約時である平成9年10月から、平成12年までの間における土地建物の価格の下落を考慮しても、右売買契約時点における本
件土地建物の価格が、本件求償債権額である約1億8000万円に匹敵するものであったとは到底認め難い。)、右売買契約は、
経済的合理性に反するものであるといわざるを得ないこと、(3)高山が、勝呂夫妻や相手方との間で、本件求償権債務の弁済に
向けた具体的な話合い等をした形跡はうかがわれないばかりか、同人は、本件土地建物の固定資産税等をも滞納している状態であ
って、これらの行動は、本件土地建物の正常な所有者としての行動とは認め難いものであること等の不自然な点が存し、これらの
事実に、前記勝呂元義の発言を併せれば、高山は、本件競売手続に介人し、不当な利益を得る目的で、本件土地建物の所有名義を
取得した疑いが極めて高いものといわざるを得ない。
そして、高山と抗告人との間の本件賃貸借は、いわゆるサブ・リース契約で
あるところ、右契約には、(1)高山と本件建物の入居者(賃借人)との間に抗告人を介在させなければならない理由は見当たら
ないこと(抗告人は、「高山は、抗告人に本件建物の管理を委ねるとともに、入居者の有無に関わらず安定した賃料収入を得るた
めに、本件賃貸借契約を締結した。」と主張するが、本件建物の管理を抗告人に委ねなければならないほどの事情があったとは認
められない上、前示のとおり、本件賃貸借契約締結当時、本件建物には、既に九名の入居者がおり、その賃料合計額は月額七八万
円に上っていたことを考えると、安定した賃料収入を得るためとはいっても、これを月額50万円で抗告人に賃貸するのは不合理
といわざるを得ない。)(2)競売手続開始が予想される本件建物について、期間を10年とする長期賃貸借契約を締結すること
事態、不自然である上に、抗告人が、高山に対し、契約で定められた毎月の賃料や保証金を実際に支払っていることについては、
これを裏付けるに足りる資料が存しないこと等の不自然な点が存し、これらの点に、(3)前示のとおり、高山による本件土地建
物取得の経緯にも不自然な点があること、(4)前示の勝呂元義の発言によれば、高山の右行為については、抗告人の関係者であ
る布山が関与している疑いが存することをも併せ考えると、本件賃貸借契約は、正常な取引によって成立したものではなく、むし
ろ、高山と抗告人とが、所有者が取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために賃貸借契約を仮装した上で、転貸
借関係を作出したものと推認すべきものである。
したがって、本件においては、抗告人と高山とを同視することを相当とする事由
が存するものというべきであり、他に右認定を左右するに足りる資料は存しない。したがって、本件建物の抵当権者である相手方
は、抗告人が取得すべき転賃貸料債権に対し、抵当権に基づく物上代位権を行使することが許されるものというべきである。
- 最高裁判所平成12年4月14日決定(出典:判例時報1714号61頁)
当裁判所も、相手方による本件債権差押命令申立ては認容すべきものであると判断する。その理由は、次のとおりである。
不動産の抵当権者は、当該不動産の賃借人が、当該不動産を転貸し、転貸賃料を得ていたとしても、原則として、右転貸賃料
債権に対して物上代位権を行使することはできないが、当該不動産の所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨
げるために、法人格を濫用し、又は賃借権を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、当該不動産の賃借人を所有者
と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して物上代位権を行使することが許されると解
するのが相当である。
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