BOOKSCAPE(日本)95年9月〜96年2月  by 藍上 雄



『The S-F Writers』SFマガジン11月臨時増刊号(早川書房/95.11.1/1600円)
 早川書房創立50周年を記念しての、現代日本SF作家25人集。作家別著作リストもついてるよ。昔の2月号が思い出される分厚さだ。以前紹介した『日本SFの大逆襲!』にくらべると、某作家の不在が理由だけでなく、SFの香りがやや薄い、いやより日本SFらしいというべきか? 高千穂遙をのぞけば各作家の持ち味そのまんまが出ている。菅浩江「賎の小田巻」、中井紀夫「絶壁」、菊地秀行「旅人たち」、野田昌宏「火星を見た尼僧」、大原まり子「ラヴ・チャイルド」が個人的ベスト5。

▼その某作家の作品が読めるのが、
『仮想年代記』(アスペクト/95.12.7/2200円)
1995年はタイムマシン生誕100年ってことで、それにちなんだ時間SFアンソロジー。テーマ・アンソロジーなんて、なんか懐かしい。巻頭に横田順彌の古典SFでのタイムマシン・テーマについてのエッセイ、あとは梶尾真治、大原まり子、かんべむさし、堀晃、山田正紀の5作品。ありがちの、コミカルなのは一つもない。「時の果の色彩」時間SF=恋愛物のバリエーションをいくつ出せるかに挑戦しているかのようだ。本筋とは全く関係ないけど、「開発費は、販売促進費であると、神戸社長は信じているのだ」なんて会計用語が出てくる文を読むと、さすが社長作家、それとも部下からの日頃の苦言なのかいな。「女と犬」必ずひとつある、テーマから逸脱した作品。「傷、癒えしとき」文科系時間SF。「10月1日を過ぎて」理科系時間SF。でも、結局は普通の読者にとっては同じなのだが、科学用語が頻出するSFって、なぜか安心感があるよね。「わが病、癒えることなく」いつもの山田節。既視感ならぬ既読感があるのはなぜだろう。時間物といや、痴呆老人=時間旅行者の『ジュークボックス』なんて傑作があったな。

▼老人たちが主人公なのが、
『魂の駆動体』神林長平(波書房/95.10.30/1800円)
 リタイヤした老人2人が林檎泥棒を企てる。そのせいか、山田正紀を読んでいるような錯覚に陥った。やがて2人はその時代では過去の異物と化した自動車の設計に熱中していく。物語がそのまま進んでいけばおもしろいのに別の方向へ行ってしまうので、『言壷』と同様の歯痒さを感じたが、それが日本SF大賞受賞なのでは私の感覚はあてにならない。今回は、最後でその歯痒さが解消され、神林作品では珍しい(似合わない?)夢と希望と熱気があるので、ここちよく読み終えることができた。

▼小説の中でパーソナル・タイム・シフトなる考え方が出てくる。まるでそのような設定なのが、
『七回死んだ男』西澤保彦(講談社ノベルス/95.10.5/780円)
 本人の意志とは関係なく、また発生に何の規則性もなく、同じ1日を9回繰り返す状況に陥ってしまう能力(体質?)を持った少年が、その9日間(他の人には1日)の「反復落とし穴」で起きた祖父殺人事件を防ごうと四苦八苦する。ちょいと変わった設定のミステリを書く西澤保彦のまたも変な作品。惜しむらくは、ミステリとしての骨格(遺産相続を巡る骨肉の争い)や人物造形があまりにイージイで陳腐で、興ざめなこと。そのへんもP.ディキンスンなら傑作になったかもしれないのに。

▼作者の大学卒業作品は英詩約50編などだそうだ。城左門の筆名で詩人でもあったのが、
『死人に口なし』城昌幸(春陽文庫/95.11.10/640円)
 探偵小説傑作選「探偵CLUB」第10回配本。国書刊行会の〈探偵クラブ〉と同系統にみえるが、とんでもない。かつて春陽文庫で刊行された本のリバイバル。で、有名な作家でも代表作なんかではなく、なんでこの作品が再刊されるわけ? のオンパレード、おまけにどマイナー作家もまじっているから、恐れ入る。森下雨村『青斑猫』、小酒井不木『大雷雨夜の殺人』、甲賀三郎『妖魔の哄笑』、大下宇陀児『金色藻』、横溝正史『殺人暦』、松本泰『清風荘事件』、佐佐木俊郎『恐怖城』、水谷準『殺人狂想曲』、どうです、すごいでしょ、と興奮してるのは私だけか? 説明するまでもないが、城昌幸は星新一以前のSS作家として評価されているのは「常識」じゃないのか?

▼「探偵CLUB」第5回配本の作者が、
『怪獣男爵』『夜光怪人』『まぼろしの怪人』『真珠塔・獣人魔島』『幽霊鉄仮面』『青髪鬼』『蝋面博士』横溝正史(角川スニーカー文庫/95.12.1/470円520円520円600円560円520円520円)
 今から15年以上前横溝ブームの末期、角川文庫で刊行されたジュブナイルの新装版。イラストは横溝作品をマンガ化しているJET。これも某少年ブームのおかげか? 当時、横溝の小説は『夜の黒豹』や『悪魔の百唇譜』『迷路の花嫁』まで読んでいたけれど、山村正夫が手を入れて探偵を金田一耕助に改変したと聞いていたので、けっ子供だましじゃんと手をつけなかったのだが、大人になって乱歩の少年探偵団物を全巻読破(文庫版全集でね)してからは怖いもんはない。全7冊買って一気に読んじまった。乱歩の健全(?)なのに比べて、人はどんどん死ぬわ、腕はちぎれて飛ぶわ、不健全きわまりない。同工異曲が多いので続けてよむと何がなんだか混乱してしまいますが、ゴリラに人間の脳を本当に移植してしまう『怪獣男爵』や、『幽霊男』『悪魔の寵児』などの通俗長編群を彷彿とさせるグロテスクな『真珠塔』、最後はモンゴルの奥地まで行ってしまう昔なつかし冒険活劇『幽霊鉄仮面』、美少女をさらって蝋人形に本当にしてしまう(デーモン小暮ではない)『蝋面博士』なんかどうでしょう?
 このあと、講談社「大衆文学館」からストーカー『吸血鬼ドラキュラ』の翻案『髑髏検校』の待望の再刊がなされたし、金田一物の贋作アンソロジーもでたし、孫さまさま。

