NO.008 傾  山( 傾山:1,602m ) 1994.1.15登山


 センゲン付近から見た冠雪の傾山( 1994.1.15 )
【傾山について】

【傾山登山データ】

フォト 冬

フォト 夏


傾山について

1993年の 2月に祖母山に登って以来、 いつかは祖母傾山系の一方の雄である傾山にも登らねばと思っていたのだが、ずっと果たせぬまま 1年が過ぎ、 ようやく 1994年の 1月に登ることができた。
宮崎へは単身赴任であるため、土日はどこの山へも行けるのであるが、この祖母傾山系はアプローチに時間を要すことがネックとなって、 なかなか行けなかったのである。
祖母山に登った時は、前日にその登山口にある旅館に泊まったのであるが、今回は金曜日の業後に宮崎から延岡まで行ってそこで 1泊し、 次の日に登ることにする (こうすれば時間が有効に使える)
早朝、延岡を暗いうちに出発し、国道10号線を北に進み、重岡駅の所で左折して宇目町方面へ車を飛ばしていると、 進行方向の遙か先に朝日を浴びて山肌がピンクに染まり始めた祖母傾山系が見えたのだが、その雪に覆われた姿に驚いてしまった。
九州といえども山に雪が降ることは珍しくないが、初めて登る山なので、雪に覆われて道が分からなかったら・・・という心配が先に立つ。

祖母山と同様、緒方町から尾平へ向かう道を進み、途中上畑 (ウワバタ) の停留所で道を左に折れて、 川沿いに道を進む (左折の場所には道標がしっかり付けられているので間違うことはない)
やがて、左に林道を見た後、九折 (ツヅラ) 鉱山跡にて道は終点となるが、終点手前の空き地に車を駐車することが可能であり、 そこに車を駐める。駐車スペース周辺に雪はない。
天候は朝方 晴れていたにもかかわらず今は曇っており、また山の上部にガスがかかっているので、山の上部にある雪のことも含め、 何となく登るのに不安を感じてしまう (右手に九折鉱山の廃鉱が、 枯れたススキの中に墓場のように立っていたこともその不安を募らせる)

車を降りてそのまま車道の先を進むと、道が 2つに分かれるが、左は三ツ尾経由で傾山に登る道であり、 右は九折越経由の道である。
三ツ尾経由の道は、途中の三ツ坊主と呼ばれる岩場が厳しく、また冬場は山の裏側斜面に雪や水が凍結した所があると思われるので、これを避け、 九折越経由の道を選ぶ。
右に曲がると、人工的に造られたような坂が現れ、その坂の先から平らな道が続くようになるが、これは鉱山のトロッコ用の軌道が敷かれていた道と思われる。
実は、この日訪れた時は、九折鉱山跡から道が 2つに分かれる所までの短い距離の間に土砂崩れがあったらしく、 右の尾根に作られた迂回路を通らねばならなかったのだった。但し、2回目に訪れた時は完全に整備されていて、 まっすぐに進むことができるようになっていたのだった。

軌道跡の平らな道を進むと、やがて右に傾山登山口の標識が見え、そこから山道に取り付くことになる。
すぐに道は、左側が谷 (山手本谷) となっている穏やかな登りとなるが、水音は聞こえるものの、 川の流れを見ることはできない。 それでも、やがて水音が大きくなってきたかと思うと、木の間越に芥神の滝を見ることができるようになる。
滝を過ぎてから暫くして山手本谷の支流となるカンカケ谷を渡るが、ここからは急坂の連続となり、梯子を登ったり、 岩や木の根を掴みながらの登りを強いられることが多くなる。
そして、ようやく登りが緩んできたかと思うと、不意に林道に飛び出すことになる。林道といっても道は荒れており、車も通った痕跡もないため、 どこか下の方で車が入れないようになっているに違いない。

登山道の方は、林道の左手に梯子が見え、そこからまた山に取り付くことになる。 そこから暫く登ると、徐々に足元に雪が現れだす。
道の周囲にスズタケが増え始めると、降り積もった雪の量も増え始め、ついにはスズタケが積もった雪の重さで道を塞ぐようになり、 それを振り払うために、レインウェアを着なければならない状態にまでなってしまう。
道の方はジグザグの急登で、かなり喘ぎながらの登りとなったが、上の方が明るくなってきたなと思ったら目の前が急に開け、 九折越の雪原に飛び出したのだった。

