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11.サヴァイヴ−"サクリファイス"シリーズNo.3− 12.キアズマ−"サクリファイス"シリーズNo.4− 13.スティグマータ−"サクリファイス"シリーズNo.5− 14.マカロンはマカロン−"ビストロ・パ・マル"シリーズNo.3− 15.ときどき旅に出るカフェ 16.インフルエンス 17.震える教室 18.みかんとひよどり 19.歌舞伎座の怪紳士 20.たまごの旅人 |
【作家歴】、ねむりねずみ、天使はモップを持って、モップの精は深夜に現れる、賢者はベンチで思索する、ふたつめの月、サクリファイス、タルト・タタンの夢、ヴァン・ショーをあなたに、エデン、シティ・マラソンズ |
おはようおかえり、シャルロットのアルバイト、それでも旅に出るカフェ、ホテル・カイザリン、間の悪いスフレ、山の上の家事学校、風待荘へようこそ |
●「サヴァイヴ SURVIVE」● ★★ | |
2014年06月
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「サクリファイス」、「エデン」に続くシリーズ第3弾。 「老ビプネンの腹の中」の主人公は、仏チーム=パート・ピカルディに移籍して1年目の白石誓(ちかう)。 どうしてこのシリーズに、こんなにも魅了されるのかというと、それは彼らが過酷な状況の中に生きているからではないか、と思います。 老ビプネンの腹の中/スピードの果て/プロトンの中の孤独/レミング/ゴールよりももっと遠く/トウラーダ |
12. | |
「キアズマ chiasma」● ★★☆ | |
2016年03月
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「サヴァイヴ」に続くシリーズ4作目。 これまでの3作はプロの自転車競技がもつ魅力を過酷さと合わせて描いてきたところが魅力ですが、本書は主人公である正樹が自転車競技については全くの素人であることから、初級編に立ち返って語られるところに興味津々です。 部員らと揉めたことで結果的に部長の村上に大きな怪我をさせてしまったことから、その責任をとるため正樹は1年間という約束で僅か部員4人の新光大学弱小自転車部に入部します。 正樹が新鮮な気持ちで味わう爽快さとスリリングが、本ストーリィの魅力。 |
「スティグマータ stigmata」 ★★☆ | |
2019年02月
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「サクリファイス」シリーズ第5弾。 2作目の「エデン」以来、再び白石誓(ちかう)がツール・ド・フランス(Le Tour de France)の舞台に挑みます。 前に「エデン」は“成長篇”と言うべきストーリィと記しましたが、本書でのチカは既に30歳、“成熟篇”と言ったら良いでしょうか。 ただし、成熟篇といってもプロスポーツ選手であるチカにとって状況は一年一年厳しいものになっています。 あとどのくらい走れるのか、来年の契約は得られるのか、果たして来年はこの舞台にいられるだろうか、と。 とは言いつつ、一旦レースが始まれば、そこはいつもの「サクリファイス」の世界。 今年のレース、ドーピングを告発されて表舞台を去っていたかつての英雄ドミトリー・メネンコがこの舞台に戻ってきます。そのメネンコがもたらす不穏な空気。それにチカも巻き込まれざるを得ません。 一方、「エデン」に登場した有力選手たちが本書に再び登場して本ストーリィを賑やかにしています。かつてアシストとしてコンビを組んだミッコ・コルホネンは今回ライバルチーム、その代わりにニコラ・ラフォンが今回同チームとなり、チカのアシスト対象の選手となります。また、伊庭和実もヨーロッパに参戦してくるといった次第。 本書の魅力は何と言っても、グラン・ツールのレース、その実況にあります。過酷な状況に日々挑む選手たち。ただ勝利をかけて競うという単純なものではなく、エースとアシストという違いがあったり、総合優勝を狙うか個々のステージ優勝を狙うかといった戦略的なものから、何を目的にどう走るのかといった哲学的な領域にさえ及びます。 この厳しく、見知らぬ世界がリアルに描かれる処がこのシリーズの魅力。 さらに、メネンコの真の狙いは何なのか、というミステリ風味が加わります。 読むに値する、見事な面白さのある一冊、お薦めです。 |
「マカロンはマカロン Un macaron, c'est un macaron」 ★★ |
