遺留分減殺の結果、共有となった不動産の共有状態の解消は、遺産分割ではなく、共有物分割でします:2019年6月30日までの規定です
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2022.11.16mf
弁護士河原崎弘
遺留分減殺請求の結果共有確定後の手続
遺留分を侵害された相続人は、遺留分減殺請求権を行使でき、受遺者などが取得した権利は遺留分を侵害する限度で失効し、遺留分権利者が取得した権利は、遺留分権利者に復帰します。
遺産が不動産の場合、遺留分権利者は、地方裁判所に、遺留分減殺を原因とする持分移転登記を求めます。受遺者などが、 価額弁償を主張すると、遺留分権利者の権利は、金銭債権に変わります。しかし、受遺者が価額弁償を主張しない場合、遺留分権利者は価額弁償を請求できませんので、持分移転登記を求めざるを得ません。
問題は、不動産の共有が決まった後に共有を解消する手続きです。次の2つが考えられます。
-
遺産分割調停、審判
認められた持分割合を前提に、財産は、相続財産に復帰し、遺産共有状態となり、共有関係の解消は、家庭裁判所に遺産分割の調停申立をする
管轄裁判所は、家庭裁判所
- 共有物分割訴訟
遺留分減殺請求権の行使により請求者に帰属した権利は、遺産分割の対象となる相続財産ではない。認められた持分割合を前提に、財産は、物権法上の共有になり、共有関係の解消は、遺産分割ではなく、地方裁判所に共有物分割の訴えを提起する
管轄裁判所は、地方裁判所
この問題につき、判例は、後説をとり、共有関係の解消のためには、
共有物分割訴訟が必要としています。
持分移転登記請求訴訟における請求の趣旨
とすると、同じ地裁の管轄ですので、遺留分減殺を理由に持分移転登記を求める訴訟において、共有物分割が請求できることになります。
持分移転登記が認められると、不動産は、共有状態になるだけですから、持分移転登記だけでは争いは、解決しません。そこで、事件解決を受任した弁護士としても、必要なことは、遺留分減殺を地裁で主張した場合には、その段階で、共有物分割の主張をし、その旨請求の趣旨に入れておくことです(下記判例参照)。
そうすると、判決により事件は一度で解決し、遺留分減殺による持分確定後に、共有物分割の訴えを提起する必要がなくなります。
民法改正により、2019年7月1日以降は、遺留分侵害額請求は、単なる金銭債権です。
判例
- 最高裁平成8年1月26日判決
遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で当然に減
殺請求をした遺留分権利者に帰属するところ(最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、遺言者の財産全部に
ついての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解する
のが相当である。その理由は、次のとおりである。
特定遺贈が効力を生ずると、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属し、遺産分割の対象となることはなく、また、民法は、
遺留分減殺請求を減殺請求をした者の遺留分を保全するに必要な限度で認め(一〇三一条)、遺留分減殺請求権を行使するか否か、これを放棄するか否かを遺留分権利者
の意思にゆだね(一〇三一条、一〇四三条参照)、減殺の結果生ずる法律関係を、相続財産との関係としてではなく、請求者と受贈者、受遺者等との個別的な関係として
規定する(一〇三六条、一〇三七条、一〇三九条、一〇四〇条、一〇四一条参照)など、遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等
との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分
割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれ
を包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないからである。
- 東京地方裁判所平成18年7月27日判決
主 文
- 被告は,別紙物件目録記載の土地につき,原告X1に対し平成15年10月14日遺留分減殺を原因とする持分4分の1の持分移転登記手続,原告X2に対し平成15年9月8日遺留分減殺を原因とする持分8分の1の持分移転登記手続をせよ。
- 別紙物件目録記載の土地を競売し,その売却代金から競売に要した費用その他の優先配当額を控除した残金のうち4分の1を原告X1に,8分の1を原告X2に,8分の5を被告に分配する。
- 訴訟費用は被告の負担とする。
理由抜粋
(3)原告X1の遺留分侵害額
ア 原告X1がAの遺産から取得することができる財産の額は,(3)ア記載の遺産の合計額230万5779円の2分の1である115万2889円である。
イ 原告X1が負担すべき相続債務は2記載の合計額791万4483円の2分の1である395万7241円である。
ウ そうすると,原告X1の遺留分侵害額は3467万4018円(15,934,833−1,152,889+3,957,241)であり,原告X1は,
遺留分減殺により,本件土地(弁論の全趣旨により現在の評価額も1億3308万8000円であると認める。)の1億3308万8000分の3467万4018の
持分を取得したことになる。これは原告X1が主張している本件土地の持分4分の1(1億3308万8000分の3327万2000)を上回るが,弁論の全趣旨に
よれば原告X1は請求の趣旨を上回る部分については権利を放棄したものと推認される。そうすると,原告X1の移転登記請求は全部理由がある。
5 共有物分割請求について
以上によれば,本件土地は,原告らの遺留分減殺請求により,原告X28分の1,原告X18分の2,被告8分の5の共有(物権法上の共有)となったものであ
るから,原告らの共有物分割請求により,本件土地について共有物分割をすべきものである。
登録 2016.3.26
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