諸田玲子作品のページ No.1


1954年静岡県静岡市生、上智大学文学部英文学科卒。外資系企業勤務を経て、翻訳や向田邦子・橋田寿賀子ら脚本のノベライズを手掛ける。96年「眩惑」にて作家デビュー。2003年「其の一日」にて第24回吉川英治文学新人賞、2007年「奸婦にあらず」にて第26回新田次郎文学賞、12年「四十八人目の忠臣」にて第1回歴史時代作家クラブ賞作品賞、18年「今ひとたびの、和泉式部」にて第10回親鸞賞を受賞。


1.まやかし草紙(文庫改題:王朝まやかし草紙

2.誰そ彼れ心中

3.幽恋舟

4.氷葬

5.月を吐く

6.お鳥見女房

7.笠雲

8.あくじゃれ瓢六(文庫改題:あくじゃれ−瓢六捕物帖

9.源内狂恋(文庫改題:恋ぐるい

10.髭麻呂


其の一日、蛍の行方(お鳥見女房No.2)、犬吉、恋ほおずき、仇花、紅の袖、鷹姫さま(お鳥見女房No.3)、山流しさればこそ、末世炎上、昔日より

 諸田玲子作品のページ No.2


こんちき(あくじゃれ瓢六)、天女湯おれん、木もれ陽の街で、狐狸の恋(お鳥見女房No.4)、奸婦にあらず、かってまま、狸穴あいあい坂、遊女のあと、美女いくさ、巣立ち(お鳥見女房No.5)

諸田玲子作品のページ No.3


めおと、べっぴん(あくじゃれ瓢六)、楠の実が熟すまで、きりきり舞い、炎天の雪、天女湯おれん−これがはじまり−、お順、春色恋ぐるい、恋かたみ(狸穴あいあい坂)、幽霊の涙(お鳥見女房No.6)

 → 諸田玲子作品のページ No.4


四十八人目の忠臣、心がわり(狸穴あいあい坂)、来春まで(お鳥見女房No.7)、再会(あくじゃれ瓢六)、ともえ、相も変わらずきりきり舞い、王朝小遊記、破落戸、帰蝶、風聞き草墓標

 → 諸田玲子作品のページ No.5


今ひとたびの和泉式部、元禄お犬姫、尼子姫十勇士、旅は道づれきりきり舞い別れの季節(お鳥見女房No.8)、嫁ぐ日(狸穴あいあい坂)、きりきり舞いのさようなら

 → 諸田玲子作品のページ No.6

 


      

1.

●「まやかし草紙」● 
 (文庫改題:「王朝まやかし草紙」)


まやかし草紙画像

1998年05月
新潮社刊
(1600円+税)

2010年02月
新潮文庫化

2002/07/23

平安朝・貴族社会を舞台にした時代小説サスペンス。
病死したと伝えられていた母親は、実は原因不明の焼死だった。しかも、帝の御子を身ごもっていたという。
母親の死の謎を解き明かす為、都に出て女房として仕えることとなった弥生が、本作品の主人公。
時代は、壬生帝を中心に、堀川派が実権を握り、東三条派が巻き返そうとしているとき。
さらに、東宮(皇太子)の結婚を前に、東宮と契った女性は物の怪に取り憑かれる、という噂が流れます。

弥生と、彼女に協力する市井の楽天爺さん音羽丸による探索ストーリィなのですが、背景が平安朝であるところが面白味。
貴族社会の生活風習、男女の逢引、複雑に絡み合った血縁関係を元にした実権争いと、平安朝社会を覗き見る楽しみがあります。
ストーリィとしてはやや判り難いところもありますが、弥生という主人公の、女房とは思えぬ積極果敢な行動ぶりに最後まで引っ張られてしまった、というのが感想。

      

2.

●「誰そ彼れ心中」● ★★☆


誰そ彼れ心中画像

1999年02月
新潮社刊
(1700円+税)

2003年10月
新潮文庫化

2002/08/30

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旗本の新妻・瑞枝が感じた違和感。
それは次第に夫への疑念として膨れ上がっていきます。本当に夫自身なのか、それとも夫の姿を借りた全く別の男なのか。
そしてもう一人、瑞枝と同じ疑念を感じている者がいた。
本作品は、時代小説とは思えぬほどの、見事なサイコサスペンス。しかし、時代小説だからこそありえるストーリィでもあるのです。その辺りがお見事!

