斎藤明美著作のページ


1956年高知県
生、津田塾大学卒。東京都内の私立女子高校で7年間教鞭を取った後テレビ番組構成作家、87年「週刊文春」の記者となり20年間務める。99年初の小説「青々と」にて第10回日本海文学大賞奨励賞を受賞、2006年フリーライター。09年松山善三・高峰秀子夫婦の養女となる。

1.高峰秀子の流儀

2.高峰秀子との仕事1
−初めての原稿依頼−

3.高峰秀子の言葉

4.高峰秀子解体新書

 


        

1.

「高峰秀子の流儀」 ★★☆


高峰秀子の流儀画像

2010年01月
新潮社
(1600円+税)



2012/01/26



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僅か5歳で子役デビュー、その後人気少女スター、大女優と50年にわたって女優として輝き続けてきた高峰秀子さんの人となりを見事に描き出した一冊。

凄い人だなぁと心から思います。女優として、ではなく、人間として。
強欲な養母に金蔓とされ、小学校にさえ殆ど行けずに成長したと経歴にもかかわらず、人としての凛とした姿勢、考え方には魅せられるばかりです。
本書各章の題名、皆短いものばかりで、特に難しいこともないごく普通の言葉が並んでいるだけなのですが、そこにどれだけの実が詰まっているか、どれだけの覚悟があるのか。それはもう、本書を読んでみない限り判るものではありません。
その一つ一つに、どれだけの苦労があり、どれだけの覚悟が詰まっていることか。
中でも特に印象に残るエピソードは、念願の学校に入学できたものの、仕事が忙しく退学する他なくなった時、高峰さんは「甘えていた」と自分を諌めたそうです。僅か14歳の少女だというのにですよ。

本書には多数の写真も挿入されています。
ついそれらの写真に見惚れてしまうのですが、高峰秀子さんという人は本当にきれいな人だなぁと思います。いわゆる美形ということではなく、その毅然とした姿、おもねるところを全くない姿に。
そして、夫となった
松山善三氏との関係をどれだけ大切にしているかということが、幾つもの写真からつくづく伝わってきます。

高峰秀子さんの人となりを見事に描き出したエッセイ本として高く評価すべき一冊だと思いますが、真には高峰秀子という女性の見事さに尽きる、と言って間違いないでしょう。
私は高峰秀子さん自身のエッセイ本を2冊読んでから本書を読んだ訳ですが、これから高峰さんの本を読んでみようとされるのであれば(読んでみることを是非お薦めしますが)、本書を読んでからご本人のエッセイ本を読む方が良いと思います。その方が高峰さんの置かれていた状況を理解してから読めるので、高峰さん自身のエッセイ本をより深く読めることだろうと思います。

高峰秀子という知性/動じない/求めない/期待しない/振り返らない/迷わない/甘えない/変わらない/結婚/怠らない/二十七歳のパリ その足跡を訪ねて/媚びない/驕らない/こだわらない/ひとこと 高峰秀子

                              

2.

「高峰秀子との仕事1−初めての原稿依頼− ★★☆


高峰秀子との仕事1画像

2011年04月
新潮社
(1500円+税)



2012/08/27



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改めて、高峰秀子さんという元女優は稀有な人だなぁと思う。そして同時に、知り合った人を魅了して止まなかった人だなぁ、とも。
その理由は、裏方の人を含めた気配りの見事さ、気取ることのない率直な物言い、にあると言って良いでしょう。そして時々庶民離れしたところを見せるのも、気持ちが先走りしての邪気のないこととあって愛嬌と感じる。
ひとつひとつ、細かい事々でそれらのことが実感をもって感じられます。写真撮影だからといって化粧に時間をとって相手に手間をとらせることもない。そんな本書の読者を魅了するエピソード満載です。

本書は、後に松山=高峰夫妻の養女となった著者の、出会いから始まり高峰さんと親しく関わるようになった経緯をあまねく語った一冊。初めての原稿依頼、初めての取材、次第に足繁く通う関係になるまで、冒頭は初め尽くしです。
その記念すべきエッセイ、記事等が本書中に折り込まれている点も貴重、とても嬉しい部分です。
ご本人のエッセイ本もその人柄を映して魅力に富んでいるのですが、他者の眼から見た高峰秀子という人物像という点で、本書も魅力満点。両者を併せ読むことによってますます高峰さんに魅了されてしまう、という次第です。
とくに
別冊太陽「女優高峰秀子」に掲載されたという著者の「かあちゃんの卵焼き」は、その人物を語ってまさに絶品!。
もっとも、著者が高峰さんに心酔しつくしているという面を割り引いて読む必要があるかどうかは、定かではありませんが。

