高殿 円
(たかどのまどか)作品のページ


1976年兵庫県生。2000年「マグダミリア三つの星」にて第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞し作家デビュー。ファンタジーを中心に「銃姫」「プリンセスハーツ」等ライトノベルで人気作家。


1.トッカン−特別国税徴収官−

2.トッカンvs勤労商工会


3.トッカン the 3rd おばけなんてないさ

4.上流階級−富久丸百貨店外商部−

5.上流階級−富久丸百貨店外商部2−

6.トッカン−徴収ロワイヤル−

 


      

1.

●「トッカン−特別国税徴収官−」● ★★


トッカン画像

2010年06月
早川書房刊

(1600円+税)



2010/08/04



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国税専門官といっても、マルサこと調査官ではなく、税金滞納者から問答無用で取り立てを行う、嫌われ者の国税徴収官。
本書は、新米の女性徴収官=鈴宮深樹(みき)を主人公にした、お仕事小説+成長物語=エンターテイメント、といった作品です。

徴収官の中でもエリートというべきなのが、“特別国税徴収官”(略称:トッカン)で、とくに本書に登場する鏡雅愛(まさちか)34歳は、「京橋署の死に神」という異名をとる程の冷徹かつ辛辣な徴収官。
その鏡雅愛付きの徴収官を命じられたのが、主人公の鈴宮。言いたいことを言われるとすぐに「ぐ・・」と言葉に詰まってしまうことから、鏡につけられた綽名が「ぐー子」。
日々辛辣な言葉を投げかける鏡のやり方に反感を抱きつつも、実力が伴わない新米故に、愚直に突進しては撃沈することの繰り返し。安定が欲しくて公務員になっただけなのに、何で国税徴収官になってしまったのか。

前半こそ、ユーモア要素あるお仕事小説と思っていたのですが、半ば過ぎからストーリィはどんどん急展開、まるで怒涛の如し、頁を繰る手が止まらなくなりました。
お仕事小説、成長物語である筈なのに何故か、有川浩「図書館戦争の上下関係を常識範囲内の仕事関係に収めた、といった観あるエンターテイメント小説。
ストーリィ自体は結構シリアスな内容を含んでいるのですが、エンターテイメント小説並みにすこぶる面白い!、というのがこのお仕事小説。

※なお、若い女性である主人公に対して、かなり加虐的な展開を含んでいますので、一応念のため。その分、主人公に対して同情したり親身になったり共感したりと、忙しい。(笑)

1.死神と葬式女/2.美しき銀座の滞納者/3.ガールズ・ウォー/4.女のトシマエ/5.イッツ・マイワーク

         

2.

●「トッカンvs勤労商工会」● ★☆


トッカン画像

2011年05月
早川書房刊

(1600円+税)



2011/06/09



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トッカン続編。
鏡徴収官が担当していた税金滞納者が自殺。勤労商工会の税理士兼顧問弁護士がけしかけ、未亡人が鏡を告訴するという事態が発生。
さて、この窮地を鏡はどう切り抜けるのか、そしてぐー子こと鏡特官付の
鈴宮深樹はどうなる?

上記経緯から本書では鏡の出番が抑えられ、鈴宮、一人で奮闘する他ない状況に置かれます。
逆にそのお陰で鈴宮、前半では相変わらずの自信なさですが、中盤以降、多少ながら成長する姿を見せます。
「トッカンvs勤労商工会」という題名からは、両者の本格的バトルを予想しますが、実際のストーリィはそれ程のことはなく、鈴宮が奮闘する羽目になった背景に過ぎず、という感じ。
しかし、やたらヒーロー気取りの元裁判官にして現税理士兼弁護士の
吹雪、鈴宮が感じる印象がどうであるかは別として、結果的に鈴宮の成長を後押しすることになったのですから、人の縁とは面白いもの。