瑞枝の側に立ち、夫を名乗る男の正体を見極めようとする者たちがいる一方で、何故か真実を押し隠そうとする者たちがいる。
ストーリィの展開につれ、瑞枝は光明を見出すどころか、ますます追い詰められていきます。その張り詰めた緊迫感、読者さえも感じる息苦しさは、諸田さんの隙のない筆運びによるものと言う他ありません。まさしく、諸田さんの力量を見せつけた作品と言えるでしょう。
読者が納得できる結末かどうか、それは読む人次第ですが、読み始めたら止まらなくなる、その充実感は間違いなし。
男性より、女性に是非お薦めしたい一冊です。

 

3.

●「幽恋舟」● ★★☆


幽恋舟画像

2000年01月
新潮社刊
(1700円+税)

2004年10月
新潮文庫化
(590円+税)


2004/10/18


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杉崎兵五郎47歳。千七百石の旗本とはいえ代々の寄合衆で舟番所という閑職務め。妻女は既に死去し2人の娘も嫁いでおり、変化のない生活を疎みながらも惰性で毎日を過ごしているという、中年武士。
その兵五郎がある夜目撃したのは、禁じられた夜間に目の前を過ぎる小舟。幽霊舟かと思ったその舟には、若い娘とその下女が乗っていた。恐怖にかられた表情を見せて川に飛び込んだ娘を救った兵五郎は、その娘・たけに関心を引かれるまま、自らの屋敷に2人を引き取る。
母と祖母が共に乱心して死んだというたけは、狂気の血筋に脅えを抱えていた。しかし、たけと下女のつるが2人で鎌倉から江戸に出てきた理由には、もっと深い秘密がある筈。

諸田さんらしいサイコ・サスペンスですが、それよりも魅力あるのは、47歳の旗本が17歳の町娘に恋してしまうという展開。年齢差や外聞を考えて自制するものの、たけへの想いを兵五郎はついに抑え切れなくなる。そのたがが外れたとき、身分や立場を忘れ若者のように、兵五郎はたけを救うこと一途に突っ走り始めるのです。
笑えば笑えといった中年男の恋愛ですが、そのなりふり構わずぶりが滑稽でもあり、また楽しくもあります。そのうえ、たけの背後にはさる藩の御家騒動、それにまつわる忌まわしい秘密が隠されていた、というサスペンス。
中年男のロマンス+サスペンスを時代小説の中に持ち込んだ斬新な作品。切れ味の良さも魅力です。

      

4.

●「氷 葬」● ★★


氷葬画像

2000年10月
文芸春秋刊
(1714円+税)

2004年01月
文春文庫化



2004/08/11

岩槻藩士の妻女である芙佐は、江戸在勤の夫への手紙を携えてきた武士・守谷を泊めたところ、その夜守谷に陵辱されてしまう。守谷が旅立った後悪夢として忘れようとしますが、その守谷が瀕死の重傷を負って舞い戻ってくる。芙佐は、憎しみと忌まわしい事実を隠滅するため、守谷を殺して遺体を沼に沈める。
それですべてが終わったと思った芙佐ですが、それからが本当の危難の始まり。守谷の跡を追って、正体不明の武士、妻女と名乗る女が次々と芙佐を訪ねてきます。そして芙佐は、逃れのようない窮地に追い詰められていくというストーリィ。

当初諸田さん得意のサイコ・サスペンスかと期待していたのですが、時代小説には珍しい、女性主人公による現代的サスペンスと言うべき作品です。赤子を人質に取られた芙佐は、正体不明の武士と共に他藩の藩士宅へ偽名を騙って寄寓することになります。平穏無事な生活で一生を終える筈の平凡な妻女が、人を殺した挙げ句に怪しげな事件に巻き込まれ、正体不明の人物と共に他藩へ旅するなど、本来有り得ないこと。
その有り得ないことが起きた中、徐々に芙佐が一人の女としての感情を膨らませていくところが本作品の見せ場であろうと思います。さしづめ映画なら、O・ヘップバーンとK・グラント共演の「シャレード」というところでしょう。そこまでの華やぎはありませんが、時代小説にそんな展開を持ち込んだところに本作品の面白さがあります。

 

5.

