遺留分請求に対処
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2022.11.17mf
弁護士河原崎弘
相談:遺留分を請求されている
夫が亡くなりました。遺言では、「全ての遺産を妻(私)に相続させるとなっていて、私が全部の遺産を取得しました。しかし、長男(夫と前妻との間の子)が私に対し遺留分を請求する旨内容証明郵便を送ってきました。
遺産は、自宅(土地、建物)、預金(3000万円)があります。自宅の評価は、夫死亡時点で1億5千万円、現在は1億2千万円くらいです。
法定相続人は、私(妻)、長男(前妻との間の子)、次男(私との間の子)、長女(私との間の子)です。
長男は、「5000万円欲しい」と、言い、くれないなら、「訴えを提起する」と言っています。私は、不動産は手元に残し、金銭を渡したいと考えています。どのような対処したらよいでしょうか。
相談者は、法律事務所を訪れ、弁護士に相談しました。
回答1(2019年6月30日まで):価額弁償
遺留分減殺請求権は、形成権ですので、
遺留分減殺請求
をすると、対象不動産は、その割合で相続した人と遺留分権利者との間で共有関係になります。金銭については、遺留分権利者は相続した人に対して遺留分割合の支払請求ができます。
この場合、遺留分は次のように計算します(単位:万円)
長男の遺留分割合
= 1/2 × 1/3 × 1/2
= 1/12
不動産は、あなたが 11/12、長男が 1/12 の持分を持ち、その外に、あなたに対して250万円の金銭支払い請求ができます。しかし、あなたは、不動産の価額を弁償すれば、不動産を取れます(民法1041条)。
長男はあなたに対し、訴えを提起し、全遺産につき、 1/12 の請求をしてきます。具体的には、土地については 1/12 の持分移転登記、預金についても 1/12 の金額を請求してきます。
あなたは、裁判では、これを争い、「裁判所が定めた価額により民法1041条の規定による
価額の弁償
をなす」旨の意思表示をすればよいのです。民法1041条の規定による価額とは、夫死亡時の価額ではなく、裁判の口頭弁論が終結した時点での時価の 1/12 である1000万円です。
対象遺産は、
遺留分算定は、相続時(被相続人死亡時)の時価で計算し
、価額による弁償は、裁判の口頭弁論が終結した時点での時価で計算します。
判決主文
この場合、裁判所は、次のような判決を言い渡します。
1
被告(あなた)は、原告(長男)に対し、被告が原告に対し金1000万円を支払わなかったときは、別紙物件目録記載の土地、建物の12分の1について、平成11年8月1日遺留分減殺を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2
被告(あなた)は、原告(長男)に対し、金250万円を支払え。
あなたは、合計1250万円を支払えば、自宅を確保できます。
回答2(2019年7月1日から):常に価額弁償
相続法の改正により、遺留分権利者は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できることになりました(民法1046条1項)。権利が債権になったので、消滅時効が問題となります。遺留分権利者は、1048条に定める期間内(1年)に遺留分侵害額請求の意思表示をしておけば、その時点から5年(民法166条1項1号)以内に具体的請求を行えばよい。
弁償すべき価額の主張、立証責任
対象遺産の 口頭弁論終結時の価額の主張立証責任が、遺留分権利者にあるか、価額弁償をする者(受遺者など)にあるかについて、明確な判例はありません。
理屈を考えてみると、遺留分算定の際、対象である目的物の時価は算定されているわけです。そこで、口頭弁論が終結した時点での時価が、相続時の時価より高いことについては、遺留分権利者に主張立証責任があり、低いことについては、価額弁償をする者(受遺者など)に主張立証責任があるでしょう。 この主張立証がなされない場合は、裁判所は、相続時の時価で、価額弁償額を決めるでしょう。
判決
最高裁判所平成21年12月18日判決
遺留分権利者から遺留分減殺請求を受けた受遺者等が,民法1041条所定の価額を弁償する旨の意思表示をしたが,遺留分権利者から目的物の現 物返還請求も価額弁償請求もされていない場合において,弁償すべき額につき当事者間に争いがあり,受遺者等が判決によってこれが確定されたときは速やかに支払う意 思がある旨を表明して,弁償すべき額の確定を求める訴えを提起したときは,受遺者等においておよそ価額を弁償する能力を有しないなどの特段の事情がない限り,上記 訴えには確認の利益があるというべきである。
最高裁判所平成9年2月25日判決(判例時報1597号66頁)
