遺産分割協議成立後に遺言書が発見された
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弁護士河原崎弘
相談
昨年、父が亡くなりました。遺言はありませんでした。相続人は私と兄です。私と兄が話し合い、兄が不動産(自宅)を取得し、私が若干、金額的には多い、預金などを相続する内容の遺産分割協議を成立させました。
1年後、従兄弟から、「遺言書を預かっている」と言われ、遺言を見せられました。
「遺言には、住所○○○○、兄○○の長男○○(従兄弟の名前)には世話になったので、金2千万円を遺贈する」と書いてありました。
従兄弟には、2千万円を支払う必要がありますか。私と兄の間に成立した遺産分割協議はどうなりますか。
相談者は、法律事務所を訪れました。
回答遺言内容と違う遺産分割
は、可能ですが、
遺言の存在を知らずに遺産分割協議を成立させた場合は、当事者に錯誤があり、原則として、遺産分割協議は無効です。相続人全員が、遺言の存在を知らなかった場合でも、相続人中1人が遺言の存在を知らなかった場合でも、同じです。
遺言書発見後の手続きは、遺言の内容、受遺者の意思によって、違います。
受遺者が、遺贈の執行を求める場合は、遺贈し、残遺産につき、再度、遺産分割協議をする必要があります。
-
受遺者が法定相続人である場合
- 受遺者を含め法定相続人全員が遺産分割協議の内容に同意する場合。
遺産分割協議を変える必要はありません。
- 受遺者が、遺言通りの遺贈の履行を主張する場合
遺留分に反しない限り、遺贈を執行し、残りの遺産につき、改めて遺産分割協議をします。
- 受遺者が、法定相続人以外の場合
- 受遺者が、遺言通りの遺贈の履行を主張する場合
遺留分に反しない限り、遺贈を執行し、残りの遺産につき、改めて遺産分割協議をします。
- 受遺者が、遺贈の履行を請求しない場合
再度、遺産分割協議をする必要はありません。
一部の相続人が遺言書を隠していた場合は、隠していた相続人は相続人としては欠格となり、相続人になれません(民法891条5号)。
既におこなわれた遺産分割協議は、相続欠格者が遺産分割協議に参加したので、その意味でも、無効となります。その後、相続欠格者を除外して、遺言の執行や、再度の遺産分割協議をおこないます。
相談者のケースでは、(法定相続人である)相談者と兄は、遺言の執行として、従兄弟に対し、2千万円を支払う義務があります。そして、再度、遺産分割協議をして遺産を分ける必要があります。
判決- 東京地方裁判所平成16年3月29日判決
被相続人の死亡から約14年後に発見された遺言書において相続人らとともに受贈者として記載されている原告らが,相続人である被告らに対し,被告らが原告らを除外して行った遺産分割協議及び裁判上の和解は無効であるとして,不当利得返還請求権に基づき,原告らにおいて取得すべきであった割合に応じた金員の支払を求めた事案で,本件遺言書の成立は真正なものというべきであり,少なくとも原告ら主張の金員について原告らの損失と被告らの利得があり,その間に因果関係もあると認められ,さらに,被告らの利得は無効な遺産分割協議若しくはこれを前提とした本件和解に基くものであるから法律上の原因を欠くとして,原告の請求を認容した
- 最高裁判所平成5年12月16日判決
相続人が遺産分割協議の意思決定をする場合において、遺言で分割の方法が定められているときは、その
趣旨は遺産分割の協議及び審判を通じて可能な限り尊重されるべきものであり、相続人もその趣旨を尊重し
ようとするのが通常であるから、相続人の意思決定に与える影響力は格段に大きいということができる。
と
ころで、芳馬遺言は、本件土地につきおおよその面積と位置を示して三分割した上、それぞえを被上告人、
上告人英明及び同文明の三名に相続させる趣旨のものであり、本件土地についての分割の方法をかなり明瞭
に定めているということができるから、上告人英明及び同文明は、芳馬遺言の存在を知っていれば、特段の
事情のない限り、本件土地を作幸枝が単独で相続する旨の本件遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性
が極めて高いものというべきである。
右上告人らは、それぞれ法定の相続分を有することを知りながら、芳
馬から生前本件土地をもらったと信じ込んでいる作幸枝の意思を尊重しようとしたこと、作幸枝の単独所有
にしても近い将来自分たちが相続することになるとの見通しを持っていたという事情があったとしても、遺
言で定められた分割の方法が相続人の意思決定に与える影響力の大きさなどを考慮すると、これをもって右
特段の事情があるということはできない。
これと異なる見解に立って、右上告人らが芳馬遺言の存在を知っていたとしても、本件遺産分割協議の結
果には影響を与えなかったと判断した原判決には、民法九五条の解釈適用を誤った違法があり、ひいては審
理不尽の違法があって、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この趣旨をいう論旨は理由
がある。
登録2013.2.13
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