●「月を吐く」● ★★


月を吐く画像

2001年04月
集英社刊
(1900円+税)

2003年11月
集英社文庫化



2002/07/22

悪女と名高い、家康の正妻・築山御前の生涯を描いた意欲作。
二部構成になっており、「満月」では今川義元の城下・駿府時代、後の「無月」では、岡崎城下に移ってからの時代が描かれます。
本作品の主人公は、戦国武将の陰にいて、男たちの戦略の下に翻弄された女性たちと言えます。
今川の属将と結婚したつもりが、今川家が滅亡し、岡崎くんだりまで田舎落ちすることとなった築山殿(瀬名)の絶望感。その一方で、戦略の犠牲となり、竹千代(後の家康)と離別を余儀なくされた生母・於大の無念さ、後の家康への執着が、見事に描かれています。
戦国女性の悲哀という点では、信長の妹・お市御前を除けば、築山殿・於大の2人は、格好の題材かもしれません。

家康の正妻・築山殿と言えば、悪妻というのが定評。しかし、こうして築山殿の生涯を辿ると、悪妻の真偽の程は別にして、そうならざるを得なかった経緯が納得できるのです。
本作品の圧巻は、岡崎城における築山殿と於大の壮絶なバトル。
「大学出のブルジョワ令嬢が、しっかり者の母親のいる田舎の家へ嫁いだらどうなるか−」 この諸田さんの例えは、とても判りやすい。
本書は、戦国女性の闘いと悲運を描いた、読み応えある一冊。

  

6.

●「お鳥見女房」● ★★


お鳥見女房画像

2001年06月
新潮社刊
(1600円+税)

2005年08月
新潮文庫化


2001/07/14


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幕府御家人・御鳥見役は、鷹場の巡検と鷹狩の下準備を行う役職ですが、時に隠密の仕事を命じられることもある、という設定。
本書は、代々御鳥見役を勤める矢島家、その家付き女房・珠世を主人公とする、時代小説版ホームドラマといった連作短篇です。

なんだかんだと生じる問題を、珠世が機転をきかせてさばいていくストーリィ。さしづめ、時代小説版“肝っ玉母さん”という風ですが、珠世は未だ未だ充分に若々しく魅力的です。

隠居した父親を浪人者が頼ってきたと思ったら、5人の子供を抱えた子沢山。更にその源太夫を仇として狙う多津を次男が連れてきて、少禄な御家人の狭い組屋敷になんと7人の居候が突然転がり込んでしまう。
夕餉の席で、夫と嫡男は事態が理解できす放心した顔つき。多津は仇と同じ家の居候となった偶然に驚愕したまま。この冒頭シーンは、何度読んでも笑いがこみあげてきます。
 
当主・伴之助が隠密仕事で旅立った後の1年間、居候の6+1=12人の大家族を支えているのは、珠世の存在。家計も大変ですが、人の縁の方が大事と、明るく笑い声を絶やさない珠世は頼りがいがあって、自然と一家は珠世を中心にまわっていきます。
江戸・雑司が谷を舞台にした、時代小説には稀な、明るく楽しい作品。シリーズ化する様子なのが、何とも楽しみです。

千客万来/柘榴の絵馬/恋猫奔る/雨小僧/幽霊坂の女/忍びよる影/大鷹狩

      

7.

●「笠 雲」● ★☆


笠雲画像

2001年09月
講談社刊

(1800円+税)

2004年09月
講談社文庫化



2004/11/14

諸田さんによる清水次郎長もの作品のひとつ。
本書の主人公は次郎長一の子分、大政こと政五郎
そしてストーリィは、維新後に山岡鉄舟の勧めに応じて富士裾野の開墾事業に乗り出した清水次郎長一家を描いたものです。

維新後、器用に転身を遂げて市中取締役となった清水次郎長。それに対し、転身することを拒んで自害した小政。
その中間にあってどちらにも我が身を処することができず、目的をもてないまま酒浸りとなっているのが、本書における大政=政五郎像です。
その政五郎に、次郎長は開墾事業の仕切りが命じます。囚人まで作業労働者に借受けての大事業。これまでの喧嘩勝負よりもっと手強い相手と政五郎は取り組むことになります。
維新後の趨勢についていけず戸惑いながら、今までとは違った苦労を背負わされた晩年の“大政”像が興味深い。
元々博徒故にその変化はなおのこと大きかったのでしょうが、本書の政五郎は世間の人々広くに共通するものだったのではないかと思えます。
どうしようもない飲んだくれの親父に成り下がった大政ですが、人間味に溢れ、むしろ親近感を覚えます。
五代才助(「士魂商才」)の一方で、こうして途方に暮れる人もいたのだということが感慨深い。また、維新後の清水次郎長一家の様子も、もう一つの興味どころ。

 

8.