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2020年07月
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美味しい料理+日常ミステリ、“ビストロ・パ・マル”シリーズ第3弾。 3冊目に至って心行くまで本書の舞台、料理、そして謎解きを楽しめた気分です。 本書ミステリの魅力はその軽やかさ。ただの軽やかさではありません。ビストロ・バ・マルで三舟忍シェフが提供する、とても美味しそうな料理にちょうど良く寄り添っているという軽やかさ。 美味しいフレンチにデセールは欠かせませんが、本書はさらにミステリという美皿が添えられています。 また、シェフの三舟、スーシェフの志村洋二、ソムリエの金子ゆき、語り手であるギャルソンの高築智行というスタッフ4人のチームワークの良さも嬉しいこと。 そんな本シリーズで唯一残念に思えることは、三舟シェフが作り出すメニューの数々を、実際に見て味わえないこと(文章から想像するだけでも楽しいとは思いつつも)。 ・乳製品アレルギーだという女性が口にした「フランス料理との和解」の意味は? ・店で出していないブルーベリー・タルトが、何故「最高に美味しかった!」とブログに? ・再婚予定の相手男性と中学生の息子、何故すんなり親しくなれたのか? それに加え、息子の偏食はどうして急に改善? ・常連客の犬飼が結婚する相手女性、豚の血のソーセージを拒む事情が有り? ・イタリアのトリノで知り合った女性を失った大学教師の西田、本当に恋は失われたのか? ・パティシエとして雇われたばかりの岸辺綾香は、何故姿をくらませたのか? ・予約客は何故タルタルステーキをメニューに載せてほしいと要望したのか? ・グループ客の一人が帰り際に言い残した伝言の真意は? コウノトリが運ぶもの/青い果実のタルト/共犯のピエ・ド・コション/追憶のブーダン・ノワール/ムッシュ・パピヨンに伝言を/マカロンはマカロン/タルタルステーキの罠/ヴィンテージワインと友情 |
「ときどき旅に出るカフェ」 ★★ |
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2019年11月
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小さなカフェを舞台にした連作日常ミステリ。 語り手は奈良瑛子、独身37歳。3年前に購入した1LDKの中古マンションで一人暮らし。照明会社で働くワーキングウーマン。 近所で見かけた白い小さな一軒家のカフェに入ってみたところ、何とそのオーナー兼店長(店員一人)は、6年前同じ職場にいた後輩社員の葛井円(くずい・まどか)。 祖母から相続した家で、2年前に念願の“カフェ・ルーズ”を開店したのだという。 本作は、そのカフェ・ルーズを舞台に、葛井円が奈良瑛子を相手とささやかな謎解きをしてみせるというパターンの日常ミステリ短編集。 謎解き、揉め事の解決というストーリィも確かに楽しみなのですが、それ以上に魅力的なのは、このカフェ・ルーズ。 2人掛けのテーブルが4つ、カウンターに5席という小さな店なのですが、南西に大きくとられた窓からの眺めも良好と、何とも居心地良さそうなのです。 その上、サービスされるメニューは、円が実際に海外で味わった飲み物・菓子が中心。まるで居ながらにして旅行気分です。 そう、カフェ・ルーズのコンセプトは“旅に出られるカフェ”なのですから。 近藤史恵さんには既にビストロを舞台にした“ビストロ・パ・マル”シリーズがありますが、フランス料理というと少々敷居の高いところあり。でもカフェとなれば、誰もが訪れやすく、その空間・そこでの時間を楽しめるところがあります。 読み手は瑛子を案内人に、瑛子と共にカフェ・ルーズで提供される各国の珍しいメニューの数々、そして居心地良さをたっぷり味わえる短篇集。それこそが本書最大の魅力といって過言ではありません。オーナー兼店長である円の心意気もまた嬉しい。 カフェ好きな方に、是非お薦め! 1.苺のスープ/2.ロシア風チーズケーキ/3.月はどこに消えた?/4.幾層にもなった心/5.おかくずのスイーツ/6.鴛鴦茶のように/7.ホイップクリームの決意/8.食いしん坊のコーヒー/9.思い出のバクラヴァ/最終話 |
「インフルエンス INFLUENCE」 ★★☆ |
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2021年01月
