NO.011 夏 木 山( 夏木山:1,386m ) 1994.12.17登山


 お姫山から見た夏木山( 1994.12.17 )
【夏木山について】

【夏木山登山データ】


夏木山について

そばに特徴的な鹿納山や頭巾岳 (とっきんだけ) といった山がある中で、 夏木山は目立たない山であるし (私自身、夏木山に登ったにもかかわらず、当時はその山容を確認できず、 つい最近になってようやく把握した次第である)、またその頂上も木々に囲まれて展望は全くきかないことから、 この山を特に推す理由をあまりあげられないのであるが、静かな山であるとともに、この山に登って貴重な体験を得たので、 是非とも記録に残したいと思う次第である。
九州の多くの山と同様、この山へのアプローチも車が必要で、宮崎から国道10号線にて延岡まで行き、 延岡で左に折れて国道218号線にて高千穂に向かってひたすら走ることになる。
途中、道は旧道とバイパスに分かれるが、どちらからでも行くことは可能で、旧道の方を紹介すると、 駅に温泉が付属している高千穂鉄道日の影駅 (今は日之影温泉駅) を過ぎて日之影町を通過し、 橋を渡った所で右折して日之影川右岸沿いの道を上流に進む。約 30分程の距離にある中村橋というところで右折して橋を渡り、 砂利道の日隠林道を進めばよい。
やがて、車止めの鉄の扉の手前で道が 2つに分かれ、その分岐点に化粧山登山口の標識が見えるので、 その周辺の空き地に車を止めて、分岐点右の道を登り始めることとなる。

分岐からほんの 10m程進んだ左側の目立たない所に、矢印が書かれた指導標が現れるが、 この指導標は進行方向からは見えにくく、私はうっかり見過ごして林道をドンドン先に進んでしまったのだった。
さすがに林道が荒れだして、人が通った痕跡が全く感じられなくなってきたのでおかしいと思い、 引き返したところ、ようやく登り口に気がついたが、これで 40分ばかり時間をロスしてしまったのであった。
そして、このウッカリは、後で考えると、夏木山山中でこれから経験することへのプレリュードに過ぎなかったのである。

登山道は杉の木立の中を蛇行しながら進んでいき、やがて涸谷を詰めることとなる。
ロープが備わっている所を乗り越すと、小さなピークとなって、そこには化粧山の標識があった。
ここは鉱山で働く男達を慰めるべく、瀬戸内谷を登ってつれてこられた女性達が、鉱山を前に化粧した所というのがその名前のいわれだそうで、 その説明を書い札が標識の横に置かれていた。
化粧山からやや下って、笹の道を登り返すと、何本かの木が合体したような、太い枝を四方に広げた大きなブナの木があり、 ここで鹿納山への道と分かれることになった。
このブナの木には標識がいくつか打ち付けられていたのだが、直に打ち付けられているその姿には何か残酷めいたものを感じさせられた。

左にルートを取り、しばらくは起伏のあまりない道を進んだが、この辺からは昨夜降った雪がうっすらと残っていて、 誰も踏んでいない道の上に足跡を付けていくことになった。
やがて岩場にかかり、そこを登り切ると、露岩の横に小さな標識があるだけのお姫山頂上であった。 この見晴らしの良い場所からは、正面に見える鹿納山の特徴ある山容が印象的である。
お姫山からは、木の根がむき出した所を下り、緩やかな笹の中の道を進んで行く。 やがて、五葉岳との鞍部となって右に瀬戸内谷へ下る道らしきもの (あまりはっきりしない) を分けるようになり、 再び登り返したところが五葉岳頂上であった。

五葉岳頂上には平らな露岩があり、その上に立つと周囲の山々がよく見渡せ、 特に祖母山傾山方面をよく見ることができたが、 これから登る夏木山についてはどの山なのかを同定することはできなかった。

五葉岳から急な道を下っていくと、暫く先でやや分かりにくい夏木山への標識が現れたので、 そこを右折して枯れたススキの原を進んだ。
やがて道はスズタケの中の道へと変わったが、所々スズタケが大きく伸びており、先がよく見えずに大変苦労させられた。
かなり長いスズタケの中の道をかき分けるようにしてようやく抜け出すと、今度は原生林の中を進むようになり、 やがて地図にも載っていないことが多い鹿の子山の頂上となった。
ここからはすぐにカナメと呼ばれる丁字路で、左が目指す夏木山、右が瀬戸内谷である。
左に曲がって暫く登って行くとすぐに夏木山頂上となったが、頂上は木立に囲まれて展望はきかない。
周辺を刈り払ったアトと、いくつかの標識がぶら下がっていたことで、この山にも人が訪れていることを感じることができたが、 誰もいない静かな山頂に一人でいると、木の後ろから熊でも出てきそうな気がして、ゆっくり落ち着くことができなかった (九州には、 熊はいないと言われているが・・・)。

