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上と外、puzzleパズル、ライオンハート、MAZE、ドミノ、黒と茶の幻想、図書室の海、劫尽童女、ロミオとロミオは永遠に、ねじの回転 |
蛇行する川のほとり、まひるの月を追いかけて、Q&A、夜のピクニック、夏の名残りの薔薇、「恐怖の報酬」日記、小説以外、蒲公英草紙、エンド・ゲーム、チョコレートコスモス |
中庭の出来事、朝日のようにさわやかに、猫と針、不連続の世界、きのうの世界、ブラザー・サン シスター・ムーン、六月の夜と昼のあわいに、私と踊って、蜜蜂と遠雷、祝祭と予感 |
「ドミノin上海」 ★☆ | |
2023年02月
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パニック・コメディ「ドミノ」の再現、上海編。 「ドミノ」で騒動を巻き起こした主要人物たちが、再び中国の上海に集結。5年ぶりにまたもや騒動を繰り広げます。 ことの発端は、盗難品である至珠「蝙蝠」の争奪戦。 そこにかつての関東生命保険の女子社員3名(北条和美・田上優子・市橋えり子)が行き合わせると思えば、愛するペットのイグアナ=ダリオを料理にされて嘆き悲しむホラー監督のクレイヴンも顔を出し、成仏できないダリオの霊を中国人の風水師と神官の血筋である安倍久美子が追う中、至珠を手中にしようと追いかけるホテルの料理長と怪しい骨董商の追跡劇が交錯します。 その結果、骨董商を追う香港警察まで右往左往させられる始末。 舞台が中国らしい点と言えば、動物園から脱走した老練パンダの逃走劇、上海の交通渋滞がドタバタ劇に輪をかけ、美術品ビジネスが絡むというところでしょう。 ドタバタ劇を担う登場人物たちがまず集結するのは、最上階でアートフェアが開催されている、女子3人の宿泊先でもあるホテル=上海飯店。 要は25人と3匹が繰り広げるドタバタ劇ですから、難しく考えず、気軽に楽しく読んでいればそれで良い、というもの。 ただ、東京駅で繰り広げられた前作に比べると、折角再登場しながら活躍不足の人物もいるといった具合で、パワー不足という印象がぬぐえません。 |
「スキマワラシ」 ★☆ | |
2023年03月
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本書題名から、何となく感じますよね? 「スキマワラシ」って、座敷童の縁類なのだろうか?と。 ビル解体現場に時々現れる、麦わら帽子に白いワンピース姿の少女。どうもこの世の存在ではないらしい。 座敷童は家に付くもの。それに対し、ふとした隙を付くように現れるから「スキマワラシ」と。 本作の主人公は、古道具屋を営む太郎と散多(さんた)という中年男兄弟。写真撮影するような記憶力をもつ太郎と違って記憶力は余り良くないものの、散多は特定の古いものに触れると過去の光景(2人曰く「アレ」)を目にするという特殊な能力を持つ。もっともその能力は、散多にとっては厄介なものなのですが。 スキマワラシは何故現れるの。また、散多が見る過去の光景は何なのか、そしてその光景を見る共通因子は何なのか。 それを兄弟2人が、あちこちの現場に足を運びながら突き止めようとするストーリィ。 ストーリィの骨子を記載するだけなら面白そうなのですが、ただ長い、長過ぎる、間延びしてしまうよぉという印象。 最後には、散多が子供の頃から抱えて疑問、スキマワラシが「ハナちゃん」と呼ぶ人物の正体と、ひと通りの謎が明らかになるのですが、その先に何があるのかという点に手応えがない。 謎が明らかになればミステリとしては完成であるのかもしれませんが、釈然としない気持ちが残ってしまう。 私にとっては、それもまた恩田作品らしいところではあるのですが・・・。 ※座敷童を題材にした小説は数多くあると思いますが、私が一番記憶に残っているのは、荻原浩「愛しの座敷わらし」ですね。 1.兄のこと、名前のこと/2.壁の色のこと、茶碗の帰還のこと/3.ジローのこと、発見のこと/4.チーズケーキのこと、N町のこと/5.落語CDのこと、トンネルのこと/6.銭湯のこと、胴乱のこと/7.坂道の先のこと、黄色いテープのこと/8.風景印のこと、「ゆるさ」のこと/9.兄が遭遇すること、その反応のこと/10.「ダイゴ」のこと、「ハナコ」のこと/11.準備のこと、もう一匹のこと/12.ドアを探すこと、消防署のこと/13.ちょっとした寄り道のこと、世間での呼び名のこと/14.みんなのこと、僕らのこと |
