小山田浩子
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1983年広島県生、広島大学文学部日本文学語学講座卒。2010年「工場」にて新潮新人賞を受賞し作家デビュー。13年「工場」は第30回織田作之助賞、14年「穴」にて 第150回芥川賞を受賞。


1.工場

2.

3.

4.小島

 


           

1.

「工 場 ★★         新潮新人賞・織田作之助賞


工場画像

2013年03月
新潮社刊
(1800円+税)

2018年09月
新潮文庫化


2013/04/25


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表題作「工場」は、巨大な工場で契約社員、正社員、派遣社員という立場で働き始めた3人を主人公にした作品。
折角雇われたというのに3人の仕事(夫々違うのですが)が何ともはや、というもの。そしてその工場、一体何の工場なのかも全く明らかにされないまま。
大きな工場がそのまま一つの世界であるかのよう。3人は訳の分からないまま巨大な工場の中に取り込まれ、人間性を埋没させられてしまうかのようです。
すぐに思い浮かぶのは
カフカ「。何時まで経ってもその中に入り込むことができない、その中に取り込まれて埋没してしまうと、パターンは真逆ですが共通するものを感じます。本書の方が如何にも現代社会的ですが。

「ディスカス忌」はさらりと読み終わってしまう小篇ですが、理由のはっきり判らない不気味さ・・・あり。

「いこぼれのむし」は、会社内、女子社員たちのワイワイガヤガヤとしてお喋りを描いた篇。そこでは誰もが陰口から逃れられないし、その輪の一員といえども姿がなければ的となることを避けられない。
「工場」のような物体的な空間ではないけれど、これまた魔宮の巣窟のような世界かもしれないと思う次第。怖いもの見たさ的な関心を惹かれる一篇。

工場/ディスカス忌/いこぼれのむし

          

2.

「 穴  ★★☆           芥川賞


穴画像

2014年01月
新潮社刊
(1200円+税)

2016年08月
新潮文庫化


2014/02/02


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夫が転勤となり、主人公の松浦あさひはパート先を辞め、通勤に都合が良い夫の実家が隣に持っている借家に引っ越す。周りには何もないため、差し当たり専業主婦。これまではパート先で残業が常習化していて忙しい思いをしていただけに、何をしていいのか判らずあさひは少々困惑気味。隣に住む姑は仕事を持った女性でさばさばした人柄であり付き合い易い。
そんなある日、あさひは姑に頼まれてコンビニへ行く途中、不思議な黒い獣の姿を見かけその跡を付いていくと、川沿いの原っぱで穴に落ち込んでしまう。

獣、穴、さらに○○と、思いもよらぬ不思議な存在を主人公はこの土地で目にします。それは現実なのか、それとも幻想なのか。
その現実と非現実が本書では見事に溶け合っているように感じられます。
本来警戒すべきことなのでしょうが、なんとなく居心地が良い。
不思議で奇怪ではあるのですが快い、まるで幻惑された思いがする中編小説。これこそが本作品の魅力と言って良いでしょう。

「いたちなく」「ゆきの宿」2篇は、連作もの。
「穴」と同様に少々不思議な感覚がありますが、同時にユーモアを感じる部分もあり、ふと梨木香歩「家守綺譚を連想するところがあります。

穴/いたちなく/ゆきの宿

                    

3.
「 庭  ★★


庭

2018年03月
新潮社

(1700円+税)

2021年01月
新潮文庫


2018/04/25


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庭等々から、様々な生き物たちがストーリィ中に顔を覗かせる、日常生活の中にふと非日常の姿が、という短篇集、15篇。

最初、不気味さも感じて
内田百「冥途」のような作品集かと思ったのですが、不気味な印象はすぐ影を潜め、むしろカラッと乾いた印象を受けます。
庭から不思議な生き物というと梨木香歩「家守綺譚を連想しますが、そんな不思議な世界との境界を描くような作品ではない。

ごく日常的な生活の中に、ふと非日常といった光景が触れ合う、そんなストーリィと言って良いのではないかと思います。
彼岸花やどじょう、クモ、おたまじゃくしやカエル、といった生き物は特にどうこういうような生き物ではありませんが、扱い方によっては不気味ともなる、そんな趣向でしょうか。

ストーリィから何か意味をくみ取ろうと、頭をひねる必要はないのでしょう。
ちょっと不気味でちょっと不思議な雰囲気を味わえられたのならそれだけでいい、と思います。

15篇の中で私の印象に残ったのは、
「うらぎゅう」「彼岸花」「うかつ」「どじょう」「蟹」「家グモ」といったところ。

うらぎゅう/彼岸花/延長/動物園の迷子/うかつ/叔母を訪ねる/どじょう/庭声/名犬/広い庭/予報/世話/蟹/緑菓子/家グモ

                

4.
「小 島 ★★


小島

2021年04月
新潮社

(1900円+税)

2023年11月
新潮文庫



2021/05/27



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様々な日常の生活を描いた作品集。

最初の方は丹念に読んでいたのですが、次第に読むのがしんどくなりました。なにしろ一頁の中に文字がぎっしり、そのうえ大きなドラマがある訳ではないので。
その節目となったのが、中編
「かたわら」

各篇主人公たちの日常生活を綴った作品ですから、どういったストーリィなのか、それを説明するのは難しいところです。
それでも、何となく読まされてしまう処が、本作品集の力と言って良いのでしょう。

特筆したいのは、どの篇にも人間以外の生き物が登場し、強い印象を残しているところ。
バッタやカエルだったり(
「小島」)、ヒヨドリ(「ヒヨドリ」)だったり、ネコ、イヌ、さらに植物まで。
地球上の生物は人間だけではないのですから、そうした生き物が小説の中に登場しても何ら不思議はないのですが、人間以外の生き物もまた確かに存在しているのだと感じさせる作品は珍しい、と思います。
ちょっと不気味で、奇妙なオカシサを感じる処もあり。

なお、
「異郷」「継承」「点点」は、プロ野球の広島東洋カープ絡みのストーリィ。この3篇に辿り着くころには、正直なところもう疲れ果てていました。

小島/ヒヨドリ/ねこねこ/けば/土手の実/おおかみいぬ/園の花/卵男/子猿/かたわら/異郷/継承/点点/はるのめ

        


   

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