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40代の女性小説家の元に、私たちの話に興味が惹かれる筈という一通の手紙が届きます。 手紙の送り主と会った小説家の前に、驚愕すべき物語が語られ始める・・・というのが本ストーリィの出だし。 大阪の団地に暮らす戸塚友梨と日野里子は幼い頃からの親友。しかし、ある事を境に2人の仲は疎遠になっていく。 里子に代わるように友梨の前に現れたのは、両親が離婚して東京から母親の実家に引っ越してきたという転校生の坂崎真帆。 中学生になったある日、真帆に突然襲い掛かった男。必死で真帆を守ろうとした友梨は男を包丁で刺してしまう。 逃げ出した2人ですが、翌朝、里子が警察に逮捕されたと友梨は知らされ、愕然とする・・・・。 小学生時から始まり、40代に至るまでの長い物語。 3人の女性の間に繋がるものは篤い友情だったのか、あるいは相手を利用しようとする利己心か、それとも宿縁だったのか。 いくら考えてもその奥底、闇は途轍もなく深い。 冒頭からピリピリするような緊迫感に包まれ、最後までその緊迫感は全く途切れなし。 今年の最後を飾る、極上のミステリ、サスペンスと言って過言ではありません。 流石は近藤史恵さんと、唸らされる思いです。 この緊迫感、興奮を味わえずにいるのは、実に勿体ないこと。 ※題名、つい乃木坂46のヒット曲を連想してしまうのですが、影響は無きにしも非ず、だったのかしらん。 |
「震える教室」 ★☆ | |
2020年04月
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歴史の古い私立の中高一貫女子校=鳳西学園を舞台にした、学園もの連作青春ホラー。 大阪の中心地である心斎橋に近い鳳西学園高等部、主人公の秋月真矢は高等部からの入学。 その真矢が入学早々親しくなったのは、同級生でやはり高等部からの入学生である相原花音。 その花音、この学校に何やら不気味なものが感じられて怖い、と言う。まず気になったのはピアノ教室。 花音と二人でそのピアノ教室に足を踏み入れた真矢、その目の前に指が血だらけの腕が2本現れ・・・。 真矢と花音、その2人の身体が触れ合うと、普段は見えない奇怪なものが見えてしまう、という設定が本作の妙味。 歴史の古いこの学校、いろいろなものが存在していても何の不思議もない、というのが2人の思い。 連作ホラーといっても、その原因を突き止め、事件を解決してその存在を消し去る、というストーリィではありません。 むしろ、そんな存在があっても不思議ない、でもどんな存在なのか、そして何故そうした存在があるのか、という展開(中には解決するような展開もありますが)。 解決なんか別にしなくなっていい、そのままでいい、というのは何と気が楽なことでしょう。 読了する頃には、こんな不思議なことがいろいろあるのも、この鳳西学園の特色・個性であり、歴史のなせること、という気になります。 それなりに楽しませてもらいました。 ・「ピアノ室の怪」:指が血まみれの腕が2本現れ・・・ ・「いざなう手」:痩せた手が女生徒のスカートを・・・ ・「捨てないで」:女生徒の肩に何かふわふわした白いもの。 ・「屋上の天使」:各務先生の後ろに小さな女の子の姿・・・ ・「隣のベッドで眠る人」:保健室のベッド、そこに濡れた女生徒の身体が。しかも・・・ ・「水に集う」:プールの底へ引きずり込もうとする大勢の手。 プロローグ/1.ピアノ室の怪/2.いざなう手/3.捨てないで/4.屋上の天使/5.隣のベッドで眠るひと/6.水に集う/エピローグ |
「みかんとひよどり La Mandarine et Le Bulbul」 ★☆ | |
2021年05月
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見送ろうと思っていたのですが、フレンチ、それもジビエ料理が題材と知ると、ついつい誘われてしまいますねぇ〜。 主人公はフレンチ・シェフの潮田亮二・35歳。 フランスの料理学校やその後の修業先でも料理の腕にはそれなりの評価を得ていたというのに、任された店を2軒潰し、借金して自ら開いた神戸の店も失敗。24時間営業の店で働いて借金を返した後、今はジビエ料理好きの女性オーナーに拾われ、再び雇われシェフ。ところがその店も、赤字続きと前途多難。 その潮田が油断し、愛犬ピリカと共に山で遭難しそうになったところを助けてくれたのが、北海道犬マタベーを連れた代々猟師だという大高重実、同年配の男。 各章の題名から分かるように、ストーリィ中、様々なジビエ料理が紹介されます。 ただ、猟師が獲った野鳥や獣を、そのままレストランでジビエ料理として供することはできないらしい。