●「あくじゃれ瓢六」● ★★
 
(文庫改題:「あくじゃれ−瓢六捕物帖」)


あくじゃれ瓢六画像

2001年11月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2004年11月
文春文庫化



2002/08/11

北町奉行所の同心・篠崎弥左衛門が捕らえた博打うちの瓢六
ところがこの瓢六、元々の出自は長崎の古物商の倅にて、唐絵目利き、阿蘭陀通詞を務め、蘭医学から本草学にも通じている、という。
この博識にて人脈も広い瓢六を、奉行所がただ放っては置きません。難事件の解決に、都合よく瓢六を利用しようとします。
そんなことから、奉行所の手に余る難事件を解決する瓢六の、腕の冴えを描く連作短篇集。

本作品の魅力は、まず主人公・瓢六のキャラクターにあります。役者のような男前で博覧強記、そのうえ江戸裏社会への人脈も持っているという、色男。
しかし、瓢六だけの魅力なら、単なるヒーロー小説止まり。本作品の本当の魅力は、そんな瓢六に、無骨で融通の利かない同心・弥左衛門を配し、ユニークな探偵コンビを創り上げた点にあります。
この弥左衛門の素直な人の良さが、本作品を楽しいものにしています。そのうえ、瓢六の脇に焼き餅の甚だしい情婦・お袖、片や弥左衛門の側に初老の岡っ引・源次という顔ぶれも、楽しい。
また、伝馬町牢内、娑婆の自由な世界と、瓢六の出入りに応じて舞台が交互するのも、ストーリィに深みを与えています。
サスペンス要素だけでなく、弥左衛門の恋煩い等、人情味も兼ね備えていて、楽しめる一冊です。

地獄の目利き/ギヤマンの花/鬼の目/虫の声/紅絹の蹴出し/さらば地獄

     

9.

●「源内狂恋」● ★★
 
(文庫改題:「恋ぐるい」)


源内狂恋画像

2002年01月
新潮社刊

(1700円+税)

2006年05月
新潮文庫化


2002/03/14

人を殺め、牢獄に入れられた平賀源内が、その半生および狂おしい自身の恋のことを回想して記述していくストーリィ。
残された26日という日数の中で、自らの生涯を語りつつ、その一方で恋の部分は相手の女性に成り代って書き綴っていく、というところが本作品の妙味でしょう。

本草学者、戯作者、発明家として名を高めながら、どれひとつとして完遂したものがない。結局成功者となりえなかった源内。それ故、その焦燥感は後年になる程高まっていく。その心理経過を諸田さんは見事に描きだしています。
源内は自らの弱さを直視することができない人物。したがって、自分の愛する女の口を借り、彼女の目からみた自分を語ることによって、初めて自分の本当の姿を語ることができるのです。
源内が獄内で書き残すこの記は、自伝であるというより、本質的には、女に対して初めて真情を吐露するという、恋文以外の何物でもないでしょう。
最後の結末を、私は2人の恋の成就と感じました。そこには、衝撃的な感動があります。
その感動こそが、本作品の魅力と言えます。

   

10.

●「髭麻呂」● ★★☆


髭麻呂画像

2002年06月
集英社刊

(1600円+税)

2005年05月
集英社文庫化


2002/06/29

飢饉や天変地異が続いて治安悪化した平安時代の京の都。その都を舞台に、治安を取り締まる検非違使(けびいし)藤原資麻呂(すけまろ)を主人公とした平安朝ミステリー。

頬髯が濃いことから“髭麻呂”と通称されるこの主人公、偉丈夫かと思いきや、殺人現場で血を見ると卒倒しそうになるというくらいの臆病者。ミステリといっても、ハードサスペンスではなく、軽妙かつユーモラスなところが魅力です。
とはいっても、ミステリ部分はしっかりしています。髭麻呂を助けて推理をめぐらせるのは、謎解き好きな恋人・梓女とそのやかましい祖母・母親という、通い先の女系家族。謎解きの面白さも充分です。
さらに、京の都を暗躍する怪盗・蹴速丸が登場。髭麻呂と追いつ追われつ、愉快な<探偵と怪盗ごっこ>を演じます。
諸田さんは、主に重厚な時代小説を発表してきましたが、お鳥見女房や本書のような軽妙な作品においても、その巧さには感心するばかりです。
平安朝という時代設定にも興味津々、本格ミステリであってなおかつユーモラス、髭麻呂と梓女の平安朝ラブ・ロマンスも楽しいし、蹴速丸、髭麻呂の従者・雀丸、梓女の祖母・母といった顔ぶれも多彩で、飽きる事がありません。
書店店頭で見て、すぐ買い、すぐ読み始めて正解だった、という快感は久し振り。面白さ満喫できる一冊です。

                 

読書りすと(諸田玲子作品)

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