■ とうもころし ■


 以前、妹に借りた本の中で、子供がトウモロコシを「トンゴロボシ」と言って、自分ではきちんと言っているつもりで、言えてないのもわかっているとかいう話があった。小さい子供にとって「トウモロコシ」はかなり手ごわいらしい。うちの子の場合もそうだ。

  「とうもろこしって言ってごらん?」

祖父母らに言われて答える。

  「とうもころし!」

 そう答えては、みんなで笑ったりという事がちょくちょくあって、そういう時は決まって部屋に戻ってくると機嫌があまり良くなかった。

  「もうちょっとね、大きくなったらね。ちゃんと言えるんだけどね。」

とても悔しそうにして、しばらくすると1人でぶつぶつと練習していた。

  「とうもころし。とーうーもーこーろーし。あれ?とーうーもー...こ?ろし?」

けっこう負けず嫌いなのかもしれない。初めて気付いた、長男の意外な一面である。

◇◆◇

 最初は私も一緒になって笑っていたのだが、一生懸命練習している長男の姿を見て「あぁ、私は笑ってはいけないかもしれない。」と思うようになった。それからは長男が特訓を始めると側で一緒にやるようになった。

  「とーうーもーこーろーし。」
  「違うよ、とうもろこしでしょ。とーうーもーろ!こーし、だよ。」
  「そうか。とーうーもーこ!あれ?とーうーもーろーこーし。お!とうもころし。あれ?」

と頑張っている。間違えると照れくさそうだが、とても一生懸命だ。バカにされているわけではないが、笑われているというのは3歳児なりのプライドが許さないのだろう。そのうち繰り返して言わなければ、最初には必ず「とうもろこし」と言えるようになった。 今ではもうずいぶん上手だが、間違えるのが聞きたい祖父母に「あれ?なんて言った?」と何度も言わされたりすると、やはり間違えてしまい、1人密かにふてくされている。

◇◆◇

 他にもポピュラーなところで「じゃがいも」を「がじゃいも」というのがあるが、これは長男は間違えることができない。私の妹は小さい頃「がじゃいも」だったのだが、その話を長男がしようとするとこうなる。

  「昔小さかったから、じゃがいものことじゃがいも、って言っちゃったんだよね?」
  「違うよ、がじゃいも、って言ってたんだよ。」
  「ん?じゃがいも?」
  「がーじゃーいーも!」
  「じゃーがーいーも!あれ?ダメだ。できないや。」

といったふうだ。その他にもルパン三世のDVDを見ながら、必死になって「銭形のとっつぁん」を練習したりもしていた。

  「とっつぁん、だよ。」
  「とっさん?」
  「とっつーぁーん!」
  「とっつーあーん!銭形のとっさー...あれ?難しいな。」

「とうもろこし」以上の熱の入りようだが、言えたところで出番が少ない事はまず間違いない。しかし彼は本気だ。

  「とっつーあーん!とっつーあーん...」

 舌がうまく操れなくて音が違って聞こえるものもある。うちの子は「き」が「ち」に、「け」が「て」に、「げ」が「じぇ」になる傾向がある。最近インターネット上のゲームをやろうとYaguPapaが長男によく誘われる。

  「パパ、じぇーむしよう!」
  「何?じぇーむ?」

そう聞き返して怒られたそうだ。

  「違う!じぇーむ!!」
  「そうか、ゲームか。」
  「そう!じぇーむ!」

 そう落ち着いたそうだ。これは本人はきちんと言っているつもりだから、絶対に真似をしてはいけないな、と思った。おもしろ半分で真似したくなるのだが、それこそ3歳児のプライドを傷つけてしまいそうだ。

「気持ち良い」を「ちもちぃ〜♪」などと言っているのは、我が子ながらかわいらしくて真似したくなるが、やはりここは「気持ちいいねぇ〜。」とやってやるのが親の役目なのだろう。


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