下山はカナメまで戻った時点で若干迷ったものの、結局 同じ道を通らずに瀬戸内谷の方へと進むことにする。
まっすぐに進み、かなり下っていった後は、涸れた沢に沿って進むようになり、やがて瀬戸内谷にたどり着いた。
ここを右に登っていけば、先ほどのお姫山と五葉岳の鞍部に出るはずである。
道は登山道というより、涸れ谷そのものを登ることになり、時々見える赤テープだけが頼りの登りとなったが、 そのテープの間隔が時として 100mも 150mも開いていることがあり、不安にさせられることが何回もあった。
谷は支流が時としてあるものの、本谷を行くだけであるから問題ないはずであるが、大きな岩がゴロゴロした中での、 若干不安を感じながらの登りは結構神経を使ってくたびれる。

やがて両側の山が迫って、谷が細くなってきた頃、本谷自体はまだまだまっすぐ上に続いているにもかかわらず、 左手斜面の木に赤テープが貼られてあるのが目に入る。おかしいとは思いつつも本谷から離れ、その斜面を登ることにする。
テープはそれからもいくつか続いており、斜面をどんどん登って、背丈程あるクマザサ (あるいはスズタケ?) の林の中に入っていったが、 さらにクマザサの中にも小さなテープがあったため、ドンドン奥へと導かれていってしまったのである。
しかし、途中から全くテープが見えなくなって、気がついたら前はクマザサで塞がれた状態となり、戻ろうにもクマザサが後ろを塞いでいて、 辿ってきた道が分からず、二進も三進 (にっちもさっち) もいかない状態になってしまったのだった。
感覚的には、先ほどの本谷の方へ戻るべきと思ったので、右の方へとクマザサを分けて進んだのだが、 行けども行けどもクマザサで埒があかず、かといって下へ下りるにしても、 やはり雪をかぶったクマザサをかき分けていかねばならず、本当に参ってしまったのだった。

それでも意を決して左下 (登っている時の右下の向きに相当) へとクマザサをかき分けて進むと、 やがて支流の谷に飛び出したので、そこを下ろうとしたところ、また、赤いテープが上方に続いているのが目に入り、 下ろうか登ろうか迷ったあげく、また登ることにしてしまったのである。
しかし、この道も途中からクマザサの中に突入して、やがて道が全く不明になる始末で、体力も使い果たしてヘトヘトになり、 戻る気力も登る気力も失せてしまったのであった (要するにパニック状態)
そして、時計を見ると午後 3時を過ぎていたことから、これは寒い冬の中で野宿しなければならないかも と半分覚悟を決めたのであった。

しかし、野宿を覚悟すると逆に気が落ち着くもので (単身赴任のため、心配する家族も居ないので、 気兼ねなく野宿できる ?)、このクマザサの海の中で現在地を確認する術 (スベ) を考えるべきだというアイデアが浮かび、 クマザサの海の中に所々生えている木に登ってみることにする。
そして、適当な木を見つけて登ってみると、当然クマザサの海を見渡すことができるようになり、さらに右上方に五葉岳とおぼしき形の山とその鞍部を見つけることができたのであった。
これで、一応進むべき方向が見つかったので、少し元気が出てくるようになり、野宿覚悟の最後のカケと思って、 頑張ってその方向に進んでみることにする。
クマザサをかき分けかき分けし、ササにのっかている雪を被りながら、ヘトヘトになって登っていくと、 やがて太陽の光がクマザサの間を通して見えるようになり、ひょいと五葉岳への登山道に飛び出すことができたのであった。
この瞬間、これで大丈夫と思って力が抜けてしまい、思わず道にへたり込んでしまった次第である。
九州は猪狩りが盛んであるので、もし猟師そばにいたら、クマザサの中を動くイノシシと間違えられて打たれていたことであろう。 想像すると身震いが起こる。

飛び出した場所は、夏木山へ行く際に見た瀬戸内谷へ下る道よりも、もっとお姫山寄りの所であったことから、 やはり本谷をそのまま進むのが正解であったようで、私が入り込んだコースは、 本来出るべき所とはお姫山を夾んで反対側になるバリエーションルートであったようである。
お姫山、化粧山を経由して車の所まで戻り、シートに座った時には本当にホッとしたのであった。
やはり人間は道に迷ったりするとパニックに近い心理状態になるが、その時に自分をいかに落ち着かせて、 次の冷静な行動に移るかが大切であることを、身をもって体験させてもらった 1日であった。


夏 木 山 登 山 デ ー タ

上記登山のデータ 登山日:1994.12.17 天候:曇り時々晴れ 単独行 前日泊
登山路:日隠林道化粧山登山口−化粧山−化粧山分岐 −お姫山−五葉岳−鹿の子山−かなめ−夏木山−かなめ−瀬戸口谷−五葉岳・お姫山分岐− お姫山−化粧山分岐−化粧山−日隠林道化粧山登山口
交通往路:宮崎−日向−延岡()−日影町−中村橋−日隠林道化粧山登山口(車にて)
交通復路:日隠林道化粧山登山口−中村橋−日影町−延岡−日向−宮崎(車にて)


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