■ 胎内記憶(長男編V) ■


 葉っぱを集めるためにこの世に生まれてきたらしい長男。車の中ではそこで話を打ち切った。しかし、聞きだせるうちにいろいろ聞いてみたい。自分のお腹の中で何をしていたのか。 何を思っていたのか。今回は就寝前。オレンジ色の小さな電球の灯りだけの部屋で、布団に横になりながら切り出した。

  「お腹の中ってこんなカンジ?もっと明るい?」
  「もぉ〜っと暗かった。」

おぉ!またホントっぽい。私のイメージでは薄暗いというより、お腹を通して外の光が透けて見えるくらい明るさがあるのかなぁと思っていたので、ちょっと意外。まぁ、妊娠線どころか、出産直前でも腹の肉がつまめるような体型では、暗いのも無理ないか。書いていて、何か情けない気分になってきた。話を続ける。

  「もっと暗いの?怖くなかった?」
  「こわくないよ。楽しかった。」

単純なYagu。またちょっと嬉しくなる。

  「そうか。楽しかったのか。でも何が楽しかったの?おもちゃとかないよね?」
  「だからぁ、こぉ〜(また手を伸ばして)なってのびてるのがあって、パパとママと
   電話で話してたって言ったでしょ!あれが楽しかったの!」

怒られてしまった。

 お腹の中の話をするたびに、必ず「電話で話していた」と言う。電話大好き小僧がでたらめを言っているのだろうと思っていたが、こう毎回いうとなると、やはり何かあるのだろう。

◇◆◇

 彼のいうところの「のびてる」というのは、長い物のことである。ひょっとして、これは「へその緒」の事なのではないか、と思えてきた。こじつけといえばこじつけかもしれない。
しかし、長男の記憶の中にある長い電話線のような物が、ぐるぐる巻いているへその緒だとすれば、なんとなく納得がいく。 まぁへその緒を通して話ができるとは思えないが、我々に向かって話をしていたというのと、「のびている」ものがあったというのは、おそらく事実なのだろう。暗かった、という記憶といい、視覚的な記憶もきちんと残っているようだ。

  「電話で話すの、楽しかった?」
  「うん。一生懸命ね、お話してたんだよ。」
  「そうか。パパとママの声聞こえたの?」
  「う〜ん、聞こえた、かな?どうだったかな?忘れちゃった...」

と照れくさそうにいう。忘れてる事もあるあたりがいかにもホントっぽい。もうすっかり胎内記憶ワールドにのみこまれているYagu。さらに聞いてみた。

  「電話では何を話してたのかなぁ?」

すると長男は、待ってましたとばかりにこう答えた。

  「もしもしぃ〜?今ぁ?今どこぉ?赤羽ぇ?」

YaguPapaからのかえるコールに応答する私のセリフ...ダ、ダメじゃん。

 そんな彼も来月には4歳になる。幼稚園に入って、新しい歌や手遊びをどんどん覚えるようになったら、もうこんな記憶をしまっておく場所などなくなってしまっただろうか?4歳になる前にもう1度、お腹の中の話を聞いてみようかな?忘れてしまっていたら、何か少し寂しい気もするが...


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