遺言と異なる遺産分割協議/弁護士の法律相談
弁護士(ホーム) > 弁護士による遺言、相続法律相談 > 遺言と異なる遺産分割協議
2022.5.1mf更新
弁護士河原崎弘
相談
一昨年、母が、昨年、父が亡くなりました。遺言があり、私に不動産の4分の3を、妹に4分の1を相続させると書いてありました。
不動産は1億円以上の価値があり、妹は、「1千万円もらえればよい」と言っているので、私が不動産を取得し、妹に1千万円を支払う遺産分割協議書を作成することにしました。
でも、遺言と異なる遺産の分割は許されるのでしょうか。
相談者は、弁護士会で相談しました。
回答
相続人全員が遺言の内容を知っている場合
実務では、遺言と異なる遺産分割協議はよく行われています。判例を見ると、遺言と異なる遺産分割協議を認めています。
相談に対するお答えとしては、原則として、相続人全員(受遺者を含む)の同意があれば、遺言と異なる遺産分割協議は可能といえるでしょう。
ただし、次の場合は、問題があります。
- 遺言者が、禁じた場合は、遺言と異なる遺産分割は、できません。
遺言では、死亡から5年を超えない期間を定めて遺産分割を禁止することができます(民法908条)。
遺言と異なる遺産分割をするためには、遺言で遺産分割が禁止されていないことが必要条件です。遺言に遺産分割を禁止する記載がないか確認してください。
特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言の場合は、遺言と異なる遺産分割協議はできないとの判決があります(下記東京地裁平成26年8月25日判決)。
- 遺言執行者がいる場合は、遺言執行と矛盾してないこと、あるいは、遺言執行者の同意が必要です。
- 既に遺言に従い、分割を済ませていた場合、特に登記などを済ませていた場合
この場合は、遺産の再分割と同様に課税の問題が生じます。
遺言があることを知らないでなした遺産分割は、これとは別の問題です。
判決
- 東京地方裁判所平成26年8月25日判決
特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言は,遺産分割の方法を定めた遺言であり,他の共同相続人も上記遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議等はできないのであるから,上記遺言にあっては,遺言者の意思に合致するものとして,遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の承継関係を生じさせるものであり,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである(最高裁平成3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。
本件遺言は,Aの特定の遺産を特定の相続人ら(B,原告X2及び被告Y2)に相続させる趣旨の遺言であり,遺産分割の方法を定めたものである(なお,上記特段の事情はない。)から,Aの遺産は,本件遺言及びこれを実質的に一部変更したものである本件死因贈与の内容に従い,Aの死亡の時に直ちに上記相続人らに相続されることになる。
したがって,これと異なる遺産分割の方法を定めた本件遺産分割協議書による遺産分割協議は,相続人らの錯誤の有無等を検討するまでもなく,無効というべきである。
- さいたま地方裁判所平成14年2月7日判決
(1)特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなど
の特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのよう
な遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、
上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。
しかしながら,このような
遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は,相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから,これと異なる内容の遺産分割が全相続人に
よって協議されたとしても,直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。
被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別,そうでなければ,
被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく,むしろ全相続人の意思が一致するなら,遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。
法的には,一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが,このような遺産分割は,相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが
可能であるし,その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても,全相続人によってこれと異
なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり,ただ事案によって遺産分割協議が難航している実状もあることから,前記判例は,その迅速で妥当な紛争解決を図
るという趣旨から,これを不要としたのであって,相続人間において,遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず,その遺産分割を無効とする趣旨まで包含している
と解することはできないというべきである。
(2)本件においては,本件土地を含むDの遺産につき,原告ら全ての相続人間において,本件遺言と異なる分割協議がなされたものであるところ,Dが遺言に反する
遺産分割を禁じている等の特段の事情を認めうる証拠はなく,原告らの中に本件遺産分割に異議を述べる者はいない上,被告は本件遺産分割については,第3者の地位に
あり,その効力が直ちに被告の法的地位を決定するものでもないことを考慮すると,本件遺産分割の効力を否定することはできず,本件土地は原告らの共有に属すると認
められる。
- 東京地方裁判所平成13年6月28日判決
本件遺言は、前記のとおり、遺産分割方法の指定と解されるが、このように被相続人が、遺言により特定の財産をあげて共同相続人間の遺産の分配を具体的に指示する
という方法でもって相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定をし、あわせて原告を遺言執行者に指定した場合には、遺言者は、共同相続人間において遺言者が定めた遺産
分割の方法に反する遺産分割協議をすることを許さず、遺言執行者に遺言者が指定した遺産分割の方法に従った遺産分割の実行を委ねたものと解するのが相当である。
そ
して、民法一〇一三条によれば、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることが出来ず、これに違反するような
遺産分割行為は無効と解すべきである。
もっとも、本件遺産分割協議は、分割方法の指定のない財産についての遺産分割の協議と共に、本件土地持分については、夏子が本件遺言によって取得した取得分を相
続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当であり、その合意は、遺言執行者の権利義務を定め、相続人による遺言執行を妨げる行為を禁
じた民法の規定に何ら抵触するものではなく、私的自治の原則に照らして有効な合意と認めることができる。
- 東京高等裁判所平成11年2月17日判決
なお、付言すれば、原判決別紙遺産目録3以下の遺産のうち、被控訴人らの一部の者にそれぞれ当該遺産の一定数量又は一定割合を
相続させるとしている遺産に係る各自の取得分については、本件遺言において、遺言執行者に具体的な分割権限を付与したものとは認められないから、被控訴人ら間の遺
産分割協議、調停又は審判により、具体的な帰属を決定することになる。
そして、本件遺産分割協議は、原判決別紙遺産目録1(2)の土地についての遺産分割の協議と
ともに、その余の遺産について被控訴人ら各自が本件遺言によりいったん取得した各自の取得分を相互に交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当であり、
右の合意は、遺言執行者の権利義務を定め、相続人による遺言執行を妨げる行為を禁じた前記民法の各規定に何ら抵触するものではなく、有効な合意と認めることができ
る。
- 大阪地方裁判所平成6年11月7日判決
1 被告五兵衛及び被告道雄の抗弁1の遺産分割協議の成立の点は、遺言執行者に対する主張としては失当である。すなわち、本件遺言は、静子の死亡により直ちに
その効力を生じて、本件土地は被告三郎及び被告昭子に帰属すべき部分が定められているところであり、相続人間の遺産分割協議を要する部分を残していないところ、遺
言執行者としては、被相続人の意思にしたがって右権利関係の実現に努めるべきところであり、相続人間において、これに反する合意をなして、遺言内容の実現を妨げる
ときは、これを排除するのが任務でもある。
したがって、相続人間における遺産分割が、贈与契約ないしは交換契約等として、遺言内容の事後的な変更処分の意味でその
効力を保持すべき場合が存するとしても、その合意の存在をもって、遺言執行者の責務を免除する性質及び効力を有するものと解することはできない。
参考書
- 東京地裁
H19.6.28判例タイムズ1086-279
登録 2010.1.22
港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)弁護士河原崎法律事務所 03-3431-7161