藤堂志津子
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1949年北海道札幌市生、藤女子短期大学卒。本名:熊谷政江。広告代理店勤務を経て、「マドンナのごとく」にて87年度北海道新聞文学賞を受賞し、作家デビュー。88年12月より作家専業。

 
1.
つまらない男に恋をして

2.夜の電話のあなたの声は

 


 

1.

●「つまらない男に恋をして 

 

  
2003年09月
角川書店刊

(1500円+税)

 

2003/11/19

麦子は、32歳の独身、税理士。一応キャリアウーマンながら、恋愛に縁がなかった為か、どうも男性関係にトラウマを抱えているらしい。ウツになることも度々、という主人公。
そんな麦子の相手は、定職もなく、夢みたいなことばかりを言っている京介。セックスの相性が良いからという理由だけで、ずっと関係が続いています。
その京介が、突然に金持ちの若い娘と結婚すると言い出したことから、麦子は逆上、1千万円を提供して京介を取り戻そうと、なりふりかまわず暴走始めます。
そんな麦子をとりまく女性陣は、作家の島屋滝子、その秘書・朝加、家政婦・下田、元クラブママの秋美、麦子の母親・登和という面々。対する男性陣は、京介、秋美の年下の夫、麦子の父親という3人。
男性陣は値踏みされるような存在に過ぎず、本作品はいみじくも女性陣からみた恋愛観のドラマ化、という様相です。

年下の朝加を除き、年長者4人はいずれも麦子の暴走を達観している風。恋愛はそもそも愚かしいものであって、だからこそ夢中にもなれる、ということか。
各人物のキャラクターがはっきりしているので、まるで舞台上のコメディ劇を観ているようです。麦子の逆上ぶりに、観客である読者も呆れ果て、同調し、最後には安心する、という展開。
麦子をどう感じるか次第でしょうけれど、質の良いコメディ劇、といった作品です。率直に言って女性向き。

 

2.

●「夜の電話のあなたの声は ★☆

 

  
2004年02月
文芸春秋刊

(1333円+税)

2007年02月
文春文庫化

  

2004/03/12

30代の独身女性を主人公に、付き合っていた男性から突然別れを告げられた後の彼女たちを描く中篇3作。
ちょうど酒井順子負け犬の遠吠え
(30代以上の独身女性はすべて負け犬であるというエッセイ)を読み始めたところで本書を読んだものですから、凄くリアリティを感じました。

一応結婚を意識していたものの心ならずも、あるいは9歳年下等の事情があったにもかかわらず、捨てられたということに対する彼女たちの憤りは深い。意固地になっているとしか思えない程、捨てた相手に固執し続けます。酒井エッセイにしたがうならば、質の悪い負け犬、といった風。
何故そこまで固執するのかと思うのですが、その裏には、やむなく結婚相手を求めざるを得ないという屈折した出発点があるようで、女性心理の奥深い襞を感じてしまう作品です。
熟練した筆だからこそ書き出せるストーリィ。女性読者なら、きっと私より深く感じ取るところがあるでしょう。
酒井エッセイの後は、阿川・壇コンビの対談本を読む予定。う〜ん、独身女性界・連鎖の中に、あろうことか嵌まり込んでしまった気がする...。
「雨の夜にホテルへ」は重たく、「男のいない男の部屋で」は後味軽く、「夜の電話のあなたの声は」は際限も無い、といった読後感。

雨の夜にホテルへ/男のいない男の部屋で/夜の電話のあなたの声は

   


  

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