「トッカン」の面白さは、稀有な職場を舞台にしたお仕事小説という点と、死に神とまで言われる鏡の突出したキャラクターにあったのですが、その鏡の出番が少ない分、本書は鈴宮が主役となっていて、キャラクターとしてのインパクトは到底及ばないのは仕方ないところ。
その分、鏡の幼馴染2人が登場、鏡に負けない個性を発揮し、脇役として鈴宮を支えます。

一歩、二歩と成長、でもまだまだ物足りずという鈴宮、さらなる続編がありそうに思えますが・・・。

1.死神に殺されたんだ/2.税務署の天敵/3.ジョゼという名で出ています/4.京橋中央署の切り札/5.息をする体裁/6.それが、わたしのすき間だから

           

3.

●「トッカン the 3rd−おばけなんてないさ−」● ★☆


トッカン the 3rd画像

2012年06月
早川書房刊

(1600円+税)



2012/07/25



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トッカンシリーズ、第3弾。

正直言ってシリーズ化になるとは思いもしませんでした。この分ならまだまだ続きそうです。
垣根涼介「きみたちに明日はないシリーズのような持っていき方を高殿さんが意図するならいくらでも続きそうですが、それには主人公=“ぐー子”こと鈴宮深樹の成長&恋愛を上手くまとめ上げていくことができるかが鍵となりそうです。

主ストーリィは前2作と特に変わるところは特になく、多額滞納者からいかに徴収するかという内容。
今回の主ターゲットは、宗教団体の代表&零細運送会社。そして前者をめぐっては予想もしなかった結末が展開され、えっと驚かされます。
もっとも第3作としての読み処はサイドストーリィ部分。
鏡雅愛トッカンの元妻=華子も登場し、復縁かと鈴宮が気を巡らせます。今回2人は鏡の故郷である栃木にも2度出張し、鏡の過去が少し明らかになります。一方、成長の跡を少し見せる鈴宮、後半で体当たりの活躍を見せますが、後日ぐー子が絶叫したその理由とは・・・。
また、後がない状況にまで追いつめられた極貧の酒店一家を巡る顛末も、頁数は僅かながら見逃せない部分です。
それなりに楽しめる、シリーズ3作目。

1.誰がために栃木出張はある?/2.魚はどこへ行った/3.上司の元妻/4.逆襲のチワワ/5.日光捕物帖/6.おばけなんてないさ/エピローグ

        

4.

「上流階級−富久丸(ふくまる)百貨店外商部− ★★


上流階級画像

2013年11月
光文社刊

(1600円+税)

2019年07月
小学館文庫



2013/12/08



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鮫島静緒、37歳、バツイチ。富久丸百貨店外商部に初めて配属された女性社員。
その経歴が異色。製菓専門学校を卒業して小さなパン屋勤め。しかしそのパン屋を積極的な営業活動により人気パティスリーに育て上げ、スカウトされて富久丸百貨店の契約社員となる。その後赤字続きで縮小店舗化された新大阪店に配属されるや否や、独創的なリニューアルを大胆に実行し大成功。そして今回、間もなく退職するカリスマ外商部員の後継者候補の一人として外商部に抜擢されたという次第。

要は、百貨店外商部を舞台にしたお仕事小説です。
しかしこの“外商部”という存在、その名を耳にはすれど庶民には全く縁遠い存在でその実態はまるで判りません。
一体どんな仕事なのか、どんな仕事までするのか、興味津々の上に主人公の破天荒な行動ぶりから際限なく広がっていくようで面白さたっぷり。また 400頁近い長編ですから読み応えもたっぷりです。
しかしまぁこの外商部、なんとハードなことか。そしてまた外商部員として生き抜いていくうえで何と広範囲で深い知識が求められ、さらに繊細にしてタフな精神力が求められることか。
実際の外商部員たちがどのような人たちなのかは知りませんが、主人公の静緒の肉食系行動ぶりが、本作品をしてスリリングとスピード溢れるお仕事小説に仕立て上げています。
お仕事小説がお好きな方には、是非お薦め!