▼JETはE.クイーンの作品もマンガ化しているが、クイーンを自著のなかで「いまさらクイーンでもない、というような話を聞くと、本当にがっかりする」と敬愛しているのが、
『キッド・ピストルズの慢心』山口雅也(講談社/95.9.15/1600円)
 名探偵が社会的に認知されたパラレルワールドのイギリスを舞台にした、マザーグース・ミステリ集。シリーズ4冊目になるが、前作『キッド・ピストルズの妄想』にくらべて、ミステリとして常識的なのは、はっきりいってつまんなくなっているのは、掲載誌のせいなのか、ファンとして気がかりなところ。ちなみに、そのクイーンに関するエッセイや私がミステリにのめり込むきっかけになった幻の名コラム(前にも言ったな)「プレイバック」などを収録した『ミステリー倶楽部へ行こう』(国書刊行会/96.1.20/2000円)は、人間なら必携・必読。

▼作家デビューが同期といえるのが、
『覆面作家の愛の歌』北村薫(角川書店/95.9.30/1200円)
 北村薫は少女マンガの文法でミステリを書いたと誰かがいっていたけど(だからあれだけ追従者が出たのだとか)、二重人格者のお嬢様作家が探偵役をつとめるが、D.キイスでもサイコホラーでも我孫子武丸でもなく、コミカルな少女マンガ。前作よりますますその傾向が強まってます。ま、実際にマンガ化されてますが(美濃みずほ画・あすかコミックス刊)。『スキップ』の時も感じたけど、北村薫って独特の価値観を持っているようなので、小説としてはなんだかなあ、でもマンガなら許せるのかな?

▼少女マンガそのものをミステリの舞台にしたのが、
『ローウェル城の密室』小森健太朗(出版芸術社/95.9.20/1600円)
 作者が史上最年少16才で話題になった幻の乱歩賞最終候補作がついに出版された。ちなみにその時の受賞作は『焦茶色のパステル』(岡嶋二人)『黄金流砂』(中津文彦)、候補作には『ハーメルンの笛を聴け』(深谷忠記)とレベルの高い年でした。私は当時残る1つの候補作『ミスターXを捜しましょう』(雪吹学)が読みたかったが・・・。少年少女が謎の老人の手によって少女マンガの世界というよりは異世界ファンタジイに送り込まれる。『猿丸幻視行』みたいなだしですが、その後の展開は全く違って、完全な密室殺人がおきる。前代未聞の密室トリックは、まあカンのいい方ならすぐわかってしまうものだから、某新聞で酷評されてたのも納得できる。まあ、少女マンガ(それもファンタジー)とミステリをミックスする趣向が当時としては斬新だったろうし、話のたねに読んでみるのもいいかも。こんなのが乱歩賞をとる程世の中甘くはないよな。

▼乱歩賞最年少受賞作家(当時)といえば、
『グイン・サーガ読本』(早川書房/95.11.15/1200円)
 グイン・サーガ50巻記念の出版物。各界、ファンからの祝辞、ストーリー・ガイド、グイン・サーガ事典、外伝「黄昏の国の戦士」の一部、単行本未収録だったプレ・グインサーガといえる「氷惑星の戦士」などから構成されている。第1巻刊行が79年9月、個人的にはちゃんとSFMを買い始めた時期と重なるので感慨深い物があります。ただし、グイン・サーガは途中までしか読んでないけど。ああ、欧文タイトルを故黒丸尚が担当していたとは、知りませんでした。

▼祝辞を寄せている各界25名の一人が、
『私はウサギ』ひかわ玲子(中央公論社/95.10.7/1400円)
 副題は「千野姉妹のルナテックな毎日」。長女OL、二女薬科大生、三女高校生の三人姉妹が、母の謎失踪以後、奇妙な能力が発現し、日常生活にさざ波が起きる、小説中公掲載の連作小説集。

▼同じく、奇妙な能力を持った女性3人組の話(中身は全く違うが)、
『オタクと三人の魔女』大原まり子(徳間書店/95.11.30/1500円)
 なんとかしてくれよの書名だが、80年代日本SFを代表する傑作『処女少女マンガ家の念力』の流れを汲むとみせて、実は90年代の『果しなき流れの果に』だったりするが、結局ラストでひっくり返す底意地の悪さ、あー気持ちいい。個人的には犬の章「オタクと三人の魔女」が一番。『ハイブリッド・チャイルド』系の誰が見たってSFだろは、素晴らしいのだけれど、何か物足りない。で、結論、よかった、大原まり子健在なり!!

▼大原まり子のダンナといえば、
『パソコンはまぐり』岬兄悟(光栄/95.12.1/1500円)
 これは、最近ちまたにあふれている作家とかマンガ家とかのパソコンをめぐる日常雑記的エッセイ集ではない。もちろん、その手の話題(夫婦生活のこととか)もあるので、大原まり子ファン(まだいるとして)必読でもあるのだが、気合の入った(別のきの字も入った)Windows3.1オンラインソフト・ガイドブックなのである。

▼岬兄悟には『地底ドドンパ男』なんていう本があったが、○○男といえば、



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