遺産の再分割(遺産分割のやり直し)
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2015.7.29mf更新
弁護士河原崎弘
相談:遺産の再分割
遺産分割協議をしました。その後、この分割協議を、変更、例えば法定相続分に直して分割し直すとか、他の相続人の取り分を多くするとかの、いわゆる遺産の再分割協議は可能でしょうか。
相談者は、弁護士会の無料電話相談で相談しました。料金は無料でした。
回答:贈与税に注意
遺産分割協議で決められた債務の不履行に基づく遺産分割協議の解除はできません。
相続人全員が同意すれば、
遺産分割協議をやり直すことは可能です。ただし、贈与と扱われ、贈与税(贈与税計算機)を課される危険があります。
ここでは、全員の合意による解除を考えます。
通常の再分割の場合
(贈与税)
再分割は、贈与、交換に見られ、課税される場合があります。国税庁の見解も、同じです。再分割によって取得分が増えた相続人に対して贈与があったとされ、贈与税が課せられます。相続税に比べ贈与税は課税最低限(年間 110 万円)が低い(従って、贈与税は高い)ので注意する必要があります。
相続税法基本通達でも、「ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないものであるから留意する」としています(19-2-9)。
(不動産取得税)
相続による不動産取得には、不動産取得税は課せられません(地方税法73条7)。再分割による不動産取得がこれに当たるとの判例があります。その理由は、「本件の共有持分の取
得は、遺産分割協議のやり直しの結果によるものであって、新規又は別個の原因に基づき相続人間の個
別の合意によって所有権の移転が行われたものではなく、その時期は相続開始から約4か月後であって
相続税の申告期限内にあり、また、その原因も相続税の負担に関し過誤があったという首肯し得る理由
によるものであるというのだから、このような場合には前記非課税事由に当たると解することが可能で
あろう」と説明しています。
従って、判例によると、(相続開始後4か月後の再分割で)不動産取得税は課税されない場合があるようです。
最初の遺産分割協議に無効原因などがある場合
贈与税は課せらません。再度の分割で取得分が多くなった相続人は修正申告をし(国税通則法19条1項1号)、少なくなった相続人は2ヶ月以内に更正の請求をすることになります(同法23条2項3号)。この場合は、相続による不動産取得ですから、不動産取得税も課せられないでしょう。
判決
- 東京地方裁判所平成11年2月25日判決
以上によれば、第二次分割は、第一次分割の明示的又は黙示的な合意解除を前提するものではなく、第一次分割とは独立して、
第二次分割の分割のみを合意したものであるというべきであるから、第二次分割において、原告享子が原告キミに対し、原告裕巳が原
告美嘉子及び木下に対し、それぞれ負担する旨を合意した代償債務のうち、第二次分割において原告享子、原告裕巳が取得することと
された積極財産の額を超える部分は、現物をもってする分割に代える代償債務には該当せず、原告享子、原告裕巳からそれぞれ原告キ
ミ、原告美嘉子及び木下に対して新たに経済的利益を無償にて移転する趣旨でされたものというべきであり、そうであれば、原告享子、
原告裕巳の右代償債務のうちそれぞれが第二次分割により取得する積極財産を超える部分については、原告享子及び原告裕巳の相続税
の課税価格の算定に当たって、消極財産として控除すべきものではなく、右各部分に相当する原告キミ及び原告美嘉子が取得した代償
債権の額は、それぞれ、原告享子及び原告裕巳から贈与により取得したものというべきである。
- 東京地方裁判所平成11年1月22日判決(出典:判例時報1685号51頁)
そうすると、被告は、原告らから、本件遺言に従った場合被告の取得分は約460万円にすぎず、専門家である税理士も同様のこと
を述べている旨の説明を受け、被告において遺産分割方法についての正確な知識もなかったため、原告らが提示する分割案は本件遺言
に従った分割よりも被告に有利であり、いかなる手段に訴えてもこの案を上回る額の遺産を取得することは不可能であると信じ、その
結果本件遺産分割協議に応じたものというべきであるから、被告にはこの点に錯誤がある。
(三) 被告の錯誤は、本件遺産分割協議を成立させるに至った動機の錯誤でははあるが、原告らがその提示する分割案における以上
の遺産を被告が取得できないかのような説明を行ったたために被告がそのような動機を抱くに至ったのであって、要するに、本件錯誤
に係る被告の動機は原告らが被告に本件遺産分割協議に応じるように説得した原告らの説得内容そのものであるから、被告の動機は当
然に原告らに表示されているものというべきである。そして、被告が民法903条所定の相続分に従った遺産分割を希望すれば本件遺
産分割協議の内容(被告の取得額は約4200万円)よりもはるかに多くの遺産(民法903条に従った場合の被告の取得額は相続債
務及び相続税を控除しても少なくとも約2億6000万円)を取得できる可能性があることを知っていた場合には、通常人であれば本
件遺産分割協議に応じることはないと解されるから、被告の錯誤は本件遺産分割協議成立に向けた意思表示の要素の錯誤というべきで
あり、被告の錯誤によって成立した本件遺産分割協議は民法95条により無効である。
- 最高裁判所平成2年9月27日判決(判例時報1380号89頁)
共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解される
- 最高裁判所平成元年2月9日判決(判例タイムズ694号88頁)
共同相続人において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が右協議において負担した債務を履行しないときであっても、その債権を有する相続人は、民法541条によって右協議を解除することができない。
- 最高裁判所昭和62年1月22日判決(判例時報1227号34頁)
相続土地の共有持分の取得が地方税法73条の7第1号にいう「相続に因る不動産の取得」に該当する
相続土地の共有持分の取得が相続人らにおいて第1回遺産分割協議を合意解除し改めて第2回遺産分割協議をしたことに伴うものである場合には、右取得は地方税法73条の7第1号にいう「相続に因る不動産の取得(非課税事由)」に該当する
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