荻上直子(おぎがみなおこ)作品のページ


1972年千葉県生、映画監督、脚本家。千葉大学工学部画像工学科卒。94年渡米、南カリフォルニア大
学大学院映画学科で映画製作を学び、2000年に帰国。01年自主製作映画「星ノくん・夢ノくん」にてぴあフィルムフェスティバル音楽賞、03年劇場デビュー作「バーバー吉野」にてベルリン映画祭児童映画部門特別賞、17年「彼らが本気で編むときは、」にて日本初のベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞・観客賞第2位を受賞。その他の映画作品に「恋は五・七・五!」「かもめ食堂」「めがね」「トイレット」等あり。


1.
モリオ

2.
川っぺりムコリッタ

 


      

1.

「モリオ」 ★★


モリオ画像

2010年08月
光文社刊

(1300円+税)



2010/10/31



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自分に自信がなく、どこか遠慮してるように暮らしている主人公2人が、自分の好きなことをきっかけに、自分の居場所、可能性を見つけていくというストーリィ2篇。

どこか人生の端っこでいきているような人物、荻上さんの映画作品にも共通した設定ではないかと思います。
自己主張ができない、競争社会では勝ち抜いていけないと言われてしまうかもしれない主人公たちですが、そんな彼らにも生きていく意味が十分あること実感できるところが心地良いのです。

「モリオ」は、家を整理した時に亡き母親が使っていた足踏みミシンを見つけます。子供の頃、そのミシンの下によく隠れたこと、母親が作った花柄のスカートをはいてみたかったことを思い出したモリオは、当然のようにそのミシンの前に座ります。そこから何が始まったか。

「エウとシャチョウ」 耳鼻科の女医ヨーコと同棲し、その直後失職したエウは、必然的にヨーコの飼い猫シャチョウの世話をするようになります。何故かエウには、猫の気持ちがよくわかるようです。ある人からその才能を見出されたエウは・・・。

繋がりのない2篇ですが、共通して登場する人物がいます。ひだり布地屋のおばさんとその飼い猫・三郎さん。
荻上さんの映画にいかにも出てきそうな人物で、貴重な薬味になっています。

モリオ/エウとシャチョウ

                  

2.
「川っぺりムコリッタ ★★


川っぺりムコリッタ

2019年06月
講談社

(1500円+税)

2021年08月
講談社文庫



2021/09/30



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主人公の山田は、幼くして両親が離婚、母親からはほぼ育児放棄の状態で育ち、ついに高校2年時に母親から捨てられます。
それ以来、食い繋いでいくことで精一杯。万引きに窃盗、そして詐欺の受け子にて実刑となり、刑務所内で30歳を迎えます。

そんな山田が紹介されて行き着いたのは、北陸地方、海に近い塩辛工場での仕事。そして社長からの斡旋で、
「ムコリッタ」という奇妙な名前のアパートに住むことになります。
山田が川、海のそばに住むことを望んだのは、氾濫という死の危機を間近にすれば、生きている実感が持てるかもしれないから。

さてそのアパート、風呂、食事と図々しく上がり込んでくる隣人の
島田に、墓石を売り歩いているという階上の溝口父と息子の洋一(緘黙症)、そして大家であるシングルマザーの南さんと娘のカヨコ、というのが住人。

居場所さえあれば自分には十分と考えていた主人公は、塩辛工場の
社長やベテラン社員の中島さん、アパートの住人と関わり合ううち、ささやかな幸せを見出していきます。
でも前科者である自分に、それは許されるのだろうか。

ささやかな幸せを見つけ、笑うことも覚え、さらにはホームレスの人たちの身を心配するようになった山田。

ささやかに生きる人たちが、ささやかな幸せを手にしていく姿を描いたストーリィ。
胸の内が温かくなると同時に、胸詰まる思いがあります。

※映画は、マツヤマケンイチ主演、ムロツヨシ、満島ひかり等共演により2021年11月公開予定とのこと。とても楽しみです。


※荻上監督と写真家・川内倫子さんのトークショー「映画を撮れない悔しさから小説を書いた」を巻末に収録。

 ※映画化 → 「川っぺりムコリッタ

        


   

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