この頃になると青い空も見え始め、太陽も顔を出してきたので、斜めに生えている木に腰を下ろして腹ごしらえをするとともに、 ノンビリひなたぼっこをして休憩をとる。
この九折越の辺りになると、雪は 10センチから 15センチほどとなり、さらには、傾山方面への道は全く足跡がなかったために、 やや不安になる。しかし、空の明るさが勇気づけられて、先へと進むことにする。
暫し休憩をとった後、後からやってきた 2人連れとともに傾山に向かったのだが、途中のセンゲンと呼ばれる付近に来ると、 目の前に冠雪した傾山が現れ、その美しさに思わず息を飲んでしまう。
傾山は本峰と後傾からなる双耳峰になっており (前傾も含める場合もあるが、やはり双耳峰といった方が良いと思われる)、 普段でも魅力的な岩峰なのだが、この日は雪化粧して 1段も 2段も格上げされており、青い空に浮かぶ白と焦げ茶色をしたその姿は、 気高く、何か神聖なものさえ感じさせてくれる。その姿を見た瞬間、どういう訳か頭にマッターホルンという言葉が浮かんでしまった程である。

ほぼ平らだった道も傾山が近づくにつれて急斜面に変わり、雪でよく道が見えない中を、 周りの草木の様子から道を探り出して進む。
その年の 6月に 2回目の傾山登山を行ったのだが、その無雪期でも岩場があったり、ロープが付けられた急斜面があったりして、 かなり厳しい登りと感じたことから、10センチも積もった雪の斜面をよく登り切ったものだと後から感心してしまったのだった。
喘ぎつつ登り切った所が後傾で、谷越しに本傾が見えたので、疲れた身体もやや元気になり、休まずにそのまま進む。
一旦鞍部に下りてまた登り返したのだが、鞍部から先は吹き溜まりになっていたのか、多いところで雪が 25センチ位あり、 簡単なラッセルまで経験させてもらえる状態。
左に登っていくと、目の前に大きな岩が現れ、それを越えると傾山 (本傾) の頂上であった。

頂上はもちろん誰の踏み跡もなく、真っ白い雪の上に私の足跡だけを付けることができ、 滅多に経験できないこの状況に些か興奮を覚える。
狭く平らな頂上の真ん中にある三角点は、ほぼ雪に埋もれており、その横で小さいが立派な標識だけが首を覗かせている。 しかし、約 5ヶ月後にここを再び訪れた時には、この標識はすみっこに追いやられ、代わりに傾山と書かれた立派な標柱が立てられていたのだった。
頂上からは祖母山方面がよく見え、また縦に長い傾山頂上の先の方は、雪を被った松や岩などが美しい日本庭園を造りだしていて、 いつまで眺めていても飽きることがない。
しかし、30分位頂上で展望を楽しんだが、待てど暮らせどセンゲンの所で追い抜いた先の 2人連れが追いついてこず、 少々残念な気持ちとなる。
頂上を一人占めすることも楽しいが、美しい光景を見た時などはそれを分かち合う人が欲しくなることもあるのである。

下山は往路をそのまま戻り、坂道ではグリセードのまねごとをして楽しみながら一気に下ったが、 車を止めていた所で先ほどの 2人に追いつくことができた。聞けば、センゲンの先で戻ってしまったとのことであった。
上畑への道すがら、右を見ると傾山が夕日に輝いているのが見え、またまたその美しさに車を止め、暫く眺めてしまった。
九州の山でこれほどの充実感を味わったのは久しぶりであり、登り始めの不安はどこかへすっ飛び、本当に楽しい一日であった。


傾 山 登 山 デ ー タ

上記登山のデータ 登山日:1994.1.15 天候:曇り後晴れ 単独行 前日泊
登山路:九折鉱山跡−登山道入口−芥神ノ滝−カンカケ谷 −林道−九折越−センゲン−後傾−本傾(傾山)−後傾−センゲン−九折越−林道−カンカケ谷−芥神ノ滝 −登山道入口−九折鉱山跡
交通往路:宮崎−延岡()−三重町−緒方町− 上畑−九折鉱山跡
交通復路:九折鉱山跡−上畑−緒方町−三重町−延岡−宮崎
その他の傾山登山 (1) 九折鉱山跡−登山道入口−芥神ノ滝 −カンカケ谷−林道−九折越−センゲン−後傾−本傾(傾山)−五葉塚−前傾(三ツ坊主)−三ツ尾−観音滝分岐−九折川−九折鉱山跡(1994.6.4:晴れ)
(2) 九折鉱山跡−登山道入口−芥神ノ滝−カンカケ谷−林道− 九折越−センゲン−後傾−本傾(傾山)−後傾−センゲン−九折越−林道−カンカケ谷−芥神ノ滝− 登山道入口−九折鉱山跡(1995.2.18:曇り)

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