「なんとかしなくちゃ。 青雲編 1970-1993」 ★★☆ THE GREAT VERSATILITY OF YUIKO KAKEHASHI |
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最近はすっかり恩田陸さんから遠ざかっていましたが、出版社の紹介文を読むと如何にも面白そう、ということで手を伸ばしました。 結果はというと、こりゃ面白い!のひと言。 主人公が4歳の時から始まる一人の少女の成長ストーリィという楽しさもあるのですが、工夫することが好きな人なら喜びつつ楽しめるに違いない、様々な課題への解決策提示ストーリィ。 その姿は、まるで“戦略家”と評するにふさわしく、ミステリ・サスペンス的趣向に似ていて楽しめるといったところ。 主人公の梯結子(かけはしゆいこ)は、大阪の海産物問屋の息子を父親に、東京の老舗和菓子屋の娘を母親に持ち、兄2人と姉1人の末っ子。 幼い頃から、うまくいっていないこと、無駄なことがあると「キモチワルイ」と感じる性分。そうなると、何が原因なのか観察・分析し、どうしたら解決できるのかと思考を巡らせるのです。 そして結果的にその問題を解決あるいは改善してしまうのですから、まるで手品を見せられるようであり、かつその思考経路がとても楽しい。 幼稚園、小学校、中学生、高校生、大学生と、どの時代においても、そして成長するにつれそのコーディネーター能力を存分に発揮していくのですから、面白くて堪りません。 ※そもそもこの梯家の教育方針も中々ユニーク。兄、姉たちも個性的ですが、皆が皆、自分の方向性と、そのためにはどう行動するのが良いか分かっている、という風です。 いずれにせよ、問題発生と解決策立案、その繰り返しがそのままストーリィになっていると言っても過言ではありません。 そしてもう一つユニークで面白いのが、ストーリィ中度々、作者の語りが突然に入り込んでくること。これがさらに本作の楽しみを盛り上げてくれているのです。 本ストーリィは次作「熱風編」へ続くらしい。楽しみです。 |
「spring」 ★★ | |
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演劇を題材にした「チョコレートコスモス」、ピアノコンクールを題材にした「蜜蜂と遠雷」に続く、芸術を主題にした3作目はなんと、バレエ。 主人公は萬春(よろず・はる)、唯一無二のバレエダンサーであると同時に振付家。 その春を、4つの時期にわけ、4人の人物を主人公にして萬春という人間を描き出す、4章からなる長編バレエ小説。 バレエという動きのある芸術の真髄を文章で表現するというのは至難のことであると思います。それを見事にやってのけた恩田さんには拍手を送ります。 主人公は萬春であることに間違いありませんが、真の主役は春というよりバレエそのものと感じます。 春以外にも同期のライバルたち、深津純、ヴァネッサ、フランツ、ハッサン、そしてバレエから作曲の道に進む滝澤七瀬といった俊才たちも目白押しに登場するのですから。 恩田さんの筆力によって、バレエのもの凄さに圧倒され続けた、バレエの世界に陶酔させられた、と言って良いでしょう。 その点で本作は、人が主役であった「チョコレートコスモス」「蜜蜂と遠雷」とはちょっと趣きが異なります。 ただし、陶酔はしたものの、前2作と比べて本作に対する私の具体的な感激が少なかったのは、私自身が結局はバレエの門外漢だったからかな、と思うところです。 ・「跳ねる」:主人公は、春と共に15歳でドイツにバレエ留学する深津純。 ・「芽吹く」:春に魅了され、彼のことをずっと見守り続けた、母方の叔父=稔。 ・「湧き出す」:春の踊りからいつも音楽を感じ、後に春の振付けにオリジナル曲を提供することになる滝澤七瀬。 ・「春になる」:次々と独創的な振付を生み出していく春自身。 1.跳ねる/2.芽吹く/3.湧き出す/4.春になる ※本文奇数ページの下にバレエを踊るシルエットのパラパラ漫画つき。 ※初版限定、末尾にキュートなオマケ掌編「反省と改善 spring another season」が読めるQRコードつき。 |