1 一般に、遺贈につき遺留分権利者が減殺請求権を行使すると、遺贈は遺留分を侵害する限度で失効し、受遺者が取得した権利 は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するが、この場合、受遺者は、遺留分権利者に対し同人に帰属した遺贈の目的 物を返還すべき義務を負うものの、民法1041一〇四一条の規定により減殺を受けるべき限度において遺贈の目的物の価額を弁償して返還の 義務を免れることができる。
もっとも、受遺者は、価額の弁償をなすべき旨の意思表示をしただけでは足りず、価額の弁償を現実に履 行するか、少なくともその履行の提供をしなければならないのであって、弁償すべき価額の算定の基準時は原則として弁償がされる時 と解すべきである。
さらに、受遺者が弁償すべき価額について履行の提供をした場合には、減殺請求によりいったん遺留分権利者に帰 属した権利が再び受遺者に移転する反面、遺留分権利者は受遺者に対して弁償すべき価額に相当する額の金銭の支払を求める権利を取 得するものというべきである(最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号768頁、最高裁昭和53年財第907号同54年7月10日第三小法廷判決・民集33巻5号562頁参照)。
2 減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において、
受遺者が、事実審口頭弁論終結前に、裁判所が定めた価額により民法1041条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として遺留分権利者の請求を認容するべき
である。
最高裁判所昭和57年3月4日判決(判例時報1038号285頁)
民法1031条所定の
遺留分減殺請求権は形成権
であつて、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効 し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属するものと解すべきものであることは、当裁判所の 判例とするところであり(最高裁昭和40年(オ)第1084号同41年7月14日第一小法廷判決・民集20巻6号1183頁、 最高裁昭和50年(オ)第920号同51年8月30日第二小法廷判決・民集30巻7号786頁)、したがつて、遺留分減殺請 求に関する消滅時効について特別の定めをした同法1042条にいう「減殺の請求権」は、右の形成権である減殺請求権そのもの を指し、右権利行使の効果として生じた法律関係に基づく目的物の返還請求権等をもこれに含ましめて同条所定の特別の消滅時効 に服せしめることとしたものではない、と解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、 原判決に所論の違法はない
最高裁判所昭和51年8月30日判決
遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利 者に帰属するものと解するのが相当であつて(最高裁昭和三三年(オ)第五〇二号同三五年七月一九日第三小法廷判決・民集一四巻九号一七七九頁、最高裁昭和四〇年 (オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和四二年(オ)第一四六五号同四四年一月二八日第三小法廷判決・裁判集 民事九四号一五頁参照)、侵害された遺留分の回復方法としては贈与又は遺贈の目的物を返還すべきものであるが、民法1041条1項が、目的物の価額を弁償すること によつて目的物返還義務を免れうるとして、目的物を返還するか、価額を弁償するかを義務者である受贈者又は受遺者の決するところに委ねたのは、価額の弁償を認めて も遺留分権利者の生活保障上支障をきたすことにはならず、一方これを認めることによつて、被相続人の意思を尊重しつつ、すでに目的物の上に利害関係を生じた受贈者 又は受遺者と遺留分権利者との利益の調和をもはかることができるとの理由に基づくものと解されるが、それ以上に、受贈者又は受遺者に経済的な利益を与えることを目 的とするものと解すべき理由はないから、遺留分権利者の叙上の地位を考慮するときは、価額弁償は目的物の返還に代わるものとしてこれと等価であるべきことが当然に 前提とされているものと解されるのである。
このようなところからすると、
価額弁償における価額算定の基準時は、現実に弁償がされる時であり、遺留分権利者において 当該価額弁償を請求する訴訟にあつては現実に弁償がされる時に最も接着した時点としての事実審口頭弁論終結の時である
と解するのが相当である。
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(東京メトロ神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161