免許をとった解体施設でその解体を行うということが前提になるらしい。 したがってまずは、大高がくれる獲物を使って試作してみる、というのが潮田のパターン。 潮田、大高とも、共に不器用な人物。だからこそ彼らの今の芳しくない状況がある訳ですが、潮田と大高が互いに絡み合う中で一歩前進、そこにジビエ料理好きのオーナー=澤山柊子が積極的に絡んできたことでさらに前進、というストーリィ。 途中、大高の周辺等でトラブルが続いて発生。そこはミステリ部分です。 ジビエ料理に個性的なキャラクターが絡む面白さ、それに加えてちょっぴり大人の男2人の成長ストーリィ、ちょっぴりミステリという味付けがなされているところが、本ストーリィの楽しさです。 フレンチ料理は敷居の高いところがありますが、本作は気軽に手が出せて、十分楽しい。 ※出番は少ないですが、店スタッフの大島若葉も興味惹かれる女性です。 1.夏の猪/2.ヤマシギのロースト/3.若猪のタルト/4.小鴨のソテー サルミソース/5.フロマージュ・ド・テット/6.猪のパテ/7.ぼたん鍋/8.雪男/9.鹿レバーの赤ワイン醤油漬け/10.熊鍋/12.ヒヨドリのロースト みかんのソース |
「歌舞伎座の怪紳士」 ★☆ | |
2022年03月
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題名から直ぐ連想するのは、映画・ミュージカルにもなったガストン・ルルー「オペラ座の怪人」。 といってもそこは近藤史恵作品であるだけに、不気味なストーリィになる筈はなく、軽妙な日常ミステリにして楽しめる作品ではないかという安心感があります。 主人公は岩居久澄、27歳。働いていた会社で汚いハラスメントに遭い退職、おかげで人間が怖くなり、無職、実家で母親と2人暮らし。 久澄のすることといえば、家事と眼科医である姉=香澄から任された犬のワルサ(チワワ)の世話だけ、という日々。 そんな久澄に変化をもたらしたのは、父方の祖母=しのぶさんから、貰ったチケットで自分の代わりに観劇してきて欲しいという依頼(バイト)を引き受けたこと。 まずは歌舞伎、そしてオペラ、演劇と、劇場に一人で足を運ぶたび、少しずつ久澄の心に変化が生まれてきます。 久澄の心に変化をもたらした要因はもう一つあります。 それは、観劇のたびに不可解な出来事に久澄が出会うこと。そしてその都度、久澄を助けてくれるのが、何故か劇場で毎度のように出会う老紳士=堀口さん。 その堀口さんこそが、題名にある「怪紳士」という次第。 久澄と堀口さんコンビによる連作日常ミステリ、という捉え方もできますが、基本的には毎回の窮地をなんとか自分の力で切り抜けていくことによって生まれた自信、観劇を重ねることによってもっと観たいという前向きな気持ちになれたことによる、久澄の清新な再生ストーリィと言うべきでしょう。 最後に残るのは、久澄が毎度のように堀口さんに出会うのは何故か、という謎。 でもこれは、読み進むうちに何となくわかってきますねぇ。 ※歌舞伎の演目について色々と案内してもらえる処も嬉しい。 |
「たまごの旅人」 ★☆ | |
2024年06月
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新人の女性旅行添乗員(派遣社員)である堀田遥を主人公としたお仕事&海外ツアー、連作ストーリィ。 旅行好きではあったものの今はもう旅行に行けていない者としては、旅行、旅人というだけで手が伸びる、というもの。 海外旅行ももはや特別なものではなくなりましたが、英語ができない身となるとやはりハードルは高いです。 第1章、第2章は、まるで知らない旅先であったため、遥がツアー客を案内して訪れる観光場所、思わずネットで検索してどんなところか写真を見ました。行ってみたいですねぇ〜。 ツァー客の中にはいつも困った人がいるものですが、年寄の男って何かと迷惑を掛けているものでしょうか。 ・「たまごの旅人」:アイスランド、一週間ツアー。 ・「ドラゴンの見る夢」:<クロアチア、スロベニア九日間> ・「パリ症候群」:<パリとイル・ド・フランス七日間の旅> ・「北京の椅子」:<西安、北京六日間の旅> ・「沖縄のキツネ」:コロナ禍で海外ツアーは中止、派遣社員は早々に契約解除。という訳で遥、期間3ヶ月の沖縄でのコールセンター仕事に従事中。 1.たまごの旅人/2.ドラゴンの見る夢/3.パリ症候群/4.北京の椅子/5.沖縄のキツネ |
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