|
11.最果てアーケード 12.ことり 13.いつも彼らはどこかに 14.注文の多い注文書 15.琥珀のまたたき 16.不時着する流星たち 17.口笛の上手な白雪姫 18.あとは切手を、一枚貼るだけ 19.小箱 20.掌に眠る舞台 |
【作家歴】、博士の愛した数式、ブラフマンの埋葬、ミーナの行進、海、博士の本棚、科学の扉をノックする、猫を抱いて象と泳ぐ、原稿零枚日記、妄想気分、人質の朗読会 |
11. | |
●「最果てアーケード」●(挿画:酒井駒子) ★★☆ |
|
2015年05月
|
世界で一番小さなアーケード商店街。大通りから脇に入った長屋のような店々。 中でも使い古しのレース、使用済みの古い絵葉書という商品については思い出を扱っているという風。それを求める客たちにもそれなりの事情、想いありがあるでしょう。 衣装係さん/百科事典少女/兎夫人/輪っか屋/紙店シスター/ノブさん/勲章店の未亡人/遺髪レース/人さらいの時計/フォークダンス発表会 |
12. | |
「ことり」 ★★☆ 芸術選奨文部科学大臣賞 |
|
2016年01月
|
冒頭“小鳥の小父さん”と呼ばれていた孤独な老人が、家の中で倒れて死んでいるのが発見されたところから本ストーリィは始まります。 世間から何の評価をされずとも、一つの完璧な世界を築き上げ、そこに十分満足して生きた人の物語という点では、「博士の愛した数式」「猫を抱いて象と泳ぐ」と同じ系列にある物語と思います。 |
13. | |
「いつも彼らはどこかに」 ★★ |
|
2016年01月 2013/06/17 |
人と動物たちとの関わりを哀感と愛しさをもって描いた作品集、8篇。 各篇の主人公はいずれも、何かしらの寂しさを抱えている人たちばかり。そんな彼らがふと身近に感じた動物たちの存在。 もし地球上に存在している動物が人間だけであったなら、そこは何と味気ない世界であることか、と思うのです。 帯同馬/ビーバーの小枝/ハモニカ兎/目隠しされた小鷺/愛犬ベネディクト/チーター準備中/断食蝸牛/竜の子幼稚園 |
14. | |
「注文の多い注文書」(共著:クラフト・エヴィング商曾) ★★ |
|
|
とても面白い趣向から成る一冊。 ふと目に入った一軒の店<クラフト・エヴィング商曾>。その看板には「ないもの、あります」と書かれている。 <人体欠視症治療薬>は川端康成の未完小説「たんぽぽ」、 |
「琥珀のまたたき」 ★★ | |
2018年12月
|
幼い妹を失くした三姉兄弟とママは、父親が遺してくれた別荘に移り住みます。 妹が死んだのは魔犬の呪いの為というママは、そこで新しい生活を始めようと、3人にも新しい名前を与えます。14歳の長女はオパール、8歳の長男は琥珀、5歳の次男は瑪瑙という具合に。 ママは外へ毎日働きに出ますが、その日から3人は閉ざされた家の中で生きていくことになります。 学校にも行かず、家の中に閉じ込められるという光景は本来異様なものですが、本ストーリィから感じられるのは、外界と閉ざされているということでむしろ純粋で静謐な雰囲気を感じます。その3人が物事を知るのは、父親がかつて出版した様々な図鑑によって。 ある日、琥珀は自分の左目に異変を感じ、やがて左目は別の世界を映しだすようになります。 特殊な世界にあるという点では、「博士の愛した数式」「猫を抱いて象と泳ぐ」2篇を彷彿させるところがあります。 しかし、物理的に閉ざされた世界である故に、やがて3人の元をひそかに訪れる人物が現れ、また3人自身の成長によって、それまでの静謐な世界は少しずつ姿を変えていきます。 2度と取り戻せないものであるからこそそれは美しく、また貴重であるということを、本ストーリィは読み手の胸の中へ知らず知らずの内に伝えてくるようです。 理解し難い生活、世界。だからこそそれは、忘れ難く、静謐で美しい残像を放っています。 |
「不時着する流星たち」 ★★ |
|
2019年06月
|
風変わりな人物や出来事にインスパイアされて小川さんが書き綴った短篇集、かなり捻られた面白さです。 インスパイアされた人物が無名に近い、あるいは風変わりな人物であればあるほど、ストーリィも摩訶不思議なものに感じられます。(「誘拐の女王」「散歩同盟会長への手紙」) 一方、名前を知っている人物については、こんな奇矯なところがあの人物にあったのかとも思います。(「カタツムリの結婚式」はパトリシア・ハイスミス、「若草クラブ」はエリザベス・テイラーがインスパイア元)。パトリシア・ハイスミスについては、こんな奇妙な趣味を持っていたのかと驚きます。 奇妙ですけれどユーモアを感じたのは、葬儀での“お見送り幼女”が登場する「手違い」、オリンピック関連話の「肉詰めピーマンとマットレス」。 面白く感じる篇もあれば、戸惑う篇もある。その反対に、余り面白いと思えない篇もあるといった具合。 それら短篇が混じり合っている処にこそ、本短篇集の愉しみが潜んでいる、そのように感じる一冊です。 1.誘拐の女王/2.散歩同盟会長への手紙/3.カタツムリの結婚式/4.臨時実験補助員/5.測量/6.手違い/7.肉詰めピーマンとマットレス/8.若草クラブ/9.さあ、いい子だ、おいで/10.十三人きょうだい |