良くも悪くも、本書に描かれているのは高峰秀子という生な人間の姿である。有名人によくある着飾った部分、取り繕った部分がまるで感じられない。素の高峰秀子自身、素の人間で勝負しようという高峰さんの気概があるからこそと思います。
そしてそれがまた高峰秀子という人の魅力なのだなぁ。

母・高峰秀子の死〜まえがきに代えて/
初めての原稿依頼/ハワイからの贈り物/初めて会った日/大反響となった記事/初めての撮影/二十二年ぶりの連載実現/生涯の恩人となる/高峰秀子が乗り移る/"はらわた"と虚心坦懐/写真集「女優高峰秀子」が教えてくれたもの/知ることと認識と

         

3.

「高峰秀子の言葉」 ★★


高峰秀子の言葉画像

2014年01月
新潮社
(1400円+税)



2014/02/21



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新潮社のPR誌「波」に連載されていたエッセイ。連載中から読んでいましたが、単行本にまとまった段階で改めてまた読みたいと思った次第。

著者の斎藤さんが折に触れて聞き取った高峰秀子さんの言葉を、当時の状況等を踏まえ、その言葉の持つ深い意味を示しながら紹介した一冊。
高峰さんの言葉はどれも鋭く、時に過激な印象を受けるものもありますが、言葉はどういう状況の元で発せられたかが大事。だからこその一冊と言えます。
どの言葉も人生訓として役立つものばかり、と思います。でもそれを自分で実践するのはそう簡単なことではない。余程自分自身がしっかりしていないととても無理ではないか、と思うものばかりです。
特筆できることは、どの言葉にも、他人に甘えるなどという姿勢が微塵もないことでしょう。それが凡人には難しい。
もっとも高峰さんの場合は甘えることなど許されなかった、というのが真実なのでしょう。幼い自分に20人もの親族がぶら下がり、要するに甘えられてしまえば、自分が誰かに甘える余地など何処にも無かったのでしょうから。

良いかどうか、名言かどうかは別として、30の言葉の中でも強く印象に残ったのは次の言葉。
「他人の時間を奪うことは罪悪です」「超然としてなさい」「私は、イヤなことは心のなかで握りつぶす」「あれは怪しの者です」「人はその時の身丈に合った生活をするのが一番です」等。

             

4.
「高峰秀子 解体新書 ★☆


高峰秀子解体新書

2015年02月
PHP研究所

(1800円+税)



2022/11/19



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先日小豆島&しまなみ海道ツアーに行った時、小豆島で映画二十四の瞳の舞台となった岬分教場の横にある土産物ショップで本書を見つけ、購入しました。

これまで高峰秀子さんご本人のエッセイや、高峰秀子さんに関する斉藤明美さんの他の著書もいろいろ読んできましたので、新しく知る事実はそんなにありませんが、高峰秀子さんのエッセンスを知るには格好の一冊でしょう。

私として本書で新鮮だったのは、斉藤さんによる
「肉体の部位で解き明かす高峰秀子」、高峰さんの随筆「オッパイ讃歌」
後者は、オッパイの下にしこりが見つかり、医者に見て貰ったら乳癌だからと手術を急かされ、石井ふく子さんからは他の医者にも診て貰って欲しいと頼まれ診て貰ったら、大したものではないと言われたというバタバタの顛末を語ったものなのですが、悲惨な覚悟もユーモラスもありで、とても面白い。流石ですね。

本書で貴重なのは、それが本書を購入した動機なのですが、高峰秀子さんが5歳の時に子役デビューした
映画「母」のDVDが添付されていること。
1929(昭和 4)年公開の映画ですから、もちろん無声映画。
無声映画を観たのは「オペラ座の怪人」(1925年)以来ですが、日本の無声映画はこうした作りだったのか、と思うのがまず。
そして高峰さんについては、主役である未亡人の幼い娘の方という役で、演技も何もないという感じ(何度も観直すとまた違ってくるのかもしれませんが)。
ただ、こんな幼い時からずっと子役・娘役・女優として働き続けてきたのだなと思うと、胸がいっぱいになる気がします。

高峰秀子さんに関心があれば、お薦めしたい一冊であると共に、是非見ていただきたいデビュー映画作品です。


はじめに/履歴書/キーワードで読み解く高みへ高峰秀子86年の人生/高峰秀子と広告/肉体の部位で解き明かす高峰秀子/随筆:オッパイ讃歌/人物交友図/高峰秀子の家の履歴書/高峰秀子を知るための目的別書籍ガイド全34作/映画出演作一覧:169/300余本/生涯年表/終わりに
*高峰秀子初出演映画「母」(1929年公開、監督:野村芳亭) DVD付

    


     

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