※“
上流階級”とは勿論、百貨店外商部が相手するお客さまになりうるような人たちのことです。

プロローグ/外商員、奮闘する/外商員、再会する/外商員、奔走する/外商員、感動する/エピローグ

         

5.

「上流階級−富久丸(ふくまる)百貨店外商部U− ★★


上流階級U

2016年10月
光文社刊

(1500円+税)

2019年08月
光文社文庫



2016/11/17



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学歴なし、中途採用という経歴のためキャリアップも望むべくもない、老舗百貨店外商部で唯一の女性部員である鮫島静緒が活躍する“お仕事小説”第2弾!

読み始めてまず感じることは、私には遥かに縁のない世界だなァということ。
高額商品をいともあっさりと買い込むなんて、普通の会社員には想像も及ばない世界のことであります。だから“上流階級”ということですが。

前半は前作からの延長という雰囲気で、マンネリ気分。
それでも、最近ホテルで開く催事への来客数が減っている、何とかアイデアを出せと外商部員たちへ上からハッパが掛かります。
そして後半、静緒がひょんなことから起死回生策を考え付いた後、ストーリィは一気に加速します。
それだけでなく、静緒の覚悟、度胸が問われる展開まで。
本書の面白さはやはり、主人公である鮫島静緒の、なりふり構わぬ突破力にある、として過言ではないでしょう。
この突破力がある限り、本シリーズのさらなる続編を期待して良さそうです。

なお、本巻では豪華マンションのフラットシェア相手である
枡家修平のセレブ母、元カレまで登場し、静緒を枡家のプライベートにまで巻き込む等々とストーリィを賑わせてくれます。
それでも何となく、ギブアンドテイクで成り立つ新しい男女カップル像が見えてくる気がして、これまた楽しい限り。


プロローグ/1.外商員、帰国する/2.外商員、動揺する/3.外商員、難敵に会う/4.外商員、窮地に立つ/5.外商員、提案する/6.外商員、高飛びする/7.外商員、万事休す/8.外商員、観念する/エピローグ

           

6.
「トッカン−徴収ロワイヤル− ★☆


トッカン 徴収ロワイヤル

2018年03月
早川書房

(1500円+税)

2020年09月
ハヤカワ文庫



2018/04/22



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“トッカン”シリーズ第4弾。今回は短篇集です。

徴収官5年目、京橋署勤めも3年目となった
鈴宮深樹(みき)と、「京橋署の死に神」という異名をとる程の冷徹かつ辛辣な“特別国税徴収官”(略称:トッカン)である鏡雅愛(まさちか)との関係は相変わらず。
年中鏡に突っ込まれては、その度に深樹が「ぐー」と口がきけなくなるのは相変わらず、すっかり「ぐー子」という愛称が定着してしまっています。

「幻の国産コーヒー」:噂話から、すっかり鏡がさる場所へ人事異動になると決め込んでしまったぐー子でしたが・・・。
「人生オークション」:相続税の滞納で居宅差押え・競売と手続きが進行。そうなる前に任意売却した方が良いとしきりに勧めたぐー子ですが、本人は何故か動こうとせず・・・。
「徴税官のシャランラ」「招かれざる客と書いて本屋敷真事と読む」は、ぐー子と鏡をそれぞれに描いたコーヒーブレイク的な掌篇。
「五年目の鮭」
任官五年目となったぐー子、半年間に亘る専科研修へ。そこは全国から同期たちが研修を受けに集まる場所。そして皆が言うには、婚活の絶好のチャンスなのだ!とのこと。勇んで研修に臨んだぐー子でしたが・・・。
2年間鏡に厳しく鍛えられたぐー子の本領が問われる篇。本書では一番の見所です。
「対馬ロワイヤル」:なんとまぁ、007的・・・。

幻の国産コーヒー/人生オークション/徴税官のシャランラ/五年目の鮭/招かれざる客と書いて本屋敷真事と読む/対馬ロワイヤル

   


   

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