福田ますみ著作のページ


1956年神奈川県横浜市生、立教大学社会学部卒。専門誌、編集プロダクション勤務を経てフリー・ライター。犯罪、ロシア等をテーマに取材、執筆の活動中。2007年「でっちあげ」にて新潮ドキュメント賞を受賞。

1.でっちあげ−福岡「殺人教師」事件の真相−

2.
モンスターマザー−長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い

 


      

1.

でっちあげ−福岡「殺人教師」事件の真相− ★★☆  新潮ドキュメント賞


でっちあげ画像

2007年01月
新潮社刊

(1400円+税)

2010年01月
新潮文庫化



2007/12/28



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アメリカ人の血が入っていると知ってから、小学校教諭は自らが担任するその児童に対して非道な虐待を繰返し、ついには自殺強要までするに至った。その結果、当該児童はPTSDによる長期入院に追い込まれたという福岡の事件。
週刊文春を皮切りにマスコミは教師の実名まで晒して糾弾し、教師を被告とした民事訴訟には550人もの弁護士が原告側に名を連ねたという。
しかし、・・・・・・その虐待という事実のすべては両親のでっちあげだった、という信じ難い真相。本書はその経緯一切を暴いた、迫真のドキュメント。

これはもう凄い!
痴漢冤罪事件を描いた映画それでもボクはやってないも恐ろしいと思いましたし、伊坂幸太郎「ゴールデンスランバーではいつの間にか凶悪犯人に仕立て上げられてしまうというフィクションに震えおののきましたが、これは現実に起きたこと。その現実である、という事実に愕然とします。
問題点として感じることは沢山あります。校長らの騒ぎになりさえしなければ事実などどうでもよいといった姿勢、一方の言動だけを鵜呑みにして正義感ぶった糾弾に酔い痴れたかのようなマスコミの問題も大きい。そして何よりも、被告にされた教諭本人の煮え切れない態度もこうした事態を招いた大きな要因でしょう。校長、本人とも著しく危機管理能力に欠けていたと言わざるを得ません。
ただ、そうであったとしてもこの異常といってよい夫婦2人の虚偽に、550人もの弁護士が踊らされたという事実は一体何だったのでしょうか。
冤罪にもかかわらず停職、マスコミ攻撃により、謂われない社会的制裁を受けたご本人には申し訳ないながら、事実は小説より奇なりとも言えるエンターテイメント、そしてそれが事実であるが故に衝撃を覚えざるを得ないノンフィクション。

ただ真剣に考えるべきは、著者の福田さんが語るように、この事件の根っこにある遠因は何なのか、そして本事件によって一番被害を受けたのは誰だったのか、ということです。
単なる読み手である我々も、それを肝に命じるべきでしょう。
是非読んでいただきたい、驚くべきドキュメントです。

序章.「史上最悪の殺人教師」/1.発端-「血が汚れている」/2.謝罪-「いじめでした」/3.追放-停職6か月/4.裁判-550対0の不条理/5.PTSDごっこ、アメリカ人ごっこ/6.判決-茶番劇の結末/終章.偽善者たちの群れ

         

2.
モンスターマザー−長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い− ★★


モンスターマザー

2016年02月
新潮社刊

(1400円+税)

2019年02月
新潮文庫化



2016/03/10



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前作でっちあげの内容は衝撃的という以上なものでしたが、本書もまたそれに連なるドキュメント。
2005年長野県立丸子実業高校の生徒(裕太くん)が自宅で自殺。その母親(高山さおり)は息子が自殺した原因は学校のバレー部でのいじめにあり、それを放置した学校側の責任であると追及。その母親の一方的な言葉を鵜呑みにした人権派の弁護士(高見澤昭治)により、校長が殺人罪で告訴されるという前代未聞の事態に発展した事件について、発端から最後までを克明に描いたドキュメントです。

「事実は小説より奇なり」という言葉がありますが、本書に描かれた事実はそれ以上。それどころか、こんな展開を小説で描いたら余りに非現実的、と言われかねないのではないか。
事実を捻じ曲げて暴力的に主張し続け、それはエスカレートするばかり。校長・教師、教育委員会や県の担当者、裕太君と同じバレー部員やその保護者まで巻き込んで暴言を繰り返し、8年という長きに亘ってそれらの人々を苦しめ続けたという本書の母親はまさに「モンスターマザー」と呼ぶ他なく、その余りの酷さには単なる読者に過ぎないというのにショックを禁じ得ません。
その実態は唖然とするばかり。小説というフィクションでも、ここまで書けはしないのではないか、と思う程です。その詳細はもう本書を読んでもらうしかありません。

「でっちあげ」〜本書は、いわゆるモンスターペアレンツと学校の関係をルポしたものですが、“モンスター”と呼ぶべき存在は今やそうした場所、関係だけに留まらないと思います。
最近は何でも「お客さま第一」という言葉が唱えられ、何かとマスコミの批判にさらされかねないところから、どこも終始丁寧な対応が心掛けられている所為か、逆にそうしたモンスター的人物を(言葉は不穏当かもしれませんが)ますますつけあがらせることになっているのではないでしょうか。
事勿れに徹するのではなく、毅然とした対応を行うこともまた、社会にとって重要なことではないかと思う次第です。

本事件で謂われない中傷等に晒され続けた生徒やその保護者たちの苦しみや痛みはさぞかしと思いますが、何よりも痛ましく感じられるのは、そうした母親の犠牲になった裕太君本人です。
本書で語られる裕太君像に健気なものを感じるだけに、尚のことその思いは深い。


1.家出/2.不登校/3.悲報/4.最後通牒/5.対決/6.反撃/7.悪魔の証明/8.判決/9.懲戒/終章.加害者は誰だったのか

   


   

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