「口笛の上手な白雪姫」 ★☆ | |
2020年08月 2018/02/19 |
世界の片隅でこっそりと、それでもひたむきに生きる人々の姿を描いたという印象を抱いた短篇集。 どれもささやかで地味なストーリィですが、これは小川洋子さんが最近ずっと書き続けている作品集の同一延長上にあるものと思います。 ただ残念ながらそれらの中では、如何にもファンタジー風の題名ながら、余りストーリィに膨らみが感じられなかったような気がします。 それでも、吃音の少年の前に現れた不思議な老女との関係を描いた「先回りローバ」、主人公がずっと通い続けたお針子“りこさん”との長きにわたる関係を描いた「亡き王女のための刺繍」、公衆浴場の一部設備であるかのように生きる小母さんを描いた「口笛の上手な白雪姫」は、素敵な物語と感じます。 本書8篇の中では、やはり表題作にもなっている「口笛の上手な白雪姫」が一番好き、でしょうか。 先回りローバ/亡き王女のための刺繍/かわいそうなこと/一つの歌を分け合う/乳歯/仮名の作家/盲腸線の秘密/口笛の上手な白雪姫 |
「あとは切手を、一枚貼るだけ」(共著:堀江敏幸) ★☆ | |
2022年06月
|
過去に何らかの関わりがあったらしい、今は遠く隔たっているらしい男女間で交わされる、7往復、計14通という書簡からなる小説。 双方の手紙で語られるのは、今現在の出来事ではなく、ソローの「森の生活」のことだったり、「アンネの日記」のことだったりと抽象的なことや、思い出などが主。 せっかちなところがある所為か、私はどうもこうした内容が苦手です。 このやりとりの中に、何が隠されているのだろうか、というのが実は注目点なのでしょう。 女性側、最初の手紙で「まぶたをずっと閉じたままでいる」ことを決断したと言います。 それは単なる思い付きによる行動ではなく、何かの病気が原因、いずれ失明?という状況にあることが分かります。 一方、相手の男性は、子供の頃の不注意な事故で、片目、そして両目と失明するに至っていることも明らかになります。 それでもそれらは通過点。 2人の間に何があったのか・・・。 読み終えた時、何やら2人に取り残されたような思いがします。 一通目/〜/十四通目 |
「小 箱」 ★★ 野間文芸賞 | |
|
主人公が住む家は、元幼稚園。 幼稚園児用に作られているから、何もかも小振り。 そして元講堂には、四列の棚が設置されていて、両腕で一抱えできるほどの大きさのガラスの箱がびっしりと並べられている。 そしてそのガラスの箱には、子どもを失くした親たちが、その子どものためにと用意した品物が納められており、子どもたちの成長に伴い親たちは新たな品物を納めるため、適宜元講堂を訪れてきます。 まるでどのガラスの箱の中で、亡くなった子どもたちの魂が成長しているかのように。 とにかく感じるのは、本作品の静謐な雰囲気。 親たちはいつまでも亡くなった子どもたちを忘れず、今も心を通じ合おうとしているのでしょう。 しかし、その一方で、子どもたちが今も成長しているように思っていることが、善いことなのかどうか、とも思います。 何か発展や、新たな展開が生まれる、といったようなストーリィではありません。 静謐さ・・・その雰囲気に静かに胸打たれる、それだけで十分な気がします。 |
「掌に眠る舞台」 ★☆ | |
|
様々な有り様の劇場、舞台を描き出す短篇集。 劇場、舞台と一口に言っても、普通にイメージするものだけが全てではない。 そこを劇場だと思う人、そこが舞台だと思う人がいれば、どんなところにも舞台は生れ得る、ということでしょうか。 ちょっと現実的ではない、でもファンタジーというのでもない、耽美的な印象を受ける短篇集というところです。 収録8篇の中で私が好きだと感じたのは、 金属加工場の隅で少女が作り出す舞台を描いた「指紋のつじた羽」、劇場内に住み、「役者が失敗を犯す前に、代わりに失敗する」のが役どころだという女性との出会いを描いた「ダブルフォルトの予言」、雇い主が自宅内に作った劇場の中に、装飾用の役者として滞在することになったコンパニオン女性を描いた「装飾用の役者」の3篇。 本短篇集を楽しめるかどうかは、読む人の好み次第、でしょう。 指紋のついた羽/ユニコーンを握らせる/鍾乳洞の恋/ダブルフォルトの予言/花柄さん/装飾用の役者/いけにえを選ぶ犬/無限ヤモリ |